キャラクターしりとり小説

キャラしりとり6「時には猫のように」

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キャラクターしりとり6

「時には猫のように」


 キャプテンは在学中に舞台に出演したり、CMに出演したりしていた駆け出し役者。同級生には在学中にロックバンドのキーボードとして華々しくデビューして、あっという間に解散してプロデューサーになった奴もいる。剣道の片手間なのか、剣道が片手間なのか、ロックバンドのベーシストもいた。

 要するに俺の大学の剣道部には、変わった男が多かったわけだ。

「恭一郎さんは変わってなかったわけ?」
「俺は普通だよ」

 同じ学年では俺も含めて剣道部三羽烏といわれていた、真柴豪、沢崎司はいずれもロックの道に進んだ。豪はプロデューサー、司は豪がプロデュースしているロックバンド、グラブダブドリブのベーシストだ。

 彼らに較べればいたって平凡で、ロックは好きでも自分で作るの演奏するのとは発想外の俺は、ロック雑誌の編集部に就職した。剣道部の三羽烏が三羽ともに、ロック方面に進んだのだけは変わっているかもしれない。

 そんな話をしている相手は、ライターの魔礼海。本名ではないはずだが、ペンネームにしたってユニークだ。俺はマ・レイカイと読む彼女に問いかけた。

「俺の話はしたんだから、礼ちゃんに質問してもいいだろ? あなたのペンネームの由来は?」
「封神演義よ」
「中国の奇書とかいう、あれ?」
「そう」

 中国明代に成立した神怪小説で、文学作品というのではないが、中国民衆の宗教文化、民間信仰に大きな影響を与えたとされる。俺は日本でアレンジした漫画で読んだ。
 
 人間、神、魔物などなどが入り乱れる「封神演義」には、膨大な登場人物、登場人物外がいる。その中に魔家四将、佳夢関を守る四兄弟がいるのだそうだ。

 三男、魔礼海は地・水・火・風を司る四弦が張られた琵琶を持ち、これをかき鳴らして、風火を発生させる。

「封神演義の最初の設定では、雨を司るんだよね。矛盾があるって説もあるんだけど、私は音楽ライターなんだから、大好きな封神演義の音楽的なキャラの名前を借りたの」
「そっかー、礼ちゃんは中国古典好きなんだ。金瓶梅とかも好き?」

「えっちなのも嫌いじゃないけど、金瓶梅の主人公は大嫌い」
「西門慶か。ある部分は男の理想だけどな」
「恭一郎さんもあんな生き方、したいの?」

 ああして何人もの妾を持てる身分になったとしても、妻と同居はさせたくない。現代の男ならばそう思うだろう。俺の知識は通り一遍のものだが、礼海のペンネームから中国古典の世界へと話が広がっていって、素早く時間がすぎていった。

「そうすると、礼ちゃんの最終目的は音楽ライターではなくて……」
「音楽ライターは生活のためにやってるのよ。私の夢は夏王朝の遺跡を発掘しにいくこと。おばあさんになるまでには実現させたいな」
「生活のためにライターやってるって……」

 ライター志望の人間は数多くて、仕事にしたくてもできない者も多い。そんな奴に聞かれたら殴られるぞ、と笑ってから、俺は言った。

「もっともっと話がしたいな。俺も中国の古代王朝なんてのには興味がなくもない。また会える?」
「ロック畑の住人で、夏王朝ってなに? って聞き返さないひとは珍しいよね」

 仕事がらみで知り合って、そうしてプライベートな話をするようになって、礼海と俺は親密になっていった。
 興味がなくもない、程度だった礼海の趣味の世界については、本を読んだりインターネットで調べものをしたりしているうちに、関心が深まっていった。

 礼海の本名は礼子、プライベートでは礼子、恭一郎と呼び合うようになったころに、別の女性ライターがうちの編集部にやってきた。

「南さん、久し振り」
「ああ、西さん、元気?」

 彼女とは姓で呼び合う仲でしかない。彼女は西、俺は南だから、方角つながりで親しみを感じているだけだった。

「南さんって猫、好きだった?」
「好きだよ。俺は犬派に見えるらしいけど、猫のほうがいいな」
「友人の家で仔猫が生まれたの。見にいきたいんだけど、家は不便な場所にあるんだよね。半分出すから、レンタカーを借りて乗せていってくれると嬉しいな」

「西さん、免許持ってないの?」
「持ってるけど、ペーパードライバーだもの」
「アッシーに使える男はいないの?」
「いるけど、アッシーって古っ!!」

 ソマリという長毛のメスネコが出産した。どうやら勝手に家を抜け出してどこかのオスとデートしていたらしく、雑種だった。これでは売りものにもならないのだが、ものすごく可愛い。そうと聞くと俺も見たくなって、西千郷の頼みを引き受けた。

「身体は仔猫だけど、たてがみみたいのがあるんだな」
「この子とこの子は、小型のライオンみたいだよね」
「あとの三匹は普通の日本猫っぽいね」

 西千郷の友人というのは若い夫婦で、ブリーダーをやっているわけではないのだが、純血種の猫を飼っていると苦労もあるのだと笑っていた。
 六匹生まれたうちの一匹はすでにもらわれていき、ソマリらしさのあるのが二匹、あとの三匹は縞柄だから、縞のオス猫と遊んできたのだろうとの話だった。

 ちっちゃいのがころころともつれるようにしてじゃれ合っていたり、五匹がくっついて眠っていたりする姿は本当に愛らしくて、俺も目を細めてしまう。千郷はめろめろになっていた。

