茜いろの森

□ ショートストーリィ □

結婚ストーリィ「くねくね」

「くねくね」

 息子、三十一歳。
 母親が言うのもなんですが、長身で爽やかなイケメンです。
 一流大学を卒業して一流企業に就職し、年収は約800万円。

 嫁、三十八歳。
 背が高くてどっしりしたおばさん体型。というよりも、おばさんです。
 専門学校を卒業して結婚し、バツイチになって再就職しようとするも、正社員にはなれなくて派遣で息子の会社にやってきました。

 どうしたわけだかふたりは恋愛関係になり、つきあいはじめ、なにを血迷ったか、息子が、この女と結婚したいと言って我が家に嫁を連れてきました。

 もちろん反対しましたよ。
 三十歳のイケメンで男性としての条件も優良な息子が、なにを好き好んで七つも年上のバツイチと結婚するのか。

 しかし、両親の反対など聞き入れず、息子は彼女と結婚してしまいました。
 仕方なく、夫も私も受け入れました。

 あれから約二年、私が懸念していた通りに子どもはできず、嫁は派遣のままでだらだら働いています。家事もまあまあやっているようですし、息子は楽しそうに働いて、時々はふたりで我が家に遊びにきますから、まあ、いいんですけどね。

 先日から息子が出張で、一ヶ月ばかり韓国に行くことになりました。
 電話で寂しそうに報告してきた嫁に、だったらひとりでうちに遊びにきなさいよ、と言うと、やってきました。

「すみれさん(仮名)、うちにこんな手紙が来たのよ」
 やってきた嫁に手紙を見せると、みるみる顔色が変わっていきました。
「どうしたの? なにが書いてあるの?」
「お義母さん……見て下さい」

 見せてもらった手紙には、こんなことが書いてありました。

「はじめまして。私は息子さんの会社の社員食堂でアルバイトしている、緑(仮名)と申します。
 実は、私は半年ほど前から息子さんと交際しています。
 息子さんの奥さんも同じ会社の派遣さんですから、息子さんが奥さんと結婚しているのももちろん、知っていました。

 でも、お母さんももちろん知っているでしょうけど、奥さんってあれでしょ。やっぱり女は若いほうが可愛くていいよなぁ、なんて言って、彼が迫ってきたのです。
 私は二十二歳。大学生です。
 で、子どもができちゃったんですよね。

 彼は出張中で、韓国に行っているとは知ってますが、会社から支給された国際通話のできる携帯電話の番号は教えてくれませんでした。いつものケータイは家に置いていっているはずですから、連絡できません。会社で会う奥さんに言おうかなとも思ったんですけど。
 先にお母さんに連絡して、どうしたらいいのかを考えてもらおうと思いました。
 お母さん、孫がほしいんじゃありません? 産んでもいいですか?」

 そりゃあこれは、嫁の顔色も変わりますよ。
 でもね、この緑って女の言うことも正しいでしょ。

「まあまあ、やっぱり晋(仮名)はもてるわよね。まあね、あなたはその外見なんだし、歳も歳なんだし、浮気されてもしようがないところはあるわ。若い女に目移りするのは男のサガだもの。私はお父さんよりは五つほど年下だけど、それでもお父さん、浮気に近いことはやってたものね。お父さんは私が知ってたとは気づいてないだろうけど、私は知ってるの」

 お父さん、とは私の夫のことです。嫁はうなだれて聞いていました。

「どうする? アルバイトの大学生なんて、晋は本気じゃなかったんだろうけど、子どもまでできてるんだったら本気になるかもしれないわね。あなたさえ納得するんだったら、慰謝料を払わせるから離婚してもいいのよ」
「そんな……そんな急に、考えがまとまりません」
「そうよねぇ」

「今日のところは帰らせて下さい。ひとりでじっくり考えます」
「そうなさいな。あ、だけど、勝手な考えで晋に電話をしたりしないでね。こういう問題はこじらせるとあなたにも不利だから」
「はい、わかりました」

 うなだれて泣きべそ顔をしている嫁の態度が、私には痛快でした。お義母さんが冷静で助かります、と呟いていたのも、けっこう可愛いところがあるなぁ、なんて。

 さて、私はどうしましょうか。息子が出張から帰ってくるまでには考えなくては。
 ネットカフェのパソコンで書いて印刷して、家からは遠く離れたポストに投函したのだし、なんの証拠もないはずだから、ばれはしないでしょうけど、万が一ってこともありますかしらね。

 息子が話していた、社員食堂に大学生の可愛いバイトがいてさ、というひとことだけをふくらませて、こんな話をつくった私、才能あります?
 事実無根だとわかってからだって、嫁の疑心暗鬼がふくらんで不信感が募って、ってこともありますよね。そうなったら楽しいかも。

