ショートストーリィ(グラブダブドリブ)

グラブダブドリブ・ドルフ「珍獣たち1」

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グラブダブドリブ

「珍獣たち」1


 脱退したドラマーの後釜にと、ドルフがプシィキャッツに引っ張り込まれた当時は、チカもマナもセナもリリもドルフも若かった。

 全員が長身でやたらに気が強くて、行儀がいいとは言えない女の子たち。それでも、美人であれば性格は問わないという男はまあまあいる。それどころか、性格のいいブスよりは性格の悪い美人がいいと言ってのける男だっていた。

 なのだから、プシィキャッツのメンバーたちはもてるのだろうと、ドルフは納得していた。中身に多少の難があろうとも、若くて綺麗でイキのいい女たちなのだから、男たちが寄ってくるのは当然だ。ただし、チカだけは例外だろう。

 男っぽい女にはある種の色気があるものだが、チカには色気がなさすぎる。ガラが悪すぎる。他の三人ならば許容範囲であろうがさつさが、チカの場合は度がすぎている。それだけに女嫌いのドルフにはつきあいやすかったのだが、女としてのチカを求める男はいないだろうと決めつけていた。

 が、いるのである。不可解なことに、チカはもてる。プシィキャッツ時代にだって男に言い寄られては、機嫌がよくなかったりすると文字通り蹴飛ばしたりしていた。乱暴はやめろ、とドルフがチカを咎めると、蹴られた男はとほほといった顔をして言った。

「いいんだよ、嫌われちゃってるのにしつこくした俺が悪いんだ。俺はチカに蹴られたのをいい思い出にするよ」
「……てめえはマゾか? だろうな。でないとチカに惚れないよな」

 そうかもしれない、と彼は言っていたのだから、その後も続々あらわれるチカに惚れる男たちというのは、みんなマゾだったのかもしれない。
 自己申告をした分も、どこからともなく聞こえてきた分も含めて、チカを口説いた男はドルフが知るだけでも相当数に上る。世間には物好きが多い、マゾ男が多い。

「ってことはすなわち、おまえが男に告白されてつきあっても、いつでもその期間が短いってことだよな。二股はしない主義だろ。おまえが断った男も大勢いるけど、今までの彼氏ってやつも大勢いる。だから、それはつまり……」
「回りくどい言い方をしなくても、あたしはすぐに男には飽きるんだから、どれもこれも短いよ」

 やがてプシィキャッツは解散し、チカはイギリスへとギター修行の旅に出た。ドルフはグラブダブドリブのドラマーとなり、バンドも売れてきてスターになったと言われている。当人たちは実感もないのだが、このクラスならばグラブダブドリブは日本ではロックスターの部類ではあろう。

 基本的にはテレビ拒否のグラブダブドリブは、特別企画の音楽番組にならばたまには出演する。本日はBSのロック番組にドルフひとりが出演していた。

 主にVTRを流す番組には、ゲストが数組出演している。ゲストたちは出たり入ったりしていて、ドルフと同時には若手のハードロックバンドとソロのロックシンガーが控室にいた。

 一組は「ビオランテ」。バンド名は怪獣の名前だそうで、ギタリストのギターには火を噴くメカゴジラがプリントされている。ハードロックではあってもヴァイオリンとメロトロンの奏者がいるのだから、シンフォニックロックカラーもあるようだ。

 もうひとりはソロで、その名は獄門。ビオランテはマイナーなバンドだろうが、獄門は人気もある。特に彼のバックギタリストのナズは最近、女性ギタリストとして有名になってきていて、チカと親しくしているのでドルフも面識はあった。

「ドルフ? ちゃんと話すのってはじめてだな」
「ああ、獄門はイギリスに行ってたのか」
「例のロックフェス? 呼ばれてたのはナズだけだけど、俺も表敬訪問に行ってたよ」

 ビオランテとは親しくもないので、自然に獄門と話していた。
 この夏、イギリスでロックフェスティバルが開催され、チカがバックギタリストをつとめているシンガーのパディ・ルイスがメインアクトとなった。そのフェスティバルに日本代表として出演したのが、「花魁」という臨時編成バンドだった。

 ツィンギター、ベース、ドラム、邦楽の笛、ヴォーカル。ギターのひとりとヴォーカルは女性で、ドルフはそのバンドは見ていないが、チカによると演奏も好評だったらしい。バディがギターのナズとヴォーカルのクミカを口説きたがって困ったと、チカが言っていた。

「そうなんだよ。あのガキ、口がうまくてさ。ナズにロンドンに残ってチカと一緒にギターを弾いてほしいなんて言いやがって、俺は焦ったぜ」
「ナズは帰ってきたんだろ」
「あんなガキ、相手にしてないよ、って感じだったね。今日はナズは来てないけど、捨てられなくてすんでほっとしたよ」

 捨てるというのは、ナズがバックミュージシャンをやめてしまうという意味だけではないと、チカに聞かされているドルフは知っていた。

「俺はチカのギターも好きだけど、チカってでかすぎるんだよな。あ、ごめん」
「なんで俺にあやまるんだよ? たしかにチカはでかいじゃないか」
「うん、だろ? ナズも小さいわけではないけど、でかいってほどでもない。女のギタリストがいるってのは、彼女にはビジュアル的にも女でいてほしいなって。チカだと遠目には男のギタリストと変わりないもんな」

