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フォレストシンガーズ五月ストーリィ「翡翠いろのファンタジー」

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フォレストシンガーズの五月ストーリィ


「翡翠いろのファンタジー」

 
 独特の模様のある淡いグリーンのグラスに、透明な液体が注がれる。色のない液体が翡翠と溶け合って、陽炎のようなゆらめきが立ち上った。
 ただの水にしか見えない液体が揺らめいて、風もないのにおもてにさざ波が立つ。さざ波がグラスの中で大時化のようになって、ゆらゆらとなにかが生まれかけていた。

 ちゃぽんっ!! 

 誰もいないプールサイドに水音が響き、グラスの中からなにかが飛び出してくる。小さな小さななにかはグラスから跳んでプールに移り、静かに泳ぎ出す。
 何者も見てはいないその中で、プールを泳ぐなにかが成長していく。タツノオトシゴのようだったそれは、すこしずつすこしずつ大きくなっていって、人間のようになった。

 そのものはただ、泳ぎ続ける。泳ぐ以外にはできることはないかのごとく、泳ぎ続ける。時間は流れ続け、そのものは泳ぎ続ける。

「……あれ?」

 プールサイドに人影があらわれた。
 ダークブルーの水泳パンツに白のパーカー、そんな恰好の少年がととっと走ってきて、プールを覗き込んだ。

「おわっ!! うわっ!! みんな、来てっ!!」

 なんだなんだ、騒々しいな、なにかいるのかぁ? などなどの声がして、少年たちが近づいてくる。めいめいが水泳パンツにTシャツやパーカーをひっかけた少年たち。彼らはプールサイドに尻もちをついている最初の少年の横で、プールの中に目を凝らした。

「人魚?」
「んなもん、いるわけねえだろ」
「だけど、あの太い翡翠いろの尾っぽ……上半身は人間の女性だろ」
「あれをして人魚っていうんだよな」

「上半身は人間の女……」
「うら若き娘……上半身裸……」
「う、綺麗だなぁ」

 ひとりが感極まったように呟く。ああ、綺麗だ、と他の三人もうなずき、尻もちをついていた少年が言った。

「出て……きて。俺たちの言葉がわかる? きみは言葉を話せる? 名前はなんていうの? 出ておいでよ。俺たちと遊ぼうよ」

 返事はなく、すーっ、すいーっと、人魚だと少年たちには思えるものはただただ、泳ぎ続ける。小さいのや大きいののいる少年たちのうちの、ほっそりした長身の少年が言った。

「来てくれないんだったらこっちから行くよ」
「おい……」

 もうひとりの長身の少年が止めようとしたのにはかまわず、言うが早いか、彼はプールに飛び込んでいた。中背で筋肉質の少年は言った。

「隆也さん、大丈夫かな。あの人魚みたいの、人間に危害を加えたりしないんですかね。真次郎さん、俺も行きますから、なにかあったらよろしくお願いします」
「おい、シ……」

 名前を呼んで止めようとしたのは遅く、彼もTシャツを脱いでプールに飛び込んでしまった。
 長身の少年は固唾を飲んでプールの中を見つめ、小柄な少年たちは彼の背中越しに同じほうを見つめる。プールの中では隆也と呼ばれた少年に、中背の少年が泳ぎ寄っていった。

「隆也さん、大丈夫そうですか。危険じゃありませんか」
「ああ、シゲ、あの子……女の子に見えるからあの子でいいだろ。名乗ってくれそうにもないから、翡翠って呼ぼうか。翡翠は俺になんか関心ないみたいだよ。第一、危険ってどんなふうに?」
「あの尾、強靭そうですよ」
「尾っぽでぶっ飛ばされるとか? あり得なくもないけど、おまえは心配性だな」

 ひとまずは大丈夫そうだな、とプールサイドの少年たちも一安心し、隆也が翡翠と名付けた人魚を目で追う。優美な姿態がひたすらに泳ぎ続けていた。

「俺も泳ごうっと」
「あ、俺もっ!!」
「わっ、ちょっと待ってよっ!!」

 Tシャツやパーカーを脱ぎ捨てた少年たちもプールに飛び込む。尻もちをついていた少年だけが残されて、空を見上げた。

「雨?」

 少年のてのひらにぽつんと落ちたのは、翡翠いろのしずく。こんな色の雨があるだろうか。しずくは少年の手からぴゅんっと飛んで、プールに飛び込んだ。

「う? え? あ?」

 なんだ、今のは、錯覚? 少年は目をぱちくりさせて、視線をプールに注いだ。四人の少年たちは人魚とたわむれるように泳いでいる。プールの底も淡い翡翠いろ、人魚の尾も翡翠いろ。白い肌の人魚と、とりどりの水泳パンツを身につけた、人魚よりは肌の浅黒い少年たちが、楽しげに泳ぎ続けていた。

