ショートストーリィ(グラブダブドリブ)

グラブダブドリブ・ドルフ「少年」

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フォレストシンガーズショートストーリィ7つ、というのがあります。
フォレストシンガーズストーリィ1-第一話「はじまり」

私にとっては同じくらいに愛着のあるグラブダブドリブも、6つのショートストーリィにしました。

第一話・司「雪の朝」
第二話・ジェイミー「プルシアンブルー」
第三話・ドルフ「少年」
第四話・ボビー「Coin toss」
第五話・悠介「個人教授」
第六話・真柴豪(グラブダブドリブのプロデューサーです) 「りばいばる」

できましたら、第一話から続けてお読みいただけると幸いです。





グラブダブドリブ

「少年」

 どこがどう変わったわけでもないのに、人々が俺を見る目は変わった。
 身体が大きくて、容貌だって西洋人のものでしかないのだから、日本では大きな外国人という意味で目立つ。

 高校生のころに父親の仕事の関係で、母、兄と俺の一家そろって日本に来て、高校は尋常に卒業した。兄が体育大学を出て教師になるつもりでいたので、俺もこの身体といい、運動能力といい、それも適切かと思って、体育大学に入学した。

 が、俺には教師なんか向かないとわかってくる。ドルフは怖そうだから、生徒指導の教師になって高校生を補導すればいいと友人に言われたりもしたが、そんなガラではない。

 将来はどうするかなぁ、と悩んでいるうちに、俺はロックドラムにどんどん傾斜していった。バンドに加わったりソロでやったり、バンドも男ばっかりだったり、女の中にドラムの俺だけが男だったり。アマチュアロッカー時代を経て、グラブダブドリブでメジャーデビューした。

 背丈も体格も大きいのとむっつりした老け顔のせいとで、俺は昔から年齢よりも上に見られた。そのため、高校生のときには不良大学生に見られ、大学生になると不良ロッカーにしか見られなくなり、誤解もされた。

 誤解したい奴はしていればいいのでいいのだが、それでも、アマチュア時代はただのドルフ・バスターだった。そのころの俺となにが変わったのか? 変わったといえば、稼げるようになって広い部屋に住むようになった程度なのに、別の誤解をする奴が増えてきた気がする。

 テレビってものは我々の一面しか映さない。グラブダブドリブに興味があれば、ライヴに来てくれ、俺たちはファンに向けてそう発信している。CDを出す、雑誌のインタビューに応える。ケーブルテレビの音楽番組でPVを流したり、グラブダブドリブ特集としてライヴを流したりするのは受ける。

 そういった活動がメインなので、俺たちはライヴが多い。大きなホールでもやれば、地方の小さいライヴハウスにも出向く。ヴォーカルのジェイミーは「歌こそ我が命」であり、仕事でなくても歌っていたい奴なので、いつだってどこでだって歌うのは大歓迎なのだ。

 寝ているのも好きだが、俺だってドラムを叩くのは好きだ。
 関東の小都市に昨日からやってきて、本日はライヴハウスの控え室には俺が真っ先に到着し、ヘッドフォンをかぶってドラムの練習をしていた。

「ドルフさん、ドルフさん、ドルフさーんっ!!」
「なんだよ」

 ライヴハウスの従業員が大声で呼んでいるので、俺はヘッドフォンをはずした。

「ものすげぇ声を出しただろ。聞こえなかったけど、あんたの表情や口で大声を出してるとわかったよ。無駄だから大声は出さずに、肩でも叩いて呼んでくれ」
「怖いから……いえ、あの、なにしてるんですか?」

「練習」
「スティックを持たずに?」
「そういう練習なんだよ。なんか用?」
「えーっとですね」

 ぽちゃっとしていて背も高くない彼は、本当に俺が怖いのかもしれない。むやみに人を食ったりしねえよ、と言うとよけいに怖がられそうなので黙って見返していると、彼は言った。

