連載小説1

「We are joker」26 

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「We are joker」

26

 むくむくと尚の胸のうちに湧いてきた感覚は、創作意欲というものなのだろうか。もやもやとメロディも湧いてきたので、昨夜はギターを弾いて一応の形にして仕事場に持ってきた。
「なんだ、これ、同窓会ってタイトルか?」
 ホーリーハウスの楽屋に一番に来ていた冬紀に見せると、彼は鼻を鳴らした。

「だせっ」
「ださいかもしれないけど、俺のイメージでは同窓会なんだよ」
「もと同級生の女の子から電話があったから、嬉しくて?」
「そういうわけでもないけど……」
「なんだかなぁ、同窓会っていうと俺のイメージでは……」
 顎を撫でながら、冬紀は言った。

「中年のおっさんとおばさんが集まって思い出話をして、有志で二次会に行って、その帰りにダブル不倫カップルが何組か誕生するってのか……」
「おまえ、そういう小説とかドラマとか見たのか」
「小説でだったら読んだことはあるよ」
「俺が書いたのは若い奴らの同窓会だよ」
「それはいいから、タイトルは変えろ」
「タイトルは考えるから、内容を見ろよ」

 デビューしてから一年ばかり経った今も、発表したのはシングル曲が一曲きりだ。あまりにも売れないので、セカンドシングルの話はない。アルバムなんて話題にも上らない。
 ファーストシングルは友永冬紀作詞作曲。冬紀は女の子と遊んでばかりいるわけでもなくて、暇さえあれば詞を書き、曲を書く。やけに甘ったるくてロマンティックな詞も、破滅的な詞も、スゥイートなラヴソングも、ヘヴィメタに近いハードロックも書く。

 編曲能力もあるので、ジョーカーの歌は冬紀にまかせておけばいいと芳郎も言う。そうは言われても、尚だって作曲をしたかった。
 作詞のほうは才能がないのは自覚しているが、尚だってミュージシャンだ。専門的に学んだのではないから特別な知識はないけれど、それを言うなら冬紀も同じだろう。高校生のときからやっているのだから、自然に身についたものはあるはずだった。

「……タイトル、決まったか」
「無題」
「……アホか、おまえはっ!!」
 音楽の話になるとムキになる冬紀は、尚に楽譜を突きつけて怒り顔になった。

「この曲もアホだし、同窓会だの無題だのってタイトルをつけるのも、センス以前の問題だよ。こんな曲を演奏したかったら、おまえのソロアルバムでやれ。俺はギターは弾かないからな」
「そんなにひどい?」
「ひどいよ」
 そこに、伸也が入ってきた。

「友永、なに怒ってんだ?」
「見ろよ、これ」
 楽譜を覗いた伸也も言った。

「松下の作曲? 友永が言ってたのが聞こえたよ。俺はギターは弾かないからなって。俺もドラム、叩きたくないな」
「そんなに駄作か?」
「まぁ、もっとよーく考えて、練り直したらよくなるかもしれないけど……じゃないか、友永?」
「よくなんてなりようがないんだよ。もとが悪いんだから」
「そこまで言わなくても……ってか、俺も前に言われたもんな」
 なんて? と尚がひそひそ声で問うと、伸也もひそひそ声で応じた。

「おまえは作詞や作曲なんて考えなくていいから、ステージでのMCを考えてろってさ。人には向き不向きがあるんだぞ、って、えらく優しい声で言うから突っ込んだら、しまいには怒鳴られたよ。おまえには作詞も作曲も、才能ねーんだよっ、ってさ」
「なるほど」
「松下」
「んん?」
「はっきり言っておまえもだ」
 そうだそうだ、と冬紀もうなずいた。

「ギターと作詞作曲に関しては、友永は誰にも譲りたくないんだよな。たしかに、芳郎さんだって言ってたよ。友永の作曲能力はたいしたもんだ、ギターのほうは自惚れも入ってるけど、才能はあるからさらに上達するよってさ」
「俺のギターはそれほどでもないって?」
 伸也に言われた冬紀がたちまちとんがり、伸也は言った。

「いや、ギターってのはハイテクニックの天才がいいとも限らないらしいぜ。ベースとドラムがしっかりしてたら、ギターやヴォーカルは必ずしも最高ではなくてもいい。テクニックではなくて魂で聞かせる部分もあるんだろ」
「おまえらのベースとドラムは、しっかりなんかしてないだろうが」
「特に俺のドラムだよな」
「武井、今でもドラムには熱が入ってないよな」
「いや、他にやる奴がいないから……」

 バンドの華はギターとヴォーカルであろうか。そのふたつが必ずしも最高のテクニックではなくてもいいと芳郎が言うのは、深い意味があるのか。伸也は高校時代から、ドラムには乗り気ではなかったのは、尚もよくよく知っていた。

つづく






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