連載小説1

「We are joker」22 

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「We are joker」


22

 暗い赤の地に緑や茶色の花柄のスカート、どうしてきみはそんなカーテンみたいな柄が好きなんだ? と伸也は尋ねたいのだが、女の子にそんな言い方はできない。
 スカートがプリント柄ならば無地を合わせればいいのに、ジャケットは茶系のチェックで、セーターの胸にも編み込み模様が入っている。恵似子はよほど柄ものが好きなのか。デートなのだから、彼女なりのおしゃれのつもりなのだろう。

「……同窓会があるんだって」

 単なる知り合いだったときには伸也は軽く軽く口がきけたのに、つきあおうなどと言ってしまってからは、話題を選ばないといけないかと思う。おしゃれの話や体重の話をすると口がすべりそうだから、迂闊にものが言えない。

 無口なのか話題に乏しいのか、恵似子は伸也といてもあまり喋らないから、勢い、伸也ばかりが喋らなくてはならない。
 喋るのは決して嫌いではなくて、機嫌の悪いときの冬紀にだったら、じゃかましい、黙れ!! と怒鳴られて蹴飛ばされるほどに饒舌な伸也なのに、相手によっては喋るのもつらいものなのだとはじめて知った。

「高校のね」
「ああ、そうなんだね」

 そこで話が途切れる。恵似子の友達の香苗だったら、伸也がかつてつきあったことのある明るくてお喋りな女の子だったら、ここから言葉のキャッチボールがはじまるはずなのに。

「松下んとこに、幹事から電話がかかってきたんだ」
 なんだかだるいなぁ、と思いながらも、沈黙よりはましなので、伸也は喋っていた。
「女の子だったらしいんだけど、松下はそれが誰だかわからなかったって言うんだよ」
「へぇ」

「わからなくても高校の同窓会なんだからいいだろって、どこで、いつやる、何時に開始、とかいうのはメモしてたよ」
「へぇ」
 何度かデートすればわかった。恵似子は話し上手ではない。体重に見合って口も重い。

 ならば聞き上手だったらいいのに。尚も話は下手だが、適当な相槌を打ってくれるから、伸也とは話もはずむ。冬紀とだと丁々発止のやりとりができる。
 が、恵似子は聞き上手でもない。なにを言っても、へぇ、ああ、そうなのね、と返されると、冬紀が相手だったら伸也はこう言っているだろう。

「おまえ、俺の話を聞く気がないのかっ」
 けれど、女の子が相手なのだから、デートなのだから、耐えて伸也は喋るのだった。

「誰なんだろな、松下のケータイに電話してきた女って。松下は女とは縁のない奴だから、彼女もいないんだから、母ちゃん以外の女があいつのケータイに電話してきたのははじめてじゃないのかな」
「へぇ」
「あいつ、節約のためにケータイの電源を切ってたんだってよ。たまには入れようかと思って電源を入れた瞬間に、着メロが鳴ったっていうんだ」
「そうなんだ」
「着メロはもちろん、ジョーカーの歌だよ」

 実際には電源を入れて昼食をとったあとで電話が鳴った。既成の着メロにはジョーカーの曲はない。恵似子は突っ込みもせず、的確な合いの手を入れるわけでもなく、曖昧に笑っていた。

「そんでさ、オレオレ詐欺だったらやばいよ、とかって脅されたらしいんだよ。誰だろうね、その女の子。いやいや、恵似子ちゃんは俺たちの高校のクラスメイトなんか知らないんだから、見当もつかないよな」
「そうだね」

「それでもいいから推理してみてよ」
「ええ?」
 小首をかしげる仕草は、可愛いとも思えない。恵似子は困惑顔をしていて、伸也は言った。

「思いついた?」
「……思いつかない」
「そりゃそうだよな。俺らのクラスメイトって、恵似子ちゃんはひとりも知らないだろ」

 頭のどこかのなにかがちょっとだけ足りないんじゃないの? 伸也にはそう思える表情で、恵似子はこっくりした。
「同窓会、どうしようかな」
 それで、行くの? くらいの質問もしてくれないので、伸也は声に出して自問自答した。

「その日だったら予定はないんだよ。俺らの仕事ってのは突然入ってくることもあるから、なんにもないかどうかはわからないんだ」
「そうだよね」
「だけど、どうせなんにもないだろうな。そしたら行けるじゃん」

 なんで俺はこうやって無駄なお喋りをしているんだろう。無駄なお喋りだって楽しい場合はあるが、今の伸也はちっとも楽しくなかった。

「行けるんだけどさ、こんな中途半端な立場だからなんだろうな。あんまり行きたくないんだよ」
「……そう」
「そうだよ。だけど、高校のときの友達ってなつかしいな。卒業してからだと三年もたってないのに、なつかしいんだよね。恵似子ちゃんは……」
「ん?」

 きみは故郷から離れているんだから、よけいに高校のころってなつかしいだろ、伸也の頭には言うべき質問は浮かぶ。なのに言いたくないのは、話がはずんでも意味ないと思っているからなのか。だったらどうして、俺はこの子とデートしているんだろう。

「なつかしいなんて、じじいみたいだよな」
「えー、そうかな」
 こんなデート、つまんねえよ、きみもつまんねえだろうが、と言いたくて言えなくて、伸也はただただじれったいだけだった。

つづく



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~ Comment ~

なんかわかります

こんな事ありますよね。じゃあもう帰ればいいんだけどそれも出来ない。そんなもどかしさとちょっとお互いの頼りなさみたいのがよく表れてるなと思います。
私もありましたよ(笑)結局あんまり好きになれない相手でした。また続きを読みますね
(*^▽^)/★*☆♪

美月さんへ

いつもありがとうございます。
こういうこと、ほんとにありますよねぇ。
経験不足な私にも、若き日には近いことがありました。
美月さんにもありましたか、ありますよね。

好きな相手だと胸がときめきすぎてうまく喋れない。
それはそれでいいものかもしれませんが、あんまり乗らない気分で喋れない、喋っていてもつまらない、はつらいですよねぇ・
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