「近くで見てもチカは男と変わりないだろ」
「ぱっと見ただけだったら男っぽいかな。でも、よく見たら美人だろ」
「そうかね」

 待ち時間にそんな話をしていたドルフを、じっと見ている奴がいる。誰に見られているんだ? とこうべをめぐらせたとき、ADが呼びにきた。

「ドルフさん、獄門さん、ビオランテさん、お待たせしました、スタンバイお願いします」

 おぅ、と返事をして、男たちが立ち上がる。ビオランテの七人が控室から出ていき、獄門、ドルフの順で出ようとしていたら、前から声が聞こえた。

「獄門さん、仕事が終わったら飲みにいこうよ」
「……あ? いいけど、おまえ、誰だっけ?」
「ビオランテのヴァイオリニスト、ガルって呼んでくれ」
「俺になんか用? ま、いっか。今夜は暇だから行くよ。ドルフも行こうぜ」
「ああ、いいけどな」

 暇といえばドルフもだったので、話の流れで承諾した。

 VTRを流すのとロッカーたちのトークが半々の番組は、滞りもなく終了した。長時間番組なので、ドルフたちの出番が終わったあとも、別のロッカーがスタジオ入りする。ドルフたちがスタジオから出ると、女性ヴォーカリストの瑠璃と、女性バンドのマジェンタの収録になった。

 先に行こう、と獄門に言われて、ドルフは彼とタクシーに乗った。獄門は運転手に「ゴーストキッチン」に行くように告げ、シートにもたれた。

 濃いメイクをほどこして歌う獄門は、素顔だとロックスターだとは見抜かれない。ドルフにしてもグラブダブドリブの中では目立たないほうだが、ドルフは白人でもあり、獄門もふたりともに身体が大きいので、日本人のうちでは目立つ。なにもしていないのに、タクシーの運転手は引き気味だった。

「おまえって本名、なんていうんだ?」
「チカに聞いてないの?」
「平凡な名前だとしか聞いてないな。言いたくないんだったらいいよ」
「ドルフは本名?」
「そうだよ」

 うーん、俺の本名、笑われるからいやだな、と言っている獄門は、二十代なのだろう。やけに幼く見える。言いたくないんだったらいいって言ってんだろ、とドルフが言っているうちに、タクシーは「ゴーストキッチン」についた。

 ディズニーランドのホーンテッドマンションあたりを意識しているような、お化け屋敷のような意匠の店だ。ドアを開けるとおばけがばあっと顔を出し、獄門がそいつの頭を叩いた。

「そういうのはぶりっ子の女にやれよ」
「いてぇ……獄門さん、いらっしゃい。そっちの方、もしかしてグラブダブドリブの?」
「そうだよ」

 ずいっと歩を進めた獄門が言った。

「この店のバイトは、ロッカー志望やロッカーの卵って若い奴を使ってるんだ。俺も何年か前にはバイトしてたんだよ。ドルフははじめて?」
「ああ」
「あいつ、ガルもここは知ってるって言ってたから、ここにしたんだ」

 ふたりしてテーブルにつき、つまみとウィスキーを注文する。客筋もミュージシャンがほとんどらしく、あ、ドルフ、ひょっとしてあれ、獄門? との声は聞こえていたが、近づいてくる者はいなかった。

「ああ、ここにいたのか」

 チーズやナッツをつまみにウィスキーを飲んでいると、ガルがやってきた。獄門は顔を上げて、険しさもある口調で言った。

「挨拶はナシか」
「なんの挨拶?」
「遅くなったって挨拶だよ」
「ミーティングやってたんだよ。そんなに遅くもなってないだろ」
「待たせたんだからあやまれ」

 年齢はふたりともに同じくらいか。ドルフから見れば十近く年下の若造だ。ふたりともにごく尋常な日本人だから、若くてもこういった礼儀にはうるさいのかもしれない。

「ごめんな。って、俺も言ったんだからおまえも言えよ」
「おまえ?」
「おまえと呼んだら悪いのかよ。この業界では俺のほうが先輩だぞ。おまえのほうが売れてるからってでかい面すんなよな」
「俺のほうが売れてるのは事実だけど、おまえのほうが先輩だったのか……」

 キャリアの差などはドルフは知らないが、先輩後輩と口にするのも日本人らしい。獄門のほうが売れているのはまぎれもない事実だが、ドルフにはどうでもいいので黙って聞いていた。

「だから、おまえもあやまれよ、獄門」
「なにをだよ」
「チカの悪口を言っただろうが」
「チカ? チカって加西チカ? おまえはチカの男なのか?」
「そうじゃないけど……崇拝してるんだよ」
 
 後半が小さな小さな声になったガルに、獄門が突っ込む。なんだって? 聞こえねぇよ、と言われて、ガルは大声を出した。

「俺はだいぶ前にパリの空港でチカに告白して、すげなくふられた。一度はつきあってくれる気になったらしいのに、すぐに、もうやめだって言われたんだよ。いまだに俺には、どうしてああも早くふられたのかがわからない。だけど、ふられたんだからしようがないだろ。つきあうのは諦めて、チカを崇拝してるんだ。崇拝してるんだよっ!!」
「崇拝ねぇ……」

 イギリス在住のチカと、イギリスやパリで仕事をする機会もあると、さきほどのトークで言っていたガルとが、シャルル・ドゴール空港で会う偶然はあってもおかしくない。そんなところで告白していても、日本語を解する人間は少ないから、むしろいいのかもしれなかった。

 崇拝ねぇ、と呟いてから、ドルフは思い当たった。そうか、スタジオで俺が感じた視線は。ガルガルのものだったのだ。

 それにしたって、あいかわらずチカはもてる。なんであんな奴がいいんだよ? とドルフには不思議でならないが、崇拝すると言う奴までがあらわれた。なおも口論している獄門とガルを見やりつつ、ドルフは思う。

 もうひとり、チカに惚れているというか崇拝しているというか、なんなのか不可解な感情を抱いている男がいる。チカから見ても不可解であるらしきそいつに、会いにいってこようか。

2に続く





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