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6000HIT御礼(フォレストシンガーズのはじまり・その2)

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著者の中にはこれを書いた2008年から遡ること十年近く前から、グラブダブドリブはいたのです。
ジョーカーはもっともっと前からいました。
自分にはまったくない要素を持つ人々ゆえに、ミュージシャンへの憧れが強いのですね。
美術的才能、語学的才能、運動の才能、他にも自分の持たないものを数えるとキリがありませんが、なぜかアスリートには憧れない。異質すぎるのでしょうか?

九月に5000hit御礼記念としまして、「フォレストシンガーズのはじまり」その1をアップしました。
続き、読みたいなと言って下さった方もいらっしゃいましたので、フォレストシンガーズとグラブダブドリブのコラボでもあるこのストーリィ、その2をアップします。

あれから二ヶ月余り、ちょうどアクセスが6000を超えた記念にもなりますし。
ご訪問いただいたみなさま、本当に本当にありがとうございました。


「決定以前・フォレストシンガーズストーリィ」

2

 でさ、考えたんだけど、と乾が言い出した。
「だったらいっそ、今度はちがったタイプの歌をやりたいな。俺たちは特に近頃は、ラヴソングばっかりじゃないか。それが俺たちの路線なんだし、そういう歌だからこそ売れるって言われたりもする。シングルではあまり冒険はできないかもしれないけど、アルバムに異質な曲を入れるのはいいんじゃないか? 章、ハードロックやりたくないか?」
「ハードロック?」
「目が輝いたぞ。本橋がつくる曲のかわりに、ひょんなことから知り合ったロッカーさんたちに依頼して、とびきり異質な曲をつくってもらうってどうだ? リーダーはいやかね」
「ハードロックなぁ……」
「章がソロをやる曲は入れるだろ。俺たちがハードロックやったら、それはそれなりに面白いんじゃないかな」
 俺ってロックにこだわってるように見えるのかな、と章は思う。こだわっていないとは言い切れない。
「俺たちとは世界のちがう連中だと思ってたけど、そうでもないんだよな。シンちゃんのおかげで俺は視界が広がった気がするんだ」
「俺のおかげ?」
「おまえが喧嘩しにいったおかげだろ」
 そうとも……いえるか。
「俺は昔からロック志向はなかった。グラブダブドリブと知り合って、ふと聴いてみる気になった。悪くないね。悪くないなんて失礼だな。すげえよ、あいつら」
「でしょ?」
「うん、全部を路線変更まではしたくないけど、一曲か二曲ぐらいハードロックやるのもいいななんて思った。そしたら歌うのは章だよな。実績あるんだから」
「それとこれとは関係ないんじゃねえのか」
「ないけど、言い出すにはいい機会だもん」
「んんん……」
 えらく真面目に本橋は悩みはじめ、乾は続けた。
「できることなら演奏もやってもらえるといいよなぁ。いや、できることなら俺がギター弾きたいけど、あの中根くんを差し置いて、そんな厚顔な真似はできないしな」
 実は乾はギターは相当うまいのだが、中根悠介とは比べるのがまちがっているだろう。
「グラブダブドリブに演奏やってくれと頼むのまではあつかましいか。他のバンドでもいいけど、可能なんだったらグラブダブドリブがいい。彼らに俺たちのための曲をつくってくれと頼んで、どんな歌ができてくるのかも興味津々だろ。な、シンちゃん?」
「興味はあるな」
「こいつらにはこの程度でいいだなんて思われて、甘っちょろい歌をつくられたら、そのときこそ怒れ。俺も加勢してやる」
「今度はなにやら張り切ってんのな」
 ふふん、と乾は笑った。
「なんてさ、OKしてもらえるかどうかもわからないのにな。事務所を通したほうがいいのかな」
「個人的に頼んでもいけなくはないだろ」
「章はドルフと仲がいいんだろ? けっこう昔から知ってたそうじゃないか。ドルフを通して、中根くんに会わせてくれないか。そういうことできる?」
「本橋さんと乾さんで会うんですか」
「みんなで会ってもいいよ」
 グラブダブドリブの曲の大半は、中根悠介作詞作曲だ。アルバムを見れば一目瞭然だろう。
「リーダー、反対する?」
「乾、おまえはさっきから人聞きの悪い。俺はそんなにワンマンか?」
「あれぇ、ちがうの? シゲと幸生はどうだろうね。あれ? あいつらは?」
「メシ食いにいったまま戻ってきません」
「長いメシだな。よし、リーダーは賛成ってことで、改めてみんなで相談しよう」
 瓢箪から駒とでもいうのだろうか。章がそう言うと、乾が逆に質問した。
「章、その駒ってなんだか知ってるか」
