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小説325(Rollin' Merry Go Round)

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酒

フォレストシンガーズストーリィ325

「Rollin' Merry Go Round」

1

 どれだけインターネットが発展しても、どれほど他メディアが押し寄せてきても、テレビには決してかなわないと言う。
 たしかにそうだろうと、テレビにはほとんど出ないバンドマンは思うわけで。
 人気のあるお笑いやアイドルや司会者やバラエティタレントや俳優は、テレビに出るから顔を知られている。「レイラ」のCDはけっこう売れるし、ライヴにだってお客は入るにも関わらず、僕はあまり街で知らないひとに声をかけられたりはしない。
 ただし、僕は背が高いので目立つらしく、顔もいいので女の子にはたまさか声をかけられる。逆ナンってやつの経験は豊富だった。
「ねぇ、あの……」
 今夜は女の子ばかりに囲まれて飲んでいると、トイレに立ったときに知らない男の子に声をかけられた。
「なに? きみ、綺麗な顔をしてるね。仲間入りしたい?」
「いいの?」
「高校生ではないの?」
「高校は卒業して、フリーターだよ。二十歳だよ。仲間に入れて」
 それにしては小さくて幼いが、自分で言っているのだから信じておいてやろう。彼は僕を知らないようなので、「レイラの」は省いて名乗った。
「戸川黎っていうんだ、よろしく」
「僕は小波、名前は戦国武将みたいで似合わないから、苗字で呼んで」
「コナミ? 名前にもなりそうな苗字だね」
 偽名を使う必要もないのだから、本名なのだろう。僕はコナミを連れて席に戻り、みんなに彼を紹介した。
「こっちのふたりは紹介しなくてもいいかもしれないけど、一応ね。ミズキ、ロックシンガー。カグリ、女優。カグは十五だから、酒は飲ませてないよ。で、もうひとりは紹介しないと知らないでしょ。会社員のユイ」
「コナミ? 可愛いね。カグと同じくらいの年かな」
「二十歳だそうだよ」
「うっそー」
「本当だよ」
 気を悪くした表情になって、コナミが言う。ごめんねー、と言ったのはカグで、全然悪いとも思っていない顔をして言った。
「コナミ、カグの隣にすわりなよ」
「う、うん」
「コナミはカグ、知ってる?」
「女優なんだよね。テレビで見たことはあるよ」
「コナミはひとりで来てたの?」
「うん」
「そしたら寂しいよね。飲もうよ」
 飲もうと言っても、カグが飲んでいるのはカシスウーロンノンアルカクテルだ。ノンアルコールカクテルってものは未成年は飲んではいけないらしいが、アルコールが入っていないのだからいいではないか。二十歳以上が三人もついているのだし。
「カグね、この間ね、フォレストシンガーズのプロモの仕事をしたの」
 将来を嘱望される新人女優、華橘。本名だそうだ。なんでそれをカグリと読むんだ? とミズキが怒っていて、カグはしらっと、カグは知らないよー、パパとママがつけたんだもーん、と言っていた。
「フォレストシンガーズっておじさんじゃん? おじさんが昔を思い出して作った歌のプロモだから、カグはおじさんが昔、好きだった女の子の役なんだよね。陸上やってるかっこいい女の子なんだよ。脚が長くてすらーっとしてて、飛ぶように走るんだ。カグが出てるとこ、かっこいいよ。コナミも見てよね」
「フォレストシンガーズのプロモなんて、僕は興味ないけどね」
「あたしは見てあげるよ」
「うん、ミズキ、ありがと」
 エターナルスノウという、シンフォニックロックをやるバンドのヴォーカリストであるミズキは、昔はなかなかとんがった女の子だった。僕が彼女と親しくなったのは最近だが、フォレストシンガーズの木村章あたりから聞いて、ミズキの若き日も知っている。
 けれど、最近は丸くなってきたのか、大人になってきたのか。この場の主役になりたがる、目立ちたがりの子どもにもミズキは目くじらは立てずにいた。
「そんでね、一回は仕事が終わって帰ったんだよ。次の休みの日に遊びにいきたいって言ったら、マネージャーが駄目だって言ってさ、それでも行くって言ったら、そいつ、カグを車からほっぽり出して帰っちゃったんだよ」
「ふーん」
「だから、カグは歩いていったの。すげぇお屋敷っていうのかな、そんなところでレコーディングやプロモの撮影をしてたんだよ。フォレストシンガーズって金持ち、レイ?」