「千郷、一匹もらってくれない?」
「ただ?」
「雑種になっちゃったんだから、無料でいいよ」
「うーん……困ったな」

 妻のほうは千郷に話を持ちかけ、夫は俺に言った。

「南さん、一匹、どうですか?」
「俺はひとり暮らしですし、時間も不規則だから……」
「マンションはペット禁止ですか」
「そうでもなさそうですけどね。うーん、ほしいけどなぁ」
「ならば、ぜひ」 

「南さんがもらってよ。そしたら私も見にいけるし」
 千郷は勝手なことを言い、迷っているうちに押しつけられてしまった。ならば、とソマリらしさのあるオスの仔を選び、最大に感謝されてお土産ももらって、千郷の友人宅を辞した。

「結局、俺が引き受けたんだな」
「大丈夫だよ。私も手伝ってあげる。マンションだってひとり暮らしだって、猫だったら案外平気だから」
「人ごとだと思って無責任な」

 とは言うものの、俺も嬉しかった。
 子どものころには家に猫がいたこともあるので、戸惑いは少ない。千郷と相談して猫グッズを買って帰り、名前もふたりで相談して小太郎と決めた。

 洋種が混ざっているせいか、月齢のわりには小太郎は身体が大きい。丈夫な四肢で部屋中を駆け回り、元気にやんちゃに大きくなっていく。小太郎を見せて、との口実で、千郷はたびたびマンションを訪ねてくるようになり、彼女とも親密になっていった。

「千郷ちゃんは彼氏がいるって言ってなかったっけ?」
「いるにはいるけど、恭一郎さんは猫友達」
「猫友達と寝るのか?」
「ねこの語源は寝る子でしょ」

 変な理屈ではあるが、これだけの仲ならば俺としてもいやではない。小太郎はどんどん大きくなっていき、いっそう活発になっていって、目を離していると外へ出ていってしまう。千郷が来ていた日にも、小太郎は窓から外の樹の枝に飛び移って、下界へ降りていってしまった。

「ま、オスだしさ、家に閉じ込めるなんてかわいそうだから、外出させてやってもいいつもりだったんだよ。俺の部屋は二階なんだから、ちょっと大きくなったら勝手に出ていくだろうと思ってたんだ」
「だけど、車に轢かれない?」
「猫なのに、そんなドジな……なくもないか?」

 なくもないよ、と言われたので心配になってきて、俺は外に出ていった。

「小太郎、小太郎? 出てこいよ」
 名前を呼んで探している俺を、窓から千郷が見下ろしている。裸の肩が見えて、俺は彼女を見上げて大声で言った。

「俺が見つけてくるから、きみは窓を閉めろ」
「……誰かいるの?」
 背中に声をかけられて、飛び上がりそうになった。

「礼子?」
「どうかしたの?」
「いや、猫が家出したんで探しに出てきたんだよ」

「それで、二階の誰かと喋ってたでしょ」
「小太郎が部屋に戻ってないかと……」
「小太郎にきみって言うの?」

 礼子は猫は嫌いでも好きでもなく、関心が薄いようで、俺の部屋に来ても小太郎にかまうこともない。封神演義には霊獣や仙獣や、顕聖二郎真君であろうとされている道士の犬などが出てくるはずだが、猫はいないのか。猫だったら魔物扱いされるのかもしれない。

「今、ちらっと……」
 たしかにちらっと、俺の部屋の窓のあたりで女の影がちらついた。まずいかな、と首をすくめると、礼子はクールな目で俺を見つめた。

「お取り込み中みたいだから帰るね」
「いや、そんなことも……」
「あなたが西千郷さんと一緒に小太郎をもらいにいったとは、噂に聞いたの。彼女なんでしょ?」

「いや、あの、まあ……」
「猫好きの女性のほうが、恭一郎にはお似合いかな。じゃあね」

 ここはひとまず、帰らせたほうがいいのかもしれない。改めて会って弁解すればいい。それでもどうしても聞いてくれなかったら、別れることになってもやむを得ないだろう。
封神演義にはなんとか公主という名の姫君が出てくる。見送っていた礼子の背中は、そんな姫君のように誇り高くプライドに満ちて見えた。

「おう、いたのか」
 にゃっと小さな声を出してよそのマンションの植え込みから出てきた小太郎が、俺の足元にすり寄ってきた。

「猫はいいよなぁ。オス猫なんてのはあの方面では好き勝手やって、女に詰られたりしないんだろ。おまえの母ちゃんだって、好き勝手やって人間に後始末させたんだから、男も女も同じか。まあ、おまえも好きなように生きろ」

 そのかわり、長生きできなくったって知らないぞ。とはいうものの、猫は長生きなんて望んでいないかもしれない。小太郎を抱いてマンションへ戻っていきながら、俺の部屋の窓を見上げる。礼子が来ていたと気づいているのだろうけれど、千郷はなんにも言わないだろう。彼女も猫みたいな女なのかもしれない。

つづく

今回の主人公もまた、私がけっこう前から書いているキャラのひとり、ロック雑誌の編集者、南恭一郎です。
彼は「茜いろの森」の小説には登場していません。わずかに、友人たちと書いていたリレー小説に名前がちらっと出てきた程度。しかも、南恭一郎と名前を出したのは、グラブダブドリブ小説を知ってくれている私の友人でした。
 次回の主人公はやっぱ小太郎ですよね。


 

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