ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

フォレストシンガーズ「スキャット」

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フォレストシンガーズ

「スキャット」

 
 仕事柄起床時間はまちまちなので、お昼ごろまで寝ていることもある。だけど、オフの日は遅くまで寝ていてはもったいない。今日は私は休日。夫は昨日から仕事で帰宅していないので、ひとりでベッドで目覚めて起き出した。

 冷凍ご飯をあたためて、インスタント味噌汁とつけものやノリの佃煮で手抜き朝食。家で食事をしない日も多いから、常備菜は食べられるときに食べておかなくちゃ。

「私も主婦になったもんだね」

 ひとりごちながら朝食をすませ、後片付けをして掃除をすませ、洗濯機を回しながらCDラックを物色する。夫はさすがミュージシャンで、マニアックなソウルミュージックやら、子どものころから好きだというピアノ曲をはじめとするクラシックやら、さまざまなジャンルのCDをたくさんたくさん持っている。

 几帳面なほうではない夫は、きちんと選別はしていないから、オーケストラの交響曲と昔のアイドルのCDが並べてあったりもする。私にはジャンルもわからない、古い古いLPレコードも、CDラックの一部を占めていた。

 その中には、フォレストシンガーズコーナーもある。
 夫はフォレストシンガーズのリーダーで、私はマネージャー。フォレストシンガーズもデビュー十周年をすぎたのだから、シングル、アルバム、DVDなどを数多くリリースしているし、その上に、世間には出ていない内輪のCDやDVDもある。

「これはなんだろ?」
 フォレストシンガーズコーナーにあったCDには、「デモ」と太いサインペンで書いてあるだけだ。夫にはこれでわかるのだろうが、私にはわからないので、オーディオにセットした。

「らーらららーららら」
「りーりーりーりー」
「おい、その掛け声は野球だろ」
「あ、そうでした? だったらりーりーはシゲさん担当ね」

「るるるるーるーるるるー」
「れれれのれ?」
「おい、こら、ふざけるな」
「ろっろっろろろー」
「ふざけるなって言ってんだろ」

 りーりーとれれれとろっろっ、は幸生くんの声で、このころには私も本橋くんと呼んでいた、リーダーに怒られている。続きには幸生くんの泣き真似声が入っていた。

「えーんえーん」
「おーおーおー」
「あーあーあああー」
「いーっだ」

「章もやめろ。幸生、てめぇ、いい加減にしろよ」
「きゃああーっ!! リーダー、ごめんなさいっ。きーーーっ、くーーっ、苦しい。ぎゃっ、ばたんきゅーっ!!」

真面目にやれ、と乾くんの声、おまえはなぁ、とシゲくんの声、くすっと笑う章くんの声、本橋くんのため息、幸生くんがはいはーい!! と叫び、歌がはじまった。

 
「あーああああああ、あーああああああ」
「ららららーっ、らーらららー」
「るるるるっ、るっるるるるっ」
「しゅびどぅばっ、どぅどぅどぅーっ」
「たたたん、たたたん、たたたーたたん」

 若かったあのころ、声も現在と較べると若く感じるから、みんな二十代だろう。売れてはいなくても振り返ると楽しかった時代のフォレストシンガーズが、スキャットで歌っているデモCDだった。

 あーあー、は本橋くんの声。深い海のブルーだとたとえたのは乾くんだった。
 らららーっ、は幸生くんの声。甘いピンクのカクテルのような声だ。
 るるるっ、は章くんの声。きらめく陽光の黄金とオレンジのよう。
 しゅびどぅ、はシゲくんのベースヴォースカル。いぶし銀に暗紫の色がちりばめられている。
 たたたん、は乾くんの声。自分でも言っていた通り、ピーコックグリーンの輝きがはじける。

 五つの声がからまり合って共鳴する。拡散していったハーモニーが収束してひとつになる。私には五つのコーラスから、ひとりひとりの声が聞き分けられた。
なんとなく録音しただけのCDなのか。特に意味もなくスキャットが続いていき、不意に歌詞が飛び出してきた。

「僕の可愛いミエちゃんは」
「色が白くて小さくて」
「ポニーテールの勝気な子」
「あの子は……リーダー?」
「どぅどぅどぅどぅばっ!!」

 なんだ、そりゃっ!? と叫んでいるのは章くんと幸生くん。
 こんな録音を聴くのははじめてだけど、いつごろ録音したものだろうか。ミヨちゃんとかいう歌の替え歌になっていて、「前髪たらした可愛い子」のところを替え歌にしているのは乾くんの声だ。
 可愛いミエちゃんだって。くすぐったい。

 そんなお遊びも入っているCDが、再びスキャットになっていく。

 私の愛するフォレストシンガーズの五人の声が、メロディに乗せて物語を綴る。
 スキャットというものは想像力で補えば、どんな物語でも作れるものなのだ。「僕の可愛いミエちゃん」なんて歌詞が入っていたものだから、ついくつくつ笑ってしまった。

 これってミエちゃんを思ってのスキャット?
 可愛くねー奴、っていつだって私のことはそう評したあなたも、こんなふうに思ってた? どぅどぅどぅばっ、はなにが言いたかったの? 照れてごまかした?

 若かったあのころの五人の歌は、若かった私をも思い出させてくれた。

END


 
 
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~ Comment ~

NoTitle

可愛いミエちゃんは、シンちゃんがゲットしたのかぁ。
なんか、お宝のCDを発見しちゃいましたね。

映像は無くてもどれが誰だかちゃんとわかる。
さすがマネージャー。

けいさんへ

あ、あ、ばれちゃいました。
いえ、いいんですけどね。
にゃはは。

ショートストーリィは過去に戻ったり現在になったり、もしかしたらそのうち未来にも飛んだり……なんてことになっておりますが、長いのも短いのもお読みいただけるととても嬉しいです。

えーと、先日教えていただいたロックバンド、「るろうに剣心」の映画主題歌を担当していたんですね。
アルバム、レンタルしてみたらかなり好みでした。
すこーんと突き抜けたロックっていうんでしょうか。

教えていただいてありがとうございました。
またよろしくお願いします。
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