「あの屋敷はフォレストシンガーズの持ちものじゃなくて、アメリカのシンガーに貸してもらってたんだよ」
「そうなのか。でね、カグはひとりで歩いて、そのお屋敷に行ったの。みんな大喜びしてくれたよ」
「カグは美少女だもんな」
 僕が言ってやると、カグはにっこりうなずき、コナミもうんうんとうなずいた。
「なのにね、そこには女がいたんだ」
「そりゃあ、女だっているだろ」
 ただひとり、芸能界とは無関係なユイは聞き役に徹していて、ミズキもあんまり口を開かない。コナミはカグに見とれているようでもあるので、相槌は主に僕が打ってやっていた。
「なんなんだか知らないけど、掃除のおばちゃんかな。三人くらいおばちゃんがいたよ」
 おばちゃんといえば、本橋さんの奥さんでもあり、フォレストシンガーズのマネージャーでもある美江子さんだろうか。僕はロックバンド時代のアキラの追っかけをしていたから、今でも章とは仲良しだ。誰がおまえなんかと仲良しなんだよっ、と章は言うだろうが、僕は仲良しだと思っている。
 章とのつながりで、フォレストシンガーズとも仲良しだ。特に本橋さんとは仲良しだ。だって、時々頭をごつんとやられるんだから。
 だから、美江子さんだって知っている。カグのことだから、面と向かっておばちゃんと呼んだんだろうか。美江子さんをおばちゃんなどと呼んで失礼な言動を取ると、あの子どもにはきびしい乾さんに叱られたんじゃないの?
「男はカグに優しいんだけど、おばちゃんたちはうるさくてさ、掃除のおばちゃんがマネージャーに迎えにきてもらえって言って、カグが電話番号を教えてあげたから、ほんとに電話しちゃったんだよ」
 それはやはり美江子さんだろう。掃除のおばちゃんとは……本人には言わないでおこう。
「そしたら次の日にマネージャーが迎えにきてさ、そんでさ、カグを蹴ったの。ここ、蹴られたのっ」
 カグは太腿を押さえて悔しそうな顔をし、僕は尋ねた。
「マネージャーって男?」
「そうだよ。そいつがカグを蹴ったり髪を引っ張ったりしてるのに、誰も助けてくれないんだよね。そのときには回りにアイドルの男の子たちがいたのに」
 そいつらは誰だか知らないが、アイドルなんてそんなものだろう。自分たちは怪我をさせられたくないはずなのだから。
「やっと助けにきてくれたのが、木田さんっておじさん。カグのマネージャーはクビになっちゃったから、木田さんにマネージャー、やってほしいなぁ。でも、事務所がちがうから駄目なんだって。カグ、事務所を変わりたいよ」
「それはそう簡単には行かないだろうな」
「なんで?」
「簡単には説明できないよ」
 それに、きみにはむずかしいかもよ、と思って、それ以上は言わなかった。
「だったら、木田さんがカグの事務所に来たらいいんだよ」
「木田さんって誰?」
「誰なんだかは知らないけど、フォレストシンガーズのなにかじゃないの?」
 要領を得ない話しをして、カグはノンアルコールカクテルを飲み、料理をつまんでいる。あとの女性ふたりはたいへんに無口で、コナミも黙って軽いカクテルを飲んでいるだけなので、僕がカグの相手をしてやるしかない。
 「更紗」という名のこの店には、お客が半分くらい入っている。僕らのテーブル以外は一般の人たちだ。僕たちは芸能人といえるのだろうが、ミズキだってテレビにはほぼ出ないし、カグはまだ新人だから、さして顔は知られていない。
 なのだから特に騒がれることもなく、サインを求められるわけでもなく、静かに飲んでいる。ミズキとユイがコスメの話しをはじめ、カグもそっちに首を突っ込んだので、僕はコナミに言った。
「楽しくなさそう?」
「そうでもないけどね」
「あ……」
 話しをしながらドアのほうに目をやると、知っている女が店に入ってきた。ユイもミズキも眉間に皺を寄せ、カグが言った。
「ミルキーウェイだよね? 綺麗だね。ユイだってミズキだって綺麗だけどさ……」
「だけど?」
「なんで三人とも、大人なのに背が低いの? カグがいちばん背が高いじゃん」
「あたしの身長は、レイがみんな持ってったのよ」
 というとつまり、母の胎内にあった「子どもの身長のもと」とでもいうものを、僕が大部分もらって生まれてきたのか。その一年後に生まれた優衣にはわずかしか残っていなかったから、彼女は小柄なのか。
「あれぇ、ミルキー、出ていっちゃったよ」
 カグが言い、僕はほっとした。ユイもミズキもミルキーを好いてはいないのは知っているから、このふたりの女性のために安心したのだった。


