キャラクターしりとり小説

キャラしりとり7「都会の夜」

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キャラクターしりとり7

「都会の夜」


 長くまっすぐで形のいいしっぽが、俺を誘っている。白地に淡い茶色のぶち模様の毛皮をまとった豊満な美女が、俺に送る秋波に吸い寄せられていった。

「いい男ね」
「きみも綺麗だよ」

 人間は言う。俺の縄張りに住まわせてやっている人間の恭一郎は男友達をマンションに呼んで、猫の噂をしていたこともあった。

「猫はいいよなぁ、ルックスは関係ないんだろ」
「オスは強いのがもてる、メスは丈夫な子をたくさん産んで、しっかり育てていけそうなのがもてるらしいな」
「優良な子孫を残すことが先決ってわけか」

「だけど、それだったらむしろ、豪も司ももてないだろ」
「おまえだってもてなくなるかもしれないよ、恭一郎」
「いやいや、俺たちはオス猫になったってもてるさ」

「喧嘩だって強いもんな」
「俺たち、男らしいもんな」
「竹刀がなくても、素手でだって喧嘩には勝てるもんな」

「ただ、人間は本能のおもむくままには行動できないから、喧嘩なんてできなくなったってだけさ」
「豪も司も有名人だから喧嘩はできないだろうけど、俺はできなくもないぜ」
「警察につかまらないようにしろよ」

 というような会話をしていたのは、恭一郎と彼の友人の司と豪という男の三人だった。
 人間は喧嘩をすると警察ってやつにつかまるのか、気の毒に。俺は恭一郎が俺の家に連れてくる友達との話やら、彼が電話で誰かとしている話やら、あとはテレビとかいう箱の中の人間の話などで、人間というものについての知識を蓄えていった。

 猫に興味のある人間は多いようで、彼らの会話には「猫」もよく出てくる。ふーん、そういうものなのか、と感心する場合もあるが、人間の認識には誤りもある。

 もてるかどうかにルックスは関係ない?
 嘘だ。猫だってルックスのいい男女はもてるのだ。人間が思う可愛い顔や綺麗な毛並み、立派な風采などは猫たちにとっても好みの重要なポイントになる。それが証拠に俺はもてる。深夜の塀の上で出会ったこの猫も美女だから、たいそうもてるだろう。そんな匂いをふりまいていた。

「俺にはソマリって上等な猫の血が流れてるんだ。半分は外国の猫だよ」
「道理で堂々とした体格をしてるわね。強そう」
「きみはなんともセクシーな体格をしてるね」

「私は純血日本猫よ。ジャパニーズキャッツコンテストで準優勝したことがあるの」
「人間も見る目があるんだな」

 日本人は外国製のものをありがたがる傾向もあり、近頃は純国産をもてはやす傾向もあると、恭一郎が誰かと話していた。この猫と俺には両方の要素があるのだ。

「俺は小太郎。名前は日本的だろ」
「私は純日本猫なのに、ウナっていうのよ。私の下女の好きな、韓国ドラマの主人公の名前なんだって。銀河と書いてウナって読むらしいわ」
「俺の下男は、外国猫っぽい俺に日本人そのものの名前をつけたんだな」

 下女、下男、人間に言わせれば「飼い主」なのであろうが、俺たちは飼われているつもりは毛頭ない。俺の家に住まわせてやってこき使っているのだから、恭一郎は下男である。ウナがうまいことを言ってくれたので、俺もこれからは恭一郎を下男と呼ぼうと決めた。

 当方はそのつもりでも、人間どもは猫を支配したがる。自分たちのほうが立場が上だと考えていて、猫を躾けようとする心得違いの者もいる。そのせいで困っている猫も多いので、俺はウナに質問してみた。

「ウナは外には出られるんだね」
「うちの下女は、猫は外出させてやらないとかわいそうだって言うのよ。下女はおばあさんだから、昔の猫はみんな好き勝手に外に出てたって。猫を閉じ込めたらいけないのよって言うの」
「うちの下男も、猫は自由に行動してこそ猫だって言ってるよ」

 都会には危険が満ちているのだから、猫を外に出さないほうがいいと、獣医とやらいう職業の女が言っていた。

「小太郎を外に出す以上は、覚悟はしてるよ」
「あなたは頑固ね」

 恭一郎を説得しようとした獣医は諦めたようで、恭一郎のそのたぐいの頑固さは俺も気に入っている。互いの下男下女の思想がその部分では一致しているので、ウナも俺も自由に外出できるというわけなのだった。

「じゃあ、行こうか」
「行きましょ」

 寄り添ってきたウナの身体からはえもいわれぬよい香りがする。かつお節の芳香だった。

 それから数日は恭一郎が留守にしていたので外には出られず、ようやく外出できたときに再びウナと会った。

「ウナ、今夜も行こうよ」
「駄目。もうそんな気はないの」
「したくないのか?」
「身ごもったみたいだから、しないの」

 ならば、他の女を探しにいくまでだ。
 マンションではない家の塀の上で身づくろいしているウナはそこに残して、俺は歩いていく。この近所はマンションが多いので、猫と会う機会は少ない。遠出するしかないだろうか。

 なにやら妖しくなまめかしい気配と香りのする方向へと歩いていくと、小さい空間があった。木製のベンチがあって樹木が植わっていて、巨大な猫トイレのようなものもあって、そこには砂がたっぷりたたえられていた。

「もよおしてきそうだな」
 もよおすというのは、猫トイレのような砂と、女の匂いの両方だ。あちこちに美女がいて俺を呼んでいる。こんなに遠くまできたのははじめてだから、そのせいでなおさら俺の血がたぎっていた。

