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フォレストシンガーズお年始ストーリィ「誰かと誰か」

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今年もあいかわりませず、よろしくお願いします。

フォレストシンガーズ、年のはじめの初仕事です。
あれ? ちがうかな?

「誰かと誰か」

 
1・繁之

 年始の特別番組「The Session」の収録スタジオに集まっている。今夜は本番の録画で、フォレストシンガーズのみんなも同じ場所にいた。
 みんながいてくれるので落ち着いてはいられるのだが、仕事はフォレストシンガーズ五人でするのではない。年始のための番組とはいえ、今夜はまだ旧年中なのだから、今年である。今年は本当にひとりでする仕事が目白押しだった。
 ソロライヴもあったし、ひとりでローカルなテレビ番組やラジオにも出演した。それらの総決算みたいな仕事をしているのだ。
 本橋さんはジャズバンドと、乾さんはロックバンドと、幸生は女性シンガーと、章はクラシックの声楽家と、そして俺はヒップポップの三人組と、それぞれにセッションする。乾さんと幸生は過去に仕事の経験のある相手で、あとの三人はほとんど初対面だ。
 フォレストシンガーズの各々と別ジャンルのミュージシャンにセッションさせるとは、この番組の性質上おおいに考えられることなのだが、俺としては緊張する。俺だってよそのシンガーと共演はさせてもらったが、ヒップホップとは……なじみが少ないのだから。
「あんなの歌じゃねえだろ」
「しっ、章、聞こえるよ」
 さきほども章と幸生が言い合っていた。あんなの歌じゃねえだろ、とは章の台詞で、俺がセッションするヒップホップの三人組、オールドスクールをさして言っていたらしい。
 ジャムセッションとは即興のことであるらしく、セッションはハプニングやアドリブをよしとする。なのだからリハーサルはあまりせずに、本庄さんの持ち味とオールドスクールの持ち味を絶妙に融合させて……などとわかりづらい説明をされてステージに立った。
 ヴォーカル二名とDJと、バックバンドと俺。歌うはオールドスクールのヒット曲、「ふぁんく!!」だ。

「昔の人は言ったじゃん
 結婚は人生の墓場だって
 いいこと言うねぇ
 なんで男が働いて 嫁とガキとを養うの?
 なんで女は楽していいの?
 独身のほうが楽しいもんね
 俺は結婚なんかぜってーーしねーっ!!」

 歌うというよりもがなっている感じで、ふたりのヴォーカリストが歌い、俺はベースハーモニーをつける。フォレストシンガーズでもやっているパートなのであるが、反論したくてむずむずした。
 それってもてない男の負け惜しみだろ? 結婚したくてもできないから言ってんだろ? 俺だってもてなかったけど、真剣に恋をして結婚したよ。結婚は墓場なんかじゃない。俺は今は妻とふたりの息子を養っていて、男としてのプライドを最高に満足させてもらっている。
 専業主婦って楽してるわけじゃないんだよ。わかってて歌ってるのか? パロディなのか? 悔しかったら結婚して子どもを持って、一家の大黒柱になってみろ。
 言いたくても言えないのは、今どき時代錯誤なのかと思わなくもないのと、フォレストシンガーズには独身が三人もいるせいだ。結婚している本橋さんにだって子どもはいない。
 仕事だもんな、仕事仕事。
 そう割り切って、ステージをこなそう。俺にもこれは歌だとは思えないが、こういうのも流行なのだから勉強にはなる。ラストにはフォレストシンガーズ五人で歌えるのだから、それまでの辛抱だ。
 セッションが専門の番組なのだから、その仕事にも一抹の不安はあるが、オールドスクールに混じっているよりはやりやすいはずだ。早く本来の仲間たちと歌いたかった。


2・章

 どうして乾さんがロックバンドで、俺がクラシック歌手となわけ? 逆のほうがいいだろうに。
「その意外性が受けるんですよ」
 テレビ局の人間はそう言っていたが、俺は意外でなくてもいい。クラシック歌手とデュエットするんだったら、シゲさんが担当したヒップホップのほうがまだしも……いや、あいつらもいやだ。まだしもと言うのならば、美人オペラ歌手だったらよかったのに。
「オペラのソプラノシンガーは丸々太ってたりするんだぞ。おまえだったら存在感で圧倒されるんじゃないのか」
 本橋さんが言っていたから、女のクラシック歌手もよくないのかもしれない。
 そんならまだしも、アイドルグループとか? キララなんかだったら、メインヴォーカルのたっくんは歌がうまいから面白いんじゃないだろうか。だが、たっくんは出演はしているものの、ビジュアルロックバンドとセッションしている。
 だったら俺がたっくんと代わってやりたい、のか? いいや、俺はビジュアルは嫌いだ。俺は好き嫌いが多すぎるんだろうか。
 そうは言っても嫌いなものは嫌いだ。クラシックは嫌いというよりも、なんだか高尚ぶってて鼻持ちならないという感覚だったわけで、やっぱり好きではないのだった。
 覚悟を決めて、並木鉄郎とかいうクラシック系のシンガーとステージに立つ。丸々と太った女よりは彼のほうがましだろうか。背丈は俺と同じくらいで、痩せているのも俺と同じようなものだ。顔はいいほうだから、売れ筋ではないクラシック歌手としては異例のヒットを飛ばしたとも言われている。