「将棋の駒」
「ちがう。馬だ」
「へ? 馬が駒?」
「馬を駒というんだぞ。なるほど、瓢箪から馬が出る、ありえないことを言うわけだな」
「シンちゃんも知らなかったんだ」
「知らねえよ。おまえみたく変な雑学知識なんかない」
「いばるな」
 意外に乾と悠介は話が合うかもしれない。双方レベルはちがえどギタリストでもあるし、悠介もずいぶんともの知りだとチカやドルフが言っていた。
「ドルフとは仲がいいってほどじゃないけど、こないだ飲んだし、ケータイの電話番号も知ってる……って、そんなんじゃないですよ。俺はゲイじゃないよぉ」
「なにも、誰もそんなことは言ってない」
「なーにがゲイだ。女好きの典型のくせに」
「典型ってほど女好きでもありません」
「脱線してないで続きを言え」
 こほんと咳払いをして、章は乾の命令に従った。
「だからね、電話して事情を話したら、中根さんに会わせてはくれると思います」
「ん、じゃ、頼む」
「承知つかまつられました」
「なんだ、それ? 承知つかまつりました、だろ」
「妙な言葉を使うな。おまえよりグラブダブドリブの外人たちのほうが日本語うまいぞ」
「シンちゃん、外人、は差別用語だぜ」
「へ? そうだっけ」
 などと話していると、本庄と幸生が戻ってきた。相談がまとまり、幸生とふたりきりになると、幸生がためらいがちに言った。
「乾さん、このごろちっと元気ないように思ってたけど、今日はハイテンションだったな。やっばり歌のこととなると張り切るんだ」
「やっぱ俺たち、歌が命なんだよな」
「うーん、ま、おおむねは」
「なんだよ、歯切れ悪いな」
「いやぁ、俺はなにかと他にも……」
 むにゃむにゃ言う幸生を睨むふりをしながら、章は考える。
 空元気? なんて言わない。本心から乾さんは歌が好きで、ああいう話題になると目がきらきらするんだよね。俺もハードロックって聞いて張り切ったし、やっぱみんな同類だな。リーダーだってけっこう乗ってたし。
「おまえはいいね、幸生。俺は歌以外にはなんもない」
「女もいないの?」
「いないよ、悪かったな」
 女どころか、ドルフと仲よくなったり、本橋さんとどうたらこうたらってウェブサイトでの妙な小説? うげげ、死んでも見たくないっ!! 女とも再会したけど、あのチカじゃあなぁ。
「幸生、いい女紹介しろ」
「一応、俺の彼女に頼んでやるよ」
「ほんとか? おまえの彼女ってどんな子? 結婚すんのか」
「まだそこまで考えてねえの」
 はぐらかされたが、もしかしたら女の子を紹介してもらえるかもしれない。歌は歌、それはそれ、これはこれ、ってやつだ。にわかにうきうきしてきた章だった。
数日後、幸生と本庄は逃げ腰になったので、仲介者の章とリーダーの本橋と、言い出しっぺの乾の三人で悠介に会いにきた。もっぱら話しているのは本橋と乾で、章は聞いているばかりだったが。
「うちのリーダーはこう見えて羞恥心が強くて、結婚したら歌がつくれなくなったそうなんだ」
「はーん」
 依頼話が一段落して、四人で雑談していると、乾がふと言った。悠介には意味が即座にわかったらしく、笑い出した。
「こら、こらっ、乾、よけいなこと言うな」
「いや、人間味があっていいよ。あんな歌をうたってても日本の男なんだな」
 だからこそロッカーは結婚しちゃいけないと司さんは言うのかな、と意識の片隅で考えつつ、目は悠介の美貌に吸い寄せられる。あまりの美貌に章はすこしばかり引いてしまうのだが、これも日本の男? フィリピンとのハーフだと聞いているけれど、欧亜ハーフでもないのにここまでの美形ができるものだろうか。両親がよほどの美男美女なのか。
「あんな歌って言うから言うんだけど、俺たちのレパートリーについてはこの際、横にどけておいて考えないようにしてもらえるとありがたいんだ」
 拍子抜けしそうなほどあっさりと、FSの歌をつくってほしいと切り出した本橋に、悠介はいいよ、と答えたのだった。俺はギターを弾くのも大好きだけど、歌をつくるのも趣味のひとつなんだ、だそうだ。
「中根くんのつくった歌が歌いたい。俺たちの歌じゃない歌だ」
「むずかしいかもしれないけどやってみる。先入観は捨てろ、だろ」
 言い出した乾と悠介は、真摯な目で見つめ合う。
「なあ、くんなんかつけなくていいよ。中根でも悠介でもいい。呼び捨てでいい」
「ま、おいおいね」
「あんときと印象がちがうな、本橋くんは」
「俺にもくんなんかつけてくれなくていいけど、いや、まあ、あっちは俺の本質ってわけでもなくて」
「嘘つけ。あっちが本質だ」
「乾、おまえはさっきからよけいなことばっかり……」
「そうだよな、章?」
 ここでうんうんなどと答えれば、あとが怖い。
