ショートストーリィ(しりとり小説)

49「若気のいたり」

 ←小説339(Unrequited love) →RIKA(version3)「Hallucination1」
しりとり小説49

「若気のいたり」


 校庭の片隅でお弁当を食べ終えて、幸美は温子とともに雑誌を開く。今春に高校生になったばかりの彼女たちにとって、月に一度の楽しみのこの雑誌「朱星」を交互に買う。今月は幸美の番だった。

「あ、載ってる載ってる」
「ジュリーは載ってるのが当然じゃないの。あっちゃん、今さらなに言ってるの」
「ちがうんだ。ジュリーじゃないのよ。ユキちゃんだって知ってるでしょ」
「……ジュリーじゃない誰かを好きになったの?」

 そんなの、ルール違反でしょ、と幸美は言いたい。
 ふたりが中学生のとき、突然の嵐が日本中を襲った。嵐の名は「GSブーム」。幸美も温子も、同じ学校の女の子たちも、別の中学校の女の子たちも、否、小学生も高校生も、もしかしたら大学生だって社会人だって、ひょっとしたら主婦だって。

 日本中の若い女性たちが叫んだ。
「ジュリーってかっこいい!!」

 GSはタイガースだけではない、ジュリーだけではない。他にもかっこいい男の子はいる。かっこいいグループはたくさんある。けれど、最初に惹かれたタイガースが、ジュリーがGSの王道だと幸美は信じていた。

「みんながタイガース好きだし、ジュリージュリーってうるさいし、あたしは飽きてきちゃったんだな。ジュリーにはファンが多すぎるんだもん」
「あっちゃん、そんなこと、言ってなかったじゃないの」
「ユキちゃんが怒るかもしれないと思ったの。怒ってるでしょ?」
「別に」

 とは言うものの、幸美としては気分はよくない。
 気分はよくないのだが、温子がタイガースから乗り換えたグループサウンズとは何ものなのか、テンプターズやスパイダースだったら普通すぎるし、ジ・オックスだとか、ワイルドワンズだとかだってありふれてるし、誰だろう?

「ほら」
 開かれたページには、スターマンズの文字が躍っていた。

「セイト・アキバ。かっこいいでしょ」
「なによ。外人みたいな名前つけちゃってさ」

 もちろん、幸美だってスターマンズは知っている。タイガースなどよりはデビューが遅かったが、「スターライトラバーズ」というヒット曲を飛ばし、一躍人気者の仲間入りをした。

 GSのメンバーたちには当然、日本人としての本名がある。ケンジだのマサアキだのシロウだのというごく当たり前の日本男性名と、もうひとつ、彼らは愛称を持っていて、ジュリー、ショーケン、トッポとかいうそっちのほうでファンの間に知れ渡っている。

 ファンではなくても有名どころだったら知られているだろうし、近頃はおばあさんや少年までが、ひそかにGSに憧れているとかいないとか。

 本名と愛称を持つのが一般的なGSのメンバーたちの中では、スターマンズは特殊かもしれない。ヴォーカルで中心人物のセイト・アキバは、カタカナでそう名乗り、外国人みたいでスマートだと言われている。

 特に興味を持ってもいなかった幸美でさえも、その程度は知っているのだから、スターマンズもスターになりつつあるのだろう。興味がなかったはずが、温子が熱を上げていると知って、幸美の気持ちが悪いほうへと傾いた。

「セイトなんて、ジュリーと較べたらイモだわよ」
「イモとはなによ」
「イモだからイモなの。イモイモイモ。イモセイト!!」

「ジュリーなんかより、セイトのほうがずーっとかっこいいよっ!!」
「あっちゃんだってちょっと前まで、ジュリージュリーって騒いでたくせにっ!!」
「飽きたって言ったでしょっ!!」

 頭がかっかとしていたのは、幸美も温子も同様だったのだろう。言い争いになってヒートアップして、昼休みが終了しそうになって、ふんっ!! ふんっ!! と鼻息も荒くそっぽを向き合い、別々に教室に戻っていった。

 あれから何年たつのだろうか。指折り数えれば四十五年近く? 私も年を取ったもんだわ、と幸美は苦笑いを浮かべる。

 高校を卒業して銀行に勤め、同じ銀行の先輩の三沢修一と結婚して、子どもを三人産んだ。アルバイトでもとの銀行で働いたりもしながら子どもたちを育て、下の娘ふたりは結婚して、修一と幸美はおじいちゃんとおばあちゃんになった。

