ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS四季の歌「真夏の果実」

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フォレストシンガーズ・夏

「真夏の果実」

 ふーむ、この俺に彼女ができたのか。水着姿のグラマーなこいつが俺の彼女だって? 他人事のような気もすれば、不思議な気もする。

 去年の夏休みは弟も妹も受験生だったのもあり、恵と夏休みの予定を立てていて喧嘩になったのもあって、ひとりで奥多摩のほうへハイキングに行った。
 合唱部に入っていると夏休みはサークル活動で忙しくて、休暇とはいっても純粋な休みの日は少ない。合宿だってあるし、合唱部主催コンサートもある。バイトだってしなくてはいけない。

 ちょびっとは勉強だってしなくちゃいけないし、海は合宿だけでも十分だし、泳ぐんだったら故郷の土佐の海がいいし、ってわけで、泳ぎにいきたいと言う恵とは交渉が決裂したのだ。

「そうなんだ。去年は恵さんとはどこにも行ってないんだね」
「ゴージャスなリゾートホテルに行きたいとも言ってたからさ」
「それは無理にしたって、今年もどこにも行かないの?」
「行ったほうがいいか?」

 アホか、ヒデは、自分で考えろ、と俺の頭を叩いたのは、瀬戸内泉水だった。
 大学に入って合唱部に所属してできた親友、シゲの幼なじみの女の子だ。俺は合唱部の連中には恵とつきあっているとは言っていない。恵との仲を知っているのはシゲと泉水だけだ。

 彼女のいない男が多いから、おまえに彼女がいる? とひがまれてぼこぼこにされそうな気がするのと、俺の彼女、だなんて口にするのが照れくさいから。その他諸々があってシゲにしか紹介していない恵とつきあっている上での相談は、シゲではなくて泉水にする。

 世界一もてないシゲに女の子の話をしても無意味だし、泉水はこれでも女の子なのだから、恵の気持ちだってシゲや俺よりは理解できるだろう。そのつもりで恵の話をすると、泉水は親身になって相談に乗ってくれるのだ。

「やっぱ行ったほうがいいのかな」
「恵さんが行きたがってるんだったらね」

 だったらしようがないか、ってわけで、今年は恵とふたり、近場の海にやってきた。
 周囲にも俺たちと似た年ごろのカップルがころがっている。グループも家族連れもいる、土佐の海と比較すれば汚れたプールみたいな情けない海だ。

「ヒデはさすがに泳ぎは達者だよね」
「おまえも海の近く育ちだろ。いいフォームで泳ぐじゃないか」
「ヒデが私を褒めるなんて、珍しい」
「おまえもだろうが」

 茨城生まれの台風女と、土佐の闘犬だとも言われる俺。こうして仲良くやっていれば、他人の目にも似合いのカップルに映るのか。いささか面映ゆくも感じていた。

 たくさん泳いで遊んで、浜辺に広げたシートにすわる。たまにはフォレストシンガーズの話をしようかと思ったのはやめておくことにした。
 なぜなら、恵は快く思っていないからだ。

 今年のはじめごろに合唱部の先輩に誘われて、いずれは必ずプロになる決意で結成したヴォーカルグループ。先輩たちが卒業してからもプロにはなれていないが、これからだ。
 目標があるのだから、俺は就活はしていない。恵は親が故郷の茨城県で会社を経営しているので、同じく就活はしていない。恵は俺にも、保険みたいなつもりでうちの父の会社に就職したら? と言う。

 そんな半端なことはしたくない。フォレストシンガーズの話をするとそっちの話も出てきそうで、俺は恵には、アマチュアながらもやっているささやかな仕事の話もしなかった。

「おまえ、ちょっと太った?」
「わかる? 私は夏痩せってしないの。食欲あるんだもん。痩せないとやばい?」
「それほどでもないだろ。俺は細すぎる女は趣味じゃないよ。ここらへんが大きくなるんだったら歓迎だけど……」

 言いながら胸元に伸ばそうとした手を、強烈な勢いで払いのけられた。

「いてっ!! なんなんだよっ」
「他人が見てるでしょっ」
「見てたっていいじゃないか。あっちのふたりもやってるだろ」
「やりたい人はやればいいけど、私はいやなのっ。このドスケベっ!!」
「あのなぁ、せめて可愛く、えっちとか言えよ」
「同じじゃないかよっ」

 そもそものなれそめというのか、恵とはじめてまともに口をきいたのは、一年生の夏合宿だ。恵が男子部の先輩に紹介してほしいなどとぬかし、俺が断ったら話が変な方向に進んで、雑巾をぶつけ合う大喧嘩になった。そんな女とつきあうようになったのだから、喧嘩ばっかりなのも致し方ないのかもしれない。

 ごめんな、と言うのも癪なので、俺は立ち上がって売店へと歩いていった。ビールとフランクフルトとスナック菓子を買って戻ると、恵が俺をじろっと睨んだ。

「昼間からビール?」
「おまえも好きだろ。いちいち文句言うと、口うるさいかみさんみたいだぞ」
「誰があんたなんかと結婚してあげるって言った?」
「そんな話はしてないだろうが」

 なんだってこんなに機嫌が悪いんだ? 俺、そんなに悪いことをしたか? 質問したらよけいに怒らせそうなので、ビールを手渡す。文句を言ったくせにうまそうに飲んでいる恵の横にすわって歌った。
 

「涙があふれる 悲しい季節は
 誰かに抱かれた夢を見る
 泣きたい気持ちは言葉に出来ない
 今夜も冷たい雨が降る
 こらえきれなくて ため息ばかり
 今もこの胸に 夏は巡る」

 またしてもじろっと睨まれた。
「その歌、不吉じゃない?」
「あん? そうか?」

 歌詞をかみしめてみると、好きな男と別れた女の歌なのか? だとしたら不吉かもしれない。

「いつかはおまえも俺と別れて、こうして、俺に抱かれた夢を見る想像してる?」
「私がそんな想像してるわけじゃないのっ」

 まだ怒っている恵の肩を抱き寄せて、続きを歌った。

「四六時中も好きと言って
 夢の中へ連れて行って
 忘れられない Heart & Soul
 声にならない(夜が待てない)
 砂に書いた名前消して
 波はどこへ帰るのか
 通り過ぎ行く Love & Roll
 愛をそのままに」

 顔を近づけていって、好きだよ、と囁いてみる。片手でそろっと恵の乳房に触れてみる。俺の真夏の果実はこのふくらみ。うんっ、もうっ、やめてっ、と言ってはいても、恵の声はすこし機嫌よくなっていた。

小笠原英彦21歳・終わり






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