「ドルフさんに会いたいって人が来てるんです」
「ファンの方? そういうの、このライヴハウスでは取り次ぐのか」
「ファンだったら取り次がないけど、ドルフさんの兄さんの教え子だって……」

 兄はかねてからの希望通りに高校教師になっているので、教え子というものもいる。俺もそのうちの何人かとはなじみがあった。

「遠藤平馬って名乗ってましたよ」
「ヘイマ……ああ、覚えはあるな」

 高校一年生のときに兄が担任した生徒に、ヘイマという名の男の子がいた。兄も俺と同じく身体はでかいのだが、太っているせいもあって親しみやすいのか、怖そうというふうには作用しないらしくて生徒たちに慕われていて、時々は兄のマンションに招いていた。

 たまたま俺も兄のマンションに遊びにいって、出会って一緒に飲み食いした少年たちの中に、ヘイマがたしかにいた。珍しい名前だろうから、彼にまちがいないだろう。

「ヘイマに会ったのは一度きりだけど、兄貴の教え子ってのは偽りではないはずだよ。一昨年くらいだったから、まだあいつは高校生かな」
「高校生なんですかね。髪にメッシュを入れて、不良っぽい感じですけど」
「そうなのか」

 あの高校はわりあい真面目な服装の生徒が多かったはずだが。
 まあいい。知らない相手でもなさそうだし、訪ねてきてくれたのなら追い返す必要もないだろう。連れてきて、と頼むと、従業員がヘイマを案内してきてくれた。

「こんちは」
「兄貴がおまえらに説教してたの、覚えてるぞ。服装の乱れは心の乱れ、生活態度の乱れにつながるんだって。そんな格好、していいのか」

「このくらいはいいんだよ。鼻ピアスと髪のメッシュくらいは、うちの事務所ではOKなんだ。アイドルはピアス駄目、茶髪くらいはいいけど、過激な髪の色は駄目。私服でもいちいちチェックが入るって事務所もあるけどね」
「事務所?」

 一昨年に会ったときからすれば、背は伸びたのだろう。それでもやや小柄で細くて、少年特有の体格をしている。記憶にあるヘイマ以上に整った顔になっているようにも見えた。

「芸能事務所か?」
「あのお兄さんには言ったんだよ。ってか、彼は気がついた。HOMAREのヘイマさんって? ドルフには彼の兄さんの教え子だとしか言わないでって頼んだから、言わないでくれたんだね」
「……HOMARE?」

 そのような名前のアイドルグループがあるとは、聞き覚えはあった。従業員はヘイマがアイドルになっているとはおくびにも出さず、不良っぽいだなどとうまくとぼけたものだ。

「僕、あれからちょっと問題を起こして、高校は中退したんだよね」
 ひとりひとりの生徒について、兄貴が弟に話すわけではない。兄とはそれほど会う機会もないので、教え子がアイドルになっているとは聞いていなかった。

「よその高校に転校するのもかったるいって思ってたら、アイドル事務所にスカウトされてさ、去年、HOMAREのメンバーとしてデビューしたんだ。それほど売れてるほうでもないけど、ちょっとずつは有名になってきてるんだよ」

 HOMAREのメンバーは全員が、姓とカタカナ名前のステージネームを持っている。女の子の一番人気は木村シンヤ、と聞かされると、ああ、そんな奴、いたっけな、と思い当たった。

「シンヤはドラマに出てるから、僕らの中ではいちばん有名かな。僕も遠藤ヘイマって、名前のほうはカタカナ。それでね、グラブダブドリブも有名になってきたでしょ。僕はドルフの兄さんの生徒だったんだよって、芸能界で知り合った奴らだとかに言っても、嘘だって言われたりするんだよね。本当だもんね。ねぇ、ドルフ」
「んん?」

「今度、うちの事務所でパーティやるんだ。シンヤがはじめてドラマで主役をやるお祝い。僕らメンバーはおまけみたいなものだけど、お客をたくさん招待するんだよ。ドルフも来てくれない?」
「俺はそういうのは苦手だよ」
「そんなこと言わずに、来てよ」

