別小説

「ラクトとライタ」第一話

 ←異性の友人質問コーナー(シゲ&泉水) →小説323(片想い)
syounen1.jpg
イラスト:limeさん


「ラクトとライタ」

 しりとり小説21「連翹の花ゆれて」に初登場した楽人(ラクト)、彼のお話、もっと書いてほしいな、と嬉しいことを言って下さった方がいまして、ノリやすい私はその気になって、もっと書きました。
 きっとこういうストーリィが、私が書くほうでもっとも好きなタイプです。
 BLですので、お嫌いな方は見ないで下さいませね。


「Lightning・第一話」


1・楽人

 
「ひとりで遊んでるのか?」
 両膝に両手を当てて身をかがめて、僕に話しかけてくれたお兄さんを、僕は黙って見上げた。

「いくつ? 幼稚園かな? オレは高瀬雷太、かみなりのライタ。小学校の四年生。おまえは?」
「……岩沢楽人、来年、小学生になるんだ。引っ越してきたの」
「ああ、それで見たことない顔なんだな。ライタも変わってるけど、ラクトも変わってるな」
「そうかな」

「オレは九つ、おまえは五つ? 引っ越してきたばかりだったら友達なんかいないんだろ。サッカー、できるか?」
「したことないよ」
「教えてやるよ」

 友人たちとこの広場でサッカーをする約束をして、雷太さんは友達を待っていた。一番に広場に到着して暇だったから、リフティングかなんかやっていたら、ぽつんとひとりでいる僕が目に留まったのであるらしい。
 じきに雷太さんと同じくらいの年の少年たちが集まってくる。中には、えー? こんなちび、邪魔だよ、と露骨に言う奴もいたが、雷太さんが一蹴してくれた。

「五つなんだから邪魔にもなるだろうけど、遊んでやろうぜ。楽人、やりたいだろ?」
「うん」

 はじめて雷太さんと親しく触れ合った日、もたもたうろうろ走っていただけの僕は、四つ年上の少年たちに、邪魔だ、どけ、うぜっ!! などと怒鳴られて、蹴飛ばされたり突き飛ばされたりばかりしていて、雷太さんだけがかばってくれた。

「ちっちゃいのにそんな乱暴すんなよ。楽人、大丈夫か?」
「うん」
 泣きたいのを我慢して笑ってみせたら、よーし、って頭を撫でてくれた。

 あの日から、僕にとっての雷太さんはお兄ちゃんのようなひとになった。彼も僕もひとりっ子で、小さい子供でもひとりで遊びにいける程度に近所に住んでいて、母親同士も親しくなったから、時には雷太さんの家でごはんを食べたり、一緒にテレビを観たりもした。

 翌年には小学校に上がった僕は、雷太さんにくっついて学校に行くようになった。
 身体が小さくて引っ込み思案のほうだから、母は心配していた。楽人みたいな子は苛められないかしら、と言う母に、雷太さんが言ってくれた。

「オレが楽人を守ってやるから、苛められないよ」
「雷太くんがついていてくれたら大船に乗ったみたいだね」
「でしょ? でもさ、楽人、おまえもしっかりしろよ」

 事実、僕が苛められたと告げ口すると、雷太さんはいじめっ子を叱りつけてくれた。おまえもしっかりしろよ、と僕も叱られるのだが、雷太さんのおかげで深刻なイジメにはならなかったのかもしれない。僕以外の苛められっ子のことだって、雷太さんは親身になって助けてやっていた。

「苛められやすい奴らは団結すればいいんだよ。ひとりでは無理でも、みんなでイジメっ子と対決すればいい。オレも手を貸してやるから」

 小学校一年生、二年生の間は、雷太さんが同じ学校にいてくれた。彼が卒業してからは、身体が小さめで弱いタイプの友達とグループを作って、雷太さんの教えの通りに団結して強い奴らに対抗した。
 それはいいんだけど、去年までは楽しかったな。小学校の三年生になった僕はため息をつく。毎朝、雷太さんが迎えにきてくれて、寝坊をしたり宿題を忘れたりすると怒られたけど、算数の宿題なんかだったら登校途中に雷太さんが答えを教えてくれて、即効で完成させられたっけ。

