連載小説1

「I'm just a rock'n roller」2 

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「I'm just a rock'n roller」

2

 プロではあっても、売れていないロックバンドはこんなものなのか。耕平としてはいささかびっくりではあったのだが、冬紀も伸也も尚もさして気にもしていない。

「今日は知り合いの女の子が、友達を連れて見学にきたいって言うからOKしたよ。午後から来るから」
 冬紀が言い、伸也は一瞬、しかめっ面になったのだが、特にコメントもしなかった。

 やってきたのは女子大生グループ。グループのリーダー格であるのか、殿村香苗と名乗った華やかな感じの女の子が、五人の友達を紹介してくれた。ミカ、アヤ、サキ、ランとアイドルの愛称みたいな名前だけを告げて、最後に香苗がひとりの女の子を前に押し出した。

「私たちはただの知り合いっていうのか、彼女のおかげでジョーカーと親しくなって、練習まで見せてもらえるようになったの。彼女は特別。武井さんの彼女の恵似子ちゃんでーす。恵む似る子って書いて、エイコっていうのよ。赤石さんとは初対面だよね、よろしくね」
「あ、ああ、よろしく。ってか、俺はみんなと初対面だよね」
「恵似子と私以外はみんな、初対面だよね」

 グループの中では香苗がもっとも人目を引く。背丈は男としては中背程度の尚と同じくらいで、細すぎないプロポーションもよく、金のかかった服装をしている。顔も美人といってもいい部類だ。香苗と比較すれば他の四人はやや劣るが、十人並よりちょっと上くらいの可愛い子たちだった。

 その中に混じった恵似子は……はっきり言って、武井ってこんな趣味? 彼女はいるんだろ、と尋ねたときの、三人三様の態度を耕平は思い出していた。

「いるよ。何人もいる。二股だとかなんだとか言いたがる奴もいるけど、赤石はつまんねえこと言うなよ。友永冬紀はもてるんだ。結婚してるわけでもないんだから、俺は俺の好きにする。ほっとけ」

 お節介を焼いたわけでもないのにムキになっていたのは、冬紀の気持ちにもやましい点があるからなのだろう。尚はひとことで終わった。

「いないよ」
「……俺は……ま、どうだっていいじゃん。松下って女とつきあったことはなかったっけ?」
「高校のときにちょこっとあるんだけど、なんだかわからないうちにふられちまったよ」
「ああ、あったっけな」

 
 新加入メンバーの耕平は知らない、彼らの高校時代のエピソードになっていって、伸也が自分の彼女について言わなかったのは、こういうわけだったのだろうか。この子とつきあっているということは、脅迫でもされているとか?
 
 そこまで言ってやったら悪いかな、と耕平は、伸也の顔を見た。伸也はつまらなそうな表情で黙っている。いつだって賑やかでお喋りで、時には冬紀に、おまえはうるせえんだよ、黙れ、と蹴られている伸也が無口になっていた。

 そんな膨張色を着なくても……と耕平でさえも思う、恵似子のセーターは淡いベージュで、色とりどりの小さな毛糸のポンポンがついている。長いスカートは赤や茶や緑や紺や黒のチェックで、がちゃがちゃうるさい色彩のセンスだとしか思えなかった。

 ぼってり太った背の低い身体。鼻の頭も頬も赤くして、泣きそうな顔をしている女の子。恵似子は頭を下げただけで、香苗が言っていた。

「あとの四人は私の大学の友達なのね。恵似子は私とは親戚で、同じ大学の短大のほうに通ってるの。だから恵似子は他の四人とは親しいわけでもなくて、ちょっと臆してるのよ。だけど、恵似子は武井さんの彼女なんだもん。立場は一番上だよね」

 ねぇ、ねぇぇ、と他の四人が同意し、香苗は言った。

「友永さんのギターソロ、聴かせて。私たちは音楽には詳しいってほどでもないから、ギターがいちばんわかりやすいんだよね」
「俺のギターがわかりやすってか? じゃあさ、武井、アコギを持ってこいよ。アコギとエレキの競演を聴かせてやろうぜ」
「あ、ああ」