 つつっと近づいてきて、ヘイマは俺の腕を両腕で抱きしめた。

「たくましい腕だな。僕はあのころからドルフが好きだったんだ。うちの事務所は女の子とのスキャンダルは絶対に駄目だって言うけど、男とだったらいいんじゃないかな。だいたいからして僕だって、HOMAREのメンバーに選ばれる前には事務所の重役に抱かれたもんね」
「……」
「重役って男だよ。だけど、それは一回だけ。ドルフの恋人になってあげてもいいよ」

「俺はゲイじゃないぜ」
「女は嫌いだって、この間、ラジオで言ってたじゃん?」

 女は好きではないし、恋人を持ちたいとも思わない。だが、イコールゲイではない。そういう方面の興味が完全に欠落しているだけだ。

 グラブダブドリブではジェイミーと司はありふれた女好き。悠介は女嫌いだというが、俺とは女嫌いの種類が異なる。ボビーも恋よりも音楽が好きだというが、彼女のいた時期は何度もあるらしく、ただ、長続きしないだけであるらしい。

 俺だって女との経験がゼロってわけでもないのだが、続けていく気にはならない。恋愛方面に必要な努力をするのがいやな怠け者なのかもしれない。

「あれはジェイミーが面白おかしく話しただけで、一種のネタだな」
「女は好きなの?」
「女は好きじゃないけど、おまえも好きじゃないよ」

 はっきり言ってやると、ヘイマは口をとがらせた。それから目をこすってくすんくすんと鼻声を出す。どうしてほしくてやっているのか知らないが、俺は言った。

「泣き真似につきあってる時間はないんだよ。出ていけ」
「つめたいんだね。じゃあ、これ」
 
 即座に声がもとに戻ったから、嘘泣きだったのは本当なのだろう。ヘイマはテーブルにメモを残して出ていった。

「なんだ、これ? ケータイ?」

 携帯電話の番号とアドレスを記したメモをゴミ箱に捨てたあの日から、およそ十年。
 アイドルグループとロックバンドは活動の場がちがうから、HOMAREとグラブダブドリブが接する部分などはなくて、売れてるらしいよ、との噂を聞く程度だった。

「兄貴の教え子がアイドルになったんだって?」
「遠藤か。そうらしいな。あいつも生きる道を見つけてよかったじゃないか。ドルフ、会ったのか?」
「まあ、近い業界だからさ」

 兄とはそんな話をしただけで、俺はHOMAREのことなど忘れていた。
「木村さんでしょ? 俺も木村、覚えてる?」

 その夜、俺はフォレストシンガーズの木村章と飲んでいた。
 フォレストシンガーズとは男五人のヴォーカルグループで、音楽的にはグラブダブドリブとはまるっきりちがっているのだが、章は過去にはロックバンドのヴォーカリストだったから、俺とは昔なじみなのだ。

「木村なんてどこにでもある苗字だろ。でも、おまえ、見たことあるな。ドルフの知り合い?」
「いいや。だけど、俺も見たことがある気がするな」
「ドルフってグラブダブドリブの? すっげぇ有名人にふたりも会っちゃったよ。おごってよ」

 皮肉っぽくも図々しくも言って、木村と名乗った男が章と俺たちの間に割り込んできた。
 わりあいに背が高くて、だらしなくゆるんだような体格をしている。年のころなら俺たちよりはやや下か。見ようによっては綺麗な顔なのだろうが、浮かべている笑みは卑しげだとしか言えなかった。

「どこで見たんだったかな? おまえ、もとロッカー?」
「ロッカーじゃないけど、テレビで見たんじゃない? 俺はドルフには会ったことないけど、木村さんには会ったよ。俺も木村っていうんだ、って、そのときにも名乗ったよ。あのころは俺のほうがずーっと売れてたんだよな」
「歌手なのか?」

 ちがうともそうだとも言わず、木村は章を見つめている。俺には会ったことはなくて、俺たちはテレビで見たことがあるはずの木村……木村……俺の知り合いの木村は木村章以外には高校時代のクラスメイトにもいたが、あれは女だったし。