2

 スタジオ・スプリング。ここは写真スタジオだ。オーナー夫人のマダム春子が哲司の遠縁に当たると最近知って、春子さんにも親しくしてもらっていた。
「レイラも写真集、出せば?」
「誰が買うの?」
「ファンの方が買うでしょ」
「僕ら、音で売ってるんだよ。写真集なんか売りたくないね」
 ドラムのテディ、キーボードのサム、ベースのガイ、ギターのレイ、が僕ら「レイラ」のフルメンバーだ。全員日本人、全員、ルックスはいいほうだと思う。だからこそ春子さんも、写真集を出せと言うのだろう。
 どこかの出版社が出したいと言ってきたら、ノッテやってもいいけどね、と思いながら、僕は瑠璃の撮影風景を見物している。
 数年前に十代でデビューしたものの、売れなかった瑠璃が「defective boys」のヴォーカリストに選ばれてからは、人気が出るようになった。defective boysは中年男のスタジオミュージシャンたちが、遊び半分でやっているバンドだ。
 実力派ぞろい、業界では顔がきく揃い、そんなおじさんたちに気に入られて引き立ててもらったのだから、瑠璃はいまやいっぱしのスターシンガーだ。可愛い顔をしているし、ワルっぽいところもあって、ロック好きの男の子にも女の子にも人気がある。
「レイ、今夜は瑠璃とデートして」
「いいよ」
「でも、瑠璃、仕事があるんだ。それが終わってからでいい? スタジオスプリングでちょっとだけ写真集の写真を撮るの。レイも来て見てて」
「いいよ」
 ちょっとだけだと言ったくせに、ちょっとでは終わらない。だいぶ長くつきあわされていた。
 だけど、綺麗な女の子が衣装を取り替えて写真撮影しているのは、見物していてもけっこう楽しい。瑠璃は一見は小柄で細身だが、バネのありそうなスポーツウーマンみたいな体格をしている。水着になるとたくましさまでを感じ、それがまたセクシーだった。
「レイ、終わらないみたい」
「そう? じゃあ、僕は帰るよ」
「帰ったらやだっ」
 休憩になって僕のそばに来た瑠璃は、いやいやいやんと身をよじった。
「待ってろって言ったくせに、って怒らないの?」
「仕事なんだから、怒ったってしようがないだろ」
「レイってものわかりいいよね」
「ものわかりが悪いほうがいいの?」
「あたしを好きだったら、ものわかりよくなんかできないはずだよ」
 うん、まあ、好きは好きだけど、デートできなかったら怒るほどに好きではない。瑠璃とデートできなくったって、どこかの店に顔を出せば可愛い女の子はいくらでもいるのだから。
「僕はどうすりゃいいの?」
「そしたらね、この日、空いてる?」
 手帳を覗いて瑠璃が示した日は、僕の休日だった。
「この日をはさんで三日間、休みだよ。僕はそんなには忙しくないからね」
「そうなんだ。じゃあさ、どこかに行こうよ。瑠璃もその日から三日間、休みなの」
「一泊二日か。韓国にでも行く?」
「香港がいい」
「それもいいね」
 ごく軽いノリで、瑠璃とレイの香港旅行が決定してしまった。


