ショートストーリィ(雪の降る森)

フォレストシンガーズ「雪の降る森-another」

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フォレストシンガーズ

「雪の降る森
     ---another」


 真夜中にラジオをつけたら、大好きな大好きなひとの声が聞こえてきた。

「秋の夜長の楽しみは、読書ですよね」
「いいえ、音楽です」

 ひとりは大好きなひと、ひとりは興味のないひと。ふたりともに大好きなひとだったらよかったのになぁ。ううん、それよりも読書だと言っているほうのひとと、私がお喋りしているんだったらいいのにな。たちまち、私は空想の世界へ旅立っていく。

「ユキも本は好きだろ」
「好き。ユキは本を読むのもイラストを描くのも、小説みたいなものを書くのも好きなの」
「そう言ってたね。読ませてくれよ」
「駄目」

「読書ってのも悪いことではないけどさ」
 もうひとりの、私の大好きなひとの声も聞こえてきた。

「インドアばかりじゃ不健康だぜ。ユキ、俺とハイキングにいこうか」
「やだぁ。ユキはすぐに疲れちゃうから、ハイキングなんかしたくないの」
「疲れたら俺がおぶってやるよ」
「本橋じゃなくて俺がいいんだろ、ユキ?」

「乾、おまえ、まだいたのか」
「これは俺の番組だ、おまえは帰れよ」
「いやだね」

 本橋さんと乾さんったら、私を真ん中にするといがみ合うんだから。
 困ったなと思いながらも嬉しくて、うふふっと笑うと、乾さんに抱き寄せられた。

「この性悪小悪魔。楽しんでるだろ。あとで……」
「きゃあん、いやん、本橋さん、助けて」
「ああ、助けてやるよ。おまえとあとでふたりっきりになるのは俺。乾には渡さない。俺がおまえをさらってってやる」
「言ったな。勝負するか」
「してもいいぜ、へなちょこ乾くん」

 やだやだぁ、ぞくぞくっ。
 喧嘩をしないで、って本橋さんに囁き、あたしはどっちのものにもならないの、って乾さんにも囁く。ふたりともに私を抱きしめたがって、するっと身をかわしてうふっと笑って、ため息をつかせる。

「可愛い小悪魔のユキ、好きだよ」
「おまえを俺のものにするには、どうすればいいんだ」

 ちょっぴり苦しそうな顔でふたりが言うのが、最高に快感。
 私も読書は好きだけど、もっと好きなのはこの妄想。フォレストシンガーズを好きになったのは歌が素敵だったからだけど、メンバーひとりひとりにも興味が深まっていくと、本橋さんと乾さんを見るたびどきどきするようになってきた。

 見るとはいっても私はただのファンなのだから、雑誌やインターネットが主だ。フォレストシンガーズはテレビにはあまり出ないから、彼らのラジオ出演は私の娯楽の大きなひとつ。

「ユキは本橋さんも乾さんもだぁい好き。どっちにしようかなぁ。うふふ、取り合って。ねえねえ、ユキを取り合って死闘をして」

 ある日のラジオで三沢さんが言っていて、本橋さんと乾さんに鼻先であしらわれているのを聞いて私の妄想が爆発した。
 おんなじ名前のユキはこんなことを言ってるけど、私だったら喧嘩は止める。だけど、私を取り合って喧嘩をする本橋さんと乾さん……きゃああ、萌えるわ。ユキちゃん、あなたの気持ちはとーってもよくわかるよ。

 爆発した妄想を小説みたいにして書いていたら、姉が言った。
「雪瀬、これってまるで……うん、いいんだけどさ、挿絵は描けない?」

「これの? できなくはないよ」
「もっと文章も書きな。エッセイでも小説でもいいから、文章もたくさん書いて」
「うん、書く」

 親には見られたくないけれど、五つも年上の姉は私のすべてを無条件で受け入れて面白がってくれるから、いつだってなんだって話して見せてきた。
 言われるままに小説を書き、イラストも描き、なぜか「ご挨拶」なんてものも書いた。

「きゃはっ、ユキちゃんでーす、きゃはっ、ようこそ~っ!! ユキちゃんでーす。ゆっくりしていってね。きゃはっ、ユキちゃんでーす、きゃはっ、もうお帰り? また来てねーっ!!」

