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クリスマスストーリィ2012「クリスマスイルミネーション」

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フォレストシンガーズのクリスマス

「クリスマスイルミネーション」


 十六歳だったあの夏にははじめての秘め事も経験し、冬にはあのひととふたりっきりのイヴも経験した。
 好きだったひと、俺のはじめてのひと。あのひとは今ごろ、札幌のホテルで彼氏とあたため合っているのだろうか。
 どうしているのかも知らないあのひとと、いるのかどうかも知らないあのひとの恋人を想像するとなおさら寒くなる。麗子さん、東京も寒いよ。

 あなたに自作の歌を捧げ、あなたは俺の家族にばれないように、残るものはいけないと配慮してくれたのか、クレープシュゼットを作ってくれたあの夜から、もう四年もたつんだね。

 俺は大学三年生になって、好きな女の子もできたよ。告白してもふられてばっかだから、恋人と呼べる女性はいない。あなたにもいなかったらいいのにな。
 なんて、心の狭い奴だよね、俺は。

 彼女がいたら想いがその子のことでいっぱいになってしまうんだろうに、俺にはイヴを一緒にすごす女の子はいないから、特別な相手はいないから、寒くなるとあなたを思い出す。出会ったのは夏で、別れたのは冬。ほんの短い間だけ、「麗子さんは俺の彼女?」と疑問形で考えていたひとだった。

 クリスマスイヴだからって特に予定もなくて、バイトをすませて夜の街を歩いている。
 どこからか流れてくるクリスマスソング、マイケル・ジャクソンの高い声が響き渡り、イルミネーションが街角を彩っている。

 札幌って行ったことないけど、あなたの故郷もクリスマスの飾りつけが賑やかなんだろうね。俺も大学は札幌にすればよかったかなぁ。

 なんだって今夜はこんなにうじうじしてるんだろ。幸生、女々しいぞ、しっかりしろ、泣くな、追憶なんて虚しいだけだ。しゃんと姿勢を正して歩けよ。

 自分を叱りつけてみても、寂しいな、寒いな、って思ってしまう。俺には彼女もいないんだから、ナンパでもしようかな。寂しい女の子もいるだろうから、今夜だけは抱き合ってぬくもりを分け合っても、キリストさまは怒らないでしょ?

 その気になって立ち止まり、歩いている繁華街を見渡してみる。
 真冬の街には可愛いコートにくるまった、可愛い女の子がいくらもいくらも歩いている。みんな楽しそう、幸せそう。ひとりぼっちで寂しいのは俺だけだよ。

 待てよ、幸生。今夜はなんでそんなにひがみっぽいんだ?
 ひとりぼっちの女の子はきっといるさ。おまえはナンパが特技のひとつだろ。ほら、あの子なんかどう? 小さくて可愛くて、思い切りタイプじゃん?

 もうひとりの俺が話しかけてきて、よしっ、と一歩踏み出そうとしたら、目当ての彼女に男が近づいていくのが見えた。

「遅いんだからっ。待ちくたびれたよ」
「ごめんごめん」

 頭をかいている男を叩く真似をした彼女は、彼と腕を組んで歩いていってしまった。
 ちぇ、やっぱりあの子もひとりじゃなかったよ。声なんかかけなくてよかっただろ。なんだか意気消沈しちゃったよ。

 そしたらさ……そしたら……うるせぇな。もうひとりの幸生なんか黙ってろ。
 今夜は俺はひとりでうちに帰って、嫌いなケーキでも食って寝るんだから。イヴの街でナンパしようってのがまちがいなんだから、ほっといてくれよ。

 心の中で俺と俺とが口喧嘩しているのを、他人事のように感じながら歩く。もうひとりの俺が内部から俺の頭を叩いた。

 なんなんだよ。
 そうだ、幸生、先輩たちに電話したら?
 先輩たちって、本橋さんと乾さんとシゲさんとヒデさん?
 男とクリスマスをすごしてなにが楽しいんだよ。バカらしい。
 そうかなぁ。