「おまえももう三年生なんだから、ちっちゃい子を学校に連れていってやらなくちゃ。楽人、がんばれよ」
 そう言っていた雷太さんは、詰襟の黒い制服の似合う中学生になった。

「よぉ、楽人」
 いつもは忙しそうにしている雷太さんが、今日は言ってくれた。

「久し振りで公園でボール、蹴ろうか」
「うん。雷太さんは中学校ではサッカー部に入ったんでしょ?」

 少年サッカーチームに所属していた雷太さんの真似をして、僕も一緒にやりたくて入部してみたけれど、ついていけなくて僕はチームをやめ、雷太さんと、雷太さんの好きなJリーグのチームを応援するほうに回っていた。

「サッカー部には入ったけど、俺はまだ一年だから、先輩たちのパシリにされてるよ」
「苛められてるの?」
「苛められてはいないんだ。鍛えてもらったり、しごかれたりもしてるけどな。ほら、楽人、行くぞ」

 ものすごいスピードで飛んでくるボールを追っかけて走り回り、汗をかいたあとでベンチにすわって、雷太さんが買ってくれたスポーツドリンクを飲んだ。

「勉強、むずかしい?」
「小学校よりはむずかしいよ」
「僕も勉強、むずかしいよ。あとで宿題、教えて」

「今日は部活が休みだし、時間はあるからいいよ」
「ほんと? やったっ!!」
 嬉しくて飛び上がったとき、雷太さんの顔が変な感じになった。

「どうかした? あ……」
「おっす」

 雷太さんが手を上げた相手は、小柄な僕と長身の雷太さんの中間くらいの背丈の、髪が長くて細くて、とっても綺麗な女のひとだった。

「弟さん、いたっけ?」
「弟みたいなものではあるけど、こいつは近所の子だよ。楽人、自己紹介しろ」
「こんにちは、岩沢楽人です」
 ぴょこっと立ち上がって頭を下げると、彼女も言った。

「こんにちは、はじめまして、唐戸由美です。ね、高瀬くん、すわっていい?」
「いいけどさ、クラスの奴らに見られると……」
「楽人くんがいたらちょうどいいんじゃない?」

 僕を真ん中にはさんで、雷太さんと由美さんがすわる。僕はなんだかすわり心地がよくない。両方からなにかが伝わってきて、僕の心はもやもや。
 血はつながっていなくても雷太さんは僕のお兄ちゃんで、もしかしたら父さんや母さんと同じくらいに大好きで、誰にも取られたくないんだから、だから、僕は雷太さんとそんな顔をしてちらちらっと見つめ合う、由美さんが嫌いだ。
 言えるわけもなかったけど、僕はそう思っていた。そのときには単純に、お兄ちゃんを他人に取られたくない、弟気分だった。


2・雷太

 三度のメシよりもサッカーが好きだから、中学校でも高校でもサッカー部に入った。中学校でも高校でも二年生になるとレギュラーになれて、市の大会でもいいセンまでは行けた。

「いいセンではあるけど、準決勝進出が最高なんだよな。今度こそ決勝進出!!」
 顧問教師の言葉に、みんなして、えいえいおーっ!! と応じる。校庭には見学者もいて、女の子たちが、雷太くーんっ、がんばってーっ!! などと黄色い声を出す。俺が手を振ると、きゃーきゃー大騒ぎ。そんな中に楽人の姿もあった。

「あのちび、よく見にきてるよな。弟じゃないんだろ。雷太はひとりっ子だもんな」
「うん、近所の子だよ」
「可愛いな」
「可愛いって、楽人が? おまえ、変な趣味?」
「変な趣味じゃなくて、アイドルにもなれそうな可愛い顔してるって言ってるだけだよ」

 サッカー部ではもっともよくつるんでいる和也と話していると、女子サッカー部の芹菜が近寄ってきた。

「ほんとだ。ラクトっていうの? すごーく可愛い。雷太とだったら似てないから、弟には見えないけどね。楽人くんはひたすらに可愛いタイプで、雷太はかっこいいもんね」
「かっこいいとかってのは、雷太とふたりっきりのときに言えよ。俺はどう?」
「和也だってかっこいいよ。雷太よりは落ちるけど」