「はい、完成、雪瀬、見て」
 見せられたのは、「雪の降る森」という名前のブログだった。

「お姉ちゃんが作ったの? うわ、すごい。これってユキ? あたしじゃなくて三沢のユキちゃん……ってか、あたしが描いた絵だよね。アニメになってる。動いてる。ユキちゃんが降ってる」

 トップページはタイトルのまんまに、静かな森に雪が静かに降るテンプレート。
 ご挨拶のページには、私の描いた可愛いキャラの三沢ユキちゃんが、きゃはきゃは言いながら上から降ってくる。
 「夢小説」ページには私の書いた短篇がアップされていて、ユキの名前を好きなように変えられるようになっている。
 「音楽」のページは乾さんと本橋さんのデュエット。

「お姉ちゃん、システムエンジニアだもんね。これくらい簡単?」
「簡単ではないけど、雪瀬のためにがんばって作ったのよ。満足?」
「うん、ありがと」

 こんなものは自己満足できて、姉と私が楽しんでいればいいと思っていたけれど、姉が解析してくれているところによると、アクセスも少なくはないのだそうだ。コメントだのなんだのは受けない設定にしてあるので、誰かに文句を言われることもない。

「へぇぇ、幸生が降ってくるのか」
 考え事をしていて耳がお留守になっていた。ラジオから聞こえる乾さんの声に、私は再び耳を集中させた。

「そうなんですよ。俺はたまに、フォレストシンガーズの名前で検索してヒットするサイトを見るんです。そういうのは見ないって歌手のほうが多いかもしれないけど、俺は気になっちゃうんですよね。そうして迷い込んだ変なサイト」
「変って言ったらいけないだろ」

 乾さんにたしなめられて、木村章さんは言った。

「すみません。でも、変だったんだよ。アニメの幸生が降ってきて、きゃはっ、ユキちゃんでーす、とか黄色い声を出してるし……いちばんよくないのは……」
「よくないのは?」
「いや、そのせいで俺の耳も妄言を聴きました。サイトの主さんに言っておいてやるって、アニメ幸生が喋ったんだ。そんなはずねーだろ」

「俺には話がよく見えませんが」
「いえね、やっぱ出してほしいかな、いいや、出してなんかほしくないぞ、ってか」
「ふむ、つまり?」

「乾さんは鋭いから、わかってるんでしょ」
「木村章の影の薄い、フォレストシンガーズファンの方のサイトってわけかな」
「薄いんじゃなくてゼロなんです。あれを作ったひとはよほどのユキファンなのか、本橋さんと乾さんのファンなのか、謎でもあったな」

 フォレストシンガーズの誰かが見るなんて想像もしてなかったけど、木村さんが見た?
 まるっきり私は興味のない木村さんが?

 アニメユキちゃんが降ってくるサイトというのは他にもあるのかもしれない。木村さんの出てこないファンサイトもあるのかもしれない。けれど、木村さんが言ったのは私のサイトである可能性が高い。

「木村さんと本庄さんに興味ないのはたしかだけど、あたしは乾さんと本橋さんに恋してるんだよ。ユキちゃんはあたしの分身。だって、同じ名前だもの」

 幸生と雪瀬。ユキのつく名前はどこにでもあるだろうけど、私は幸生さんには親しみを感じる。彼が女の子みたいな発言をするからなおさら。
 それで、おまえも出してほしいんだな、と乾さんが言い、別にぃ、と木村さんが言っているのを聞きながら、私はパソコンに向かった。

「急に怖い顔をして、アキがあたしに走り寄ってきた。
 髪を引っ張られて、やめてよ、いやっ!! と叫んでいたら、アキの手が離れた。

「なにをするんだ、女の子同士でつかみ合いってか、きみがユキを苛めてたんだろ。やめなさい」
 アキを止めてくれたのは乾さんで、本橋さんも言った。

「喧嘩って感じでもなかっただろ。アキちゃん、理由はなんなんだ? ユキ、どうしたんだ? おまえがアキちゃんになにか言ったのか」
「ユキはなんにも言ってないよ。髪の毛が抜けちゃった」
「泣くな、よしよし」