「章には答えにくいのか。俺たちはみんな同い年で、俺は先輩後輩関係なんてのには疎いから、おまえたちは見てて面白いよ。体育会系か」
 今度は章は、うんうんとうなずいた。
「大学のクラブってそんなもんなんだな。司は大学で剣道やってたから、剣道部の先輩相手だとそんな態度だ。俺にはもの珍しいよ」
「業界の先輩ってのはとまたちがうしね」
「そういうお歴々には敬意は払うけど。話を戻せば、あれか本橋? 俺にはものを頼みにきたんだからって一歩下がってるわけ?俺にはあんときの印象が強すぎて、そんなあんた見てると笑える」
 あんときとはあのときだ。ほぼ初対面だったあの日、本橋は喧嘩腰でグラブダブドリブの控え室に乗り込んでいき、仲間たちはあるいはおろおろ、あるいは必死で止めようとしていたのだから。
「挑発しないでくれる? また言い出すよ。てめえ、俺たちに喧嘩売ってんのか? シンちゃんの口癖だね」
「司みたいだな」
 ドルフもそう言っていた。やはり章は司とはあまりつきあいたくない。
「乾、なんでおまえはそうよけいなことばかり言うんだ。ちっと黙ってろ」
「はいはい」
 が、乾が黙ると途端に会話が途切れ、悠介がタバコを取り出した。
「あ、シンガーたちの前で吸っちゃまずいか」
「副流煙まで気にしてないからどうぞ」
「歌をつくってるとメシを忘れちまう傾向があってさ、その時期は俺はタバコで生きてるようなもんだ。目の前でタバコを吸わないでくれと言う奴とはつきあえないから、その点はよかったよ」
「……乾、なにか言え」
「勝手な奴だな」
 どうもやはり悠介は章には煙たい。タバコを吸われてもさして迷惑だとは思わないが、存在そのものが煙たい。本橋もどうやら同感であるらしいが、乾はそうでもないようだ。
「なあ、章? チカとは昔から知り合いだったんだってな。あいつは昔からあんなか」
「あんなです」
「俺は女は苦手なんだけど、チカとだけは苦手意識なくつきあえるよ。こんなこと言ったら怒るだろうけど、あれは半分男だもんな」
「まさしく」
「そういやぁ、チカも司や本橋と同類だな。すぐ怒るだろ」
「俺もよく殴られた。女は男に暴力ふるうの平気なんだもんな」
「俺は殴られたことはないけど、ドルフとはしょっちゅうプロレスごっこやってるよ」
「ドルフとプロレスごっこぉ?!」
 声が裏返った。
「いい年していまだにやってるぜ。呆れて笑うしかない」
 なぜドルフと知り合いなのかを話した際に、仲間たちにチカについても話した。なので本橋も乾もチカの名を知ってはいるけれど、面識がないのでぴんと来ないのだろう。本橋がこほっと咳をしてから尋ねた。
「女嫌い……?」
「ってもゲイじゃない」
 ああ、よかった、と感じるのは変かもしれないが、章はどうしてもそう思ってしまう。ドルフといいウェブサイトでのなにやらといい、このところそういうのが多すぎた。この上悠介までゲイだったらなんとする。いや、悠介さんには彼女がいるんだったよな。きっと絶世の美女のはずの花穂さんだっけ。超遠距離恋愛中の彼女について聞いてみたい気もするのだが、なんとなく訊きづらい。
 いつしかギターの話に移行している乾と悠介の会話に、章は聞き入ってみたが、専門的すぎてついていけない。俺たちは先に帰ろうか、と本橋が目配せしている。あとは乾にまかせておけばいいだろう。予想通り、ふたりはなかなか気が合うようだ。

つづく(かもしれない)


 

 
 
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~ Comment ~

NoTitle

6000HITおめでとうございます!
ますますのご活躍をお祈りしていますね^^

フォレストシンガーズのハードロック、結構いけそうじゃないですか。
章さんのハイトーン・ボイスを聴いてみたいですね。

シンちゃんがデスボイスとかやっちゃったりして・・・
いやいや、のど痛めるからそれはやめときましょう。

乾さんがギターで立つのも面白い。
中根悠介さん(はじめまして^^)とのツインがきっといけてます。

なんて、勝手に妄想。
つづいてください^^

けいさんへ

「つづいてください」と言っていただけるととーっても嬉しいです。
「おめでとう」コメントも、ありがとうございます。

ハードロックってわりと、ヴォーカルの声を選ぶかなぁ、と勝手に思ってますので、シンちゃんや乾くんの声はロック向きではないかも?
ロックっぽい曲調の歌だったら歌ってるんですけど、やはりフォレストシンガーズ一のロック声は章です。

7000hit御礼に向けて、続きも書きますね。
またぜひ、読んでやって下さいませ。
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