別小説

「ラクトとライタ」第四話(最終回)

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「Lightning・第四話」(完結編)

1

 出会わなかったらよかったんだろうか。
大きな背中に揺られて、僕は過去と現在を思い起こす。
 大学のサッカーファンサークルの飲み会で、ノンアルコールカクテルのつもりで飲んだドリンクに酔っ払って、ふらついていた僕を雷太さんがおぶってくれた。

 小さいころにもこんなふうにしてくれたこと、あったよね。僕が幼稚園で雷太さんは小学生だったころにも、雷太さんの友達に蹴飛ばされて脚が痛いってべそをかいたら、黙って背中を向けて、僕を背負って家まで送ってくれた。

「おまえは情けないな。泣くな、殴るぞ」
「だって……」

 そんなふうに言われながら、二度目のおんぶをしてもらっていたのは、僕が小学校二年生、雷太さんが六年生のときだったか。あのときには僕はコマなし自転車の練習をしていてころんで、足に怪我をしたのだった。

 泣くな、殴るぞ、だとか、楽人、ぶん殴ってやろうか、って荒っぽく言うことはあったけど、本当に殴られたことなんかなかったよ。言動は乱暴だけどほんとは優しいから、雷太さんは女のひとにもてるんだ。ルックスがよくてかっこいいからだけじゃないよね。

 もう僕は大学生なのに、雷太さんにおぶってもらってるなんてかっこ悪い。だけど、夜道だからさ、誰も見てないんだし、きっとこれが最後だろうから、甘えておこう。

「歩いていくの?」
「そうだよ。酔っ払いは黙ってろ」
「うん、らまってるにょ」

 こんな格好ではバスにも乗れないだろうから、タクシーに乗るほど裕福ではないから、酔っ払いの僕が地下鉄で吐いたりしたらいけないから、さまざまに考えて、雷太さんは歩いている。家まではけっこうあるのに、だからこそ僕は嬉しくて。永遠にこうしていたくて。

 実はもうだいぶ、酔いは醒めてるんだよ。黙ってるよ、が「らまってるにょ」になったのは、酔っ払いのふりを続けていたいから。

 だって、そうじゃなかったら十八の僕を、二十二歳の雷太さんが背負ってくれるはずがないもんね。これが最後。雷太さんは就職したスポーツ用品の会社の福岡支社で、新入社員生活をスタートさせるのだと言っていた。

 五歳と九歳で出会ってから、雷太さんはいつもいつでも、僕の大好きな近所のお兄ちゃんだった。子どものころには恋心ではなかったのは言うまでもなくて、そうと気づいたのは高校生のとき。僕は女の子も好きになったことはないけど、雷太さん以外の男のひとを好きになったこともないんだから、雷太さんなんかと出会わなかったらよかったの?

 十三年も僕の近くにいてくれた雷太さん。家は近所でも心の距離は遠いと次第にわかるようになってはきたけれど、会いにいくことだってできた。
 社会人になった雷太さんは、近所のお兄ちゃんではなくなる。出会ってから初に、雷太さんが遠くに住むようになる。

 だけど、雷太さんと出会わなかったからといって、僕が普通に女の子に恋する男に成長したとも思えない。雷太さんと会わなかったとしたら、僕はとっても寂しい境遇だっただろうから、会えてよかったよ、お兄ちゃん。

 お兄ちゃん視のままでいられたら平和だったんだろうけど、好きだと思うこの気持ちは恋なんだと気づいてしまったんだから仕方ない。相手が雷太さんであろうとも、僕だって誰かに恋をする心を持ってたんだ、つめたい奴じゃなかったんだ、って喜ぶことにする。

 背中でいろんないろんなことを考えている僕を背負って、雷太さんは黙々と歩いていく。広い背中、あったかな体温、力強い足取り。

 雷太さんはごくごく普通に、「たったひとりの」……ここ、強調。二股はNGだからね。僕が許さないからね。
 そう、ごくごく普通にたったひとりの女性に恋をして、いずれは結婚してお父さんになって、僕を励ましたり鍛えたりしてくれたように、子育てをするといいよ。できれば僕の見えないところで、そのためには、福岡で結婚したらいいんだよ。

 いつしか雷太さんの背中が濡れていく。鈍感雷太さんは気がついていないのか、僕が泣くなんて想像もしていないのだろうから、泣くな、とも言わなかった。


2

 東京駅にはたくさんの新幹線が停まっている。雷太さんの両親や友達が見送りにきているのだったら、見つけられたら困ると思っていたけれど、そんなふうではなさそうだった。

「今どき、福岡で働くようになるからって、親が見送りになんかこないだろ」
「僕の親だったら来そうだな」
「楽人はそれだから軟弱なんじゃないの?」
「雷太さんみたいに言うなよ」
「高瀬くんもそう言うんだね」