 ちぇーっとか言って、和也が足元の石ころを蹴る。さすが名フォワード、和也が蹴った石ころは一直線に飛んでいって、顧問教師の脚に当たった。

「こらーっ、石なんか蹴ったら危ないだろ。雷太も和也も芹菜も校庭十周!!」
 先生に怒鳴られて舌を出し、走り出す。あたしは男子部の先生の命令を聞く筋合いはない、などとぶつくさ言っていた芹菜も続いて走ってきた。

「楽人くーん、キミも走る?」
 きゃっきゃっと言っている見学の女の子たちからすこし離れて、楽人が立っている。芹菜に声をかけられた楽人が真っ赤になってぶるぶる頭を振り、芹菜は言った。

「可愛いなぁ。お姉さん、苛めたくなっちゃう」
「おまえ、その台詞はお姉さんじゃなくておばさんだぜ。雷太、楽人っていくつ?」
「中学一年」

「中一じゃ子供すぎるな。やっぱ雷太のほうがいいわぁ。どう、雷太?」
「こらこら、芹菜、俺たちは罰として走らされてるんだから、そんなときに告白するな」
「罰って、あんたのせいじゃんよ、和也」
 わいわい騒ぎながら罰ランニングをこなして、芹菜は女子部のほうへ戻っていった。

「雷太、考えておいてね」
「……雷太、どうするんだ? おまえ、彼女いるだろ」
「それはそれだよ」
「もてる奴はいいなぁ」

 中学校のときからつきあっている由美がいるってのに、芹菜にも浮気心を起こしたからか。高校二年の市の大会でも準決勝で敗退してしまった。

「そんなの関係ないよ。由美って子は高校は別々なんでしょ? そんなのとはそのうち別れるに決まってるんだから、あたしともつきあおうよ」
「いいんだけどさ……芹菜は強気だよな。女子サッカーってのは絶対数が少ないから、うちの高校も女子のほうが強いんだろ」
「そんな話はしてないの。女子サッカーじゃなくて、あたしともつきあうかどうか、どっち?」
「うん。いいよ」

 つきあうと言ったって、俺たちはサッカーが忙しい。女子部は決勝戦に出られるほどの実力なのだから、男子部以上に忙しい。由美は高校二年になって志望大学を決定したのだそうで、勉強だの予備校だので、俺とは別の意味で忙しい。

 同じ高校の芹菜のほうが、まだしも会うチャンスが多い。由美とはキスした程度なんだから、将来を誓ったわけでもなく、このまま疎遠になっても仕方ないと思っていた。
 それでも別れるまではいかず、たまには由美とデートしてキスしたりする。芹菜も由美の存在を知っているから、いつ別れるの? とイヤミは言うものの、邪魔をする気もないようだ。そうして俺は高校三年生になった。

「受験勉強が大変だからって、三年生になったら退部した奴もいるけど、雷太と和也は残ってくれて嬉しいよ。でも、おまえたちだって夏の大会がすんだら引退だ。今年こそ決勝に出よう」
「先生、決勝で負けてもいいの?」
「勝つんだよ」
「おーっ!!」

 市の高校サッカー大会で優勝したら、フォワードの和也とボランチの雷太が注目されて、どこかの名門大学にスカウトされないだろうか。そしたらそんなに必死で受験勉強しなくてもいいのにな。甘い夢を見ながらも、練習に励んでいた春だった。

「……雷太くん、雷太くんっ……え? あの……」
「ああ、由美、怪我しちまったよ」

 張り切りすぎて膝の皿が割れる負傷をした俺は、病院のベッドにいた。芹菜はじきに知って見舞いにきてくれていて、サッカー部の仲間たちが帰ったあとも病室にいてくれた。そこに由美がやってきたのだった。