 旅行のスケジュールはインターネットにあるものを適当に選んで、組み合わせればいい。破格価格なんてものは求めていないから、一泊二日香港旅行だったら簡単に予約できて、当日、瑠璃と僕は別々のフライトで香港に旅立った。
 これでも僕も一応は芸能人だし、瑠璃は妙齢の美女ロックシンガーなのだから、メディアのカメラがいつどこで狙っているかもわからない。僕は写真だろうがスキャンダルだろうがへっちゃらだけど、瑠璃はそうはいかないだろうから、一緒の飛行機にはしなかった。
 ひとっ飛びで到着した香港のホテルで瑠璃と落ち合い、まずはショッピングにつきあう。香港あたりにだったら日本のメディアのカメラはいそうなので、僕は言った。
「僕は瑠璃の付き人に見えるんじゃないかな」
「レイって自分を知らないよね。レイはあたしほどは有名じゃないだろうけど、かっこいいんだから、背が高くて顔もいいんだから、目立つんだよ」
「それは知ってるよ」
「だからね、あたしを知ってるひとに見られたら、瑠璃の連れのイケメンは誰だ?! って騒がれるの」
「騒ぎたい奴には騒がせておこうよ」
「あたしもかまわないけどね」
 だったらいいよねって、気にしないことにした。
 地元の人々と、世界中からの観光客に混じって歩いていれば、僕の背丈だってそうは目立たない。あ、瑠璃だ、なんて声も聞こえず、瑠璃は意気軒昂とした様子で買い物している。バッグに靴にドレスにアクセサリー、ばんばん買って送ってもらう手配をしていた。
「レイにはこれ、買ってあげる」
「ありがと」
 サングラスをプレゼントしてもらって、僕もお返しにアンクレットをプレゼントする。いっぱい買い物をして食事をして、ホテルに帰ってシャワーを浴びてベッドに入った。
「レイには彼女はいるの?」
「いないよ」
「あたしも今はいないな」
 ベッドにうつぶせて長く伸びた僕の背中に、瑠璃が頬を乗せた。
「デビューする前には彼氏はいたんだよ。彼のほうが歌手になりたがってて、ふたりでフォレストシンガーズのライヴに行ったこともあるの。あのころはフォレストシンガーズがちょこっと人気が出かけてて、出待ちのファンとかもいたんだよね」
 横須賀出身の瑠璃は、彼氏のヒロとふたりして、フォレストシンガーズの出待ちをしていたのだそうだ。
「そしたら乾さんが出てきて、ファンにサインをしはじめたのね。ヒロは乾さんに憧れてて、ふたりきりで話をしたいって言って、女のファンをかきわけて前に行こうとして、乾さんに怒られたの」
 そこの坊や、女性に乱暴な真似をするな!! 少年をびしっと叱る乾さんの姿が目に見えるようだ。
「それでヒロはかっとしちゃって、ガードマンまで出てきたんだよ。つまみ出されたようなものだから、ヒロは怒ってあたしにまで当たるの。それで喧嘩になって、それっきり別れちゃったんだ」
「短気な奴だね」
「あたしも短気だったけどね。そんでね、あたし、そのことで因縁つけて、乾さんを殴ったんだよ」
「へぇえ」
 章が言うには、乾さんは昔から現在に至るまでずーっと、もてもてのもてもてなのだそうだ。僕も女の子たちに乾さんの噂を聞くから、少々だったら知っている。
 ミルキーだのミズキだのは乾さんに因縁をつけたがる。それすなわち、乾さんを好きなのか? あんな奴は大嫌い!! とミルキーもミズキも言うが、瑠璃はどうなんだろう? 裸のまんまで僕の背中に乗っかってきた瑠璃に尋ねた。
「瑠璃は乾さんが好きだったの?」
「ちがうよ。でも、興味はあった。頼りにしたいってのもあったの。ヒロとは別れて、売れないころにも彼氏はいたけど、その男の子とも別れて、それから、次にはポンとつきあってたんだよね」
「ラヴラヴボーイズの?」
 いつの間にか解散してしまっていたアイドルグループ、ラヴラヴボーイズではポンはナンバーワンの人気者だった。
「そ、そのポン。ポンともフォレストシンガーズの関わりで知り合って、彼には彼女がいたのに、あたしが奪っちゃったの。っていうか、セックスしちゃったんだよね。こうなったんだからポンはあたしのものだって言ってるのに、ポンはモトカノのほうがいいとか言う。喧嘩になってポンに殴られて、乾さんに助けを求めたことがあるんだ」
「おまえ、殴ったり殴られたりって多いね」
「そうでもないよ。そんでね」
 ポンはそのころつきあっていた彼女と別れ、瑠璃ともじきに別れたのだそうだ。
「それからだって何人かとつきあったけど、今はいないな。レイだって彼女はいたこともあるんでしょ。何人と寝た?」
「寝た数なんか覚えてないけど、彼女ってほどの女の子はほんの二、三人だよ」
「少なーい。ほんと?」
「ほんとだよ」
 くるりと身体を反転させて、背中に乗っていた瑠璃と真正面で向き合った。
「ねぇ、レイ?」
「なに?」
「テディには彼女はいるの?」
「うちの三人、みんな彼女はいるみたいだよ」
「それもほんと?」
「ほんとだよ。あ、こら、瑠璃、おまえ、テディが好きなのか? テディは真面目に彼女とつきあってるんだから、横から割り込むなよ」
「どうして? いいじゃん、瑠璃の勝手じゃん」
 僕の仲間が好きだと言っているくせに、僕と寝るとはどういう了見だ、とは、今の僕の立場からすると言えないのだった。
「瑠璃は人のものをほしがって、人のものだからこそ自分のものにしたがる。手に入れたら即座に飽きて捨ててしまいたくなる。そういう奴なんだろ? 僕はテディをそんな目に遭わせたくないから、おまえがテディにちょっかい出そうとするのは阻止するぞ」
「だったら、瑠璃はレイの彼女になる」
「やだよ。僕は瑠璃におもちゃにされて捨てられたくないね」
「やだよ、ほしいよ」
「僕は誰のものでもないんだから、つまんないだろ」
「ううん、レイだったらいいの」
 どこまで本気で言ってるんだか。信用したら馬鹿を見るって奴だとしか思えなくて、僕は瑠璃の裸身をくすぐって悲鳴を上げさせてやった。


