ショートストーリィ(musician)

「I'm Not In Love」 

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「I'm not in love」

 
 深夜のバーには客がぽつり、ぽつり。この店は音楽をかけていない。
 別れ話をしているのか、男と女が黙って向き合っている席もある。僕の前には僕がギターを弾いているバンド、「レイラ」のドラマー、テディがいてくだを巻いている。

 高校生のころに僕が追っかけをしていたバンドは「ジギー」といった。デヴィッド・ボゥイの「ジギースターダスト」から取った名前なのだそうで、有名なZIGGYとは関係ないとメンバーは言っていた。プロにもなれないままに解散したジギーの真似をしたわけでもないのに、僕らの名づけもそれに近いと思われる。

「ああ、エリック・クラプトン?」
「まあね」

 めんどくさいので肯定しておくけれど、ほんとはもっと複雑だ。おまえの名前は黎っていうのか? 女みたいな名前だけどかっこいいよな、俺もプロになったらステージネームをつけようか、レイラなんてどう?
 そう言ったのは僕の初恋のひと。彼は男だけれど、僕がはじめて恋のような感情を抱いたのだから、恋ってものはどうせ錯覚なのだから、初恋でいいのだ。

 事実、僕はあのころは悩んでいた。僕ってアキラに恋してるの? 僕はゲイじゃないけど、アキラが気になってたまらない。これって恋なのか?

 悩みすぎてわけがわからなくなっているうちに、ジギーは解散してアキラは消えてしまった。実際にはアキラは僕も遊びにいったことのあるアパートに住んでいたのだが、ジギーのアキラではない章には用がないってか? なーんだ、そんなら恋じゃなかったんだ。

 そうだよね、僕はゲイじゃないんだもの。よし、実践してみよう。その気になれば女の子はいくらでも僕の誘いに応じてくれて、二十歳になる前には一人前のプレイボーイが完成したってわけ。僕をこんなにしたのは章だよ、責任取ってくれる?

 なーんて、責任転嫁をするつもりもないけれど、僕は章に感じたおかしな胸のざわめきが通りすぎてからは、恋なんかしたことはない。別れてちょっぴり痛手だった女はいるが、時間が経てば忘れた。なのだから、僕の初恋は章だ。本人に言うと殴られるだろうからジョークでしか言わない。章も本気にしていないし、僕も本気で言ってるわけではない。

 要するに僕は、若いころの章の跡を継ぐちゃらんぽらんロッカーに成長したわけだ。僕のほうが背が高くてかっこいいし、プロのロックバンドの一員でもあるのだから、当時の章よりもはるかにもてる。時々、この世から女がいなくなったらいいのに、と思うほどだ。

「だろ、テディ?」
 同意を得ようとして思い出した。テディはなにをくだ巻いていたんだっけ? 彼の話なんかまるっきり聞いていなかった。

 日本人なのだから日本の名前はあるが、レイラのメンバーは全員、国籍不明のニックネームだけしか名乗っていない。全員がハーフ? と言われるようなルックスをしているので似合っている。ルックスだってロックバンドの武器なのだから、こんな顔に産んでくれた両親に感謝しているのはみんなが同じだ。

「だろ、って、なにがだよ、レイ?」
「きみはなんの話をしてたんだった?」
「だから……もういいよ。もういいんだ、あんな女」

 あんな女、そうか、ハナちゃんだ。すこし前までテディはハナちゃんと真面目に恋をしていて、結婚するつもりでいると言っていた。グラブダブドリブの沢崎さんあたりは、ロッカーが結婚することは堕落だ、と言うが、堅く考えなくてもいい。したい奴はすればいいのだ。

 今夜、仕事が終わったときにベースのガイが言った。

「わかりやすい奴だよな、テディは。レイ、慰めてやれ。テディさえその気だったら、ベッドで慰めてやってもいいぞ」
「テディはその気にならないだろうけど、そっか、やっぱふられたか」
「おまえにだってわかってたんだろ。あの荒れ模様、それしかないじゃないか」

 女性は男のバンドやグループが仲がいいのを好む。過激なファンは男同士のラヴラヴも好む。それを踏まえて僕はレイラのBL担当を任じている。本当はレイラにはそういう趣味のある奴はいないのだが、僕はゲイに嫌悪も持たないからやってもいい。ただし、テディがその気になったとしてもベッドインはお断りだ。

