連載小説1

「We are joker」32 

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「We are joker」

32

「私はまだ一年生で、今年は大学でいうところの教養課程みたいなものなんですよね。さまざまなジャンルをかじって、なにをしたいのか決めて、来年には専門的な学問に進もうと思ってます」
「全然決まらないんですか?」

「そうだなぁ。私は演奏するんじゃなくて、音楽のスタッフ的な仕事のほうが合ってるみたいとは思ってるんですよ。さっき、宇都宮さんが見学してらしたような仕事。ライヴのプロデュースができたら最高だから、基礎から学びたいな」
 セルフサービスの小豆ラテをふたりともに飲みながら、話した。

「大槻さんは音楽には詳しいんでしょうね」
「詳しくはないから、好きなだけだから、音楽の勉強がしたくなったんです」
「大学はやめて?」

「大学は社会学部だったんだけど、好きで入学したわけでもなくて、こんなもんかな、就職には有利かな、程度で選んだんです。そういうのってやっぱり駄目ですね」
「ご両親には反対されませんでした?」

「されましたよ。音楽の専門学校って授業料が高いから、高校のころからバイトして貯金していたお金をはたいて、大学をやめてから半年ぐらいは必死で働いて、そうしていたら親もほだされてはくれたんですけどね」
 いまだ、優子の両親は言っている、もったいない、大学をやめたなんて、ああ、もったいない、と。

「なにかきっかけがあったんですか?」
「音楽を仕事にしたいと思ったきっかけ? あるにはあったかな」

 こういう学校には浮ついた気持ちで入学してくる生徒もいる。かっこいいから、華やかそうだから、音楽が好きだから、それだけの理由で入学して、じきにやめてしまう生徒もいる。優子にだって、浮ついた気持ちがないとは言い切れなかった。

「高校のときの同級生で、口喧嘩をしたりしていた男の子三人組がいたんです。彼らが卒業してからロックバンドとしてデビューして、ちょっとショックだったんですよね。彼らは高校のときにもバンドはやってたけど、そんなものは遊びだろうとしか思ってなかった。なのに、プロになったわけでしょ。夢を見て努力すればかなう……必ずではないだろうけど、そんなこともあるんだなって。私だって現実的な将来ばかり考えなくてもいいんじゃないのかなって」
 熱っぽい語り口だったかと面映くなって、優子はすみれに尋ねた。

「宇都宮さんも大学生でしょ。音楽の勉強もしたくなった理由はあるんですか」
「私は音楽には全然詳しくないから……私も、三人組のロックバンドかな。っていうか、そのうちのひとり。そのバンドのギタリストが私の恋人なんで、すみれとだったら音楽の話がスムーズに通じると思われたいっていうのか、不純かなぁ」
「そんなことはないですよ」

 ミュージシャンの恋人と話を合わせたくて、ちょっとだけ勉強したい、通信教育のほうの学生にはそういう女性も多いと聞く。そのたぐいの女性は挫折も早いのだそうで、すみれもそうなるかもしれないな、と優子はこっそり苦笑した。
 このひとよりは私の動機のほうが純粋? そうでもないんじゃない? 友達と恋人のちがいこそあれ、男に影響を受けたのは同じだ。ただ、すみれは彼との会話のために、優子は自分の将来のために。そこには差がある。
 だけど、傲慢になっちゃいけないよ、と優子はおのれを戒める。そこからはすみれと優子の話題は、三人組ロックバンドに移っていった。

「デビューしてから一年ほどになるんだけど、彼ら、売れないんですよね」
「私の彼のバンドも売れないんです。なんでだろ。うまいのに」

「私の友達のバンドも、そんなにうまいわけでもないけどいいもの持ってるって言われてる。ハーモニーが素晴らしいって評判もあるんだけど、どうして人気がないのかな」
「ルックスのせいってのもありますよね」
「あるでしょうね。彼らのルックスはねぇ……」

 癖のありすぎる友永冬紀の顔、優子の祖母が「とっちゃん坊やみたい」と評した写真の尚、抜け目のなさそうな、愛嬌だけは豊かな伸也。
 優子がよくよく知っているのは高校時代のジョーカーだが、最近だってたまには雑誌などで見る。タウン誌に載っていた広告で、ライヴハウス「ホーリーハウス」で定期的に演奏するとの最新のジョーカーの情報を得た。
 広告には小さなジョーカーの写真も添えてあって、「ホーリーハウス」のWEBサイトを覗いてみたら、タウン誌のものよりは若干大きな写真もアップしてあった。

「ギタリストはハンサムなんだけどなぁ」
「宇都宮さんのタイプ……でしょうね。彼氏ですものね。どんなふう?」
「背が高くてほっそりしてるんだけど、がりがりではなくて、バネのある締まった体格っていうのかな。顔立ちは……くちばしのとがった鳥みたいな感じ。細面の鳥、いるでしょ、あんな顔の鳥。とんびかなぁ」
「私はその彼を知らないけど、想像はつきますね」

 とんびの顔を人間の男に変換してみたら、ハンサムだろうか? 女には好みの男の顔があるものなのだから、すみれが好きな顔なのだろう。とんびみたいなとんがった顔の男……誰かを思い出す。ああ、そうだ。

「友永くんも鳥顔なのよね。猛禽ってほどでもないけど、くちばしがとんがってるっていうか、性格もとんがってるっていうか。宇都宮さんの彼と私の友達、似てるかもしれません」
「友永くん? あのぉ、大槻さんの友達のバンドってなんて名前ですか」
「ああ、言ってませんでしたね。宇都宮さんの彼氏のバンドは?」

 そろって口にしたのは、「ジョーカー」。次の瞬間、ふたりはそろって口をあんぐりと開き、互いに見つめ合った。

つづく



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