ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS夏物語「暑中お見舞い申し上げます」

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フォレストシンガーズ

「暑中お見舞い申し上げます」


 出がけに郵便受けから取り出して、ポケットに入れてきた葉書。目的地についてからポケットから出して眺めた。
 高原の風景がイラストになっていて、下の余白に子どもの文字が躍っていた。

「しんしゅうにきてるんだよ。
 パパとママとおじちゃんとおばちゃんと、ゆずはとおうたとのぶきとまいかと。
 すいかたべたよ」

 ひらがなだらけの分面は、八歳のユズハと七歳のノブキが書いたのだろう。どうにか読める「スイカ食べたよ」はノブキの妹の五歳児マイカの文字だ。その下にもなにか書いてあるが、読めない。ユズハの弟のオウタが字のつもりで書いたのか。オウタとマイカは同い年だが、オウタのほうが幼稚なのは俺も知っている。

 双生児である兄たち、七つ年上の敬一郎と栄太郎には妻と息子と娘がいて、家族構成も似ている。
 敬一郎、文恵、柚羽、欧太。
 栄太郎、幾子、展希、麻衣香。

 この二家族が合同で信州に遊びにいき、真次郎おじちゃんに絵葉書を出してやれと子どもたちが親に言われたのか、自主的にやったのか。「暑中お見舞い申し上げます」と書いてあるのは、どちらかの義姉の文字だろう。

「楽しそうでいいな」
 あのいかつい兄貴たちも、嫁さんと子どもたちを連れてのリゾートに相好を崩しているのか。俺も一緒に行きたかったかなぁ、とちらっと思った。

 けれど、そんなところに行ったら子守りをさせられる。四人のガキにぶらさがられて、重いっ!! と叫んでいる俺と、ガキが重いとは修行が足りないな、と嘲る兄貴の顔とが思い浮かぶ。うるせえんだよ、と言い返して、シャツとジーンズを脱いで海水パンツ姿になり、海に出ていった。

 夏の海には近頃は仕事でばかり来るが、時には遊びにだって来る。今年は仕事でも来たのだが、私も行きたいな、と女の子にせがまれてドライヴすることになった。
 ところが、途中で彼女が言い出したのだ。

「駄目、止めて」
「え? どうかしたのか? 腹が痛い?」
「そ、そうなの、止めて。ドライヴインに入って」
「あ、ああ、もうすこし我慢しろよ」

 車をドライヴインにつけて待つことしばし、彼女がしかめっ面になって戻ってきた。

「ごめんね、私、帰るわ」
「帰る? そんなに腹が痛いのか? 病院に行こうか」
「大丈夫。慣れてるから。ほら、あそこからバスが出てるんだよね。あれに乗って帰るから大丈夫。真次郎くんはひとりで……うん、ひとりでナンパでもしてきて」
「そんな……」

 送っていくと言っても彼女は頑として首を縦に振らず、やってきたバスに乗ってしまった。なんなんだ、あれは? とつらつら考えるに。

 慣れてると言ったということは、女にしかないあれか。そんなときには男にはそばにいてほしくない体質なのか。俺は彼女の恋人ってわけでもなく、気心の知れた相手ではないからうっとうしいのか。海に行けばホテルにも行くことになるだろうし、第一、その状態では水着姿にはなりたくないだろうし。

 そうなのだろうと思っておくしかなくて、自分を納得させた。
 しかし、帰る気にはならずに車を海に向けた。こうなったら俺もナンパでもしてみようか。俺はナンパなんかしたことはない!! と幸生には言っていて、事実、あまりしたことはなくて、しなくてもむこうから寄ってくるというか、なのではあるが。

 昔と較べれば我々の知名度は上がったので、こんなところでフォレストシンガーズの本橋真次郎を知っているひとと遭遇してはやばいのかもしれないが、ナンパとはいっても最終段階までは行かなくていい。行かないほうがいい。ただ、女の子と話をしたいだけだった。

「こっちはひとりだから、ひとりでいる女の子……なんていないか。いたとしたら警戒されるか。ふたり連れの女の子に声をかけて、話をしない? って言ったほうがいいのかな。俺が望んでるのはそれだけだけど、それでも警戒されるか? 幸生、どうしたらいいと思う?」

 今だけは幸生が一緒だったらいいと思う。あいつだったら気軽く女の子に声をかけて、女の子もあいつには警戒心がゆるくなるようで、話をするだけだったらけっこうノッテきてくれる。幸生がいたらあいつの独壇場になってしまって、俺はろくに口もきけなくなるきらいもあるが。

 幸生に引き比べれば俺はでかくて、威圧感があるとも言われる。こんな男が浜辺にいる女性に声をかければ、引かれることは必至であろう。

「リーダー、なにをぐだぐだ言ってんですか。男でしょ。行動あるのみ!! 進め、真次郎!!」
「お、おう」

 妄想の幸生の声に背中を押されて、俺は歩き出す。海で泳ぐシーズンは終盤に近いので人出は多くはないが、可愛い女の子はあちこちにいる。女だけのグループも、グラビアアイドルみたいな水着を着た女の子のふたり連れもいて、きゃっきゃっと賑やかに喋っていた。

