ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

フォレストシンガーズ「おおみそか」

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2012年ラストのフォレストシンガーズ

「おおみそか」

 寒いと言うときっとこう言われるだろうから言わなかったのに、我慢の甲斐もなくシゲさんが言い出した。

「走りませんか」
「ねぇねぇねぇ、シゲさん、知ってる?」
「なんだよ? 俺は走ろうって言って……」
「だからさ、知ってる?」

 なんなんだよ、早く言え、と本橋さんにも言われて、俺は言った。

「しげゆきの中にはユキがいるの」
「……う」
「……げ」

 思い切り引かれてしまった。
 うん、まあ予測はしていた。

 十二月三十一日の夜の公園。フォレストシンガーズを結成してからというもの、嵐でもなかったらいつでも五人で練習してきた、本橋さんのアパート近くの大きな公園だ。

 一年足らず前、本橋さんと乾さんにシゲさんとヒデさんと俺が呼び出され、五人でやろう、プロの歌手になろうと言われた日から、週に二、三度はここで歌ってきた。
 大みそかの今日だって、バイトが終わったらここに集合しようと約束していたのだ。

 本橋さんは家族に打ち明けて猛反対されて独立し、乾さんは五年の猶予つきで許してもらい、現在はフリーター。シゲさんとヒデさんも春が来たら卒業だから、親には一応は宣言したのだそうだ。

 そんなに簡単にプロになんかなれっこないさ。俺はあと一年以上は学生でいられるから、五人の中ではいちばんの下っ端だから呑気でいられる。簡単にはなれないけど、俺が卒業するまでにはプロになれるよね。楽観的にならなくちゃ。

 今夜は本橋さんのアパートで忘年会。その前に軽く練習しようと言っていたのだが、寒すぎる。
 乾さんとヒデさんはまだ来ていないから、練習はできない。そしたら走ろう、と言いそうな先輩がふたり、先に来ているだなんて、ユキちゃんはなんて不幸なのかしら。

 だから、シゲさんに甘えてみようとしたのに、予測はしていたとはいえ、ふたりがかりで文字通りあとずさりされ、吐き気をもよおしそうな顔で見られた。

「意味、わかる? しげゆきってひらがな、シゲユキってカタカナ、SHIGEYUKIってローマ字でもいいの。その中にユキがいるでしょ? シゲさんとユキは運命の……」
 
 乾さんだったら時々は乗ってくれるってのに、シゲさんはさもいやそうにそっぽを向き、本橋さんは恫喝口調で言った。

「そんなもんはただの偶然だ。下らないことを言ってんじゃねぇんだよ」
「SHINJIROってローマ字で書いたら、SHIGEのSHIも入ってるよね。乾さんはアナグラムとかいうのが好きだそうで教えてくれたんですよ。乾さんとヒデさんを待ってる間に、三人で言葉遊びをしましょうよ」
「却下」
「そうだそうだ、言葉で遊んでたって寒いだろ」

 ふたりともにそう言うのは、そんな遊びは苦手だからだろう。このままだとリーダーに耳を引っ張られて走らされそうだったので、俺は言った。

「そしたら、ユキちゃんになってあげるから、ふたりでユキを取り合いしてみて。昨今はシンガーといったって、話術も芝居っけも必要なんですよ。プロになったあかつきにはステージでお客さまを楽しませる必要があるでしょ」
「俺たちは歌を聴いて楽しんでいただくんだよ」
「リーダー、甘い」

 なにをぉっ!! と言いたげに俺を見下ろす本橋さんの顔を、ぐっと睨み上げた。

「俺たちはシンガーズなんだから、歌は当たり前ですよ。そこに付加価値ってのか、プラスワン、プラスツー、プラス無限大を加えるんです。俺たちはただの歌い手集団じゃないんだ、ってお客さまにアピールするんですよ」
「俺はただの歌い手だよ」
「だから、リーダー、認識が甘い」

 あのぉ、と口をはさんできたシゲさんは、俺は走ってきますからどうぞごゆっくり、と言い残して駆け出していった。

「シゲさん、逃げた」
「おまえとしてはとりあえず成功じゃないのか?」
「あれっ、意外と鋭いじゃありませんか」

 走りたがりのシゲさんがひとりで走りにいってしまったのは成功だが、本橋さんに見透かされたとはぎくっ、だった。

「シゲはこういうのは苦手だもんな。だけど、おまえの言ってることもまちがってはいないのかもしれない。幸生、プロになったらMCはおまえが中心になってやれ。まかせるよ」
「やりますけど、まかせっぱなしは卑怯ですよ。だからね、リーダー、ファンのみなさまが喜んで下さるような、甘美な芝居の稽古をしましょうよ」