 馬鹿らしいと退けたくせに、心が動く。
 先輩たちといえば、四年生になったシゲさんとヒデさん、今春、大学を卒業した本橋さんと乾さん。今年のはじめにフォレストシンガーズを結成して、プロになろうと誓い合ったものの、まるで実現もしていない俺の仲間たちだ。

 四年生のシゲさんとヒデさんは、今夜はバイトだろうか。フリーターの本橋さんも乾さんも接客業のバイトなのだから、イヴには忙しいはずだ。
 たぶん俺が一番早く退勤したはずで、みんなはまだ働いているはず。
 そもそも先輩たちとイヴをすごすなんて発想はなかったから、今夜の予定も訊いていない。シゲさんはともかく、他の三人はバイトが終わったら彼女とパーティかもな。彼女がいるのかどうかも知らないけど、シゲさんはともかく、あとの三人はもてるみたいだし。

 うん、そしたら「ともかく」のシゲさんにしようか。
 シゲさんは大学入学以来、印刷屋のバイトを続けている。力持ちだから重宝されて、卒業まではいてくれと頼まれて律儀に守っている。この分では卒業してからも、シゲさんは印刷屋のバイト暮らしになる可能性大なのだった。

「なんなんだよ、その気になってるじゃん。えとえと……えーと……公衆電話。あった」
 携帯電話を持てない貧しい若者は、見つけた電話ボックスに入っていった。

「……ただいま、留守にしております」
 応答したのは留守番電話で、バイトが終わっていないのだろうと見当をつけた。まさかシゲさんに限って、デートってことはないだろう。ないないない。

「シゲさん、メリークリスマス、愛の天使が歌います」
 せっかくだから留守番電話に、三沢幸生オリジナルのクリスマスソング、「寒い聖夜」を即興で作って歌った。途中で留守電が切れたのは、ごく短い歌なのだから好都合だった。

「ついでだし……ああ、ヒデさんも留守? ま、そうだよね」
 ヒデさんのアパートは留守電さえもセットされていない。彼もバイトが終わっていないのだろうから、いや、彼はデートってこともあり得るし、留守電がないので歌うのはやめた。

「リーダーは……? ここも留守電にもならないな」
 仕事の依頼電話でもかかってきたらどうすんの? と本橋さんに届くように口にして、電話を切った。リーダーもバイトかな。みんなやっぱりいないんだね。リーダーもバイトがすんだらデート? いいなぁ。俺はますます寒くなってきたよ。

「どうせ乾さんも……」
 この方がもっとも、デートの可能性が高い。乾さんには電話してやらねーよーっだ、受話器に舌を出して電話ボックスから出た。

「しけたツラして、デートしようって誰かを誘って断られたのか?」
「……乾さんっ!!」

 ボックスから出たらぶつかりそうになった相手は、乾隆也。これって神さまのクリスマスプレゼント? 麗子さんに会えるほうがもっと嬉しいけど、会ってもしようがないし。好きな女の子にばったり会って、彼女も男連れだったりしたら哀しいし。

 そういう意味では、会えてもっとも嬉しい相手だ。俺は乾さんに飛びつこうとして身をかわされ、こけそうになって支えてもらった。

「……なんで避けるのっ?!」
「悪い、反射的にさ……どうしたんだ? どこへ電話してた?」
「シゲさんに聞いて下さい。乾さんはバイト、終わったの?」
「これからだよ。今日は遅番なんだ。おまえは終わったのか?」
「はい、終わりました」

 だったらさ、と乾さんは、俺の期待通りのセリフを言ってくれた。

「行くか、今夜は俺のバイト先でもパーティナイトだよ」
「うんうん、行きます。ユキになっていい?」
「幸生のまんまで来なさい」
「はい」

 乾さんのアルバイト先は、「月影」という名の音楽酒場だ。乾さんがギターを弾き、ピアノを弾くおじさんもいる。そういえばこのあたりは「月影」に近い。

「近いけど、ここから歩くとけっこうあるでしょ」
「あそこの店に用があって、途中下車したんだよ」
「やっぱユキと乾さんって、運命に結びつけられてるのね」
「ユキはやめろって言っただろ。捨ててくぞ」
「捨てないでっ」