 嬉しそうに言って、そうだろ、そうだろ、と笑っているのは歩。僕に雷太さんへの恋心を気づかせた奴だ。

 こいつが雷太さんに告白して、雷太さんは男に告白されるなんて発想外だったらしくて、ぽかんとしているばかりだった。気づけよ、気づけよ、と僕は樹の上で焦れて、でも、気づかないほうがいい、雷太さんは知らないほうがいい、とも思って。
 
 男なんかに告白されたって、いいよ、って言う雷太さんじゃないよね。その事実に安堵が半分、失望が半分、そうして僕は、自分の気持ちに気づいてしまった。

 後に歩と殴り合いの喧嘩をして、なぜか歩が僕になついてきたから友達になって、友達になったという話は雷太さんにはしなかった。歩は雷太さんには近づかなくなって、僕にばっかり親しみを感じるようになっていったらしい。

 別々の大学に行くようになっても、歩とは変な友達だ。雷太さんに告白して、その意味もわかってもらえなかった奴と、好きだとは本人はおろか、誰にも言っていない奴と。歩と楽人はふたりして、雷太さんをひそかに見送りにきた。

 広い東京駅の構内、雷太さんの乗る新幹線は知っているから、絶対に見つからないように隠れて待っている。あ、来た、と呟いたのは僕が先で、そろって柱の陰に隠れた。

 学生時代よりも短くなった髪、たくましくなった顎のライン、がっしりした首、細すぎない筋肉質の長身を、新調のスーツに包んでいる。黒いビジネスバッグを持って、彼女にもらったのか、センスのいいネクタイを締めて、雷太さんはものすごく大人に見えた。

「かっこいいなぁ。楽人、おまえも実は高瀬くんが好きなんじゃないのか」
「兄貴としては好きだよ。歩はなんで、かたくなに高瀬くんって呼ぶの?」
「おまえとは別の呼び方をしたいからだよ。楽人、ほんとか?」
「ほんとだよ」

 恋心を隠し通せる意志の強い男。それもかっこいいじゃん?
 今度雷太さんに会うときには、僕ももっと大人になる。大人の男同士として、自然に笑って接するようにする。ただ、雷太さんの前では酔うほど飲むのは厳禁だ。

「ふきれふ」
 だなんて、真情を吐露してしまったらいけないから、ちょっとぐらいのアルコールでは酔わないように、そっちも鍛えておかなくちゃ。

END

これはこれで切ないハッピィエンドのつもりです。
ご愛読、ありがとうございました。




 

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~ Comment ~

NoTitle

これはこれで、ハッピーエンドですよね。
何も壊れてないし、失ってないし。
一つ、愛おしい人を見送って、ラクト君は大人になるのです。
しばらくは寂しいでしょうが。

歩っていう、妙な友達も出来たし、きっと、良かったのです。
しかし、このままこのふたりはそれぞれ、マイノリティの道を歩むのかなあ~。
過酷だけど、頑張れ^^ 

またいつか、大人になったラクトくんにひょっこり、会いたいですね。

limeさんへ

勢いで書いたようなところがありまして、アップしようかどうしようかと迷っていたところもありまして。
limeさんのあたたかなコメント、ありがとうございました。

深~く考えると、アユムもラクトも将来は大変なのかもしれませんね。
性的マイノリティでも普通に生きられるようになったらいいのでしょうけど、日本ではなかなか道のりは険しいのかな。

ライタが結婚して子供も生まれて、その一家と一緒に写真を撮る。一枚の写真の中で寂しく微笑んでいるラクトという図が浮かんできました。

NoTitle

なかなか、ご感想にいけなくてごめんなさいe-466

上京して、帰ってきたら、途端にぎっくり腰をやっちゃいまして、PCの前に座れませんでした。
酷くなかったので、来週には復帰できそうです。
もうちょっと、待っていてくださいね~。

あかねさんの『BL』の感じも私は好きなので、新作も期待していますよ~e-266

早花鬼さんへ

上京はロックですよね。
メタルフェスでしたっけ?
どんな感じだったのか、ぜひリポートをアップして下さいな。

あ、でも、ぎっくり腰。
お疲れが出たというのもあるのかもしれませんね。
お大事にして下さい。
復帰なさったらライヴのリポート、仔にゃんこ日記など、楽しみにしています。
くれぐれもご無理はなさらないで下さいね。

BLはもっと書きたいと思ったり、やっぱりむずかしいと考えたりしています。BLって奥深いんですよね。
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