ショートストーリィ

新選組「あの日の約束」

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書くのが好きなジャンル、読むのが好きなジャンル。
 両方とも好きなのは「新選組」です。このストーリィは新選組同人誌に掲載してもらったものですので、説明不足の点もあるかと思われます。ご質問がありましたらどんどんコメント下さいね。
 なお、この小説は純然たるフィクションです。



「あの日の約束」

 剣術の腕前には自信があるつもりだった。少なくとも新選組に入隊するまでは。
 下っ端も下っ端、隊士の中ではいちばんの下っ端といっていいぼくだって、仮にも新選組隊士なのだから、剣術は苦手です、でつとまる道理はない。

 入隊して徐々に、おのれの剣術の腕がどの程度のものかを知り、自信なんて粉々になっていったけど、それでも新選組に入れたのだから、箸にも棒にも竹刀にもかからない、ってほどではないはずだと信じていた。
 会津に於けるとある日、副長の土方歳三が足指に鉄砲傷を負い、負傷治療をしていた日々のことだった。会津では新選組の隊長代理だった斎藤一が、ふとぼくに言ったのだ。

「市村、稽古をつけてやろうか」

 要するに暇だったからにちがいないのだけれど、ぼくは天にも上る心地になった。あの、天下の剣豪、斎藤一に稽古をつけてもらえるんだ。剣士のはしくれとして嬉しくないはずがないじゃないか。
 だが、土方副長が横槍を入れた。

「おいおい、斎藤、鉄之助には無理だ。おまえにしごかれたら死ぬぞ」
「しごきゃあしませんよ。市村、やるか?」
「はい、もちろんっ!!」

 死にはしなかったが死にかけた。隙あり、と見て打ち込んだ隙は、故意につくったものだと知るころには、ぼくはすでに死にかけていた。

「言わんこっちゃねえだろ。斎藤、そのくらいにしておけ」
「そうですね。わかっちゃいたが、こんなもんか」
「当たり前だ。鉄之助はまだ小僧っ子だぞ」
「ガキ、だな、まさしく」

 はらわたが煮えくり返って、飛び起きて飛びかかりたかった。しかし、身体が動かない。目に炎をたぎらせて、地面に倒れたまま斎藤さんを見上げるのが精一杯だった。

「悔しいのか。悔しいってのは見所があるが、所詮ガキなんだもんな」
「ガキではありません。私は武士です」
「ふーん、武士ねぇ。近頃の武士ってのは泣くのか」

 悔し涙が頬をつたっていると、そのときはじめて気づいた。涼しい顔でぼくを見下ろす斎藤さんに、副長が呆れ声で言う。

「斎藤、ガキを苛めるな」
「苛めてはおりません」
「挑発してんのかよ。それ以上は無理だって」
「挑発もしてません」

「いくらガキだって、本当のことを言われたら腹が立つもんだぞ」
「……あなたがもっともきついんじゃありませんか、土方さん?」
「そっかぁ」
 う、う、う、暇にまかせてぼくをからかってるのか、このふたりは。

「ま、見所はある。せいぜい励め」
 言い捨てて、ふたりは立ち去ろうとした。ぼくは地面をこぶしで叩いて咆えた。

「畜生っ!」
「こら、鉄之助、げんこつが傷む。やめとけ」
「手が動かなくなったら、副長の世話ができなくなるぞ」
「……」

 どうせどうせそうだ。ぼくの手は剣を取るためではなく、副長のお世話をするためにあるんだ。ぼくはたかが小姓、新選組の半端者にすぎないのだから。とそう、あなたたちは思っているんだろうけど、今に見てろ。斎藤一に一泡吹かせないとおさまらない。ぼくは武士だ。バカにされっぱなしでは男がすたる。
 どうにかこうにか起きて歩き出すと、身体のふしぶしが痛んだ。おそらくあちこちが痣になっているはずだ。竹刀は痛い。

「あの……」
 よろめかないように努力しつつ歩いていると、ためらいがちな声がかかった。

「新選組の方でしょうか」
「そうですが……貴公は?」
「江戸から参りました。横内清吾と申します」

「江戸から?」
 ぼくと似た年頃に見える、小柄な少年武士だった。

「市村鉄之助です」
「さすがに新選組はきびしいのですね。私は江戸に帰ってこられたみなさまのお噂を聞いて、入隊させてもらおうと屯所を訪ねたのです。そのときにはひとあし遅く、みなさまは旅立たれたあとでした。どうしても入隊させていただきたくて、あとを追って参りました」

