連載小説1

「We are joker」36(第一話完結)

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「We are joker」

36

 ガキのころのまんまの部分もあるものの、そのまんまではいられないところのほうが多くなっている。ロックキッズとはいっても、永遠のキッズではいられないのも当たり前だった。

「里子さん、俺、寂しいんだ。今夜は客も来ないから店を閉めて、ふたりで飲みにいかない? 里子さんは勝彦さんの彼女だっけ? そんな女性に手は出さないからさ」

 誰か来ないかな、芳郎さんだったらおごってもらえるし、まり乃さんとだったらお喋りするだけでも楽しいし、そう考えて、冬紀は喫茶「フォボス」でコーヒーを飲んでいた。
 しかし、今夜は客はちらほらと出入りするだけで、知り合いはひとりも来ない。すみれにも真菜にもメールしてみたら、用事があるからとデートの誘いに乗ってきてくれない。退屈になってきたので、水を替えにきてくれた里子に話しかけた。

 姓は知らない里子は、「フォボス」の看板娘である。看板娘と呼ぶ年頃ではないだろうが、マスターの実の娘だそうだから、看板「娘」なのだ。

「ねぇ、里子さん」
 握ろうとした手をはずされて、にっこりされる。里子の微笑は冬紀を完全に拒絶していた。
「じゃあ、ごちそうさん」
 すねた口ぶりで言って、冬紀は喫茶店から出ていく。道を歩きながら山根ももこに電話した。

「……あら、冬紀くん、今夜は暇なの?」
「暇なんですよ。ももこさんは?」
「私は今夜はファンの方々にお誘いいただいて、少人数で集まってるのよ」
「おばさんの集まりですか」
「そうね。年齢的にはおばさんがほとんどだけど、魅力的な熟女たちよ」
 ちらりと心が動いて、俺も行ってもいいですか、と言おうとしたら、先手を打たれた。

「冬紀くんは呼んであげられないの。また今度、ごちそうしてあげるから」
「行きたいなんて言ってませんよ。熟女に興味ありませんから」
「……ごめんね」
 興味ないと言っても信用はしていなさそうで、ももこはごめんね、ごめんねと繰り返して電話を切った。

「……むかつくな」
 むかつきついでにケータイのアドレスブックに入っている女性名に、かたっぱしから電話をかける。今日は厄日なのか、電波が届かない、留守電、応答ナシ、そんなのばかりだった。

「はい、どうしたの、冬紀?」
 ようやくつながったと思ったら、この声は……「ふくろ」と登録してある母親だった。

「まちがえたよ。母さん、元気?」
「元気よ。あんたはちゃんと食べてるの?」
「食ってるよ。じゃあな」
「まちがえたってなんなのよ……冬紀」
「うん、いや、あのさ……」
 どうごまかそうかと悩んでいると、母が言った。

「今日はお父さん、出張でいないのよ。時間があるんだったらごはん食べにきなさいな」
「あ、あーっと、考えておくよ。俺も仕事が入るかもしれないからさ」

 うるさく言われないうちにと、冬紀は電話を切った。
 は行の次はま行。真菜……はさっき電話をして断られた。美幸はもとカノ。今さら電話をするのは一種の賭けだ。怒鳴られるか、案外、なつかしがって会いたがるか。

「誰もつきあってくれないからって、今夜の俺はさもしいな」
 むつみ……メイ、ちょっとした知り合いの彼女たちも電話に出てくれない。優子……もしかしたら伸也となにかあったのかもしれないのだから、変な誘いはかけられない。ヨウコ、ラン、ルミ……こっちが誘う気にならない。

「ああ、若葉、いたか」
 個人名としては最後の「ワカバ」が電話に出てくれた。
「誰? その声は……?」
「俺の名前、登録してあるだろ」
「ユウジ? コウタ? 誰でもいいよ。車で迎えにきて」
「俺は車は持ってねえんだよ」
「車を持ってない男なんて、あたしのアドレスブックにいたっけ? 誰よ?」

 むかつきが激しくなって、電話を切った。
 こうなればそこらへんを歩いている女の子に声をかけようか。ひとり歩きの子でもいいし、ふたりだったら可愛くないほうを撒けばいい。電話は諦めて、冬紀は美人を物色した。

「……あのくらいだったら許せるな」
 ナンパしたのは黒いドレスの長身の女の子。化粧が派手で、風俗関係かとも思える。そんな子は男のあしらい方も上手だろうから、それはそれでいいつもりだった。

「彼女、お茶、どう?」
 声をかけるとこくっとうなずいた彼女と、適当なカフェに入った。

「コーヒー、ブラックで」
「ブラックでって言わなくても、砂糖やミルクを入れなかったらいいんだよ。きみ、どこから来たの? 家は遠いの?」
「東京だよ」
「そんならいいけどさ。俺はプリンでも食おうかな。夕食まだなんだよ」
「……あたしもおなかすいたかな」
「そしたら、あとでメシも行く?」
「う、うん」

 こうして向き合うと、化粧は派手だが熟練していない。二十歳になっていないのではないかと思えてきた。

「俺さ、ロックやってるんだ。知らないだろ、ジョーカーって」
「え? 知ってるよ。バカにしないでよ」
「……知ってるの? 嬉しいな」

 この反応はもしかしたら、ジョーカーという有名なバンドを知らないのかと思われたくない、なのだろうか。もしかしたらこの子は、ずいぶん幼いのかもしれない。

「きみさ、どこかの田舎から家出してきたんじゃないだろうな」
「ちがうよ。東京の高校生」
「……高校生?」

 これはまずい。二十一歳の男が高校生と下手なことをすると、逮捕される恐れもある。大きな荷物は持っていないけれど、コインロッカーに預けているのかもしれなくて、家出少女の可能性も捨て切れない。冬紀は言った。

