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フォレストシンガーズFC1「Sweet10」 

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特別編

「sweet 10」


 ステージに立つ五人がイラストになっている。描いたのは木村章だ。
 基本は同じグレイのスーツ。各自のスーツの形やジャケットの丈、パンツの細さなどに微妙な差異があり、アクセサリもちがっている。

 ステージ中央に立つ幸生。お、俺がセンター? と幸生はにやっとする。目立ちたがり幸生がリードヴォーカルらしく、マイクを口に持っていってにこやかな表情で歌っている絵だ。

 中央から向かって左が真次郎。左手の親指と中指で音を鳴らしていて、口は幸生の歌にハーモニーをつけている。

 右側は隆也。右手にマイク、左手は髪をかきあげている一瞬の仕草が切り取られている。

 真次郎の左が章。マイクを両手で持って目を閉じて、最高音パートを歌っている。こころもち顎が仰向いて、章のハイトーンが聞こえてきそうだった。

 右端にいるのが繁之、幸生はリードだから口の形がひとりだけちがっていて、繁之も他の三人とは口がちがう。繁之はベースヴォーカルだからという意味で、章の芸はなかなか細かい。

 五人の脚のあたりを漢字が一文字、横切っていた。
 幸生は「甘」、真次郎は「円」、章は「高」、隆也は「澄」、繁之は「渋」。

「ああ、これ、俺たちの声をあらわしてるんだな」
 隆也が言い、幸生も言った。
「前にも章、そう言ってたよな」

「乾さんは俺たちの声を、色に形容したんですよね」
 繁之が言い、真次郎も言った。
「乾は色、章は漢字か。おまえたちはどう表現する?」

 質問を振られた幸生と繁之は考え込み、真次郎も考えた。
 乾隆也によると、三沢幸生はスィートなピンク、本橋真次郎は海の青、木村章はサンセットオレンジ、隆也本人は孔雀の羽根のごとき緑、本庄繁之はダークな紫となる。
 各色にはたしかもっと気障な名前がついていたはずだが、基本的にはそんな感じだった。

 色で声を表現するとは、文学的な素養も服装や色彩のセンスもある乾ならでは。
 意外に器用で直感の優れている章も、イラストを描き、漢字で表してみせた。さて、俺はどうする? 幸生やシゲも上手にやってのけるかな。

 目をつぶって考えている真次郎の横で、幸生も腕組みをした。
 洗練されたセンスの持ち主の乾さんにだったら、ペールピンクやピーコックグリーンなんて色の名前もすらすら出てくるのは当然だけど、章も小癪な奴だ。俺も負けじとかっこよく対抗しなくちゃ。

 そのまた横で繁之は顔をしかめる。
 いやいや、他のみなさんにまかせますよ。俺には無理。はなっからそんな頭はないのだから放棄。それにしても本橋さんも幸生も、そんなことでライバル心を燃やさなくても。
 
 同い年の本橋と乾、幸生と章には意識的にでも無意識的にでも、あいつには負けたくない、との気持ちがあるらしい。ただひとり、真ん中の年齢の繁之は他の四人を微笑ましくも、暴走しないで下さいよ、との危うさも込めて見ていた。

 ファンクラブ会報、デビュー十周年記念特別号「sweet 10」。
 テーブルに載せられた章のイラストは、そのために描かれた。仔細に見ると靴の形にもそれぞれに変化がある。時として見せてくれる章の意外な一面だといえるだろう。

 これってイラストだけ売り出しても売れるんじゃないか。CDジャケットにもしたいな、と隆也は考える。
 改まって言うと拒否したがる章が自ら、気まぐれを起こして描いた。自由に自在にのびのびと、章の歌ではない部分の才能が結集していた。

 フォレストシンガーズがデビューしてから間もなく十年。ファンクラブは十年もたってはいない。事務所の社長が、時期尚早だとの意見もあるだろうが、フォレストシンガーズってグループにはファンクラブがあるんだ、すごい、と言わせたい、と提案してはじまった。

