連載小説1

「We are joker」33 

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「We are joker」

33

 夫に連れられてきたライヴハウスで、赤石扶美はジョーカーの演奏を聴いた。
 扶美もロックは嫌いではない。夫が昔はドラマーだったとは知っていて、がっしりした体格の耕平くんは、ドラマーだっただけにかっこいいよねとは思っていたが、結婚してからも妻の自分に隠れて練習していたとは知らなかった。

 ロックなんてものとは縁を切って、常識的な社会人として生きてほしいと思わなくもない。夫としては合格点の耕平は、夢を捨てればいい父親にもなれるだろうに。

 ステージに立つ三人の青年は、耕平とは年頃はちがわないにしても異人種だ。大学を中退してロックに生きている男たちなんて、扶美の世界とはかけ離れている。夫がそっちの人種になってしまったら、扶美の世界だって変わるのだろう。

 ブルーカラーの労働者といった雰囲気の耕平には、ロッカーとしてのファッションや髪型も似合うだろう。久し振りに着たというよれっとしたTシャツやだぼっとしたパンツも似合っていて、彼と連れ立っている扶美のほうが気が引けるほどだった。

 そうはいっても、ジョーカーの三人と耕平はあきらかに空気がちがう。
 特に友永冬紀。フライングVだとかいうギターを持って、髪を長く長くして、タンクトップに革のパンツにブーツという格好が素晴らしくサマになる。不敵な面構えは、こういうタイプが好きな女に熱狂されそうだ。

 ドラムの武井伸也とベースの松下尚は、一見、大学生の男の子にだって見える。けれど、扶美に先入観があるせいなのか、やっぱりロッカーだよね、なんだかちがうよね、というふうにも見えてしまう。
 売れない、という先入観もあるせいで、こんな男の子たちとロックやるって、遊びだったとしたら時間の無駄だし、プロだっていっても、稼げないプロはどうしようもない。格好だけよかったって不毛だよね、と思ってしまう。

 しかし、よいほうに考えれば、ジョーカーが成功したら……とも夢見られる。
 人気のあるロックバンドのメンバーである、赤石耕平の妻。扶美さんは耕平さんが不遇だった時代を支え、他のメンバーたちにも献身的に尽くし、栄養補給の手助けもしてやった。ジョーカーが成功したのは赤石扶美さんのおかげもあるのだと。

 そうしてあげくは捨てられる糟糠の妻ってものもあるようだが、そっちは想像すまい。まずはジョーカーの三人が耕平を認めないとはじまらないのだから、扶美は耕平に言った。

「ジョーカーの音、あたしは好き。耕平くん、オーディション、がんばってね。絶対に合格してよ」
「あ、ああ、がんばるよ」

 耕平の腕が伸びてきて、扶美を抱き寄せる。ライヴハウスには他の客も当然いるのを忘れて、扶美は耕平の首に腕を回して、ふたりして熱烈なキスをかわした。

「ひゅーっ、そこのおふたり、かっこいいよっ!!」
 その声に我に返ると、周囲の客たちの注目を浴びていた。
「こんなところでキスするカップルって、いなくもないんだけどね、俺の目の前でやってくれるもんだからギター、まちがえたじゃないか。いっそステージに上がって続きをしない?」

 笑って話しかけているのは、友永冬紀だった。耕平は照れているようだったが、扶美は立ち上がって言った。

「ジョーカーさんってドラマーを募集してるんでしょ。このひと、応募するつもりでいるのよ」
「ああ、そうなの? オーディションするつもりなんだけど、別にそれにこだわる必要もないもんな。なんて名前?」
「赤石耕平」
 おい、扶美ちゃん、おい、と焦っている耕平にかまわず、扶美が答えた。

「赤石耕平。オーディションに向け、日夜、ドラムの練習に励んでるの。おかげで妻のあたしは寂しいのよ」
「その若さで、あんた、人妻なわけ? そっか、おー、赤石、上がってこいよ。やれよ」
 ドラムの前にいる武井伸也も言った。
「友永がこう言い出したら、俺たちも観念するしかないかな。お客さんたちも喜んでくれてるみたいだし、赤石くん、ここへ来いよ」
「耕平くん、行きなよ」

 背中を叩いてやると、耕平はステージへ向かって歩き出した。
「がんばって」
「お、おう」
 振り向いて扶美にうなずきかけた耕平の目は、いつになく据わっていた。

つづく



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