 人の肌の色と水泳パンツ以外は翡翠いろ。空の青とプールの底の色が溶け合って、プールの水も空気までが翡翠いろに見える。
 すべてが翡翠いろなものだから、少年のてのひらから飛んでいったしずくがまぎれてしまって、どうなったのかはわからない。

 単なる錯覚だったのだろうか? そうだったのかもしれないな、と思っていたら、翡翠いろの空気が動いた。まるで空気が形のない腕になって抱きかかえているかのように、人魚が浮き上がる。プールサイドにいた少年も、泳いでいた他の四人も、動きを止めて見ていた。

 翡翠いろの風が、翡翠いろの尾をした人魚を抱いて、どこかにさらっていく。少年たちにはそう見えた。そうとしか考えられなかった。

「どこに、行ったんだろ」
 いくばくかの時間がすぎたあとで、長身の少年が言い、プールサイドの少年が応じた。

「海に還ったんだ。だって、翡翠ちゃんは人魚だもの。どうやってだか、ここで生まれた人魚が海に帰っていったんですよ」
「そういうことにしておくしかないな」
「いいものを見せてもらった。俺も泳ごうっと」

 実物たちは少年ではないけれど、上手に雰囲気はとらえてある。
 ファンタジーなんだから、理屈なんかいらないんだね、と彼女は思う。見ている側にも登場人物たちの気持ちまでが伝わってきそうな、フォレストシンガーズのプロモーションアニメ。新曲の「翡翠いろのファンタジー」のエンディングを見ながら、彼女はほーっと息を吐き出した。

 窓から入ってくる初夏の風が翡翠いろに感じられる。わたしもアニメの中に飛び込んで、彼らと一緒に泳いでいる。彼女はそんな空想をしていた。


END



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~ Comment ~

おもしろいなあ

なんと。PVだったのですね。
最後のオチで、すごく完成されたSSになった気がします。

アニメーションの隆也たちと、翡翠色の人魚。
翡翠って、ブルーのような、グリーンのような、まさに人魚にぴったりの色ですね。
このアニメ、見てみたいなあ。PVから人気が出て、長編アニメ映画になったりしないですかねえ。
見たいなあ^^

冒頭の人魚誕生のシーン、本当に綺麗で魅力的でした。
私も一度、ファンタジーを書いてみたいな。

こういうの、いいですね!

FSの物語の中のPVでもあり、このあかねさんの物語自体のPVでもある、そんな二重性のある物語ですね。
私も、こういうファンタジーが現実と夢の間を上手く行き来するようなお話、大好きなんです。
それにしても、本当に毎日の更新と、どんどん編み込まれていく物語のパワーは圧倒的ですね。
毎日よれよれになっている私ですが、あかねさんのブログを開くと、とてもまねはできないけれど、頑張ろうと思います。(といいつつ、毎日よれよれ~)
質問コーナーも面白かったです。私も実は、コンビバトンをやってみようかと思っていたところだったのですが、あまりにもパワーがなくて(自分に)、断念していました。でも、まだFS初心者ですが、こういうのがあると、入り込みやすいですね。やっぱりガンバろっかな。
さて、また続きを読もうっと(^^)

limeさんへ

いつもありがとうございます。
これ、limeさんのイラストを使わせていただいた「マーメイドボーイ」よりも前に書きました。一時、人魚ばかり書いていたわけですが、こっちのほうがずーっと苦戦しました。

ファンタジーだから理屈はなくてもいいかなぁ、とか思いながら、ラストはどうしようかなぁ、どうまとめようかなぁ、と悩んでいたら突然、そうだっ、PVだっ!! とね、誰かが天から教えてくれたのでした。

PVなのに登場人物の感情描写があるのが変ですよね。うう。

limeさんの書かれるファンタジー、とっても読みたいです。いつか書いて下さいね。

大海彩洋さんへ

コメントありがとうございます。
FSのPVでもあり、私の物語のPVでもある。嬉しいお言葉です。
質問コーナーとは、FSファンに質問ってやつですか? 私はバトンや質問というのが好きでして、よく遊びでやってます。お読みいただけるとほんとにうれしいです。

私はとにかく、書いていないと倒れる体質ですので(自転車操業ですね)、ブログを更新するのも楽しくて、できるだけ毎日したいけど、そんなにネタはないのでたまにはお休み、って感じですね。
とにかくとにかく、小説とその関連の文章を書くのが生きがいです。

大海さんはお疲れのご様子ですが、無理をなさらない程度にがんばって下さいね。
こうしてお知り合いになれたブログ作家さまたちががんばって書いておられるのは、私にとっても励みになります。

お時間がおありのときにはまたいらして下さいね。
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