ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS四季の歌「四季の歌」

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フォレストシンガーズ

「四季の歌」


 自分の花嫁姿を想像してうっとりする女性というのは、よくいるのだろう。恭子にだってその傾向はあるようで、ドレスがどうとかベールがどうとか、花束がどうとか、俺に相談したがる。男のファッションにすら疎い俺に訊かないでほしいのだが、俺だって恭子のウェディングドレス姿を想像するのは楽しいので、そんな話も楽しくなくはない。

 もうじき結婚式。俺は自分の花婿姿なんて、想像もしたくない。恥ずかしくて悲鳴を上げたくなるほどなのだが、恭子と結婚できるのは嬉しいので、式も我慢するしかないのだろう。男ってそんなものかな。俺が異常なのかな。

 フォレストシンガーズでは結婚するのは俺がはじめてだし、学生時代の友人にしても、式に招待してくれるほどに親しい相手はみんな独身なので、質問もできない。俺が俺の結婚式に出ないわけにはいかないのだから、耐えてつとめよう。

 耐えてるなんて口外しないようにしなくちゃ、と思いながら、今日はデート。たいして売れてないシンガーとはいえ、暇だらけでもないので、結婚式についてはほぼ、恭子にまかせていた。

 式の最終打ち合わせをすませて、恭子と初秋の街を歩く。街路樹の葉っぱはまだ青々としているが、吹く風に季節を感じる。秋の香りがしてくるようで、愛する女性とのデート風景を歌にできたらいいのにな、と思うのだが。

 思ってみてもできないので諦めて、俺は小さな声で歌った。恭子はプロテニス選手、俺はシンガーではあるが、有名人ではないので、デートしていてもファンの方に声をかけられることもない。

「春を愛する人は 心清き人
 すみれの花のような
 僕の友だち」

 四季の歌というのは、季節の「四季」と結婚式の「式」からの連想か。俺がそのフレーズを歌うと、恭子が尋ねた。

「フォレストシンガーズでは、すみれの花のように心清きひとって誰?」
「乾さんかな。友達じゃなくて先輩だけどさ」

「夏を愛する人は 心強き人
 岩をくだく波のような
 僕の父親」

 その調子でいえば、夏を愛する心強きひとは彼だ。
「夏は本橋さんだよ。うちのリーダー」
「ああ、わかるわかる。じゃあ、次は?」

「秋を愛する人は 心深き人
 愛を語るハイネのような
 僕の恋人」

 いや、これはフォレストシンガーズの誰かじゃないだろ。僕の恋人っていうんだったらきみしかいないじゃないか。だけど、恥ずかしくて言いにくいな、と迷っていると、恭子が言った。

「三沢さんかな。彼は思いやりがあって心が深いんじゃない? 詩人だしね」
「恋人じゃないんだったら、幸生よりは乾さんのイメージだけどな」
「冬は?」

「冬を愛する人は 心広き人
 根雪をとかす大地のような
 僕の母親」

 女性だからというのでもなくて、これは美江子さんだ。俺が言う前に恭子が言った。
「美江子さんだよね」
「そうそう」
「シゲちゃんって、やっぱり先輩たちにたとえるんだ」

「章や幸生なんて奴は、そういう……なんていうのかな、デリケートな歌詞にたとえられる奴じゃないんだよ」
「そしたら、三沢さんや木村さんはどんな歌にたとえられるの?」
「そうだなぁ」

 幸生と章のテーマソングを、恭子とふたりして考える。恭子はどう考えているのか知らないが、俺には浮かばない。当人たちだったらどう言うだろうか。章はロック、幸生はグループサウンズを選ぶかもしれない。

「むずかしいな」
「私は三沢さんや木村さんをよくは知らないから、もっとむずかしいよ」

 ランララララ……「四季の歌」のスキャットの部分を口ずさむと、恭子も真似をしようとして、はっとした顔になった。うんっ、もうっ、などと怒ったふうに、つないでいる俺の手を俺の脚にぶつけてくる。内緒だが、恭子は音痴なのだ。歌ってくれよと言っても絶対に拒否する恭子が歌っているとは、うきうき気分になっているからだろう。

 街路樹はなんの樹なんだか知らないけど、恭子と正式な夫婦になるころには、この葉っぱが色づいてはらはら舞うのだろうか。そっちの想像だったら楽しくて嬉しくて、俺もうきうき気分になっていた。


本庄繁之27歳・終わり



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鍵コメSさんへ

いつもコメントありがとうございます。

最近、おひとりさまウェディングというのがあるそうで、ひとりでなにをどうするのかと思ったら、女性が結婚式の衣装をつけて、きちんと写真を撮るのだそうです。

その境地にだけは達したくないと言っている女性もいましたが、けっこうやる人もいるのだそうで。
へぇぇ、ですよね。

宮崎勉のお父さんも、自殺されたんですよね。
その気持ち、とてもよくわかります。
日本は特に、犯罪者の親や家族を攻撃しますものね。
外国だと犯罪者の母が「私は関係ない、やったのはあの子だ」と言い切る場合もあるそうで、そこまでは言えないにしても、大人になったらやっぱり自己責任ですよね。

もちろん、親の育て方もあるんでしょうけど、極端に溺愛したとか虐待したとかじゃなければ、子どもの性格のほうが大きいと思います。

台風は、いつものように、大阪はまったく無事でした。
わりと雨は激しかったけど、大阪は家が建て込んで密集してますから、風はあまり感じないのですよ。
ご心配、ありがとうございました。

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