ショートストーリィ

野良猫ストーリィ「Small kittens」

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*「穴ふたつ」 *「猫面疽」 *「三毛猫ばあちゃん」 *「オス猫サブ」
この4つに続く、野良にゃんシリーズNO.5です。


「Small kittens 」

 箱を見ると入りたくなるのは猫の習性なのだから、ミミが人間の罠にかかって獣医に連れていかれ、手術をされて入院させられて、抜糸がすむと住処にしている公園に戻されたのは、ミミが悪いわけではない。

「これであんたは子どもが産めなくなったんだけど、メスはそのほうが長生きできるっていうからね。悪いことばっかりではないよ」

 もの知りで、このあたりの猫たちの中では長老、村長さんみたいな三毛猫ばあちゃんが言ったのだから、それもそうかとミミも納得しておいた。
 ボランティアの人間たちが野良猫を罠にかけてまで避妊手術をしていても、不思議に仔猫は生まれる。よそからやってくる猫もいるのだから、猫は減らないようで、猫嫌いの人間たちを嘆かせている。ミミとしては野良仲間がたくさんいるのは心強かった。

 夕方になると人間っ気の少なくなる公園をミミが散歩していると、可憐な鳴き声が聞こえてきた。猫の五感のうちでは最鋭敏な聴覚と、それほどでもないが鋭い嗅覚とを駆使して、ミミはその声の在り処を探し出した。

「あらぁ、可愛い。あ、でも、あたしはおっぱいは出ないよ。ちょっとぉ……この仔たちの母ちゃんはどこに行ったの?」

 オス猫は喧嘩が生きる意味だったりもするようだが、メスは喧嘩はオスにさせて見物しているのがもっぱらだ。だが、仔を守るためだったら母猫は闘う。ミミが見つけた仔猫たちになつかれ、みぃみい言われてくっついてこられているのを見た母猫が怒ったら、ミミは怪我をさせられるかもしれない。

 ペットショップ出身の野良には珍しいアメリカンショートヘアで、子どもは産めなくてもいいから、俺の彼女になってくれ、と言ったオスがいるくらいにミミは美猫だ。
 それだけにお嬢さん育ちで、ミミは人間に捨てられて野良になってからも、頭のいい三毛ばあちゃんや強いクロや、ボランティアの人間の庇護のもと、案外ぬくぬくと暮らしている。喧嘩なんかしたことはないのだから。

「困ったな。くすぐったいったら。おっぱいは出ないったら」
 怒ってみせても、仔猫たちには通じない。ようやく目が開いたくらいのちびたちが三匹、ミミのおなかにもぐり込んで母乳を求めていた。

「あれ? ミミ、仔を産んだのか?」
「ああ、クロ、あたしは仔は産めないって言ったでしょ」
「そうだったよな。すると、そいつらは?」

 これこれこうで、と説明しているうちに、ミミはひらめいた。
「クロがこんなところにあらわれるってことは、あんたの仔?」
「ちがう……いや、知らないけどな」
「そうだよね。オスは知らないよね」

 クロもミミと同じく、仔猫の鳴き声を聞きつけてどこにいるのかと探し、公園の隅のこの場所を見つけたのだそうだ。

「前にばあちゃんが言ってたぞ。ここって人間の子どもが作った秘密基地じゃないかって」
「ひみつきちってなに?」
「人間の子どもの遊びだよ。母猫が仔を産むにはちょうどよかったのかな。それにしても母ちゃん、帰ってこないな」
「そうだね、無責任だよね」

 しようがないから母猫が帰ってくるまで待っててやろうと、クロとミミも仔猫たちに寄り添って眠った。ミミには母乳は出ないが、ぬくもりが心地よかったのだろう。仔猫たちは安らかに眠っていた。
 ところが、翌日になっても母猫は帰ってこない。クロは言った。

「どこかでおっ死んじまったのかもしれないな。そういうこともあるだろ」
「あるかもしれないよね。こんなちっちゃいのがいるのに、ほったらかして旅には出ないだろうから、死んだか怪我をして動けなくなったか。そしたら、父ちゃん、この仔たちを育てなくちゃ」
「俺が父ちゃんかどうかわかんねえよ」

 いやそうに言ったものの、クロもその気になったようだ。母性本能とやらが目覚めたのか、ミミも仔猫たちがたまらなく可愛くなってきて、仔育てをしようと決めた。

「ほおほお、そうなんだね。すると、食べるものがいるだろ」
「なんかねぇ、あたしねぇ、お乳が出てるみたい。そうは言っても足りないから食べるものはいるけど、なんでお乳が出るの?」
「ちびたちが吸うからかな。そんなこともあるらしいよ」