「まぶたに口づけ 受けてるみたいな
 夏の日の太陽は まぶしくて
 キラキラ渚を 今にもあなたが
 かけてくる しぶきにぬれて
 なぜかパラソルにつかまり
 あなたの街まで飛べそうです
 今年の夏は 胸まで熱い
 不思議な 不思議な夏です
 暑中お見舞い申し上げます

 水着を誰かに 見られるだけでも
 あなたから だめだよといわれそう
 泳ぎませんかと 誘いにくるけど
 振りむかず ねむったふりよ
 はやくあなたに会いたくて
 時計をさかさにまわしてます
 今年の夏は 心もはずむ
 不思議な 不思議な夏です
 暑中お見舞い申し上げます」

 甥や姪からの暑中見舞いのせいか、こんな歌が浮かぶ。

 あの子たち、男はいるんだろうな。彼氏が都合が悪くて女の子同士で泳ぎにきてるんだろうから、この歌みたいに、水着を男が見て泳ぎませんか、って声をかけるだけで、彼氏に悪いだなんて考えていたりするんだろうか、と俺も考えていると、妄想の幸生がしゃしゃり出てきた。

「考えすぎだよ、リーダー、あの子に声をかけてみたら?」
「いや、いいよ。俺はおまえとはちがうんだから」
「だらしねぇの」
「うるせえんだよ」

 やっぱり彼女にふられたもので、テンションが上がらないのだろう。海になんか来るんじゃなかった、と後悔して車に戻り、水泳パンツの上にシャツを羽織って車を出した。
 
「腹減ったな。なんか食って帰ろう」
 そのつもりで入った大衆食堂にはベランダのような場所がある。こんなしゃれたスペースがあるのだから、大衆食堂ではないのか。ベランダから海が見える様子なので、そっちに席を取った。

「おひとり?」
 背中に女の声が聞こえて、俺は硬直した。逆ナン? いや、ナンパって男がするものと決まってるのか? 女のほうからすると「逆」がつくって変だよな、と思いながら振り向いた。

「あ、はい、ひとりです」
「ひとりで食事は寂しいから、よろしいかしら」
「ああ、どうぞ。俺もひとりでは寂しいですから」

 ものほしげな台詞ではなかったかと反省してみる。声は若かったが、彼女は俺のおふくろに近い年ごろだ。推定年齢は五十代か。この年齢の女性が三十前の男をナンパするとも思えないが、絶対にないとも言い切れないような。

「ごめんなさいね。ご迷惑かしら」
「いいえ、俺も嬉しいです」

 注文を聴きに来た店のひとに、彼女は冷やし中華を注文する。俺もそれと、空揚げと餃子も追加した。よく食べるのね、と彼女は笑っていた。

「孫に会いにきた帰りなんですよ。急に娘の主人から電話があって、三人で外で食事しないかって。私も誘われたんだけど、お邪魔だろうから帰ってきましたの」
「そうなんですか。俺は彼女にふられちまって……」

 孫の話をするとはナンパではないだろう。変な安心をしたのもあって、正直に話したくなった。彼女にふられた顛末を話し、そういう意味なのかなぁ、と匂わせると、彼女は言った。

「そうかもしれないけど、もしかしたらいきなり、本命の彼からメールでも届いたとか?」
「え?」
「その女性、あなたとは浮気だったんじゃないの? あなたの口ぶりからするとそんな感じですよ。彼女はあなたと遊ぶつもりだったけど、やめておこうかと思い出したのかもしれない。彼からなにかの連絡があったのかもしれない。だから、一刻も早くあなたからは逃げたかった。そうでなかったら、送ってもほしくないとは言わないんじゃありません?」
「なるほど」

 腹痛は口実か。彼女はたしかに車中ではケータイをいじっていたが、若い奴にはケータイをいじってばかりいる者も多いので気にしていなかった。ふむ、そうも考えられる。俺は運ばれてきた空揚げと餃子を彼女にも勧めた。

「俺に送ってほしくないって言い張ったのは、そうだったのかもしれませんね。別の男か……いても不思議はないですもんね」
「あなたにも?」
「いや……俺には……」
「独身の間はいいんじゃありません? 私だって若いころは……」

 うふっと笑って、彼女はそれ以上は言わなかった。俺だって若いころには……いや、まだ若くはあるのだが、来年には三十になるという年齢は「まだ若い」であろう。そろそろ年貢の納め時、なんて言葉が頭をよぎる。
 本気で結婚したい相手はいないけれど、そのうちには俺も家族がほしくなるのだろうか。