3

 休暇明けの仕事の第一弾はラジオ出演。FM放送のゲストとして、ガイとふたりで出演した。
「お休みだったんですってね。ガイはどこに行ってたの?」
「俺は自宅で掃除、洗濯、トレーニング、ランニング、余暇はひたすら寝てました。レイは?」
「僕はバリで美少年ハレムに滞在していました」
「レイ、聴いてるひとたちがマジで受け取るぞ」
「マジだよ」
 嘘ばっかりの話をDJさんがかき回してくれて、楽しくトークをすませた。
「ガイ、ほんとはどこに行ってたの?」
「田舎に帰って親孝行してたよ」
「嘘だろ」
「嘘だ。おまえは?」
「だから、僕は美少年ハレム。うちではレイはゲイっぽいってのか、中性的スタンスだろ。ファンのみなさまのご期待にお応えしなくちゃ」
「美少年ハレムなんて、想像しただけでえづきそうだ。男の……」
 放送が終わるときわどい話もしながら、局の前までやってきた。ガイと僕の前にタクシーが停まり、中からミルキーが僕らを呼んだ。
「ガイもいるの? あたしの話、聞いて」
 帰るにはまだ早い時刻だったから、ガイと僕はタクシーに乗って、ミルキーのなじみの店に連れられていった。
「これ見て」
 個室に入って三人でテーブルを囲むと、ミルキーがメールを見せた。

「昨夜はありがとう、楽しかったよ」
「あなたが僕に送ってくれたサイン、たしかに受け取ったから」
「うん、わかったよ、約束だね」

 最初はその三通だった。
「ありがとう、楽しかったよ、って、知らない相手からメールが来たわけだけど、あたしにはそういうのもあるの。非通知でも受ける設定にしてあるんだ」
「これはプライベートなケータイ?」
「うん、だけど、プライベートでもつきあいは広いから」
 大勢で賑やかに飲んでいて、友達が混ざっていたりすれば、誰かが誰かにミルキーのメールアドレスを教えることだってある。そんなつながりで送られてきたのかとミルキーは思った。
「でも、サインだの約束だのって、なんのことだかわかんないじゃない? 酔っててそのようなことでも言ったのかな。そもそもこれって誰? って不思議になってきたんだよね」
 メールはその後も送られてきた。

「おはよう。昨夜も楽しかったよ」
「昨日は僕と約束したのに、どこに行ったの? どこで泊まったの?」
「昨夜もマンションに帰ってこなかったね。外泊ばっかりはよくないよ」