「なまぬるい風に吹かれながら
 東京の空眺めてた
 遠くで暮らしてるあなたのことをふと思い出す
 元気ですか?
 夢を追いかけて離れた街
 見送ってくれたあの春の日」

 母への感謝の歌、「ありがとう」。カバーソングだ。シゲさんがセッションしたヒップホップグループの歌の百八十度ちがい? 俺としては「ふぁんく!!」のほうが共感できて、こっちは、けーっと思わなくもなかったのだが。
 まろやかで張りのある、歌唱力は抜群の並木鉄郎の歌を聴いていると、俺が故郷を出てきたあの日が思い出される。聞き惚れてしまう。いかん、俺も歌うんだった。
 木村章のソロパート、並木鉄郎とのデュエット、歌っていると涙が出てきそうになる。クラシックの方だけに我々とは歌唱法にも差があって勉強にもなる。この仕事、意外とよかったかな? とまで思ってしまった。


3・隆也

「あれれ? 木村さん、泣いてない?」
「章だと感情移入しやすいタイプの歌詞だもんな。裕也、スタンバイOK?」
「ああ、ばっちり」
 シゲと章は初セッション相手だったのだが、俺はダイモスなのだから気が楽だ。
 福岡でバンドを組んでインディズでは人気を博し、上京してきてメジャーデビューして以来、ハードロックファンの支持を得ているダイモスは、ニューアルバムに高い声の男のコーラスがほしいと言って俺に依頼してきた。
「乾さんの声はロック向きじゃないよ」
 常々、章には言われていたのだが、やってやれないことはない。ロックには疎かった俺は、木村章とダイモスとグラブダブドリブのおかげで多少はそのジャンルにも開眼した。
 本番のカメラの回っている、章と並木鉄郎氏のステージから離れて、俺はダイモスと合流した。ドラム、ベース、ギター、ヴォーカルのシンプルな編成のロックバンドだ。中ではもっとも親しくしているヴォーカルのユーヤの本名は中畑裕也。他の三人は本名を知らない。
 四人ともに長身で体格もたくましい。ハードロックバンドとしては威圧感も迫力も大切だろうからよいのだが、この中に混じると俺は言われてしまう。
「乾さんってコスモスの花かプリンセスみたいだね」
 怒ってみせると面白がってさらに言われるので、無視に限る。
 ヴォーカルの裕也をはじめとして、彼らは四人ともに声が太くて低い。章や幸生は「地獄の住人声」と呼んでいる。ハーモニーに変化が乏しいということで、俺の透明感のある歌声を必要として要請してくれたのだ。
 彼らのファーストアルバムのための曲を書き、その曲にコーラスで参加してからの交友関係は細く続いている。ダイモスのメンバーは我々のライヴにも来てくれているようで、時に楽屋に顔を出しては、あんたらは歌は最高だけどルックスはなぁ……などと裕也が言い、本橋を煮えたぎらせているのだった。

「Regret doesn't have the fragment either
 It did not fall in love from original
 Play is saying
 It is your and 」

 英語のイントロ。乾隆也作詞作曲のダイモスのオリジナル曲「背中ごしI love you」だ。

「行けばいい、振り向くな
 おまえが振り向くと、俺はなにを
 なにをするか、なにをしてしまうか
 振り向くな、俺を見るな、歩け、そのまま
 おまえの背中だけ、背中だけ」

 本番もばっちりのはずだ。
 な、章? 俺の声だってロックバラードにだったら合わなくもないだろ?