 腕にすがろうとしたら軽くつきのけられて、泣き真似をしながらもあったかくなってくる。ユキに変身して乾さんと恋人同士ごっこをしたかったのだが、乾さんのバイト先ではまずいだろうから我慢してあげることにした。

「じゃあさ、俺の自作のクリスマスソング、歌っていい?」
「クリスマスソングを作ったのか? 歌ってみろよ」
「今? はーい、ユキちゃん、歌いまーす」

 ついさっきまでは寒かったから、シゲさんちの留守電に吹き込んだのは即興の「寒い聖夜」だった。それをアレンジして歌うのは、「あったかい聖夜」。「あったかい隆也」でもいいんだけど、隆也にすると引かれそうだから、聖夜にしておこう。

 麗子さんを思い出して暗くなっていたのも消滅して、乾さんと一緒に歩いて歌う聖夜にきらめきが降り注ぐ。おまえの声はクリスマスイルミネーションみたいだな、と乾さんが言ってくれるのも嬉しくて、全身がぽっかぽかしてきていた。



END


 去年のクリスマスには木村章、十五歳の、稚内でのストーリィを書きました。
 今年は三沢幸生、二十歳。フォレストシンガーズデビュー前々年のイヴ。
 写真は著者がソウルで撮影したものです。
韓国旅行記」もご覧下さいね。




 

 
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~ Comment ~

NoTitle

クリスマスですねぇ~。
俺の彼女?なの?かな? の疑問形の気持ち、わかるぅ~~
あっ隆也もぽかぽかして良いかも。この人とばったりとは奇遇な(?)

ユキちゃん、うちにも電話して歌ってくれないかなぁ。
あ、留守電の方が歌いやすいの?

あかねさんは韓国旅行ですかぁ。
リフレッシュされて、またガンガンに執筆進めてくださいね。
私も誌上バーチャルだけでなく、リアルに旅行に行きたいなぁ。

クリスマスはみんなが笑顔になる良い季節ですよね。
良い年の瀬を^^

Merry Christmas v-255v-353

NoTitle

「幸生」のままだったら、悲しい思い出にまとわりつかれて、ちょっと寂しいクリスマスになっていましたね。

シゲさんも、ヒデさんも、いなくて><
男の子は、やっぱりクリスマスに一人は、寂しいのですよね^^
(うちの雨猫のおっさんも、泣いてますがw)

でも、なんと乾くん!
よかったね。心おきなくユキちゃんになりなさい。
甘えちゃいなさい^^

いいなあ~。ユキちゃんの歌う「あったかい隆也」を聴いてみたいですw
メリークリスマスe-489

けいさんへ

コメントありがとうございます。

けいさんのお宅の留守電にクリスマスソング、吹き込むように言っておきますね(^^ユキに。

私も旅行はかなり久しぶりでした。
行きたいところは多々ありますけど、経済的にも余暇的にもなかなかですよね。

そちらのクリスマスはいかがでしたか?
お正月はどんな感じ……あ、そだ、夏なんですよねー。

limeさんへ

コメント、ありがとうございます。

女よりも男のほうが、異性を求める気持ちは強いのかな? と思います。
個人差も大きいでしょうし、女なんて大嫌い、とおっしゃる男性もいらっしゃるでしょうけど、幸生は女の子大好きですから。

ほんとはもっともっとユキになり切って、繁華街を乾くんの腕にすがって歩きたいところなのですが、これでも我慢してるんです。
三十代の幸生は開き直ってますが、このころはまだ羞恥心も強いですから……って、ほんとかな?

you-tubeでフォレストシンガーズの歌をお届けできたら、なんて、私も聴いてみたいです。誰か作ってくれないものでしょうか。
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