「乾とやれ」
「やっていいの?」
「いや、やるな」

 どっちなんですか、と本橋さんに迫っていたら、乾さんの声が聞こえてきた。呼んだか? と乾さんが言い、続いてヒデさんも言った。

「遅くなりました。バイトが長引いてしまって……そこで乾さんに会ったんですよ。シゲは?」
「あのへんにいるんじゃないか」

 顎をしゃくって木立の中を示す本橋さんに、ヒデさんがうなずいてみせる。おーい、シゲさーんっ!! と俺が叫ぶと、シゲさんが駆け足でやってきた。

「あったまりましたよ」
「息が上がってないか? 練習できるか」
「できますよ」
「しかし、寒いな」

 ヒデさんが言い、乾さんも言った。
「じゃあ、俺たちもやろう。本橋のアパートまでランニングだ」
「歌の練習は?」
「走りながら歌うんだよ」
「ふひゃあーっ!!」

 言うんじゃなかったかも。ランニングだけでもきついのに、歌いながら? シゲさんはもっと走れるのが嬉しいらしくて張り切っているし、ヒデさんも本橋さんも、おーし、なんて叫んでいる。乾さんは笑っている。ものはためしに言ってみた。

「ユキちゃんは体力のないか弱い女の子だから、ランニングなんて無理なの。隆也さん、抱っこして走って」
「ヒデ、やっていいぞ」
「乾さんったらなにを……ヒデさんはなにを? うわうわっ、ジョークですからっ!!」

 とっつかまえられて放り投げられて、先輩たちに遊ばれる予感がする。俺が先に立って走り出すと、本橋さんがぶつくさぼやきながら俺に続いた。

「誰がか弱いんだよ。おまえはけっこう体力あるだろ」
「ないのって言ったら蹴られるから、あるふりをしてるんですよ。なにを歌います? もういくつ寝るとお正月、っての?」

 追いついてきたヒデさんも言った。
「寝なくても正月だろ」
「飲んでるうちに夜が明けるもんな」

 シゲさんも言い、俺も言った。
「シゲさん、今夜は寝させないわよっ」
「やめろ、アホっ!!」

 マジでいやな顔をしたシゲさんがスピードをアップして走り去っていき、ヒデさんも追っかけていく。走るのはいやだと思っていたけど、五人でふざけていたら走るのも楽しい。いや、ふざけてるのは俺だけかな、と思っていたら、乾さんが背後に来て俺の頭に顎をのっけた。

「あらーん、隆也さん、ふたりっきりになりたくなった?」
「ふたりきりになったらどうしてほしいんだ?」
「言わせる気?」
「言ってごらん、ユキ」
「きゃああ」

 なんて言おうかと考えていたら隙ができたものだから、本橋さんに耳を引っ張られた。
 いでーっ!! と騒いでいる頭上で、本橋さんと乾さんが笑っている。俺は本橋さんの手から逃げ出して走り出す。誰ひとりすれちがうひともなく、夜が深々と更けていく。公園から本橋さんのアパートまでだと距離が足りないからなのか、遠回りして走っているうちに冬の歌をふたつ、みっつと歌った。

「ふわり舞う粉雪になって今
 キミまで飛んで行けたらいいのに…
 指先にひとひら落ちてすぐ溶けた
「会いたい」さえ言えないまま

 雲に隠れて見えない星を
 キミは遠くで見ているのかな
 窓からそっと手を伸ばしたら
 今年最初の雪が冷たいよ」

 うふっ、乾さんったら雪の歌。やっばりユキが好きなんだもんね、だなんて心で言って、ユキの心と乾さんの心を寄り添わせてみる。
 でも、寄り添わせるのは好きな女の子の心とのほうがいいなぁ。隆也さん、浮気なユキでごめんね。結局のところは幸生は女の子のほうが好きだから、心丸ごとは女の子にはなれないんだよ。

 心の中でぶつぶつ言いながらも走っていると、雪と風に乗って鐘の音が聞こえてきた。近所のお寺の鐘だろうか。五人ともに立ち止まって鐘の音に耳を澄ませた。

「ああ、煩悩が消えていく。清々しいなぁ。シゲ、おまえは消えた煩悩をじきにまた生まれさせるんだろ、って言うなよ」
「言ってないだろ。先回りして言うな、ヒデ」

 こっちではひとつ年上の同い年同士が言い合っていて、もうひとつ年上の同い年同士も言っていた。

「なぁ、乾、来年はどこでこの鐘を……」
「紅白歌合戦の本番をすませて、テレビ局でとか?」
「おまえ、それは図々しいだろ」
「いや、俺としてはプロのフォレストシンガーズが、カウントダウンワンマンライヴをやってるってシチュエーションのほうがいいな」
「それもいいよなぁ」

 いずれにしたって、デビューしないとはじまらない。そんなことは先輩たちだってわかっているはずだ。
 この鐘が鳴り終われば、新しい年がはじまる。俺たちにとっても新しいステージに出ていける年になれたらいいな。