 どうも浮かない顔をしている伸也がアコースティックギターを、冬紀はエレキギターを手にして、女の子たちが嬌声を上げる。他の女の子たちははしゃいでいるのに、恵似子はまだ泣き出しそうな顔をしていた。

 二本のギターが奏でている曲は、ドゥビーブラザーズの「ROCKIN' DOWN THE HIGHWAY 」だ。興が乗ってきたようで、冬紀が英語の歌詞を口にし、女の子たちは大喜び。恵似子だけが楽しそうにもしていないので、耕平は尚の袖を引っ張った。

「こっち、こっちへ……」
「はあん?」
「松下だったら知ってんだろ」
「なにを?」

 とぼけているのでもなく、松下尚とはこういう人間なのである。知り合ってから一年近くもたつと、耕平も仲間たちの性格はおよそは把握できるようになっていた。

「あの子だよ。武井の彼女」
「ああ、恵似子ちゃん」
「あれってどういう彼女?」
「どういうって言われてもなぁ。赤石と知り合う前から、あのふたりはつきあってる。なんて言うんだろ。俺には説明しにくいんだけど、続いてるんだからそれなり……なのかなぁ」
「ふーん」

 彼女がスタジオに見学しにきたら、彼氏のほうはすこしは嬉しいのではないだろうか。有名なロックバンドだったりすれば迷惑なのかもしれないが、ジョーカーならば彼女に恰好のいいところを見せようと張り切るはずだ。

 扶美ちゃんが見学にきたら、俺は張り切る。扶美は耕平の妻なのだから、恋人同士とは若干ちがうのかもしれない。扶美ならば手作りの弁当でも持って、夫の仲間たちを励ましにきてくれるだろうから。うん、今度、呼ぼう。

 気持ちがそれているのを引き戻すと、恵似子だ。恵似子はちっとも楽しそうではないし、伸也だってどらかといえばいやそうに見える。これまでの伸也の態度と考えあわせても、ラヴラヴカップルではなさそうだった。

つづく




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~ Comment ~

NoTitle

ご無沙汰してます☆
高校の時のエピソードって昔はよく話に出してたなぁって懐かしい気分になってたが、今となっては恥ずかしい事だらけだな(笑)
しかし、バンドマンはいつもモテる!梶もドラムやっていたが・・・
とはいえ、人が誰と付き合ってるとか、あの人は・・とかって今となってはだけど、当時は面白かったなぁ。
そん時を思い出しながら読んでました。。

kaziさんへ

jokerシリーズにお越し下さって、ありがとうございます。
kaziさんもバンド、やっておられたのですか? ドラムかぁ、かっこいいですね。
私は歌も下手ですし、楽器の才能はゼロですので、音楽的才能をお持ちの方はとてもとてもとても~うらやましいです。

昔のことって思い出すと楽しいものもありますが、ぎゃっ!! 恥ずかしいっ!! って叫びそうになるものもありますよね。

NoTitle

あ、おはようございます。

いやあ・・・ちょっと切ないですねえ・・・。
エイコちゃんの姿が目に浮かんで来ました。
描写が丁寧やから・・・

あ、でもなんかとっても気になりますね。

あかねさん、上手いですねぇ・・・・。

美月さんへ

上手いと言っていただくと嬉しいですが、うーん、いつもうまく書けなくて葛藤しているのですよ。

恵似子はある面、若いころの私に似ています。
そういう女の子を書いていると、書いている私も切ないです。身につまされるというのか。

やっぱり若い男の子は、いや、若くなくても、女をルックスで差別しますものね。美人は得だとも言い切れないけど、綺麗な女は生きてて楽しいだろうなぁ、特に若いころは。
若くて美人って最強ですものね。

でも、めんどくさいので、私は若い美人にはなりたくありません。あはっ。
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