連載小説1

「We are joker」34 

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「We are joker」

34

 女の子とつきあっていれば毎日、心がはずむものであるだろうに、伸也は恵似子を思うと暗くなる。仕事の面でも一進一退といおうか、半歩進んで一歩下がるといおうか、そんな状態でもあるので、気分転換のつもりもあった。

 冬紀は先約があると言ってデートに出かけていってしまい、尚は面倒だと言うので、伸也はひとりで、高校の同窓会会場にやってきた。開始時間よりは遅れていたので、すでに盛り上がっている立食パーティの様子を戸口近くで見ていると、大槻優子が近づいてきたのだった。

「武井くん、ひとり?」
「あ、ああ、松下と友永は仕事でね……」
 見栄を張ってみせると、優子は微笑んで種明かしをしてくれた。

「あの電話、優子ちゃんだったんだ」
 尚の携帯電話に連絡してきて、通話をしたのに誰だったのか不明だった同級生の女の子とは、大槻優子だったのだそうだ。優子は同窓会の幹事で、遅れたせいもあって気後れしている伸也を、会場の真ん中に引っ張っていって紹介してくれた。

「武井くん、久し振りーっ!!」
「デビューしたんだろ。応援してるんだよ」
「友永くんと松下くんは来ないの」
「会いたかったのにーっ!!」
「電話してみてよ。来てって言ってよ」

 もと同級生たちは意外なほどに友好的に、伸也を取り囲んでてんでに言葉を浴びせる。
 ひがんでいたのもあるのだろうか。俺たちはロックバンドとしてデビューはしていても、まるっきり売れてないんだから、クラスメイトたちに軽蔑されているんじゃないかと。

 そんな奴もいるのかもしれないが、表面には出さず、みんなが伸也を歓待してくれる。改めて伸也のために、ジョーカーの未来のためにと乾杯もしてくれて、昔の友達はいいもんだな、と伸也をしみじみさせた。
 名前を覚えてもいないような男子やら、ちょっぴり憧れていた女子やら、口喧嘩をしたことのある男子やら、一緒に下校して喫茶店でお喋りして、彼女の恋愛相談をされた女子やら、小さかったり大きかったりの関わりのあった彼や彼女と話す。
 そんな会話も一段落すると、伸也は壁にもたれてビアグラスを手に、優子と話した。

「まあ、すこしずつでも売れてきてるんだよね」
「売れてきてるともいえないかもしれないけど、仕事はなくもないから」
「仕事があればいいじゃない」
「だよな。一時は別のバイトをしようと思ってたんだもんな」

 そのせいで恵似子とこうなったのだと思うといまいましくもあるが、優子にその相談をする気にはなれなかった。

「この間、仕事をさせてもらってるライヴハウスに飛び入りが来てさ、そいつが加入するって決まったんだよ。俺はドラムは向かないってずっと思ってたから、そいつが入ってくれて万々歳。ほんとはオーディションする予定だったんだけどね」

 客席でキスしていたカップルに冬紀が冷やかしの声をかけたら、彼女のほうが立ち上がって話しかけてきた。伸也はそのときの様子を優子に話した。

「気の強い女の子って感じのその子は、キスしてた男とは夫婦だったんだ。その上に、その男、ジョーカーのドラマー志望だって言うんだよね。大物バンドがオーディションする予定だってのを覆したら事件かもしれないけど、俺らはそうでもないだろって」

 実はあとで芳郎に怒られた。怒られはしたが、芳郎が事態を丸く治めてくれたのだった。

「軽く考えて、ステージに上がってもらったんだよ。赤石っていって、俺らよりはふたつ、三つ年上の結婚してる男。そいつのドラムはパワフルでかっこよくて、それほど腕がいいってわけでもないのも、ジョーカーにはつりあいが取れてていいかなって感じだったんだ」

 最初に妻の扶美を気に入ってしまった冬紀が、夫のほうも気に入ったと言ってその場で即決した。扶美は感激の面持ちで耕平にキスをし、冬紀にまで飛びついて頬にキスをして、客席にも受けていた。

「ジョーカーもそれほど腕がいいってわけではないの?」
「俺らの腕はまだまだだよ」
「そうなのかなぁ。私も音楽の勉強してるんだから、ちょっとぐらいわからないといけないね」

「優子ちゃん、大学で音楽の勉強してるの?」
「大学じゃなくて、専門学校に入りなおしたんだ。そういえば先日、友永くんの彼女に会ったのよ」
「真菜って女の子?」
「え? すみれちゃんだけど……」

 やはり友永は、真菜ともすみれともつきあっているのか。自分の恋愛……のようなものの話も、冬紀の複数恋愛の話もしたくない。伸也は優子の話の先を促した。

「綺麗なひとだよね。すみれちゃんは友永くんときちんと音楽の会話ができるように、彼の音楽を理解できるように、私の行ってる学校の通信教育を学ぶつもりで見学にきたらしいの。けなげな彼女っていうのかな。友永くん、いいひととつきあってるよね」
「ああ、そうみたいだな」
 優子の瞳を不審げないろがかすめた。

「いいひとじゃないの?」
「いや、俺はあんまりよくは知らないからさ」
「私はすみれちゃんの応援、したいな。彼女は受講するとしても通信教育だろうけど、友達になりたいな」
「ああ、友永に話しておくよ」

 話さないほうがいいのかもしれないが、いや、話そう。あの大槻優子がすみれちゃんと友達になったんだってよ、と言ってやったら、冬紀がどんな顔になるか。見ものではあった。

つづく




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