ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

フォレストシンガーズ「わずか数分の物語」

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フォレストシンガーズ

「わずか数分の物語」


 世界には数多の「芸術」がある。「芸術」には難易度の高いものも低いものもある。美術や映画やらは置いておくとしても、俺にはたいへんに難易度の高い芸術は、楽器と作曲だ。作詞も無理だけど、作曲よりはなんとかなるかなぁ、だったり、作曲のほうがちょっとはやりやすいかな、だったり、ふらふら気が変わる。

 下手でもいいんだ、と開き直ればいいようなものの、俺だってプロのシンガーなのだから、音楽に関わる人間なのだから、あまりに稚拙では恥ずかしい、とプライドが邪魔をするからか。

「えーっと、共演のアーチストさんたちと、楽しくお話しさせてもらいました。あたしと同じぐらいの年の女の子のアーチストさんがたくさんいたから、いろんなお喋りで盛り上がっちゃいましたぁ!!」

 事務所のテレビにアイドルの女の子が映っていて、暇だったからなんとなく観ていたら、横で章が吐き捨てた。

「誰がアーチストだ」
「アーティストじゃなくて、アーチストなんだろ」

 どうして章がこんなに苦々しい顔をするのかは、俺は知っている。学生時代から先輩たちは言っていたし、プロになってからだって、「言葉」について考えるひとは言うからだ。

 歌うだけの歌手をアーティストとは呼ばない。ソングライターならぱ百歩譲ってそう呼んでもまあ許せるが、自称「芸術家」とは羞恥心ゼロなのか。他人が言うならまだしも、自分で言うな、である。むろん我々フォレストシンガーズは、絶対に自らを「アーティスト」とも「アーチスト」とも言わない。俺は特に言えない。

 なのに歌も怪しいようなアイドルの若い女の子が、自分も共演者も「アーチスト」だなんて言っているから、章が憤慨しているのだ。「アーティスト」と「アーチスト」は別ものだろ、と以前に乾さんが皮肉っぽく言っていたのを、俺も真似してみた。

「なぁ、章、作曲ってどうやったらできるんだ?」
「……なにを今さら」
「おまえには今さらでも、俺には永遠の疑問なんだよ」
「シゲさんだって作曲、やったことはなくもないでしょ」

 夢の中に出てきたヒデが、俺に曲を教えてくれた。あれが俺のきちんとまとまった作曲第一曲目だ。作詞もしたことはあるが、乾さんに補作してもらったというか、半分以上は乾さんの手による詞だというか。

 ふたりでいるとふざけてばかり、ジョークが暴走して喧嘩にまでなるような奴らなのに、章は作曲、幸生は作詞の能力にきわめて秀でていると乾さんや本橋さんは言う。章は作詞も、幸生は作曲もおこなう。

 どういった曲が優れているのか、どういった詩が素晴らしいのか、それすらも明確にはわかっていない俺は、時々はアホな奴らがなんでこんなにすごい歌を書けるんだろう、と不思議でならなかった。なのだから、今さらではないのである。

「俺はやったうちには入らないんだよ」
「うん、まあね。シゲさんって笑いたくなるような曲、書いてたもんね」
「そんな話はいいんだけど、どうやって……いや、いいよ。聞いても俺にはわからないもんな」
「ほんとにわからないの?」

 あんたはそれでもミュージシャンか、と章の目が言っている気がする。
 歌って日々の糧を得ているのだから、俺がシンガーであるのはまちがいない。歌は音楽だから、ミュージシャンであるのもまちがいない。楽器も弾けない、歌も書けない、でも、俺はミュージシャンだ。

 この場合、「音楽家」のほうが高尚に思えるのはなぜだろう。日本語で書くとクラシックの道の方みたいだからか。俺にはクラシック音楽家のほうが、我々よりも人種が上に思える。

「しかし、この子、可愛いな」

 可愛い女の子には点の甘い章は、俺の感慨からはすぐさま気をそらして、テレビの画面を見てにやけている。少女の年頃の女の子なんて、俺は親父としての目でしか見られないから、別のことを考えていた。

 小学校のときには野球少年で、姉の好きな音楽を聴くともなく聴いていただけだ。
 野球の才能のなさに気づいて中学、高校では合唱部に入っていたが、顧問の先生やら積極的な先輩やらが提案した歌を歌うだけ。
 大学の合唱部に入部してはじめて、ソングライターという人種に出会った。