 半ばはったりの意味も含んで発足したファンクラブは、順調に会員数を伸ばしてきている。
 いまだフォレストシンガーズは、ファンクラブに入会していないとライヴチケットが買えないというほどのスターではないが、特に熱心なファンが入ってくれるのだから、大切に大切にしてきているつもりだ。

 会報ではメンバーたちが文章を書いたり、人気投票をやってみたりする。集いを企画し、ファンとお喋りをしたり野球をしたりもする。ミリオンセラーが出たら、海外旅行が当たる抽選をやってみようか、との案も出ている。

「俺だったらさ……」
 長く考えていた三人のうちの、幸生が口を開いた。

「宝石は? 乾さんはエメラルド、シゲさんは……えとえと、乾さん、乾さんがたとえた色からすると、シゲさんはなに?」
「シゲがガーネット、本橋はサファイアかな。章はオパール、幸生はピンクトパーズだな」

「それってなにかの真似ってか、結局、乾さんに頼ってんじゃねえかよ」
「宝石だって言ったのは俺だよ、章。俺たちはひとりひとりがきらめく光を放つ宝石。おー、いいじゃんいいじゃん!!」
「ああ、よかったな」

 真似だと章が言ったのは、ビジュアル系ロックバンド「燦劇」である。彼らは宝石をコンセプトにしているのだから、模倣だと言われても仕方ないかもしれない。苦笑してうなずいてから、真次郎は言った。

「これも真似かな。前に章がラジオで言ってたし、幸生の得意な奴なんだけど、俺にはオリジナルは思いつかないよ」
「俺の得意な奴? 四文字熟語?」
「そうだよ」

 わが意を得たりとばかりに、幸生が言った。
「本橋さんは豪放磊落、乾さんは奇奇怪怪、シゲさんは質実剛健」
 続きは章が言った。

「幸生は冗談暴走、俺は優柔不断だろ」
「おーおーっ!! 章ちゃん、よくわかってらっしゃる。自分を知ってるって意味でえらいよ」
「うるせーっ!!」

 ま、好きに言ってろ、奇奇怪怪だと言われた隆也も苦笑し、繁之は言った。
「動物にたとえたら、本橋さんは猛禽でしたよね。乾さんはゴールデンリトリバーだ。幸生はチワワ、章は……っと」
「俺はシェットランドシープドッグがいいな」
「そんなら俺だって、チワワじゃなくてテリアがいいよ」

「だったら本橋も犬にして、シベリアンハスキーなんてどうだ?」
「章、犬の絵も描ける?」
「写真があれば描けなくもないかな。そんで、シゲさんは?」

 四人にじーっと見つめられて、あれ? 俺の台詞、案外受けた? と繁之が目をぱちくりさせていると、幸生が言った。

「マレンマ・シープドッグ」
「どんな犬だよ?」
「シゲさんみたいな犬」

 ふむふむ、とまたまた、八つの瞳に凝視される。俺みたいな犬とはどんなのだ? 言われた当人も悩んでいると、章が言った。

「声の形容じゃなかったんですか? 脱線させたのは幸生だろ」
「宝石だって声の形容にはなるよ」
「性格やルックスにそれたのは、リーダーとシゲさんのせいだね」

「ごめんな、俺には声の形容はできないよ」
「うん、俺もシゲに同じだ。章、俺たちに似た犬を描いて、そこに四文字熟語を書けよ」
「おー、それ、いいねいいね」
「えーっ?! まだ描くの?」
 
 幸生が手を叩き、章、楽しみにしてるよ、と隆也が微笑み、真次郎と繁之はうなずく。
 これを「藪をつついたら蛇が出てきた」というのだろうか。俺も暇じゃないのにさ、と章はぼやきつつも思う。帰りに本屋に寄って、「世界の犬図鑑」ってのでも買って帰ろうか。大きな写真のほうが参考にしやすいから、ネットよりも本がいい。

