連載小説1

「We are joker」23 

 ←「ラクトとライタ」第二話  →新選組「あの日の約束」
「We are joker」

23

 パパとママにお土産を買っていってあげよう。殿村香苗は途中下車して、西谷恵似子がアルバイトしている店に足を向けた。
「あ?」

 ケーキショップの近くで立ちすくんでいるのは、当の恵似子だ。香苗に気づいて立ち止まってしまったのだろう。彼女のすこし前を歩いていた小柄な男が振り向いて言った。

「恵似子ちゃん、どうかした?」
「あの……そこに……」
「そこ?」
「こんばんは。デート?」

「香苗ちゃん」
 ふたりそろって同時に言って、恵似子がうつむく。武井伸也は言った。

「や、やあ、香苗ちゃんの家ってこのへんじゃないよね」
「恵似子のお店の売り上げに協力してあげようと思ったんだ。武井さんと恵似子もこのあたりでデートしてたの?」
「うん、あいかわらず金がないからさ、近場でデートだよ」
「食事とか?」
「そうなんだ。メシ食って喋るだけのデート」
「つきあいはじめたばかりのカップルなんだもの。お喋りしてたら楽しいでしょ」

 まあね、とうなずいたものの、伸也の表情は浮かなく見える。恵似子は恥ずかしがっているのか、常にも増して口数が少なかった。

「武井さんもケーキが好きなんでしょ? 買って帰る?」
「最近はいつも以上に稼ぎがないから、ケーキなんか買えないよ」
「恵似子、店員割引ってないの?」
「そういうのは特にはないの」

 交際しはじめたばかりのカップルだというのに、この冴えない様子はなんなのだろう。疲れているかにも見える伸也に、香苗は言った。

「そしたら私、たくさん買うから、武井さんにふたつ、プレゼントする。恵似子とふたりでアパートで食べれば?」
「ふたりなんて……」

 恵似子が赤くなる。お、ってーことは、まだそこまでの仲じゃないわけね、と香苗がひそかに笑っていると、恵似子が言った。

「ケーキ、買ってくれるんだったら、香苗ちゃんも一緒に三人で食べようよ」
「お邪魔でしょ」
「邪魔なんかじゃないよ。香苗ちゃんがいてくれたほうが……いや、いいんだ。たかるみたいで気が引けるけど、俺はケーキだったら喜んでごちそうになるよ」
「そう? じゃ、待っててね。あ、なにがいい?」
「俺はモンブラン」
「……私、なんでもいい」

 なんか変なカップルだな、とは思うのだが、引っ込み思案でシャイな恵似子は可愛いと香苗は思う。でも、太るからなぁ、と呟いている恵似子に、伸也は言った。

「恵似子ちゃんはダイエットなんか考えなくていいよ」
「わぁ、優しい彼でいいよね。そうだよそうだよ、ケーキ、たくさん買ってくるから待ってて」

 店に入ってケーキを選び、両親へのお土産と、伸也の部屋で食べる分を別々の箱に詰めてもらった。伸也の部屋にはリーフティなどはないだろうから、イギリス製の紅茶も買った。

「お待たせ、行こうよ」
 疲れているようだった伸也の顔が、いくぶん晴れやかになったように見える。ケーキショップからはほど近い伸也のアパートに、三人して入っていった。

「お邪魔します」
「お邪魔しまーす」
「はい、どうぞどうぞ」

 これまでに香苗は男の子とは何度もつきあったが、高校生のときならば彼も親と同居で、家に遊びにいくほどではなかった。
 大学生になってからつきあうようになった彼の部屋にならば、何度か遊びにいった。今までに三人、つきあった男の子は皆、金持ちの息子。モトカレは東京の子なのにひとり暮らしさせてもらっている、香苗と同じような境遇だった。

 新しい彼氏は葉山に親の家があるのだそうで、もちろんひとり暮らしをしている。アパートではなくマンションだ。
「こういう部屋、珍しいな」
 香苗が言うと、伸也が問い返した。

「みすぼらしいから?」
「そうでもないけど、暮らしやすいの?」
「ひとり暮らしだったらこんなもんで十分だよ。香苗ちゃんもひとり暮らしなんだよね」
「私の部屋も狭いけど、快適だよ。武井さんは恵似子の部屋には遊びにいったの?」

「いいや」
 手持ち無沙汰そうにしている恵似子に、香苗は言った。

「これ、おいしい紅茶、淹れてきてよ」
「あ、うん」
 友達を使うのか? 伸也の目がそう言っているような気がしたので、香苗は言った。

「恵似子って好きな男の子の前では、喋らなくなるみたいだよね。お茶でも淹れてるほうが安心してられるんじゃないのかな」
「……彼女、俺を好きだって本当なんだろか」

「ほんとだよ。なんで疑うの?」
「いやいや、いいんだけどさ……香苗ちゃんとのほうがずーっと会話のテンポがよくて、話もはずむんだよな。こんなのって変だろ」
「恵似子がシャイだからじゃない? まだ慣れてもいないんだよ」

 男との交際に慣れていない田舎の子なんだから、長い目で見てあげてよ、そんな想いを込めて、香苗は伸也を見つめた。

「俺、香苗ちゃんのほうがいいな」
「なに言ってんだか。私には彼氏はいるよ」
「ああ、いるの? 当然だよね。失礼しました。悪いジョークだったな」
「恵似子には聞こえてなかったかな」
 そこで伸也は、わざとらしく大声で言った。

「そっかー、香苗ちゃんには彼氏はいるんだ。香苗ちゃんにだったらいないほうがおかしいよね。どんな奴?」
「金持ちのどら息子大学生」
「今度、紹介してよ」
「紹介する前に別れちゃうかもね。私って男とは長続きしないんだ」

「……そんなふうだね」
 どういう意味よ、それは、と睨んでみせると、伸也はてへへと笑ってケーキの箱を開けた。

つづく




スポンサーサイト


  • 【「ラクトとライタ」第二話 】へ
  • 【新選組「あの日の約束」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【「ラクトとライタ」第二話 】へ
  • 【新選組「あの日の約束」】へ