連載小説1

「I'm just a rock'n roller」6

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「I'm just a rock'n roller」

6

「冬紀っ!! なにやってんのよっ!!」
 
 馬鹿な男たちが喧嘩してる、とばっちりを食うのはいやだから避けて通ろう。その場面を目撃したときには、新川真菜はそう思った。が、冬紀が加わっているとなると話しは別だ。大声を上げて乱闘の中に飛び込んでいこうとして、腕をつかまれて引き戻された。

「離してっ!! 私は冬紀を助けにいくんだからっ!!」
「真菜さんだったよね。落ち着いて」
「あんなところへ飛び込んでいったら怪我させられるよ」

 いつかどこかで……ああ、ジョーカーの武井伸也と松下尚だ。彼らは冬紀に喧嘩をさせておいて、自分たちはのんびり見物しているのか。腹立たしくなって、真菜は腕をつかんでいる尚の手を振りほどいた。

「武井さんと松下さんはなにやってんのよ」
「なにって……いや、どうしたらいいものかと……」
「止めないの?」
「止めて止まる奴ではないかと……」
「冬紀? そうかもしれないね」

 かっとなるとなにをしでかすかわからないとは、冬紀とはつきあいも長くなっている真菜はよく知っている。近頃は忙しいとか言って、メールをしてもそっけない返信しかくれなかった冬紀は、自然消滅を狙っているのかと考えなくもなかったのだが。

「で、真菜さんはどうしてここに?」
「冬紀がここにいるってメールくれたの」

 話しかけているのは伸也で、尚は不安げに喧嘩のシーンを見つめていた。

「このごろ、レコーディングしてたんでしょ」
「ああ、そうだよ。全部終わったから今日は飲み会……ああ、俺も彼女にメールしたんだ。友永もか。考えることは同じだな。おいでよって誘われた?」
「っていうんでもないけど……」

 来てもいいけど、おまえと一緒には帰れないよ、とのメールだった。そんな決意は私の魅力で覆させてみせる、真菜はそのつもりでやってきたのだ。

「なんで喧嘩なんかしてるの?」
「あいつら、アマチュアロックバンドの奴らなんだよ。顔で、色仕掛けでプロデューサーかなんかをたぶらかして、売れるようにしてもらえ、みたいな話になってさ、友永だったらやれるだろ。おまえの顔だったらおばさんでもおっさんでも、乗ってくるんじゃないかって言われて、あいつが噴火したんだよ」

「そっか。そりゃ、冬紀だったら怒るよね」
「だろ。でさ、俺と松下は止めて、止めても止まらないのは承知で止めて、赤石は参加しちまったってわけ。むこうは三人だから、二対三だとちょうどいいかな。友永も赤石も強いからね」
「ほんとに大丈夫?」

「赤石と友永だったら負けはしないだろうけど、早くあいつらが逃げていかないと、警察を呼ばれるかもしれないだろ」
「それは言えてる。そんなら、冬紀、がんばれ、本気でがんばれ!! って応援しようか」
「応援しても聞こえないよ」

 見物人たちは立ち止まったり、離れていったりする。近くの店のひとたちも特には騒いだりもしていないようだが、通報されるとやばい。それに、冬紀が怪我をするのも真菜としては心配だ。私が強い男だったら助けにいくのに。いくらなんでもなぁ、私が参加しても役に立たないよね、との分別は真菜にもあった。

「武井さんは弱そうだね。行っても無駄だろうけど、松下さんだったら弱くはないんじゃない?」
「はい、俺は弱いです。松下はなぁ、喧嘩なんか大嫌いなんだよ。とはいっても、早くケリをつけるためだったら行くしかないのか。おい、松下」

 う、と言ってこちらを向いた尚が、やや離れた場所を示した。

「恵似子ちゃんじゃないのか?」
「ええ? あ、ほんとだ」

 ほんとだ、と言った伸也が口を押さえ、真菜もそちらの方向を見た。彼女はこちらに気づいているのかいないのか、ひとりで喧嘩を見物している。小太りで背の低い若い女の子だった。

「あの子、誰? 武井さんの彼女……なんてはずはないよね。武井さんはそこまで趣味が悪くないよね。あの子、服装のセンスがひどすぎ。なんなの、あの変なジャケット。私だったら仕事で着ろって言われてもお断りだよ」
「真菜さん、言いすぎだろ」
「え? なんで?」

 いいんだょ、いいけどさ、と伸也が呟き、尚は非難のなまざしで真菜を見る。なんてはずはない、のその、まさかだったのか。真菜も慌てて口を押さえた。

つづく





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