 熱心な入隊希望者か。それはいいのだが、さきほどのひと幕を見られていたらしい。
「あの方は斎藤先生ですか。その名も高い斎藤一先生ですね」

「その通りですが、根性が悪いや」
 小声で言ったあとのほうは、横内には聞こえなかったと見える。

「私もいつかは斎藤先生に稽古をつけていただきたい。諦めません、と土方先生にお伝えください。では、ご免」
 言いたいことだけ言って、横内は行ってしまった。
 伝えにいくべきだろうか。片腹痛いのだが黙っているわけにはいかない。副長と斎藤さんを探して歩いていくと、木陰に長身のふたりが見えた。こそこそっと木の裏側に回りこんで、なんとなく聞き耳を立てた。

「市村には気の毒しましたがね」
「いいさ、どってことねえ。あれも鍛錬だ」
「横内って坊やはまちがいなく見てましたよ。諦めてくれるといいんですが」
「あれしきで諦めるような奴はいらん。万が一諦めなかったら、それから考えてやるよ。おまえが相手をしてみてやってくれるか」
「手加減なしで?」
「手加減はしろ。だいたいからしておまえは、てめえの剣の実力を知ってるのか」
「さあ……」

 とぼけて言う斎藤さんの言葉を、ぼくはかみ締めてみた。要は横内に諦めさせようと? 新選組はきびしいのだ。市村鉄之助のような半人前であろうとも、容赦なくびしびしやられるし、倒れてしまえば罵声を浴びる。それでもいいのか、横内? そのためにぼくをダシに?

「俺もおまえには負けるぞ」
「どのあたりが?」
「なにもかも……いや、色恋沙汰なら負けねえが」
「それは土方さんにおまかせしますよ」
「好きにほざいてろ」

 ますます頭にきたというべきか、納得したと言うべきか。横内を諦めさせるための手段だったのはわかるが、だからってガキガキ言わなくてもいいと思う。で、横内は諦めてはいないわけだ。
 あいつも入隊してくるんだろうか。せめて同年輩の横内には負けないように励むとしよう。そんなことも考えつつ、ぼくは頭の隅で思っていた。今なら油断していないだろうか。今打ちかかったら、斎藤一に一太刀くらい浴びせられないだろうか。

 いや、実はとうにぼくがここにいると、ふたりとも気づいているんだろう。もっともっと鍛錬を積んでから、斎藤さんと副長に挑むんだ。いつになるかは不明なんですから、副長も斎藤さんも、それまでは絶対に死なないで下さいね。約束ですよ。




 
 


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~ Comment ~

新選組

新選組ものに拍手を下さる方は、KさんだったりTさんだったりするんでしょうか。

どなただかは存じませんが、いつもありがとうございます。
感謝しております。

ノコノコお邪魔いたしました~♪

「約束」このフレーズに、最近、よく出会います。
心に誓った約束、誰かと交わした約束。
果たせなかった約束、心の支えとして抱き続けた約束。

ヒトは誰かと交わした約束を叶えるべく生き続け、歩き続けているのかなぁ、と。
それは大切な相手だったかもしれないし、憎い相手だったかもしれない。あるいは、生まれる前の自分に誓った約束・使命だったのかもしれない。そして、神様との契約だったのかも。

原動力が「約束」だったら、きっと戦い続け、生き続けようとするんだろうな。
少年剣士が、こんな風に思いを抱いただろうことは、だけど想像に難くないですねぇ。
ガキだけど、まだまだ純粋で素朴で子どもだけど、良いお話でした(^^)

朱鷺さんへ

早速こちらもお読みいただきまして、いつもありがとうございます。
いつのころからかお気に入りになった、新選組少年隊士、市村鉄之助、大河ドラマの「新選組!!」箱館編にも出てきていました。

「約束」って物語性がありますよね。
朱鷺さんのお作の愛ちゃんと肇ちゃんなんかは、愛ちゃんが勝手に「ね、約束ね。約束だよっ!!」と無理やり指切りでもして、肇ちゃんは困惑の笑みを浮かべる……というイメージが浮かんできます。

こうやって鉄之助は一方的に斎藤さんや土方さんと約束して、土方さんは死んでしまい、斎藤さんとは西南戦争でもしかしたら出会ったかもしれない、というようなエピソードもあります。