 まさか、高校の級友の木村某が性転換して有名人になったとか? 今どきならぱ荒唐無稽とばかりはいえないことを考えていると、章ではない木村が言った。

「フォレストシンガーズは売れたよね。グラブダブドリブはあのころから売れてたから、ヘイマがドルフに取り入ろうとした気持ちもわからなくもなかったよ。俺も木村さんに、あんたの恋人にしてって言えばよかったのかな」
「俺にはそんな趣味はないよ」
「俺にだってないよ。ヘイマにもなかったはずだよ」

 あんたの恋人にして? その言葉と、ヘイマの名で思い出した。

「おまえ、HOMAREの木村シンヤか?」
「木村シンヤ……あーっ?!」

 思い当たることがあったらしく、章が叫び、木村シンヤであるらしき男はうなずいた。

「はじめて俺が木村さんに話しかけたときは、俺たちは盛りだったんだよ。フォレストシンガーズは売れてなくて、あんたんとこの誰かをうちの事務所に引き抜こうとしてたんだよな。たしか、うちの事務所の女の子のグループに、フォレストシンガーズの誰かを入れるって話だった。あいつらも売れないまんま、どうしたかなぁ。俺は事務所もクビになったから、あのころは仲間だなんて言ってた奴らがどうしてるのかも知らないよ。俺たちみたいなのは、こうなっちまったらおしまいさ。だけど、俺には芸能界にいたころの知り合いもいて、むこうは忘れちまってても俺は覚えてるから、そういう奴を見かけたら寄っていっておごってもらうんだ。おまえらなんか稼いでるんだろ。俺はまともな仕事もないんだよ。このまんまだったら麻薬の売人に……」

「ヤクなんかやるなよ。やってないんだろうな」
「さあね。木村さん、あんたの仲間は俺の事務所に移らないでよかったね。うちの社長なんて非情ってのか冷酷ってのか、俺はクビになってよかったよ。木村さんは優しいね。俺がそこまでは落ちないようにって心配してくれてるの?」

「心配ではないけど、そこまではやるなよ」
「心配してくれてるんじゃないか。優しいね。寝てあげてもいいよ。俺はまだ綺麗でしょ?」
「さわるな、気持ち悪い」

 とか言いながら、章はシンヤを力任せにふりほどくまではしない。ぐちぐちと言っているシンヤにからみつかれて辟易している章の腕を、俺が引っ張った。

「こんな奴と関わるな。章、帰るぞ」
「あ、ああ。しかし、こいつ、ここに放っていっていいのかな」
「関わるなって言ってるだろ。変な同情はやめろ」
「うん、わかった」

 なんだよぉ、つめたいの、優しくないの、うだうだぶつぶつ言っているシンヤをそこに残して、章とふたりして酒場から出ていった。

 あんな奴に会って気分がよかろうはずもないから、章は不機嫌になっている。俺も喋る気にもならなくて、脚の短い章の歩幅に合わせるのも面倒になってきて、自分のペースで歩いていた。

「かっこいい外人さんだな。暇?」

 客引きなのかいかがわしい商売なのか、可愛い声の少年が声をかけてくる。染めた金髪と片耳の大きなピアスが、十年前のヘイマを髣髴とさせる。シンヤだって十年前にはこんな少年だったのだろう。我が世の春を謳歌していたアイドルは、十年たってあんな男に成り果てた。

 足早に歩いていたので章とははぐれてしまい、帰ろうかとタクシーを探す。ビルとビルの隙間で、うろんな立ち話をしている男ふたりが目に入る。なんの話をしているのか知らないが、雰囲気だけでもろくでもなさそうだ。

「……ヘイマ?」

 もしもあの一方がヘイマだとしても、俺にはどうにもしてやれない。そんなはずはない、ヘイマがいるはずもない。俺はその男たちを見ないようにして、タクシーだけを探していた。

END




 
 
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