「あけましておめでとうございます。先輩たち、今年もどうぞよろしくお願いします。下っ端はどこまでも先輩たちについていきますので。本橋さん、乾さん、シゲさん、ヒデさん……」

 口ではへりくだってるけど、先輩たちがしっかりしなかったら、俺が先頭に立ってがんばるからね、なんて、心では言ってみる。生意気言うな、と叱られそうなことを考えた罪滅ぼしに、可愛く言ってみた。

「お年玉ちょうだい」

 アホ、ボケ、馬鹿野郎、よく言うぜ、呆れて笑う先輩たちの顔を、ひとつひとつ見渡す。もしも来年もプロにはなれないかもしれなくても、この四つの顔がそばにいてくれたら、ユキちゃん、それだけでもけっこう幸せだな。

END


 クリスマスストーリィに続き、幸生の大みそかストーリィでした。
「クリスマスイルミネーション」の一週間後です。

 みなさま、本年はまことにありがとうございました。
 来年もなにとぞよろしくお願い申し上げます。

 ではでは、よいお年をお迎え下さいませ。


 

 
 
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~ Comment ~

NoTitle

出た。走りながら歌う。この体育会系のノリがたまりません。

そうですね。寝なくても、お正月は来る。みんなに来るんですよねぇ。何か妙に納得。

お年玉ちょうだい。ぷぷぷ。ユキちゃん、甘え上手。得だね。

みんな前を向いていて良いですねえ。新しい年にもきっと良いことがあるよ。

あかねさん、2012年はいろいろとありがとうございました。
2013年も宜しくお願いいたします。
良いお年を^^

ユキちゃん、あいかわらず^^

やっぱり、ユキちゃんはかわいいですね^^
そして、なんだかんだ言って、仲がいい。
男性グループは、歌手にしろアイドルにしろ、仲がいいのが大きな魅力になりますもんね。
なんだろう、かっこいい男たちが仲良しってだけで、うふってなる。
これは、やっぱり健全なセックスアピールです^^(年末になにを!)

ユキちゃん、がんばってフォレストをこのまま盛り立てていってほしいですね^^
がんばれ~。もっとひっかきまわせ~。

あかねさん、今年もいろいろありがとうございました。
あかねさんの執筆速度に、いつも驚かされていました。
来年も、たのしい物語、いっぱい書いてくださいね。
よいお年を。

けいさんへ

とか言ってるうちに年が明けましたね。
あけましておめでとうございます。
去年最後のコメント、ありがとうございました。

ユキは先輩たちにも、調子のいい奴、得な性格って思われていましてね。
けいさんもやっぱりそう思われます?
私もこういうポジティブ性格になりたいものです。

この次の年はフォレストシンガーズはあまりいいことはありませんけど、気の持ちようですよね。

こちらこそ、2013年もよろしくお願いします。

limeさんへ

あけましておめでとうございます。
今年も早速、お返事が書けるのが嬉しいてす。
コメントありがとうございます。

そういえばジャニーズの子たちも、仲がいいよねぇ、きゃああv-238萌え、って感じでファンのひとたちが喜びますよね。
ユキがいればその点は、フォレストシンガーズは大丈夫です(^^
シンちゃん、シゲちゃん、いやがらないで。

私はネタさえあればけっこう早く書けることが多いのですけど、クォリティは低いなぁ、と反省することしきりです。
私こそ、limeさんの執筆に対する真摯な姿勢は見習わないといけないといつも思っています。

イラストを描いて下さったりもして、去年は本当にお世話になりました。
本年もよろしくお願いします。

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鍵コメSさんへ

いつもコメント、ありがとうございます。
ギリシャにもドローだったそうで、心底お好きであるらしきSさんのご心情、お察し申し上げます。
私はプロ野球のほうが一万倍も好きですので、また阪神負けた、とがっくりしております。

このストーリィはほんとに、季節がまっさかさまですね。
桜の時期には桜の、今ごろだったら雨の物語が書きたくなるんですけど、すこし早めに書いて準備しておく場合もあります。
これはどうだったか……大晦日よりも前に書いたはずです。

私は若者には夢を見て夢を追いかけてほしいですけど、夢は必ずかなうなんてことはありませんから、むずかしいところですよね。
親としては子どもには堅実に生きてほしいと願うものですから。

このブログにはじめてコメントをくれた方は、もはやどこでどうしていらっしゃるのかも不明です。
けっこう長く交流できている方やら、ブログを閉鎖された方やら、もしかしてこの方、名前を変えて復活なさってる? って方やら、いろんな方がいらっしゃいます。

素人のブログはけっこう無責任に書いてますけど、有名人だとそうはいきませんよね。
世の中、誰かを攻撃するのが大好きな人間もたくさんいるから、芸能人だと格好の的になったり?

ショートストーリィ読破、なんて言っていただけると嬉しいです。
ご無理なさらない程度につきあってやって下さいね。
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