 博識三毛ばあちゃんが教えてくれるままに、クロが取ってきた獲物をミミが噛み砕いてぐちゃぐちゃにして、仔猫に与える。仔猫たちも母乳以外のものも食べられる時期になっていたようで、競って食べていた。

 そうしているうちには、ミミだって仔猫たちにかまってばかりいるのには飽きてくる。クロも浮気をしに出かけていったりする。母猫はいっこうに戻ってこなくて、仔猫たちだけを残してクロもミミも外出するようになった。

「わっ!!」

 ある日、ミミが外出から帰ってくると、黒い大きな影が巣から飛び立った。黒猫クロなんかよりもずっと大きな影だった。
 怯えてぴいぴい鳴いている仔猫たちは、二匹しかいない。白黒ぶちのちびがいない。ミミが空に向かってしゃーーっ!! と叫ぶと、カラスはブチちびを地面に落とした。

 くわえてさらっていけるほどにはブチちびは小さくも軽くもなかったのだろう。カラスにしては失態だが、大人の猫が帰ってきたから焦ったのかもしれない。ミミはちびたちを集め、特にブチの身体を調べた。

「落とされたから怪我はしてるけど、たいしたこともないね」
「みぃぃ……」
「よしよし、母ちゃんが舐めてやるからね」

 実の母ではないけれど、気分はこの仔たちの母だ。ミミはブチちびを舐めてやりながら、仔猫たちに言い聞かせた。

「カラスはあんたたちよりも強いんだからね。勝手に外に出たら駄目。だけどねぇ、あんたたちだって外で遊びたいよね。カラスって三毛ばあちゃんみたいに頭がいいらしいから、ここには強い猫がいるって知ったら……クロ、がんばれよ」
 
 いつの間にか帰ってきていたクロは、ミミのお説教を半分ほどは聞いていたのか。特にはなにも言わずに寝そべった。

「母ちゃんと一緒に遊ぼうね」
 もうちょっと大きくなるまでは、仔猫たちと一緒にいてやろう。ミミはそう決めて、あくる日は三匹を連れて外へ出た。クロはすでにいない。そろそろ狩を教えてやったら? と三毛ばあちゃんが言っていたのを思い出して、ミミが仔猫たちに手本を見せてやるつもりだった。

 とはいえ、ミミは狩は苦手だ。小さな獲物を探して公園を歩いていると、サブがいるのを見かけた。
 サブってやつは迷い猫で、三毛ばあちゃんに言わせると貴種オス三毛猫。なぜかクロに恋をしているらしくて、クロはサブから逃げ回っている。

 オスとオスの恋は不毛であるが、ミミだって仔は産めないのだから、あまり変わらないかとも思う。ミミはクロに、サブも恋猫にしてやったら? と言い、絶対にいやだっ!! と強固に拒絶されていた。

「なにくわえてんの、サブ?」
「うう?」
 口にくわえていたなにかを地面に落としたサブに、ミミは言った。

「サブ、うろうろしてると人間につかまるよ。三味線の皮にされるらしいよ」
「しゃみせんってなに?」
「白い猫の革で作る楽器だって」
「そしたらミミも危なくない?」

 そうかもねぇ、と言いながら近寄っていこうとしたら、上空からカラスが舞い降りてきた。邪悪な黒い鳥は、昨日、仔猫たちを襲った奴と同じなのかちかうのか、サブがくわえていたなにかを狙って舞い降りてきたらしい。

 そこに飛びかかってきたものは、カラスとはちがった黒い影。小さな猛獣のように俊敏に、黒い猫がカラスに攻撃をしかけた。

「クロ、かっこいい。やっぱりボクを守ってくれるんだね」
「……ってかね。まあいいけど、ちびたちはこっちにおいで。危ないから」
「ミミ、待ってよ」

 ちび猫三匹、大人猫二匹は避難し、クロが跳躍する。翼を持つカラスはクロの攻撃などは意にも介さず、上空に舞い上がって一声、アホウ!! と鳴いた。

「くっそおっ!! うわっ、来るな」
「クロ、ありがとうっ!!」

 カラスははるか高みにある、マンションの外壁から張り出したなにかにとまって知らん顔をしている。ボクを守るために闘ってくれたのだと、美しき誤解をしたサブが、クロを追いかけていく。クロはカラスとの闘いは諦めたようで、逃げていった。

「平和だねぇ」
「そうだねぇ」

 仔猫が一匹、カラスに怪我をさせられたなどというのは、たいした事件でもない。野良猫の世界は非情なのだ。ちびたちもカラスの恐怖などは忘れたように、そこにやってきた三毛ばあちゃんに愛嬌をふりまいている。三毛ばあちゃんは言った。