 本橋さんがあたしを抱き寄せてくれ、乾さんもアキの手を離して反対側からあたしを抱いてくれた。

「痛かっただろ。だけど、ユキは時々言葉がすぎるから、アキちゃんに意地悪でも言ったんじゃないの? だからって暴力はいけないけど、ユキも悪いんだったらアキちゃんにあやまれ」
「ユキはなんにもしてないし、言ってないもん」
「おまえも正直に言えよ、ユキ、本当か?」
「ほんとだもんっ!!」

 泣き真似をすると、本橋さんが頭を撫でてくれる。乾さんは苦笑した声で、わかったよ、よーしよし、って言ってくれる。アキが悔しそうに言った。

「そのせいだよ。ユキばっかり……あたしだって、あたしだって……」
「アキも本橋さんや乾さんに可愛がってほしいの? そんなの無理だよ。ふたりとも、ユキが好きなんだもんね。アキは諦めて」

 そんなこと言うからだろ、と乾さんが言い、でも、ほんとだな、と本橋さんが言う。
 鬼みたいな顔をしてアキがあたしを睨み、あたしはアキにべーっと舌を出した」

 って、これではユキは意地悪すぎ? 
 でもね、本橋さんと乾さんは私のものよ。アキにはあげないもん。
 こんなのだったら木村さんは、もしも読んだら怒るかな。ユキと本橋さんと乾さんの三角関係に入り込んでくる異物アキ、私にはそうしか思いつかないから、明日、姉に頼んでブログにこの小説をアップしてもらおうっと。


 END







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~ Comment ~

NoTitle

これって、あの続きですよね。
意外な展開に思わず、笑ってしまいました。

ブログの作者が、ラジオで自分のブログが語られてるのを聴くって、面白いですよね。私なら、卒倒してしまいます。

そして、かわいそうな章くん。やっぱり、なんとも思われてなかったんですね^^;
でも、次回からはそのブログに登場するのだ、アキちゃんww
どんな反応をするんでしょうね、章くん。
「やめろーーー、きもちわりーーー」とか、いうのかな?
これは続編がいりますね、あかねさん。
もうちょっと章くんを、いじめてみてください(S)

話は変わりますが。
わたしも、好きなタレントさんがDJを務めるラジオ番組に、メールを送ったことがあるんですが。
一回だけ、読まれたんです。
読んでくれたのはその「彼」じゃなく、後輩のお笑いタレントだったんですが。
心臓バクバクでした。
「彼」は、わたしの文面に、「へ~」と、わりと薄い反応だったんだけど、その後輩タレントが、最後まで一生懸命読んでくれて、その後輩にめっちゃ好意を感じたりして(笑)
めちゃくちゃ恥ずかしいけど、貴重な体験でした。(5年前の話w)

limeさんへ

すぐに続編を書きたがる私に、limeさんがそんなふうに言って下さると妄想がむくむくと。
本当にいつもありがとうございます。

この主人公の雪瀬は、ブログは全部お姉ちゃんにまかせっぱなしで、自分では妄想をふくらませて楽しんでいるだけですから、自分のサイトにフォレストシンガーズの誰かが来てくれるってことのすごさをわかってないんですね。

雪瀬のこの妄想癖は私と似てますが、私だったら……たしかに卒倒します。
芸能人やスポーツ選手のファンサイトをやってるひとって、そのひとがこんなふうに自分のサイトをどこかで話題にしてくれたら、きゃーーーっ、ってなものですよね。

フォレストシンガーズの誰かも私のブログ、話題にしてくれないかなぁ←あり得ない妄想。

かなり昔、祖父と母と三人でラジオを聴いていましたら、いきなり私の名前が読まれたことがあります。
祖父と母が、ええ? これは……とかって反応するものですから、恥ずかしくてパニックになりました。あとから、あれ、録音しておけばよかったなと悔やんだものです。

そのとき、葉書に書いた内容は忘れてしまいましたが、リクエストしてかけてもらった曲は覚えています。私の小説の群の中に、そのタイトルのストーリィがあります。

あ、それも今度ネタにしよう。
limeさんのおかげでネタもいただいていますね。ありがとうございまーす。
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