「新入り? 若いのね」
「俺はたぶん大人になったばかりなんだろうな。きみはけっこういい年?」
「そうよ。私は長く生きてるわ」

「このトイレはなに?」
「トイレじゃなくて、人間の子どもが遊ぶ砂場よ。ま、トイレにしたっていいんだけどね」

 野良だから名前はないという、黒と茶の混じった毛並みの猫と仲良しになった。
 俺にとっては二度目の経験。こうなるともっともっとと欲が出る。ウナにこだわる必要も、二度目の彼女に執着する理由もないのだから、しばらくは家に帰らずに遊んでいよう。

 そのつもりで、何度経験しただろうか。そのたびに別々の相手で、彼女たちは別々の魅力を持っていて、楽しくてならない。時にはオス同士で喧嘩もしたが、俺は強いのでいつだって勝った。ここらへんは下男に似たのだろうか。

「俺たち、喧嘩も強いもんな」
 恭一郎は俺にも、おまえも強いに決まってるよ、大きいんだし、力もありそうだし、と言っていて、それが立証されたのだ。

 が、ふと気づくと、俺はてめえがどこにいるのかわからなくなっていた。
 家から出ていって何日たつのかもわからない。家がどちらの方角なのかもわからない。空腹にも苛まれてきた。狩をしようと小鳥や虫を狙ってはみたのだが、腹が減りすぎて力が出なくてことごとく失敗した。

 このままでは危ない。もはや女どころではない。今の俺だったら仔猫と喧嘩したって負ける。食いものがほしい。食わなかったら死ぬ。

「カーカーカーッ!! ぐわーっ!!」
「ぎゃっ!!」

 都会には危険が満ちていると人間が言う通りで、最大の脅威はこいつかもしれない。大きな黒い鳥に襲われそうになって、俺はどこかのベンチの下にもぐり込んだ。
 そのままうとうとしたのだろう。ふっと目を開けると、人間の手が目の前に差し出されていた。

「出ておいでよ。野良ちゃん?」
 女だった。
「おなかがすいてるんじゃないの? こんなのだったらあるんだけど、食べるかな」
 
 警戒心というよりも、腹が減って動けない。ぐったり横たわっている俺の前に、油の匂いのする破片が置かれた。匂いはうまそうだったから食った。

「あ、ポテチ、食べるんだ。もっと食べる?」
「うにゃ」

 食う食う、もっとくれ、とせがむと、女はポテチってものを俺の前に並べた。
 ポテチ? ポテトチップスか。子どものころにだったら食ったことがある。仔猫だった俺はなんでも食ったから、恭一郎が面白がっていろんなものを食わせようとして、誰かに怒られてやめたのだ。

 そんなものよりも缶詰の魚やらドライフードのほうがうまいから、ポテチやお菓子なんかは食いたくもなくなっていたのだが、今はこのポテチが死にたいほどに美味だった。

「出ておいでよ。水もあるよ」
「にゃご」

 すこし腹がくちくなると、俺はペンチの下から這い出した。女が俺を膝に抱き上げ、ペットボトルからてのひらに水を出して飲ませてくれた。

「首輪をつけてるんだから野良じゃないんだね。迷子札みたいなのがついてる。見せて……えーっと、南恭一郎、これが飼い主の名前でしょ」
「うにっ」

 飼い主じゃなくて下男だよ、と言いたかったのだが、女には通じなかった。

「小太郎。これがあんたの名前? ケータイの番号が書いてあるね。飼い主がいるんだったら、こんな時間にこんなところをうろついてたら、南さんってひとは心配してるんじゃないの? 電話してみようか。いい男だったりしたら……いや、じいさんかもしれないし……」

 ひとりごとを言っている女に、もっと食いものをくれ、と言いたい。うにゃうにゃっと言ってみても、女は俺の首輪の裏側を見て試案している様子だ。

 そうしていると視線を感じる。ベンチにすわった女の膝に抱かれている俺を、近くの樹の枝から見ている猫の美女がいる。もうちょっと満腹になったらあっちに行きたいのだが、今のところは食いもののほうをより欲していた。

つづく

はい、猫の小太郎です。
猫を擬人化し、それでいて「猫」でもある。そんなふうに描けていたら嬉しいのですが。
次の主人公は小太郎を助けてくれるこの女性。彼女、誰なんでしょうね?


 



 

 

 

 
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~ Comment ~

NoTitle

小太郎、ちょっと高慢ちき、でわがままで。
人間に対して媚びない姿勢を持ちつつも、お腹がすくと甘える仕草も辞さない。

擬人化されてるけど、これぞ猫って感じですね。
なにより、本能に忠実なところがいい。
食欲も性欲も、大事な人生の一部。

あれ?人間もそうかな(笑

猫の視線で見る人間たちっていうのも、たのしいですね。
もし猫たちがこんなふうに人間を見てるんだったら、もっとしゃきっとしなきゃ・・・ね^^

limeさんへ

猫が口をきいたら……。
ふたりっきりのときに私がなにをしているのか、猫に暴露されたら……と思うと怖いですねぇ。

猫って自分に都合のいいときだけ媚びるんですよね。
うちの猫、夏に死んだちぃは、「早くごはん入れろ。ドアを開けろ」と人間に命令しました。
今、うちにいるくぅは、なにかしてほしいことがあると人間を丸い目で見上げ、「してくれる?」と言いたげに可愛く見つめるのです。

猫もいろいろですが、自分勝手なところは共通しています。
オスはメスよりも甘ったれだそうですが、プライドも高そうですよねぇ。

いつもありがとうございます。
キャラしりとりももっと書きたいと思ってますので、今後ともよろしくお願いします。
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