ショートストーリィ(グラブダブドリブ)

グラブダブドリブ・悠介「last cigarette 」

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グラブダブドリブ


「Last cigarette」


 傘に隠れて雨の中を歩き、十代の終わりごろに世話になった家を探す。街を歩くと、グラブダブドリブの中根悠介? と名を呼ばれる場合も多いのだから、雨は好都合だった。

 このあたりにあった電気屋に住み込んで、もとから興味のあったメカや電気にいっそう精通するようになった。店主夫婦と夫の父親と、事務員の女性とアルバイトの悠介と、働いているのは五人の小さな店だった。おじいさん、と呼んでいた店主の父親が、悠介にさまざまに教えてくれた。

 先日、ふと思い立って電話をしてみたら、事務員の三田が出てくれた。悠介が二十歳にもなっていなかったころにもおばさんだった三田なのだから、あれから十五年もたった今はおばあさんに近くなっているだろうか。彼女は元気な声で悠介をなつかしんでくれ、こう告げた。

「おじいちゃんは亡くなったのよ。中根くんが知らなかったのはしようがないけど、こうして気にしててくれたら、おじいちゃんも嬉しいでしょうね。おじいちゃん、中根くんが辞めてしまってからも時々は、悠介はしっかりやっとるかな、なんて言ってたもの」

 じいさんが仕事を引退して、俺に余暇ができたら一緒にパソコンを組み立てよう。悠介の中ではじいさんと約束していたつもりだった。約束はかなわなかったが、ならばせめて線香の一本でも手向けようと、休日に電気店を訪ねてきたのだった。

 タクシーで近くまで来て、このあたりだと見当をつけて降りたのに、記憶が混乱してしまって店が見つからない。雨の中を歩き回って、悠介は一軒の家の敷地内に入り込んだ。
 一般の住宅ではなく、広い庭の奥の家を改築して雑貨屋にしているようだ。この大きな家は覚えがあるような気もすれば、こんなのあったか? でもある。

 雨の平日なのだから人通りも少なく、店の中には客はいないようだ。店員さえもいないようであたりはひっそりしている。民家ではないのだから雨宿りをさせてもらってもいいだろう。店の前に灰皿があったので、悠介は煙草を取り出してくわえた。

 空気が湿っていて火がつきにくい。煙草を一本吸ったら、店に入って迷惑料になにか買おうか、ウィンドゥに飾ってあるベトナムのものらしきシクロを見ていると、花穂が好きかもしれないと思えてきた。
 花穂を思い出していると、つながって過去もよみがえってくる。十八歳で育ててくれた祖父母の家を飛び出してからも生きてこられたのは、あのおじいさんのおかげもあった。

「五つでおっかさんから引き離されたのか。そりゃつらかったな。で、じいさんとばあさんが嫌い? わしもじいさんだからおまえさんには言いたいこともあるけど、非人間的なじいさんやばあさんではあるわな。なんだったらうちに来いよ。アルバイトがほしいって息子が言っとった。おまえさんだったら使えそうだ。それになんたって……わしもギターが好きなんだよ」
「ベンチャーズですか」
「チャック・ベリーとかプレスリーなんかもな」

 ギターとメカと電気が好きだったから知り合ったじいさんは、ロックがこの世に誕生したころにはすでに中年だったのか。わしもバンドをやりたいと言ったら女房に猛反対された、と笑っていた。
 好きなものが似ていたから年齢を超えて親しくなって、仕事と住まいを与えてくれたじいさん。時としてダイレクトな説教をされたので湿っぽい部分はあったが、他人の言葉のほうが悠介には素直に聞けた。

 身内の中では愛したのは母だけだ。顔も知らない父も、会社を継がせたいがためだけに悠介を引き取った祖父母も大嫌いだった、青い青い十八歳のおのれを思い出す。
 今でも父も祖父母も大嫌いで、あの親父の遺伝子を残したくないから子どもはいらないと思っている。花穂に限らず誰とも結婚はしないと言ったら、あのじいさんはなんと言うだろうか。