鉄之助主役の西南戦争ストーリィも書いたのですけど、ワープロ専用機の時代でしたので、原稿がどこかに行ってしまいました。
新選組ものももっと書きたいのですけどねぇ。

NoTitle

新撰組もの、やっぱり好きです。
読んでて楽しいんですよね~(^^♪
この市村くんというのはフィクションのキャラ?と思いながら読んでましたが、実在の人物なんですね。こういう主要ではないキャラの視点で新撰組を読むのもまた面白い。西幻は土方さんファンであります。あ、でも飄々とした斎藤さんも好き。とはいっても、西幻の新撰組イメージは和田慎二さんや木原敏江さんの漫画からきているんですけどね(^^;
この時代の話というのは視点人物によって物語の様相が大きく違って見えるのが面白いです。わかりやすくいうと、新撰組を視点にしたものと、坂本龍馬を視点にしたものとか。でも坂本龍馬の漫画というのは読んだことがありません。こちらは司馬遼太郎さんの小説とか、テレビの影響が強いです。

西幻響子さんへ

コメントありがとうございます。

そういえば西幻さんはテレビを見られないんでしたよね。
すると、過去の大河ドラマもごらんになってませんでした?
今年も幕末ものですが、幕末ものとしては私はやっぱり「新選組!」と「龍馬伝」が好きでした。

私も一時は新選組まんがもたくさん読みました。
「天まであがれ」の土方さんが、絵の上手になった木原敏江さんの手で「摩利と新吾」の土方さんになって、蓉姫を迎えにくる。
あのシーン、よかったなぁ。

和田慎二さんのは「浅葱いろの風」とかいいましたっけ。
漫画の新選組はかなり網羅していますが、これは一部しか読んでいません。

今年の大河は長州視点ですから、新選組はあくまで悪役。
「新選組に襲撃された」「新選組がデマを飛ばした」なんて描かれ方をしています。

おっしゃる通り、幕末は特に視点によって変わりますよね。
なんとなく変質者っぽいというか、快楽殺人者みたいに描かれている今年の大河の沖田総司も、それはそれで魅力的ですが。

龍馬の漫画は「おーい竜馬!!」と、あと、ちょっとマニアックなのがありました。
「おーい竜馬」では高杉晋作が女でした。
「沖田総司は女だった」も「土方歳三は女だった」も「女信長」もありますよね。誘惑的な題材なんですよね。

NoTitle

『龍馬伝』はネットの動画配信で見ましたよ(*^^)v
福山さんの龍馬は素敵でしたし、岩崎弥太郎はすごくユニークで何度も笑いました。ここでも新撰組は悪役っぽかったですよね。

ああ~!そうですよね!「摩利と新吾」で土方さんの幽霊が出てくるんでした。あれもよかったな~。うー、懐かしい。
「あさぎ色の伝説」は新撰組ものでは一番好きです。でもこの漫画、廃版でなかなか手に入らないのです。とくに最終巻は。復刻すればいいのに~

今年の大河、見ようかな。最近は動画配信で安く見られるので助かります。時代劇は断然、幕末が面白い。他の時代のは見る気がしません。あ、そういえば栗本薫さんの小説でも幕末ファンタジーがあります。あの物語では沖田がすごくなよなよした美少年に描かれてました(栗本さんのお得意ですよね。

ほー。新撰組のキャラが「女」という設定も面白そうですね。この題材は本当に色々と遊べるんですね。

西幻響子さんへ

コメントありがとうございます。

福山氏が演じているせいで、あの龍馬は中身もえらく綺麗に描かれていて、龍馬? 典型的えー加減な奴!! と思っている私には少々気に食わないところがあったのですが。

そういえば高杉も桂小五郎も、美化されていましたね。
高杉は断然、今年の大河のほうが「らしくて」いいです。

岩崎弥太郎も役者さんのせいで、龍馬をかなり食ってましたよね。
あと、佐藤健くんの以蔵が最高によかったです。

今年の大河は地味すぎて視聴率最悪らしいですが、けっこう面白いですよ。
去年の大河も私はけっこう好きでしたが、「八重の桜」もなかなか面白かったです。

栗本さんの新選組ものはたしか、完結していないままだったのですよね。
あの方も流行ものには一応、手を出しているといいますか。(^o^)

あ、ところで、西幻さんのブログとリンクさせていただいてもいいのでしょうか? あとでまた、そちらにもご挨拶に伺いますね。


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