連載小説1

「We are joker」21 

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「We are joker」

21

 二十一歳、高校を卒業してからだと二年半ほどになる。浪人やフリーターや会社員もいるだろうが、大半は大学生か専門学校生だろう。

 名簿のまんまの住所で暮らしている者だってなかなかつかまらない。転居先不明の者もいる。引っ越した友達がいたら教えて、と頼んでみても、警戒して教えてくれないもと同級生もいる。個人情報保護法の時代は厄介でもあるのだ。

 ジョーカーの三人は、誰かひとりに連絡が取れればわかるはず。
 大槻優子はそう考えて、この三人は私にまかせて、と言った。大学を途中でやめて専門学校に入学し直した優子は、そのときに親と喧嘩みたいになって、ひとり暮らしをはじめている。それでも親の家には行くので、先月末にもそちらへ泊まりにいっていた。

 母親の料理を食べさせてもらえ、倹約を気にせずにすごせるのはありがたいのだが、親の家にいたって暇である。高校時代の友達に誘われて飲みに出かけ、彼女と語らっていて同窓会をやろうとなって、数人の幹事を選び出した。
 とんとん拍子に同窓会が決まり、卒業生名簿を持ち出して手分けして電話をかけることになったのだった。

 卒業してからは一度も会っていない、高校時代にだって放課後にまで遊んでいた仲でもない、なのだから、尚が優子の声で、誰なのかを思い出せないのも無理はなかった。尚が怪訝そうな声を出しているのが可笑しくて、優子は言った。

「松下くんたちのジョーカー、知らないってひともいたよ」
「ああ、そうかもしれないな。売れてないもんな」
「私はデビューしたときから知ってるから」

「ありがとう」
「で、私が誰だかわかった?」
「高校のときのクラスメイトの女の子だろ。それだけわかってるんだからいいよ」
 まだわかっていないらしいので、優子はさらに言った。

「松下くんって、オレオレ詐欺にひっかかりそうなタイプじゃない?」
「金はないから、詐欺にひっかかっても平気だよ」
「お金目当てじゃない詐欺とか?」
「そんなのあんのか?」
 自分で言い出しておいて、ほんとにそうだな、と優子は笑った。

「詐欺とまではいかなくても、英会話の教材を買えとかさ」
「金、ないって」
「ローンも組めるよ」
「あんたはそういう仕事、やってるのか?」
「ううん、専門学校に行ってるの」

 高校では三年間、クラス替えはなかったので、三年生の年にも冬紀、伸也、尚が同じクラスにいた。
「大槻、合格したよ」
 担任教師が優子の第一志望校合格を告げてくれたときには、伸也が大喜びしてくれた記憶がある。冬紀と尚と伸也は先に彼らの志望校に合格していたので、優子も言った。

「お互い、よかったよね。これからは音楽ばかりじゃなくて、学校生活もがんばれよ」
「俺らはロックに生きるんだよ。大学なんかどうだっていいんだ」

 そう言ったのは冬紀で、そしたら、本気で大学に行きたいひとのために、推薦枠は空けておいてあげたらよかったのに、と優子はムキになって言い返したものだった。

「なにかで読んだよ。松下くんたちは大学はやめちゃったんでしょ。受験勉強してないから、気楽にやめたりできるって……ううん、私も中退したんだから同じか」
「あんたは必死で受験勉強してた口だろ。ええと……思い出しそうになってるんだ。喉元まで名前が出てきてるんだよ」
「まあいいけど、同窓会、来られる?」

「さあね、どうだろ、いつ?」
 日時と店の名前、幹事たちが決めた同窓会の予定を告げると、尚は言った。
「武井と友永にも相談してみるよ」

 電話をしてきたのが誰なのか、思い出せないままだったようだが、ありがとう、と告げて尚は電話を切った。
 あーあ、松下くんらしいな、と優子は苦笑する。音楽の仕事がしたくて、そのためには大学じゃなくて、音楽関係の専門学校に入りたくて、夢中で受験勉強もして合格した大学をやめたのは、ジョーカーデビューの情報を聞いたからでもあった。

 いまだ漠然と、音楽関係を模索しているにすぎない優子の気持ちを、彼らに話したい。同窓会に誰かひとりでも来てくれるように優子は祈りたい心持ちだった。

つづく




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