 続いて、何通も何通も。

「僕は心配だよ。そんな生活をしていたら、あなたの心も身体もこわれてしまうよ」
「一緒に暮らそうって言ったじゃないか。あなたが僕にメールで、すぐに来てって言ってくれたら駆けつけるのに、どうしてメールしてくれないの?」
「僕はあなたを守りたい。あなたのそぱで見守ってあげたい」
「こんなに愛しているんだ。あなただって僕を愛してくれてるんでしょ? メールして」
「レイだって言ってたよ。あなたを守るのはきみの役目だって、僕に言っていたよ」

 これって? ガイと僕は顔を見合わせ、ミルキーは言った。
「レイって名前が書いてあるでしょ? レイには心当たりない?」
 ぴこんっ!! と来るものだったらあった。
「はじめてメールが届いた日は?」
 確認してみると、あの日の翌日だ。僕がカグとミズキとユイと四人で飲んでいて、ゆきずりの男の子を誘った。五人になってお喋りしていると、というよりも、主にカグが喋っていたら、ミルキーが入ってきた。
 「更紗」でのあの夜しか、僕は最近ではミルキーには会っていない。ミルキーとレイと見知らぬ「僕」がつながるのはあの夜しかなくて、すると、「僕」はコナミ?
 あのときにはミルキーは僕らをちらっと見ただけで、近寄ってはこなかった。したがって、ミルキーはコナミを意識もしていなかったかもしれない。が、コナミのほうはなにかを思い込んだとしたら? ミルキーの一瞥をサインだと受け取ったとしたら?
「この発信先にメールすれば、彼が誰だかは知れるよね。メールしてみたらいけないのかな」
 ミルキーが言い、ガイも言った。
「レイ、なにか考えてるんだろ?」
「コナミはどうやって、ミルキーのメールアドレスを知ったんだろ」
「コナミって?」
 ガイとミルキーが同時に質問し、僕は言った。
「あとから説明するけど、一ファンがシンガーのプライベートなメルアドって、調べられるものなのかな」
「裏サイトってのがあるから、調べはつくだろ。ミルキーのプライベートな知り合いが、裏サイトでミルキーのメルアド情報を売ってる可能性もあるんだもんな。有名人のケータイアドレスやメルアドって、金になるはずだよ」
「それだったら……」
 コナミとは誰なのか、僕はガイとミルキーに説明した。
「ミルキーの目つきだって、テレビやラジオで喋ったことだって、雑誌に載ったときのなにかだって、歌の文句だって仕草だって、こういう奴にはサインに読み取れたりするんだよ。まあ、ミルキーだったらそういうことはないほうが不思議なほどじゃないのか」
 香港で僕が遊んでいるうちに、ミルキーにこんなことが……コナミが犯人なのだったら、僕にも責任の一端はある。ガイは続けて言った。
「それにしたって、こんなメールは気持ち悪いって、保存なんかしておかないだろ。ミルキーはどうするつもりだったんだ?」
「コナミって美少年だって言ったよね」
「うん、可愛い子だったよ」
 あの面食いカグがいたくお気に入りだったのだから、幼いイケメンだ。
「気持ちよくはないけど、レイがそうやって正体を明かしてくれたら、なんだか面白くもなってきた。メールしてみよっと」
「やめろって」
「やめろ」
 ふたりして言って、ミルキーの手からケータイを取り上げた。
「俺がメールしようか」
「なんて?」
「俺の女になにをふざけたメールを送ってきてるんだ? てめえは誰だ? 勇気があるならどこどこに出て来い、ってさ」
「あ、それ、面白いかも。やってやって」
 あのコナミならばガイにかかったらいちころだろうが、ナイフでも振り回されたらなんとする? 
 僕は心配してるってのに、ガイとミルキーはノーテンキにもコナミをどうあしらうかで盛り上がっている。僕の頭の中には、こんな歌が聴こえていた。

「今日もあなたの傍にいてあげる 302号室
 「愛してる」証明が欲しいだけ
 知らない振りしないで

 今日もあなたを見守ってあげる 302号室
 朝10時部屋から出てきたのは
 見た事無い女

 あぁわかったあいつが押しかけて
 あなたはやさしすぎるから
 PIKO Rollin' Merry Go Round Lyrics
 余計なモノは私がまた消してあげる

