ショートストーリィ(花物語)

花物語・April 

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ちゅーりっぷ
「花物語」

四月・チューリップ


「ぶんぶんぶん 蜂が飛ぶ
 お池の回りに野薔薇が咲いたよ
 ぶんぶんぶん……」

 のどかな風景に鼻歌がこぼれる。

「咲いた咲いたチューリップの花が
 並んだ並んだ赤白黄色」

 池の回りには歌の通りにチューリップが並び、その近くには幼稚園からの遠足なのか、赤白黄色の帽子をかぶった幼児たちがたわむれている。
 ベンチにすわってコンビニで買ってきたおにぎりを食べていた木の葉は、のどかすぎて眠くなってきて、両手で頬をぱんぱん叩いた。これだから春はいやだ。木の葉は幸いにも花粉症ではないものの、春は本当に眠い。

 さて、職場に戻るとするか。こんなところで居眠りをしたらかえって頭がぼんやりしてしまう。さっさと仕事を片付けて、帰って早寝しよう。なんだか私、寝るのがいちばんの楽しみみたい。侘しい人生だわぁと思いながらも、木の葉は腰を上げた。

「わっ!!」
「きゃあっ!!」
「いやんっ、怖いよっ!!」

 子どもたちの悲鳴が聞こえてきて、木の葉は視線をめぐらせた。池のそばには春の花々が咲いている。チューリップも野薔薇も咲いているその中を、子どもたちが逃げ惑っていた。
 なにから逃げているのかと目を凝らしていると、幼稚園の先生らしき声も聞こえてきた。

「さわったらだめよ。叩いたりしても駄目」
「こっちからさわらなかったらいいんだから、逃げなさい」
「まあくん、ジュンちゃん、こっちにおいでっ!!」
「なんなの? なに、これっ?!」
「蜂よ、蜂っ!!」

 大人だって蜂は怖いのだから、幼児ならばなおさらだろう。子どもたちは泣き声を上げて走り回り、ころんだりもしている。先生が駆け寄って子どもを抱き上げ、蜂を避けて走り出した。

「そっちに行ったよ!!」
「カズミ先生、気をつけてっ!!」
「うわーんっ!! 痛いよぉっ!!」
「ママぁぁーっ!!」

 つい先刻まではのどかだった光景が、阿鼻叫喚の世界になってしまった。女性たちの金切声と幼児の悲鳴や泣き声が交錯している中を、たった一匹の蜂が悠然と飛び回っている。幼稚園集団以外の大人もいるにはいるのだが、蜂には触れたくないらしくて、遠巻きにして眺めているばかりだ。

 やっぱり私も蜂はいやだし、昼休みはじきにおしまいだし、蜂がこっちに飛んでこないうちに逃げようか。木の葉が池のほうを気にしながらも歩き出そうとしていると、子どもたちの中に走り込んでいった男性がいた。

 そうなると気になって、木の葉もそちらを注視した。
 若い男性が帽子らしきものを振り回している。背の高い男性なので、蜂が少々高みを飛んでも手が届く。彼は腕を伸ばして何度も帽子を振り回し、それから叫んだ。

「捕れたっ!! もう大丈夫ですよ」
 
 ああ、よかった、と幼稚園の先生たちは安堵の声を漏らし、あちこちで怯えてすくんだり、立ち尽くしたり、へたり込んだりしている子どもたちを助けにいった。子どもを抱いてたたずんでいた先生のひとりが、彼に寄っていった。

「ありがとうございます。あの、どうやって捕ったんですか」
「この帽子と、僕のこの手で……」
「手、刺されてません?」
「痛くはないから大丈夫でしょ」

「蜂を殺したら仲間が仕返しにくるって言いません?」
「そうなんですか。迷信でしょ」
「その帽子……」
「ああ、これ。いいんですけどね」

 好奇心はあるので、じりじりと近寄っていっていた木の葉は、彼の持っている帽子をしっかり見た。白地にピンクや緑の小花プリントの帽子を、先生が彼の手から受け取って広げてみせた。

「ああ、蜂が死んでる」
「握り潰しましたからね。大丈夫ですよ」
「……汚れちゃいましたね、帽子」
「それも大丈夫です。洗えば綺麗になりますよ」

 他の先生も寄ってきて、同僚から帽子を受け取る。彼女が広げた帽子から蜂の死骸が地面に落ち、彼女は言った。

「男のひとがかぶるには、ずいぶん可愛い帽子」
「ああ、これ、チューリップハットっていうんですよね」
「ほんとだ、あのチューリップと形が似てますね」

 おっと、大変、昼休みが終わってしまう。蜂騒動はおさまったようなので、木の葉は早足になって職場のほうへと歩き出した。

 若い女性が何人もいる幼稚園の先生のひとりと、蜂退治をしたあの若い男性が恋仲になるなんて展開はあるのかしら。私にはもうそんなハプニングは望めもしないけど、若いっていいね。春っていいね。私は今のエピソードをふくらませて、小説を書こうかな。

 これから戻っていく職場とは、季刊ミニコミ誌の編集室だ。広告収入も容易には見込めなくて、赤字になる月もあるけれど、木の葉が書いている季節の花ストーリィを楽しみにしてくれている読者もいるらしい。

 春の号はとうに出ているのだから、本当は夏の花ストーリィを書かなくてはならないのだが、来年の春のための「チューリップ物語」を先に書こう。一年後の春にも私たちのミニコミ誌が存続しているように、との願いを込めて。

END




 

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~ Comment ~

NoTitle

チューリップを見ると、幼稚園の頃を思い出します。
飽きもせず、毎日じっと眺めていた気がします。

ここでは、恋物語が展開したんですね。
蜂という、起爆剤が、斬新です^^
ミツバチなら安心ですが、スズメバチとかアシナガバチなら、頑張って退治してくれた人はヒーローですよね。

チューリップハット。
・・・のっぽさんを、思い浮かべてしまって、慌ててかき消す。
恋の対象としては、ちょっとダメです^^(ごめん、のっぽさん)

来年の季刊誌、素敵なのが、出来上がるといいですね^^

limeさんへ

いつもありがとうございます。

蜂退治をしてくれた男性と幼稚園の先生の恋……もしかしたらそんな展開になるかなぁ、と主人公が考えたという、私の発想と同じような妄想です。
実際にはどうだったのでしょうね?

私としましてはあまり「恋愛」に走りたくなくて、ちょっとだけひねってみたつもりですが。

のっぽさん、ああ、子どもの番組に出ていた背の高いおじさんですね。
そういえば、チューリップハットをかぶってましたっけ。
limeさんのご指摘があるまでは忘れてました(^^

チューリップハットというと、昔、フォークシンガーさんがかぶっていた印象があります。
今どきは見ませんね。

NoTitle

長い茎の先にポッカリと咲くチューリップ、きれいですよね。

蜂に刺されたことはないですが、痛そうで危険ですよね。
子どもたち、救われて良かったです。

で、そのヒーローとの恋バナ、面白そうですね。
蜂の取り持つ縁。
木の葉さんの腕の見せどことですかね。
読者の一人になりますょ^^

けいさんへ

いつもありがとうございます。
チューリップって昔はあまり好きではなかったのですが、よく見ると素敵な花ですよね。
いろーんな色もあって、チューリップの花壇は綺麗です。

去年、バイト先にスズメ蜂が飛び込んできたらしいのですよ。
私は見なかったのですけど、部屋の中に入ってくるから注意するように、と言われて怖かったです。

木の葉さんの読者になって下さると言っていただけるのでしたら、木の葉ちゃんシリーズでも書こうかなぁ。なんて、その気になるかもしれません。
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