 現フォレストシンガーズのリーダー、本橋さんは子どものころからピアノを習っていて、見よう見まねで曲を作っていた。乾さんも中学生ぐらいから詩を書き、メロディに乗せたりしていたそうだ。
 章は中学生でロックに目覚め、十代でけっこうかっこいい曲を書いていた。幸生は時には幼稚園みたいな歌詞を書いていたが、最近では他人に歌詞を提供するまでになっている。

 へぇぇ、そうだな、歌って自分で書いて歌えるんだ。作詞作曲歌・本庄繁之ってメッチャクッチャかっこいいな、とは思ってみても、俺にはできない。

「シゲ、これ、聴いてみてくれよ」

 あの土佐弁ヒデまでが……いや、土佐弁は一切無関係であるが、自作の歌を披露してくれて、俺はショックを受けたものだ。

 音楽の才能のある人間は、楽器を使って作曲をする。俺はギターすらろくにさわったこともないし、作曲なんて自分にはできないことだと決め込んでいた。

 恋をしている錯覚に陥って詩を書いてみたり、ギターの練習をしてみたり、死ぬほど苦労して作曲をこころみてみたり、俺だってそうはしてみたのだが、駄作しかできなかった。やっぱ俺ってそっちの才能、ないんだよな。

「……ああ、そうなんだ」
「え?」

 意識が現実に戻ってくると、章の声が聞こえてきた。

「聞いてなかった? この子が失恋の話をしてたんだよ。あ、曲が浮かんできた」
「……この子の失恋話を聞いて?」
「そうだよ。ちょっと待って」

 デスクに置いてあったノートパソコンを起動して、章が作曲ソフトを呼び出している。ここには楽器はないからね、と呟きながら、章がパソコンに向かう。俺はテレビを消して見つめていた。

 パソコンからメロディが流れてくる。章の感性と才能と感覚とセンスと……章の持つさまざまななにかが総合されて、彼の心と頭が音楽を作り出している。日ごろは多少軽視していなくもない後輩の姿が、神々しくさえ見えた。

「こうやってね、曲でドラマを作るんだよ。曲ってのは短くて三分、長くてもせいぜい六、七分が普通でしょ。この中に凝縮するんだ。簡単に言ったらそんなふうかな」
「ふぅーーん」
「ま、才能ってのもあるけどさ」

 そうなのだろう。俺には決定的に「才能」がない。章はパソコンに向かって、俺はやったこともない操作をしている。俺だったらパソコン作曲よりは、ギターのほうがまだしもやりやすい。

「シゲさんだってさ、なにかしらの情景を想像したみたら? そしたら、曲なり詩なりも創造できるよ。目を閉じて、なんらかのシーンを思い浮かべてみて」
「えーと……風呂場、恭子が言ってるよ。パパ、早く帰ってきて広大と一緒にお風呂に入ってね」

 目を閉じていても、章ががくっとするのが見える気がした。
「うん、ま、それでもいいんだよ。シゲさんは広大のための子守唄でも書いたら?」
「それだったら書けるかなぁ……書けるか?」
「知らないよ。がんばって下さい」

 軽く言って、章はそれから口をきかなくなった。
 俺も黙って章の作曲作業を眺める。これこそが本物のミュージシャンの姿だな。俺もこの手で……この頭で、この感性で? この感覚で? ひとつのドラマをひとつの曲に作り上げられたらいいのにな。

END





 
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~ Comment ~

NoTitle

音楽をつくる作業って、ホント芸術と思います。

私の好きな方がブログで、降りてくるー、とか言うんです。
数ヵ月後に発表されるそれの凄いこと・・・
まさにドラマチックです。

その人だけでなく、他のバンドのメンバーがこれまた凄い。
最強を超えてます。
いつかドカンとヒットして欲しいなぁ。

私にも物書きが降りてきてーとか思います(^^;)

拍手コメントのNさんへ

Nちゃん、ほんとにお久しぶりです。
Nちゃんのブログは見せてもらってますよー。

またお時間があればいらして下さいね。

けいさんへ

いつもありがとうございます。

私にも物書きが降りてきて~
ほんと、同感です。
私にも降りてきてほしい。
ぴんっとひらめくときはありますから、あれが降りてきているというのでしょうか。

音楽のほうは私はまったく実感は湧きませんが、けいさんのお好きな超最強バンドってなんていうグループですか?
まだ有名ではないのですか?