「あんたたちは可愛いうちに、人間に拾われるといいのにね。そうなるとミミは寂しい?」
「全然。せいせいするよ。早くもらわれていってほしいな」

 ほとんどは正直な気持ちだったが、ほんのちょっぴり、強がりもまじっていた。

END

早花鬼さんの「仔にゃんこ日記」を参考にさせていただきました。
ブログ「DRAINED」にアップされている写真の仔にゃんこちゃんたちに、いつも癒していただいています。






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~ Comment ~

こんばんは。

コメントに来るのが、遅くなってごめんなさい。
我が家の仔猫たちを参考にしていただいて、嬉しいです。ありがとうございます。

ミミちゃんが可愛かったです~e-266
サブくんのお話も、もっと読みたいな^^

我が家の仔猫たちも、立派に育っております。残念ながら、未だに里親さんは見つからないんですが、うちもロキくん一匹を保護するのが精一杯で。他の三匹は、どうにか餌で引きとめながら、いつか避妊しないといけないな、と思っています。
二が月も過ぎれば、猫に怖いものなんてない、と近頃解りました。車とか人間は別にして。
小さいうちに生き延びると、それからはたくましいものでした。

物語の仔猫たちも、ミミちゃんたちに守られながら、たくましく育ってくれるでしょうe-284

早花鬼さんへ

お読みいただいてありがとうございます。
猫たちの日常みたいな、なんのドラマもないストーリィになってしまいましたが。

二ヶ月もすぎれば、猫には怖いものはないのですか?
そのくらいになったらカラスも怖くないってことですか?
うちの近くの大きな公園には猫がたくさんいて、仔猫を狙うカラスの目撃談なども耳にするんですけど、ごく小さい猫なんでしょうね。

ロキくんも彼のきょうだいたちも、かつまさんのお宅のご近所(というか、敷地内?)で生まれてよかったですよねぇ。
クロママちゃんは頭がよくて、かつまさんの弱点をよーく知っていたってことですよねぇ。いいママを持ったちびちゃんたちはラッキーでしたね。

あ、それから、これから「ラクトとライタ」最終話をひっそりアップします。
またお時間がおありのときに、覗いてやって下さいね。

早花鬼さんの「仔にゃんこ日記」を参考にさせていただきました

↑おお、そうだったんですね♡
なんとなく、こちらも拝読しながら、あの仔猫たちの姿を彷彿としておりました(^^)
かつまさん宅の半ノラちゃんたちも、野生動物に狙われたりして大変そうですからね。

朱鷺は、動物を擬人化したハナシって書かないので、なかなか新鮮に読ませていただきました。
動物の心、声? が分かるらしいハイジさんに言わせると、犬も猫もそして鳥たちも、ものすごく感性豊かに生きているようで、人間のことをいろいろに感じているみたいですね。
動物の言葉が分かったらなぁ、というのがニンゲンの夢のひとつかも知れませんが、言葉が通じないからこそ、お互いに寄り添おうとする、ということもある気がして、なかなか難しいものです。
最近、朱鷺は、もっぱら、小松菜の気持ちが分かると良いな、と思うのですが、それが分かったら食べられなくなりそうな気もして、厳しいジレンマに悶える毎日です(^^;

捨てられた仔猫。
そして、野良猫を避妊手術するボランティア。
世の中、成否も善悪もなかなか問い難い様々な問題が多くて大変です。
だけど、結局、ヒトは目の前にあることにしか手が届かない。ミミちゃんが、出会った子猫を必死に守っていくように。

猫の視点で開けた小さいけれど、素敵な物語でした。
かつまさん宅の猫も、かつまさんをどう思っているのか、なかなか興味のあるところです。
ふふふふ(^^)

朱鷺さんへ

コメントありがとうございます。
朱鷺さんもかつまさんともお知り合いなんですよね?
かつまさんの仔にゃんこ日記と、前から書いていた野良にゃんたちとをからめてお話を作ってみました。

擬人化していない動物のストーリィというのはぞくぞくするほど好きですけど、私には書けそうにありませんので、こんな感じになってしまいます。

野生の虎や狼の話なんか、書いてみたいですけどねー。

小松菜の気持ち?
面白いですね。
朱鷺さんもごぞんじなのかどうかは知りませんが、とある方が「まいたけが成仏する」というようなフレーズを使っておられて、私にとってはツボでした。
小松菜の気持ち、ぜひ書いて下さいな。

かつまさんちの周囲のにゃんちゃんは、ほんとにどう思っているのでしょうね。
私もとっても気になります。
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