「あの……えーっと……お友達?」
「由美さんだよね。あたしは帰るからごゆっくり」
 ごゆっくりだなんて、家族みたいなことを言って芹菜は病室から出ていき、由美は立って俺を見下ろした。

「同じ学校の女の子だよ。由美、誰に聞いた?」
「和也くん」

 和也も中学校は同じだったから、由美とは知り合いだ。どこかで会ったのか、電話でもしたのか。どっちでもいいけど、ちょっとばかりまずいかな、気分だった。

「なんかいいムード……ううん、そんなのいいんだけど、大丈夫?」
「さっき、親が医者に診断を聞いて、俺にも話してくれたよ。治るまでは時間がかかりそうだって。今年の市の大会は無理だろうな。俺がいなかったら、うちの高校は予選敗退だよ。がっかりだ」
「しようがないよね。治すことに専念しなくちゃ」
「うん、ありがと。由美、キスして」
「こんなところで?」
「個室だから平気だよ」

 恥ずかしそうにしながらも、由美が俺のほっぺたにキスしてくれる。芹菜は、由美ちゃんと別れるまでは駄目、と言うので、俺にキスしてくれるのは由美だけだ。由美の首を引っ張ってくちびるとくちびるのキスをしようとしたら、突然ドアが開いた。

「雷太さんっ!!」
「お? 楽人?」
 大慌てで由美が俺から離れ、楽人はわめいた。

「芹菜さんに会ったよ。芹菜さんも雷太さんとつきあってるんでしょ? 由美さんともつきあってるの? ものすごーく……それって、それって……それってっ!!」
「不誠実」
 妙に冷静に由美が言い、楽人は続けて言った。

「そう、それだっ!! そんな雷太さん、大嫌いっ!!」
「そうよ。そうだよ。私も嫌い。楽人くん、帰ろう」
「……待てよ。待てって」

 膝を故障して歩けない俺は、追いかけてもいけない。楽人は鼻息も荒く足音も荒く出ていき、由美も俺には一瞥もくれずに楽人に続いた。
 そりゃあ、由美が怒るのはわかる。俺が怪我人でなかったとしたら、殴りたいと由美が思っても仕方ないだろう。しかし、なんだって楽人が怒るんだ? あいつ、なにしにきたんだ? 俺が二股かけてるって由美に告げ口にきたのか。芹菜がなにか言ったのか?

「あのガキ……」
 退院したら楽人をぶん殴ってやろう。そう決めて、俺は気をまぎらわせているしかなかった。

END

しりとり小説21「連翹の花ゆれて

このストーリィは一話完結、連載にする予定です。



 
 
 
 
スポンサーサイト


  • 【異性の友人質問コーナー(シゲ&泉水)】へ
  • 【小説323(片想い)】へ

~ Comment ~

かわいい^^

いですねえ、なんか、ほのぼのしちゃいました。
小学生のころのライタ、かっこいいじゃないですか。そりゃあ、惚れる。
でも、モテすぎちゃったかあ。
ラクトくんの気も知らないで、ライタは二股ですか。天罰じゃ(笑

ラクトくんの思いは、ずっと届きそうにありませんね。
まだまだ、読み切り連載続けてくださいね。

イラストの子、ラクト君にしか見えなくなってきました(w

limeさんへ

事情を知らずにこのストーリィを読んで下さった方は、limeさんがラクトを描いて下さったんだと思われますよね、きっと。
見れば見るほど、雷太の鈍感さに悩みを深めるライトに見えてきます。

第二話も書けてはいるのですよ。
続くは「覚醒」ですね。
limeさんがそう言って下さって勇気をもらいましたので、二話も近くアップします。ありがとうございました。

第三話はどうしようかなぁ。
ダーク編とライト編と、パラレルしようと思えばできなくもないのですけど、中途半端にダークにするよりは……と悩んでます。

イラストのラクトも一緒に悩んでくれています。



3つの拍手

今回はどなたが「拍手」をクリックして下さったのか、たぶん、見当はついています。
別のところでご感想を下さったみなさまですよね。
ありがとうございました。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【異性の友人質問コーナー(シゲ&泉水)】へ
  • 【小説323(片想い)】へ