 いつまでも火遊びみたいなことばかりしていないで、シリアスに恋をするべきなのか。べき、と思ってできるものなのか。俺の夏は当然、永遠に続くわけではないのだけれど。


SHINJIRO/29歳 END




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~ Comment ~

真相は、どうだったんでしょうね。
やっぱり、そのおばさまの言うとおりなのかな。

それにしても、29歳で真次郎はとってもうぶですよね。
外見とはきっと、違って見えるんでしょう。
そこへ行くと、ユキちゃんは、軽薄・・・いや、柔軟ですよね。
ここにユキちゃんがいてくれたら、寂しくなかったでしょうに。

男って、自分から動かないといけないっていうイメージがあるから、大変ですよね。
女は、わりと受け身でいいから、楽かな。

でも、このおばさまのように、好青年にさらっと声をかけられるようになったら、かっこいいなあ。まだ、修行が足りないわ、私(なんの修行)

そういえば、暑中お見舞いって、もう何年も書いたことないです。
あれって、出すタイミングとか必要性とか、悩んでしまいますよね。
そもそも、手書きではがきを出すことが、ほとんどなくなりました。
でも、かわいい幼い字でハガキもらったら、やっぱりうれしいですよね。
(あの双子の兄ちゃんも、人の親かあ・・・)

真次郎おじちゃん。ぷぷぷ。
ガキが重いとは。そのくらいの腕力つけなければ。

妄想の幸ちゃんに応援(?)されて、「お、おう」には笑った。
勢いはどした。勢いは。

キャンディーズのこの歌は名曲ですよね。
暑中うーぅー、とか、今年の夏はあぁぁー、とかの伸ばしとか、印象的です。

今は葉書じゃなくて、メールどころでもなくて、FBなんですよねぇ・・・
世の中変わったというか、オプションが増えたというか・・・

てか、あかねさんへ
暑中(寒中)お見舞い申し上げます^^

limeさんへ

コメントありがとうございます。
私のつもりでは、この孫のいる女性の推理が当たっているとのつもりで書きました。
シンちゃんが自分で真相にたどりつく……いや、彼は鈍感なんだから、そんなふうには考えないかな、と思って、この女性に出てきてもらったのでした。

恋人でもない女の子と海に行って、ホテルも、と考えているのですから、うぶってわけでもないのですけど、シンちゃんはバランスよく成長していないのかもしれませんね。
変なところはスレていて、変なところはおぼこくて。
芸能界なんてところにいるせいかしら? と産みの母(私です)は責任転嫁しております。

ユキは軽薄、その通りです!!
軽佻浮薄です。

女は待っていても恋人ができ、結婚できる場合もある。
男は待ってるだけでは、よほどもてる人でなければ彼女もできない。
それでいて今どきは女から告白するのもアリですから(がっついいてると言われたり、引かれたりもするかもしれませんが)、恋愛方面では女のほうがちょっとだけ楽かもしれませんね。

そうなんです。あの双生児のでっかい兄ちゃんたちも、しっかり自ら動いて結婚して、父にもなりました。彼らはわりと普通の家庭に恵まれています。

けいさんへ

暑中お見舞い申し上げます。
ああ、けいさんのいらっしゃるところは寒中なのですね。
夏は大嫌い、冬のほうが断然好きな私は、けいさんがうらやましいです。

このストーリィは六年ほど前で、スマホやフェイスブックはまだ普及してませんよね。
たしかそうだったはず。

私はスマホも持ってませんし、FBなんてものもやってませんので、フォレストシンガーズもいまだガラケーってやつを使ってますが、そろそろ持たせないといけませんね。困ったな。

シンちゃんはけっこうもてるので、ナンパはしなくていいのですよ~
幸生ももてなくはないのですが、彼は趣味でやってます。
笑っていただけたとのことで、とーっても嬉しいです。

キャンディズの歌はけっこう楽しいですよね。
すでにもう、キャンディズのうちのひとりはこの世にいないなんて、ほんと、時は流れたのですよね。

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鍵コメSさんへ

もうだいぶたくさん、フォレストシンガーズのショートストーリィを読んで下さって、ご感想も下さってありがとうございます。
とても励みになります。

これは「夏物語」でしたから、正反対の季節になりましたね。
私は暑がりですが、さすがに今日からは寒っ、と身を縮こまらせています。
それでも夏よりは冬がずーっと好き。夏は嫌いです。

ひらがなや漢字使いにはみなさん、独特の癖や好みがありますよね。
私は「いろ」だとか「ひと」だとかはひらがなのほうが好きなのですが、「あのひとがこうしてくれた」と書くよりは「あの人がこうしてくれた」のほうが一目でわかりやすいかと悩んだりもします。

お掃除ロボット、いいですか?
うちはルンバが必要なほど広くないので買いませんが、友人が買ったそうです。
彼女の家には犬がいまして、その子はルンバを敵とみなして戦いを挑んでいるそうです。うふ、可愛い。

うちには猫がいまして、猫は普通の掃除機を怪物だとでも思っているらしく、威嚇しています。
人間相手にはしゃーとかふわーっ!!とか言わない猫なのに、掃除機にだけはやってるのがまた、可愛いです。←ネコバカ。


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