4・幸生

 低く渋く色気もあるベースヴォーカリストの声、本庄繁之。
 あくまでも高く飛翔して天へと突き抜けるへヴィメタヴォイス、木村章。
 大人の男の声でありながら、優しくて透き通った清涼なイメージ、乾隆也。
 続いてセッションに入る俺は、三人の仲間たちの歌を堪能させてもらった。戸惑っていたシゲさんも、文句ばっかり言っていた章も、自信満々だった乾さんも最高のステージだったよ。これでセッション相手も、テレビを見てくれる視聴者の方々も、フォレストシンガーズの実力を改めて知ってくれるよね。
 そして、俺のセッション相手は瑠璃ちゃんだ。十八くらいのときに無名のシンガーだった彼女は、「defective boys」というおじさんバンドのヴォーカリストに選ばれ、おじさんたちの引きもあって人気者になっていった。俺は彼らに詞を提供して、そのときに瑠璃ちゃんと話したのだった。
「覆面女性シンガー、ユキと瑠璃ちゃんの女同士のデュエット、やりたいね」
 いつかはやろうと約束したような、約束というほどでもなかったようなその話が、今夜実現する。バックバンドは「defective boys」だ。
 低く歌えば男の声だが、甘く高く細い声を出せば、女? と思われる。現に俺のアメリカ人の友達、デューク・スミスはフォレストシンガーズの歌を聴いて、このグループには女性がひとりいるだろ、と言ったのだそうだ。
 少女を脱して大人の女性になりかけている瑠璃ちゃんにしても、可愛い声もしっとり落ち着いた声も、ロッカーらしいドスのきいた声も出せる。今夜はルリ&ユキで女性アイドルの歌を歌う。

「あの人は悪魔 私をとりこにする やさしい悪魔
 レースのカーテンに あの人の影が映ったら
 私の心は もう動けない

 ふたりの影はやがて 一つの燃える シルエット

 Ah! Ah! Devil, My Sweet Little Devil
 Woo Woo Woo やさしい悪魔
 Ah! Ah! Devil, My Sweet Little Devil
 Woo Woo Woo やさしい悪魔」

 声は申し分ないはずと満足していたら、瑠璃ちゃんが寄ってきて囁いた。
「ユキちゃん、振り付けもやる?」
「キャンディズバージョンで?」
「うん」
「……う、キャンディズって三人だよ」
「だったらさ……」
 ぐるっと見回して、瑠璃ちゃんがドラマーさんを呼んだ。
「一柳さん、バックダンサーやらない?」
「えっ?!」
 一瞬固まってから、一柳さんは必死でかぶりを振った。
「いやか」
「そりゃそうでしょ」
 実は俺も胸を撫で下ろした。俺だって三十すぎて往年の女性アイドルの振り付けをやるのは恥ずかしいが、孫のいる年ごろの一柳さんのアイドルダンスは殺されても見たくない。それよりは瑠璃ちゃんと俺がふたりでやるほうがいいはずだから、やってやろうじゃないか。


5・真次郎

 これぞエンターティナー魂だ。幸生が恥ずかしげもなく、瑠璃ちゃんとステージでダンスまでやってのけたのは咎めずにいてやろう。スタッフのみなさんの受けも悪くなかったようだし、フォレストシンガーズファンの方も、テレビで見たら笑ってくれるだろう。
 ダンスは章が一番、幸生が二番、乾もまあまあこなせる。シゲと俺は苦手なのだから、俺が瑠璃ちゃんとあの歌をデュエットだなんて話にならなくてよかった。
「いやぁ、三沢さんは達者ですな」
「器用なんですよね、俺とはちがって」
 出番を待っている俺は、ジャズのビッグバンド「エイプリルフェス」の面々とともにいる。このバンド名の由来は、リーダーの大谷さんが話してくれた。
「もともとはフィンランドで開催された、四月のジャズ祭りで知り合ったんですよ。そのときのメンバーからふくらんでいって大所帯になりました」
 そんな話をしていると、出番ですよ、の声がかかる。
 リーダーなんだから、フォレストシンガーズの誰かが誰かとセッションするコーナーのしめくくりは本橋さんで、と言われた。正月に放映される番組なのだから、季節感のある「早春賦」を歌う。ビッグバンドをバックにジャズアレンジの「早春賦」とは、俺の発想外だった。

 
「春は名のみの 風の寒さや
 谷のうぐいす 歌は思えど
 時にあらずと 声もたてず
 時にあらずと 声もたてず」

 いい調子だ。曲調がかっこいい。「エイプリルフェス」専属の歌手、七海さんが加わって、ハスキーヴォイスの女性とのデュエットになる。このままエンディングまで歌い続けていたい気分だった。