 Rollin' Merry Go Round 廻れ廻れ
 二人だけのパレード
 追いかけたって届かないなら
 サカサマ行けばいいでしょ
 濡らした赤い花 夢の中
 1,2このまま 3,4あなたと
 笑って笑って堕ちてゆく

 今日もあなただけ愛してあげる 302号室
 留守番電話には愛の言葉
 何度も詰め込んで」

 チャールストンにも似たメロディに乗って、女の子のような男の子が歌う。声までが男だったり女だったりする綺麗な男の子が、怖い歌をうたう。
 そんなにコナミを侮っていいの? そうやって笑いものにすると祟りがあるぞ、と僕は言いたい。
 悪いことは言わないから、ミルキー、そんなメールは消して、一切そいつとはコンタクトは取るな。ガイもコナミとなんか関わるな。もしも僕がコナミに会ったら、馬鹿な真似はやめろって説教しておいてやるからさ。
 そう言ってもふたりとも、ろくに聞いてもいない。コナミも聞いてはくれないんだろうか。厄介ごとが起きるんだろうか。こういうときって誰もが言うように、乾さんに頼るべき?

END





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~ Comment ~

NoTitle

遅れてしまいましたが、
あけましておめでとうございます。
どうぞ今年もよろしくお願いします。

お正月にお餅をひたすら食べて1キロ太ってしまいました。
いや、やっぱりおいしいのです、つきたてのお餅は。
うちは色んな味を用意するのですが、
あかねさんは何のお餅が好きですか?

仙台=ずんだ餅、と言われるのですが、我が家では食べません。
基本は、あんこ、納豆、きなこ、くるみ、ごま、砂糖醤油でしょうか。
あとは大根おろしに小エビ(オキアミ)を入れたのとか、
しょうが醤油とか……ひたすら色んな味を楽しみます。
大阪は何が基本なのでしょうか?

あと仙台と言えば初売りですね。
とにかく景品が多くて、それ目当ての人が大勢います。
中には景品が欲しいから商品を買う、みたいな人もいます。
お茶屋さんは木箱が人気で、福袋じゃないのに行列ができます。
法律でオマケとしてつけていい額がきまっているそうで、
仙台はそれが大幅に緩和されているそうです(初売りのときだけ
つい最近までそれを知らずに、全国みんな初売りは似たようなものだと思っていました。

地元しかしらないからそれが当たり前だと思っていると、
結構はずかしい場面に遭遇したりします。
大阪限定の習慣みたいなのはあるのでしょうか?


では、どうぞ今年も猫話も含めてよろしくお願いします。



ハルさんへ

今年もコメントありがとうございます。
なにとぞよろしくお願いします。

お餅、お好きなんですね。
私も決して嫌いではないのですが、ほとんど食べません。そもそもお米をあまり食べません。

我が家ではお餅を食べるのは鍋もののときに、しゃぶ餅とかいうのを入れる程度です。
お正月にはお雑煮も出てきますが、私は食べません。
おせちを食べてワインを飲んだりしたら、とてもじゃないけどお腹に余裕がないのですよ。

どうも私には別腹はないようでして。

普段も夜はお米のごはんを食べませんので、我が家のコメ消費量はたいへん少ないです。
パンは食べるんですけどね。

大阪のお雑煮は白みそ仕立てが一般的だそうですが、私の母はすまし汁の雑煮を作りました。
父の故郷、香川では白みそのおつゆに大福もちみたいなのを入れるそうで、不思議な感じがしますよね。それは私も食べたことがありません。

初売りというか、年末年始のバーゲンには昔はけっこう行きましたけど、最近はそれもさっぱりです。
もとから安い服しか買わないし、買い物ってそれほど好きでもないし。

なんだかつまらない人間ですみません。
昔だったら大阪特有の文化や習慣もあったのでしょうけど、近年はどこも同じなのかなぁ。

大阪は商人の街ですから、今年もえべっさんは大賑わいみたいです。
九日からの今宮戎、「えびす」が大坂では「えべっさん」になるんですね。
ひと駅離れた繁華街に八日に行ったら、すでに屋台がそんなところまで進出してきていました。

このごろはアジアからの観光客が多くて、えべっさんもさまがわりしているかも。
この季節の大阪特有の風物詩といえば、「えべっさん」ですね。
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