連載小説1

「We are joker」24 

 ←小説324(人の縁とは) →34「ディドリーム」
「We are joker」

24

 毎日のようにケーキに触れていても、やっぱり好きだ。恵似子がアルバイトしている店のケーキはリーズナブルで美味だと評判もよくて、人気がある。香苗が恵似子のために選んでくれたチョコレートケーキは、恵似子の好物でもあった。
 なのに、なんだかおいしくない。香苗ちゃんと武井さん、楽しそうだな、私なんかいないほうがいいのかな……つい、そう思ってしまうと食欲が失せる。

「えっとね、私、帰ろうかな」
 薫り高い紅茶を飲んでケーキを食べて、お喋りしている伸也と香苗を見ていると、恵似子の口から呟きが漏れた。

「帰りますから」
「ええ? どうして?」

 怪訝そうに香苗が問いかけ、恵似子は思う。
 ここは私の家ではないのだから、香苗ちゃんはゆっくりしていってね、と言うのも変だろう。では、どう言えばいいのか。悩んでいると、香苗が言った。

「すねちゃったの? うん、それもいいかもね」
「どうして……いいの?」
「あなたたちってじれったいんだもん。そしたら私が帰るから」
「帰ったら駄目」

「あのね、恵似子」
 肩に手を載せてきて、香苗が恵似子の耳元で囁いた。

「すねたっていいんだよ。やきもちを妬いて武井さんを困らせて、いい方向に進むようにすればいいのよ」
「……それって?」
「あなたたちってまだなんでしょ? 怒ったりすねたり、ちょっとだけ泣いたりもしたら、そっちへ進むって」
「……香苗ちゃん」

「もうっ、純情なんだから」
 純情なんだから、は大きな声で言って、香苗は立ち上がった。

「それじゃ、私は帰るからね」
「ああ、そう? あんまり遅くなったらいけないんだよな。恵似子ちゃんも帰るんだろ。駅まで送っていくよ」
 伸也が言い、香苗も言った。

「なんだってそうなるの? 私はひとりで帰るから」
「ひとりで帰ったら危険だろ」
「危険でもないけど、武井さんが心配してくれるんだったら、タクシーを呼ぶよ」
「タクシーか。リッチだね。そうするんだったら恵似子ちゃんも乗せていってやって」
「いやですよぉだ」

 香苗が拒否するのは、伸也と恵似子をいい方向へと進めようとの魂胆からだろう。恵似子にだって香苗の言う「いい方向」とはどちらなのだかはわかるが、そんな方向に進んだら、私はどうすればいいの? である。
 パニックになりそうになって、恵似子も立ち上がった。

「私も帰るから、香苗ちゃん、一緒に帰ろうよ」
「……なんでそうなるの? 恵似子ったら……」
「ふたりで帰るんだから、送ってもらわなくてもへっちゃらだよね。行こうよ、香苗ちゃん」
「恵似子ったら恵似子ったら……武井さん、止めないの?」
「いや、止めることもないかと……」

 怒り顔をしている香苗の手を引いて、恵似子は外へ連れ出した。ごちそうさま、おやすみ、との伸也の声を背中に聞いて、外に出ると香苗が言った。

「恵似子は武井さんが好きなんでしょ」
「好きっていうか……好きだけど……」
「キスとか、怖い?」
「というか、武井さんのほうがいやだろうから……」
「キスするのもいやな女と、つきあうわけないじゃん。恵似子は彼に嫌われていると思ってるの?」

 嫌われてはいないのかもしれない。嫌いだったらつきあおうとは言ってくれないはずだ。
 けれど、伸也が恵似子につきあってほしいと言ったのは、もののはずみだったような気がしてならない。彼はああ言った手前、楽しくもないのに恵似子と交際しているのだと思えてならない。サービス精神で恵似子の相手をしてくれているのではないだろうか。

 つきあってほしいと言われたときには、恵似子は耳を疑った。それから胸がいっぱいになって、心から嬉しくなった。
 浮き立っていた気分が落ち着いてくると、疑惑も頭をもたげてきた。
 それでも、伸也は恵似子をデートに誘ってくれる。デートをすればお喋りだってしてくれる。饒舌な伸也は誰とだって親しく話すのだから、あのお喋りは習慣のようなものなのかもしれない。恵似子と喋っていても芯から楽しいというふうには見えない。

 疑心暗鬼というやつなのだろうか。彼氏になったはずの伸也を疑うなんて、私は心が狭いのだろうか。恵似子もそう考えてしまうから、彼氏のはずの伸也の前では以前以上に態度が強張ってしまうのだった。

「信じられないカップルだよね」
「……そうかな」
「恵似子、うちに泊まる?」
「ごめん。今夜は私のアパートに帰る」

 問い詰められたり激励されたり、ハッパをかけられたり、香苗が恵似子のためを思って言ってくれているのは知っているつもりだが、今夜はひとりになりたかった。

つづく






スポンサーサイト


  • 【小説324(人の縁とは)】へ
  • 【34「ディドリーム」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

あかねさん、今日も読ませていただきました。
続きが気になります!

もっとゆっくり書きたいのですが、もうすぐネットが切れるので・・・
またゆっくり感想を書かせていただきますね。
急ぎ足ですみません。いつも寄っていただき、ありがとうございます!

台風は大丈夫でしたか?

美月さんへ

昨夜はかなり雨が降っていて、また川が増水したらどうしようかと思っていたのですが、大阪はたいしたことはありませんでした。
美月さんのお住いのほうはいかがでしたか?

ネット環境につきましては、ご事情がおありなんですよね。
読んでいただけて、読みましたよぉ、とコメント下さるととてもとても嬉しいですので、それだけでも感謝しております。

余裕のあるときにご感想いただければ、さらに嬉しいです。
ジョーカーシリーズは長~く続く予定ですので、気長に読んでやって下さいね。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【小説324(人の縁とは)】へ
  • 【34「ディドリーム」】へ