6・美江子

「いやぁ、圧巻でしたね。さすがにフォレストシンガーズのリーダーですね」
「ジャージーな早春賦なんて、はじめて聴きました」
 司会者の男女が言い、うちの本橋真次郎も言った。
「僕もあんなふうに歌ったのははじめてです。お正月らしくていいですよね」
「こっちじゃないの? お正月っていえば」
 割り込んできたのは三沢幸生。
「もういくつ寝るとお正月、お正月には凧あげて……」
「それは正月を待つ歌だろ。もう正月は来てるんだよ」
「そうでしたね。タコは私でした。でもね、みなさま、内緒話をしますと……」
「内緒話はしなくていいんだよ」
 本橋くんが幸生くんの口を押え、乾くん、シゲくん、章くんもステージに上がってくる。司会者は言った。
「では、フィナーレはフォレストシンガーズに歌っていただきましょう」
「かしこまりました。では」
 乾くんが一歩、進み出た。

「わが門に新年来たり あら玉の祝言(ほぎごと)云ひぬ
  おめでたう 努め給へや  本年は君の年なり 

 手みやげの希望は持たず  希望せよ富士の山ほど
  おめでたう 独立日本の 野に山に光みちたり」

 歌は歌でも短歌を披露したのは乾くんで、こら、と本橋くんが彼を睨む。これはですね、と乾くんが解説しようとしていると、きらびやかな衣装をつけた人物があらわれ出てきた。
「あれ? VIVI?」
 来年には放映が開始される、フォレストシンガーズをモデルにしたドラマ「歌の森」に木村章役で出演する、ビジュアル系ロックバンド、スゥイートポイズンのヴォーカリストだ。
 今回のセッションは意外性を重視しているようだから、フォレストシンガーズとビジュアル系のコラボも行われる。惨劇とフォレストシンガーズがスタジオで一緒に歌っているのを見たことはあるから、私には違和感がないが、スゥイートポイズンだといかに?
「おまえが俺たちの仲間入りするのか?」
「よろしくね。早いとこやろうぜ」
 章くん役をやるだけあって、VIVIは体格は章くんに似ている。声も似ているとも言える。バックの演奏がジャズバンドからロックバンドに代わり、章くんがリードを取り、VIVIがそこに声をからませていった。

「肩にもたれるきみの髪を手ですいて
 僕は心で囁く

 夜が明けたね
 新しい一年がはじまるね

 きっと今年も素敵な一年さ
 去年以上に素敵な一年さ

 きみがそばにいてくれるから
 きみを幸せにできるのは僕だけだから
 僕を幸せにできるのはきみだけだから」

 とびきり甘いラヴソングを、章くんとVIVIがデュエットする。新しい年に歌うフォレストシンガーズの歌、「ふたりならば」だ。
 そこに本橋、乾、三沢の三名がハーモニーをつけ、シゲくんがベースヴォーカルを乗せていく。仕事をすませた共演者やスタッフたちも歌っている。私も小声で口ずさむ。フォレストシンガーズデビュー十二年になる新しい年は、きっと去年以上に素敵な一年になるはず。歌詞の通りの予感がしていた。

END




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~ Comment ~

あけましておめでとうございます。

  年が明けましたね。

 歌の歌詞の様に、2013年が去年以上に素敵な1年になりますように。

 今年もよろしくお願いします。(^▽^)/
 
 

カツオシ Dさんへ

新年おめでとうございます。
コメント、感謝です。

カツオシさんもいい年になるといいですね。
こちらこそ、なにとぞよろしくお願いします。
=^_^=
カツオシさんのお宅のにゃんこちゃんたちも、今年も幸せでありますように。

ちょっと早いですが

お正月のお話のこちらを読みました♪
フォレストシンガーズの皆は仲良しでいいですね(^-^)
バンドマンはよく音楽性の違いとかいう理由で解散してしまったりしますから……。
喧嘩しまくってたんだろうなと思うと残念な気分になります……( ´△`)

それぞれのジャンルによって歌詞も違う味出してて面白いです♪
あかねさんは作詞、作曲とかもされてるんですか?

また遊びにきます(^-^)

たおるさんへ

お正月ストーリィは、「ちょっと早い」ぐらいの季節になったのですね。
時のたつのは早いなぁ。

このストーリィの中の詩の一部は、私が作りました。
作曲はまったくできなくて、どなたかフォレストシンガーズのテーマを作って下さらないかと憧れているのですが、詩は一応は書きます。
私の書く詩は、日本語ができるひとにだったら誰にでも書けそうな詩、ですね。穴を掘って隠れたいです。

バンドマンの音楽的見解の相違による喧嘩、当人たちは気分よくないんでしょうけど、はたから見ていると興味津々です。
どんな喧嘩するのかなぁ、つかみあいもあるのかな。
フォレストシンガーズもたまに、実に下らないことで喧嘩をしますが(^^;)
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