 俺の絵でファンのみなさんが喜んでくれるんだったら、もっと描くよ。
 昔はファンに邪険にして、乾さんに叱りつけられたもんな。その罪ほろぼしっていうのでもないけど、がんばってみよう。その気になった章の周囲では、ファンクラブ会報のデビュー十周年特集について仲間たちがさらに盛り上がっていた。

END




 

 
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~ Comment ~

NoTitle

結成10周年の会報なら、力も入りますよね。
章くんに絵の才能があったとは!
メンバーが描くメンバーの絵って、最高^^
さらに、メンバーを、何かに例えるっていう企画も、楽しくていいですよね。
漢字、色、宝石、・・犬?w

私の好きな劇団の5人は、ファン感謝デーに、歌を作るんだけど、フォレストの5人は、歌はあたりまえですもんね。
あと、ファンと一緒のツアーとかありました。

フォレストの5人と行く、ツアーって、面白そうww

limeさんへ

ここまでずーっとフォレストシンガーズをいっぱい書いてきて、一種の集大成みたいなつもりで書いたショートストーリィです。
ここにもコメント、ありがとうございます。

時々、なにかにたとえたら……というのを想像するのですよね。
江戸の猛禽(シン)vs土佐の闘犬(ヒデ)とか。
ここに出てきたたとえというのも、ほぼ、今までに出てきた分のまとめのようなものです。

こんな絵、私が描けるといいなぁ、と憧れても描けないので、章に描いてもらいました。
その気になるのを気長に待っていたら、章はたまに描きます。どんなのか私も見たいなぁ。

ファンのみなさんとハイキングっていうのは前に書いたのですけど、旅行もいいですね。
海外ライヴとか……いつか書いてみたいです。

NoTitle

わー楽しい^^
五人に漢字とか色とか、興味深いです。

幸生さんの冗談暴走にクスッときました。
犬シンちゃんのシベリアンハスキーにうけちゃって、やばかったです^^

五つの宝石が輝き続けますように^^

けいさんへ

いつもありがとうございます。
男性ってわりと犬顔ですよね。
爬虫類顔とかげっ歯類顔とからくだ顔、ヒツジ顔なんてのもいますが。

私に絵が描けたら、章が描いたようなイラストを自分のイメージで描けるんですけど、文字で絵的なものを説明するのはむずかしいですよね。まったく力不足です。

それでも、ウケテ下さったり笑って下さったり、と聞くととてもとても嬉しいです。

いつか、絵を見るように鮮やかに、彼らのルックス描写を。
音で聞くように鮮やかに、彼らの声と歌の描写ができるようになりたいです。

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鍵コメYさんへ

ご訪問、コメント、ありがとうございます。
それからご指摘も、とっても嬉しいです。

「藪から蛇という」というのは省略形というか、「藪をつついたら蛇が出てきた」と同じ意味で使ったつもりなのですけど、誤用ですよね。
「藪をつついたら蛇が出たってのはこれか」って感じに、訂正しておきます。

しっかり細かく読んでいただけたのも感激です。
今後ともよろしくお願いします。

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鍵コメTさんへ

コメントありがとうございます。
キャラクターをなにかにたとえるっていうの、好きなんですよね。
Tさんのキャラのあのひとやあの人、たとえたらどんな感じでしょうね。

えーっと、はい、私のほうがかな~り年上です。年上すぎて言えません。(^^;

ボンジョヴィ、エアロスミス、好きですよ。
とあるSNSでロックコミュみたいなところに所属していまして、最近また改めてロックにはまっています。
ポイズン、ラット、モトリークルーとかいう、バッドボーイロックも好きです。
ヴァン・ヘイレン、アズテックカメラ、ユーライアヒープあたりも好きです。
日本では甲斐バンドとジギー、前にも書きましたっけ?

こんな古いバンドがつるつるっと出てくるのですから、Tさんよりはかな~り年上、納得ですよねぇ。
(^^;(^^;(^^;です。
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