「きみも甘いの、食べたいんだろ。おごるからさ、それを食べて帰ったほうがいいよ」
「どうして?」
「俺、ほんとは高校の教師なんだ。高校生とはお茶かスィーツくらいのつきあいしかできないんだよ」
「どっちが本当なの?」
「さあね。ほんとは風俗の勧誘だったりして」
 にたっとしてやると、彼女は首をすくめた。

「嘘だよ。俺は本当にロッカー。ジョーカーっていう、きみが知ってるはずもない無名のロックバンドでギターを弾いてるんだ。俺は正直に言ったんだから、きみも言って。どこから来たの?」
「……埼玉。友達と来たんだけど、喧嘩になっちゃったの」
「そっか。じゃあさ、パフェでもサンドイッチでもいいから食って、あんまり遅くならないうちに帰ったほうがいいね。駅まで送っていくよ」
「うん、でも、エミ、道に迷ってたりしないかな」
「電話できるだろ」
「喧嘩したから……」

 ウェイトレスにコーヒーとサンドイッチをふたつずつオーダーしてから、冬紀はマリと名乗った彼女に言った。

「電話しろよ」
「うん、そうだね」
 マリはケータイを耳に当てた。
「あ、ごめんね、エミ、どこにいるの? ああ、そうなんだ。じゃぁね、東京駅で……」

 何時にどこそこで待ち合わせようと、マリとエミが話し合っている。サンドイッチを食べたら東京駅まで送ってやろうか。
 駅でマリとエミが家に帰るのを見届けたら、俺はおふくろのところに行こうかな。不可抗力とはいえ、電話しちまったんだから、行っても不自然ではないだろう。今夜は親父はいないって言ってたからちょうどいい。

「ここのサンドイッチ、うまいよ。食えよ」
「うん、ありがとう」
 はじめて入ったカフェなのだから、サンドイッチが美味なのかどうかは冬紀は知らない。けれど、一枚を食べたマリは、おいしいね、と笑った。
「俺も今夜は健康的に……」
「なに?」
「いや、たまにはこんな日もあっていいよな」

 怪我の功名というのかもしれない。今夜はちょっぴり親孝行もできるから、それもいいかもしれないと、冬紀は強がりまじりの吐息をついた。


第一部・完


「第一部あとがき」

 昔、ノートにシャープペンシルで小説を書いていたころに、長く長く続けていた物語です。
 ノートなんてものは消失してしまって、私の頭の中にだけ残っていたストーリィ、キャラクターたち。彼らが出てきたいと主張しますので、最近になってまとめてみました。
 小説サイトをやっておられるみなさまは、長編だとたいていが連載形式になさっていますので、私もやってみようと思ったのもありました。
 長く長くいくつも書いた物語ですので、著者がその気になれば延々延々いつまでも続きそう。それではキリもありませんので、一旦はここでエンドマークをつけます。
 ジョーカーというロックバンドがいまして、彼らはデビューしたもののまるで売れなくて、恋愛もスムーズには行かなくて、苦悩の青春(?)を送っています。もとからドラムなんかやりたくなかったドラマーの提案で、新メンバーが加入することになりました。
 第一話は新生ジョーカー誕生までです。
 このあと、外伝をはさんで、続編もあるかもしれません。別の連載小説もアップする予定です。興味をお持ちいただいた方は、おつきあい下さいませね。
 
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~ Comment ~

第一部完結ですね

なんか、この最後の話は冬紀くんの心の中の・・・なんて言うのかな・・・
普段とはちょっと違う面が見れてよかったなあ。

ちょっと心があったまる感じでした。

私としては、尚くんに彼女を!ッて感じで・・・優子ちゃんがどうなるのかも
気になります。
あかねさんがノーとにシャーペンで小説を書いておられた頃・・・
私もルーズリーフにペン派なので・・・なんかあとがきも良かったです。
また来ます!

あかねさんへ!!

小説を書く作業ってすごい根気がいるのでしょうねー、
私は最近読めなくなりコメントもかけず申し訳なく思っています。汗)
私の人生そのものが小説的とよく言われるんですよ・・笑い)

美月さんへ

第一部、最後まで読んでいただいてありがとうございます。
冬紀って奴はまったく、ちゃらんぽらんでどうしようもないのですけど、いいところもあるんだなぁ、と読んで下さる方に感じていただけるように書きたいです。
欠点しかない人間は困ったものですものね。

美月さんもペンで……下書きですか?
私は下書きはメモ帳にボールペンです。時々、はて? これはなんのネタ? と自分で首をかしげていますが。

第二部もありますし、他の小説もたーくさん取り揃えておりますので、ぜひまたいらして下さいね。

荒野鷹虎さんへ

荒野さんの小説みたいな人生……どんなかなぁ。
私は経験不足ですし、苦労ってものもあまりしていませんし、平和、安定、変わりなく、ってのが好きですが、小説のような人生にも憧れますね。

書くほうは、私の場合はいい加減な性格ですので、スムーズに進むときにはわりと軽く書けてしまいます。
ネタさえあればけっこう書けるほうなのですが、もちろん、途中で行き詰ってどうにもこうにもならないこともあります。
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