 中学生から高校生にかけて、好きで好きでたまらなかったグループサウンズ。特にジュリー。GSをめぐって親友と喧嘩になって、一週間ばかり口をきかないこともあったくらい、気持ちが熱していた。

 グループサウンズ旋風はやがて去り、GSもひとつ、ふたつと解散していった。幸美の初のコンサート体験は、タイガースの解散コンサートだった。

「喧嘩はしたけど、やっぱりあっちゃんとはGS友達でもあったのよね」
「タイガースの解散コンサート、楽しくて切なかったよね」

 ふたりともにおばあちゃんになって、それでも気は若いから、電話でGSの話しをしているとたいそう楽しい。ジュリーがね、タイガースがね、ほら、「朱星」にさ、といった話で盛り上がってから、幸美は言った。

「うちの息子、ジュリーの歌をレコーディングするんだって」
「幸生くんが? なんの歌?」
「超有名な曲と、ちょいとマイナーな曲。おふくろ、どっちがいい? って相談してきたから、二曲ともにしなさいって言っておいたんだけどね」

 本当は、息子が所属するフォレストシンガーズがGSカバーアルバムを出すと聞きつけて、幸美のほうから電話して、うるさがられたのであるが。

「おふくろの友達だったらGSに熱狂した世代だろ、アルバムの宣伝、しておいて、って言われたの。あっちゃんも買ってやってね」
「そりゃあ買うけど、スターライトラバーズは入るのかなぁ」
「あんなのマイナーすぎでしょ。一発屋じゃないの」
「まっ、失礼ねっ!!」

 だけど、かつて幸生が言っていた。
 一発屋だなんて馬鹿にするけど、俺たちなんて一発もヒットがないんだぜ。一発でもヒット曲を出すのは大変なことなんだよ。

「あっちゃんったら、あんなのにまだ未練があるの?」
「だから、あんなのとはなによっ!!」

 若気の至りで大喧嘩をして、口をきかなくなったのもスターマンズが原因だった。六十歳になんなんとする温子と幸美も、あのころに戻ったように口喧嘩。

 あれだって私たちにとっては、恋みたいなものだったのよね。うちのお父さんやあっちゃんの旦那さんが聞いたら、妬くのかしら。切ないような胸の痛みを感じている幸美に、温子が言っていた。

「スターマンズの歌も入れてよ、幸生くんに頼んでおいてよね」
 受話器のむこうの温子の声は、少女のように若やいでいた。

次は「り」です。

「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
今回はフォレストシンガーズの三沢幸生の母、幸美です。なお、スターマンズは架空のGSです。



スポンサーサイト


  • 【小説339(Unrequited love)】へ
  • 【RIKA(version3)「Hallucination1」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

懐かしい気持ちで読ませていただきました。
私はこの主人公たちよりかなり上の世代だけど、ジュリーは
よく聴いていたし、出て来るGSの名前くらいは知っていました。

幸生くんが出て来るまでフォレストシンガーズの誰の関係者だろうと気にかかって困りました。

あかねさんの小説は多岐にわたっているうえに膨大で、どこから
何を読んだらいいのか困ってしまいます。
でも、好きなので気長くぼつぼつ読んでいきます。

danさんへ

いつもありがとうございます。
ほんとにもう、アホみたいに数はたくさんありますので、ご迷惑をおかけしています。「内容紹介」だのなんだの、拙文の紹介をしている文章もありますので、ご参照くださいね。
ご質問がありましたら、なんでも大歓迎です。

私はGS全盛期のころにはほんのがきんちょで、大人になってから改めて聴いてはまり、去年の暮れにはザ・タイガース再結成コンサートに行ってきました。

幸生の母は全盛期にGSに熱狂していた世代まっただ中で、幸生は母の影響でGS好きになったのですね。
ジュリーももう65歳だそうですが、現役ですし、声は艶めいてまったく衰えていず、素敵でしたよ。かなり太っていたのも、すこしダイエットして引き締めたようでした、
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【小説339(Unrequited love)】へ
  • 【RIKA(version3)「Hallucination1」】へ