実力はあっても売れるとは限らないみたいですものね。
それはまあ、どこの世界も同じかもしれませんが。

拍手コメントのKさんへ

Kさんのお好きなバンド、you-tubeで見せてもらいましたよー。
動画がはじまったらあの濃いピンクのフライングVが目に飛び込んできて、ギターの音色とともに、おーっ、かーっこいい!! でした。

まったく詳しくはないのですが、私もメタルも好きです。
CDレンタルしてみようかなぁなんて思ってます。

教えていただいてありがとうございました。

NoTitle

シゲさんの気持ち、わかるなあー。
大好きなものなのに、自分では作れないって、悔しいでしょうね。

自分で素敵な旋律を生むことが出来たら、嬉しいでしょうね。
悔しいけれど、小説よりも一瞬でダイレクトに心を掴んで、一生記憶に残る。
その曲を聴いただけで、鮮明にその時代を思い出す。
音楽って、すごいですよね。

・・って、どれだけ書いても、しげさんへの慰めにならなかった^^;

limeさんへ

ちょっと旅行に行っていたものですから、お返事が遅くなってすみません。
いつもありがとうございます。

ミュージシャンを書いていると、作曲ができるってうらやましいなぁ、と思います。
そんな著者の代理で、シゲに語ってもらいました。

周りに作曲のできる人が何人もいると、うらやましさひとしおかもしれませんよね。
だけど、limeさんにそう言っていただいて、シゲちゃんも喜んでますよ。

俺にはlimeさんのおっしゃる通りの「音楽」というものを創造できる仲間がいるんだから、誇りに思うことにします。

シゲちゃんだったらそう言うだろうと思います。

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

鍵コメSさんへ

いつもありがとうございます。
私の知人には作曲のできる方が何人かいまして、私、尊敬しています。
機材もあるんでしょうけど、たとえば、日本語のできる人間にだったら、詞や小説はまがりなりだったら書けますよね。作曲は本当に才能がないとできませんから。下手でもいいと言われてもできませんから。

麻薬は魔薬ですよね。
実は章にはマリファナ経験があるのですよ。このたぐいのドラッグは感覚を研ぎ澄ましたり、世界がものすごく鮮やかに見えたり感じたりするのだそうで、芸術的なことをする人間は絶対に「やってみたいな」と思うんじゃないかと。

ただ、向き不向きもありますよね。マリファナ程度だとまるでなんともないひともいるし、通常は誰でも使える普通の薬でも、強烈な副作用が出るひともいる。麻薬はきっとそのへんも差が激しいんじゃないかと思います。

パラダイス銀河も夏、夏、夏夏ココナッツ、もなつかしいですね。
私は一時、けっこうチャゲアスのファンでしたので、昔のことはわりと知っています。「ボヘミアン」も明日香が作ったはずですが、Sさんはこの曲はごぞんじないかもしれませんね。

たしかチャゲアスは最初のうちは売れていて、売れなくなってから上手に方向転換したんだと聞きました。
同時期にデビューして同じように売れて、続かなかった「雅夢」みたいなグループもあったみたいですね。その手のグループの歌は、私のデジタルウォークマンにたくさん入っています。

今どきの若いひとはむしろ、かしこいから麻薬になんか手は出さない……ってことはないのかなぁ。たぶん中年世代のほうが、麻薬のもたらすトラップ感に惹かれて、ってのがあるような気もします。
中島らもさんは、麻薬は悪くない、悪いのは資金源にしている暴力団だ、と言い切っていて、麻薬が合法の国に行ってはトリップしてきて、それで当局に目をつけられて逮捕されて、「牢屋でダイエット」なんて本を書いてました。あの方の無茶苦茶ぶり、好きだったなぁ。
酔っぱらって階段から落ちて逝ってしまったらもさん、ある意味、とーってもらしかったと思います。

この話題になるとどんどん出てきますね。
私の小説も音楽っぽい、単に「っぽい」だけですけど、大好きですので、これからも「っぽい」のは書くつもりです。Sさんもがんばって下さいね。

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