 万が一ばれたとしても、手は打ってあるんですよ。
 だって、手紙の日付は四月一日。根回しは万全なのです。

END




 
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Information

Date:2013/03/10
Trackback:0
Comment:8
UserTag: * 
Thema:ショート・ストーリー
Janre:小説・文学

Comment

* NoTitle

クスッと、苦笑してしまう短編ですね。
あかねさんは、さらっとこういうのを書いてしまわれる。
才能ですね。

このお母さんの気持ち、分からないでもないですが^^;
母の愛は、奥さんの愛とは別物ですが、恐ろしく深いもんですからね。
娘を嫁に出す父より、もしかしたら、息子の縁談が決まった母の方が、複雑なのかも・・・・と、思う昨今。
母、息子のお話を、いつか書いてみたいなあと思う、この頃。

さらっとSSがかけてしまうあかねさんがうらやましいです。^^
2013/03/11 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* limeさんへ

limeさん、お帰りなさい。
早速のコメント、ありがとうございます。
もう大丈夫ですか?

これを書いていて、なんか品性低劣なおはなしだなぁと思っていましたので、くすっと笑ってもらえたとのことで嬉しかったです。
そういえばlimeさんは、いつかはお姑さんになるんですよねぇ。

男なんてものは多かれ少なかれみんなマザコンだと思ってますので、マザコン男性はなんとも思いませんが、こういう母はいやですね。
limeさんの書かれる「母と息子」(以前に、息子にとってもきびしい母のエピソードを読ませてもらいましたよね)、またぜひ読みたいです。
2013/03/12 【あかね】 URL #- 

* おはようございます。(^▽^)/

 これはすごいですね。
 おかあさんの気持ちも分からなくはないですが、修羅場になりそうです。
 「エイプリルフールでした~。チャンチャン」で終わりそうはない気がします。(^^;)
2013/03/12 【カツオシ D】 URL #- 

* カツオシ Dさんへ

コメントありがとうございます。
そうですよね。この後の修羅場は怖いですよね。
意外と、実は晋(仮名)くん、ほんとに浮気してたりして?
なんてオチだったら、お母さんはどうするのかなぁ。ほくそ笑むのかな、などと考えてみました。
2013/03/13 【あかね】 URL #- 

* NoTitle

うわあぁぁ、お母さん怖いなあ。
このドッキリはシャレにならないけど、この話のオチはシャレてますね。
この息子さんは外見で女性を選ばないんですね。
いいじゃないですか。
私には娘しかいないから、こういう気持ちはよくわからないですね。
面白かったです。
2013/03/14 【りんさん】 URL #- 

* りんさんへ

コメントありがとうございます。
ほんとにシャレになりませんね。
こんなお姑さん、私もぜーーったいにいやです。

私には弟がいまして、その妻ははっきり言って美人ではない。
そのことについてうちの母がぶちぶち言っていたのを、今、急に突然思い出しました。

あんたが結婚するんとちゃうんやから、
息子の嫁が美人でなくてなぜ不満? でした。
いまだ母はあのおっさん(私の弟)が可愛いみたいですよ。
娘(私)にはなにかしてもらう、
息子(弟)にはなにかしてやらなくては、といった感覚のようで呆れてしまいます。


2013/03/15 【あかね】 URL #- 

* NoTitle

うーん心境複雑。確かに母親にとって息子は特別な存在の
ような気はします。
同じことが父親と娘にも言えるのではないかしら。
私は題名に魅かれてこの小説読んだのですが、内容にピタリ
でにんまりです。
私はこんな母親にはなりたくないですが心の奥のほうでにたり
としてしまったのも事実です。
うーん。私もこういうの書いてみようかなあ。
すっごく面白かったです。
そうそう皆さんのコメントがまたよかったです。
2013/12/21 【dan】 URL #- 

* danさんへ

題名で読んで下さって、内容とピタリと言って下さって、たいへん嬉しいです。
そういえばこのタイトル、けっこう苦労したのですよ。
わりにスムーズにタイトルがつくときもあれば、これのように内容が先に出てきて、タイトルに困る場合もあります。

父と娘……母と息子、私はどっちも当事者になっていないので、私の母と私の弟で想像いるのですが、うーむ、まったく、いまだ、母は息子である私の弟にこだわってますね(^o^)
私は「姑」というものにはならないですむ立場で、よかったかなと思っています。

こうしてdanさんやみなさんからご感想をいただくと、ほんとに最高に励みになります。
danさんもこんな感じのストーリィ、書かれるんですか? どんなふうになるのか、楽しみにしています。
2013/12/22 【あかね】 URL #- 

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