「悠介、人間ってのはな、結婚して子孫を残すのが義務なんだ」
「畢竟、そのために生きてるって?」
「まあ、そうかもしれんわな」

 あのじいさんだったら言いそうだな、と想像すると苦笑するしかない。実の祖父母に言われると起きるに決まっている嫌悪感は、電気屋のじいさんならば起きないだろうと思えた。

 煙草を何本も灰にして、悠介に電気について教えてくれたじいさんの声。二年もすれば悠介のほうがじいさんの知識は超えたが、経験の蓄積には勝てなかった。ヤニで黄色くなった指でエレキギターの弦を押さえ、悠介、ここはな……とレクチャーしてくれた。

 ギターに夢中になって煙草が指を焦がしたり、畳に落として焼け焦げを作って息子に怒られていたり、三田さんに呆れられたりもしていた。

「おじいちゃん、中根くんは未成年なんだから、煙草なんか教えたら駄目よ」
「なに言ってんだよ。煙草も吸わない、酒も飲まない男なんかろくなもんじゃないぞ」
「だから、未成年なんだから」

 困った顔をしていた三田さんの前で、悠介も煙草を取り出した。嬉しそうな顔をする頑固じいさんと、まったくもう、と口をとがらせていた三田さんをも思い出す。

「もういいか。シクロを買って帰ろうかな。線香がわりに……」
 こんな歌があった。

「One Last Cigarette
 Regrets are all you left on your lipstick stains
 Take a picture of our past there in that ashtray
 We had our fun, I used to light your flame
 Like the dancing smoke that rose we tried to find our way
 No one told me, she told me

 Your love's like one last cigarette
 Last cigarette, I will savor it
 The last cigarette
 Take it in and hold your breath, hope it never ends
 But when it's gone, it's gone
 The last cigarette」

 きみの愛は一本の煙草のようだ……男から女に向けての恋の終わりの歌、そうと知ってはいるが、英語の歌をどう解釈しようと、聴く者の自由だともいえる。線香のかわりにこの煙草のけむりを手向けるのも、へヴィスモーカーだったじいさんにはふさわしいだろう。

END





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~ Comment ~

長らくご無沙汰です。。。

え、英語が書いてある!!

英語出来るんですね!スゴイ!って思うのは梶だけでしょうか・・

梶が出来ない事が出来る人を尊敬する、梶です。

kaziさんへ

とんでもございませーん。
英語は全然駄目です。

この英語の歌詞はBon joviの歌なんですよ。
英語の歌も有名なのだったら歌詞も訳詩も、あちこちのブログにアップされていますので、引用させていただきました。

私は日本語だけしかできません。
語学の才能はゼロです。すみません。とほほ(´・ω・`)です。

テンプレート変わりましたね

涼しげですね。
毎回、ちょっとずつですが楽しみに読ませていただいてます。
暑いですが、お身体気をつけてくださいね^^
また読みに来ます!!

美月さんへ

コメントありがとうございます。
テンプレート変えるの、趣味のひとつなんです。

ただね、このページの左側を見て下さい。
小さい魚がたくさん泳いでるでしょ? 私、小動物(小鳥でも魚でも、特にネズミがっ!!)がうようよ無数にいるのは観たくないんですよ。
まぁ、これは魚ではなく、模様だと思って気にしないことにしています。
夏は海が涼しそうでいいですよね。

ちょっとずつゆっくり、お時間がおありのときにお読みくださいね。
私もまた伺います。

ボンジョビでしたか☆
昔バンドでコピーしましたよぉ☆
おじさん以上になってもまだやっているあの人達ってすごいですよねぇ。。

kaziさんへ

いつもありがとうございます。

Bon Jovi、コピーされてたんですか。
kaziさんはなんの楽器ですか?
聴いてみたいな。

世界中のロックバンドの中でも、Bon Joviのキャリア、メンバーチェンジのなさ(リッチーは時折問題を起こしているようですが)、は有数ですよね。
死ぬまでに一度、彼らのライヴを生で聴きたい。でも、もうロックバンドのライヴになんてついていけないかな、と怖気づきそうです。
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