 なので、ガイも悪い冗談を言ったのだろう。今夜はデートの約束が入っていたのだが、その相手には飽きてきている。いい口実にしてデートを断ってテディと飲みにきた。

「寂しいんだったら僕と寝る? うわっち、ジョークだよっ!!」
「耳が腐りそうなジョークを言うなっ!!」

 これは相当トサカに来てるってやつだ。テーブルの下ででかい靴に足を踏んづけられたので、悪いジョークを言うのはやめた。

「寂しくなんかねぇよ。おまえはもてるつもりでいるんだろうけど、俺だっておまえには負けないほどにもてるんだ。あんな女……こっちからふってやったんだよ。あいつと別れてからだって何人と寝たか。十八の女もいたし、Fカップの女もいた。グラビアアイドルもいたぞ。なんとかいう会社の社長令嬢も……レースクィーンも……女なんかげっぷが出そうなほどで……」

 半分ほどは事実かもしれないが、虚勢を張っちゃって醜いっちゃありゃしない。血を吐くような口調で言うなよ、僕がマジで返したら、テディもマジになって殴りかかってくるのだろうか。僕のほうが背が高いのだから、そうそう負けはしないだろうが、馬鹿馬鹿しい。

「昨日、あいつに電話しちまった。つめたい声を出してるくせに、勝ち誇ったような言い方をしやがって……俺はおまえを忘れられなくなんかないんだよ。まちがい電話だよ。レイ、聞いてんのか? いや、聞かなくていいよ」
「ねぇ、彼、大丈夫?」

 見知らぬ女の子が寄ってきたので、僕は彼女の耳元に囁いた。ギターを持ってきて、と頼むと、彼女はカウンターの中のマスターにお願いしてくれた。この店のマスターはもとバンドマンで、だからこそ僕らも行きつけにしている。彼女が僕にギターを渡してくれ、僕は彼女の甘い息を肩ごしに感じながら歌った。

「I'm not in love
So don't forget
It's just a silly phase I'm going through
And just because I call you up
Don't get me wrong
Don't think you've got it made
I'm not in love
Oh no」

 なんだよ、それは皮肉かよ、とテディが呟いている。皮肉な歌なの? と女の子が問い返し、テディは無視している。俺は恋なんかしていない、おまえに電話したからって、僕は恋なんかしていない。あり得ない、という歌詞だ。

「It's because..

I'd like to see you
But then again
It doesn't mean you mean that much to me
So if I call you
Don't make a fuss
Don't tell your friends about the two of us
I'm not in love
Oh no」

 テディの部屋にはこの続きのように、壁のシミを隠すためだと言い訳して、彼女の写真が貼られたままなのだろうか。

「I keep your picture
Upon the wall
It hides a nasty stain that's lying there
So don't you ask me
To give it back
I know you know it doesn't mean that much to me
I'm not in love
No no」

 歌っていて切なくなってくる。だから恋なんかしないほうがいいんだよ。恋は錯覚、恋はいつかは終わる。そんな恋はしないでいられたら、僕のようにいつでも平和な心でいられるんだ。

「Ooh, you'll wait a long time for me
Ooh, you'll wait a long time

I'm not in love
I'm not in love」

 僕に興味を持って近づいてきたのであろう女の子は、まだうだうだ言っているテディに同情したのか、となりにすわって背中を撫でてやっている。どうしたの? 大丈夫? と優しくしてくれている彼女と、今夜はベッドで一緒に眠れば? けれど、テディ、くれぐれも、 「I'm not in love」でね。

END





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~ Comment ~

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あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします(^^

バンド『レイラ』、なかなかのイケメン揃いみたいですね。
だとしたら、アキラ君とのラブシーンはけっこう、さまになるかも…?

『恋は錯覚』。たしかに。
やはり『愛』のほうが現実的なんでしょうかね。
でも圧倒的に楽しいのは『恋』のほうかも。
それは快楽的な楽しみ、ですけどね(^^;

西幻響子さんへ

あけましておめでとうございます。
元日早々のコメント、ありがとうございます。
出かけていましたので、お返事が遅くなってすみません。

レイと章のラヴシーン。
年下のレイのほうがずーっと大きいので私の好みではありませんが。
と申しますか、章が怒りますので無理ですね。
わはは(^o^)

レイはこんな思想ですから、無茶苦茶ばっかりしています。
いつか目が覚めるのか、覚めないまま快楽に生き続けて早死にするのか。

フィクションの登場人物としましては、レイみたいな奴はお気に入りなのですよね。
書いてる私がこうですから、こういう男はよく出てきます。

恋は錯覚……冷めた目で見ればそうですよね。
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