キャラクターしりとり小説

キャラしりとり5「お告げ」

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キャラクターしりとり5

「お告げ」

 
 深夜の函館、一本木関門跡。

 現在ではここは、「土方歳三最期の地」ということで観光スポットのようになっている。
 関門と石碑が建ち、幕末や箱館戦争や新選組や土方歳三のファンが花を手向け、供物なども置かれている。

 明治二年五月十一日、土方歳三は旧幕府反乱軍の将のひとりとして、五稜郭から討って出た。騎乗のひととなった歳三は、箱館は一本木関門付近で、薩摩、土佐、長州の連合軍が放った流れ弾に当たり、絶命したとされている。

 歳三の最期については諸説あるのだが、現在ではその説がもっとも有名だろう。

 新選組副長、最後の侍、享年三十五歳。遺された写真は現代人の目から見ても整った容貌をしていて、それゆえもあってかファンは多い。写真は修整されているとの説もあるのだが。

 函館で生まれ育った藤波美津子は、真夜中の一本木関門あたりにいた。いつ、どうやって家を抜け出してきたのか、記憶にない。気温は快適、体調も上々。夜中に散歩にでも出てきたのか。たったひとりで?

 解せない気分ではあったが、気持ちが悪くはないのだし、怖くもないからいいだろう。美津子は土方歳三最期の地碑に歩み寄り、供花を見つめていた。

 夜目にも美しい白や黄色の花々は瑞々しい。昼間にここを訪れたファンが手向けていったのか。美津子は時おりここにはやってくるので、こんな花を見るのも珍しい経験ではなかった。

「……なんだね、これは? んん? 見れば若い女が、ひとりでこんなところにいてはいかんだろ」
 男の声がして、美津子は顔を彼に向けた。

「ここはどこだ? あの……あれは?」
「あれって?」
「あの四角い大きな箱。家並みがちがって見える。このあたりはこんなに家がたくさん建っていただろうか。いや、俺のほうこそこんな真夜中にひとりで……ここはどこなんだ?」
「函館ですけど」

 変な男だ。和服の着流しで、長めの髪をしている。太陽にさらされたような顔色をして、健康的には見えないが、背丈は標準よりもやや高く、屈強そうな身体つきをしていた。

「観光客なんですか」
 首をひねって周囲を見回している男が怖いとは思わなくて、美津子は質問した。
「どこに泊まってらっしゃるの?」

「泊まってるといえば、五稜郭だな。俺たちの根城は五稜郭だよ。それよりもあんた、何者だ? その着物は……」
「普通でしょ」
「普通じゃねえだろ」
「あなたのほうこそ、着物を着て歩いてる男性なんてめったにいませんよ」
「着物って……これが普通だろ」
「普通じゃありません」

 こっちは普通だ、あんたが変だ、互いにそう言い合ってから、男は尋ねた。
「髪の毛だって結いもしないで……こんな時間にこんなところにいたって商売にはならないだろうけど、ヨタカだとか?」
「ヨタカ?」

 夜の鷹、下級娼婦をさす隠語だ。

「私は函館の地方新聞の記者です」
「しんぶん? きしゃ?」
「あなたこそ、何者なんですか」

「俺は五稜郭にいる、侍のひとりだけどな……あんたの言ってることはさっぱりわからねえよ」
「私のほうこそ……五稜郭……?」
「まあ、どうだっていいんだけど……あんたがヨタカじゃなくて化け物だとしても、ぺっぴんさんとこうして話してるのは楽しいよ」

 薄く笑っている彼の顔を凝視しようとしても、焦点を結びにくい。次第に意識がぼやけてきた美津子に、彼は言った。

「お、あんたの腹には赤子がいるな。あんた、誰かのかみさんなんだ」
「そうですよ。え? でも、赤ちゃん?」
「かみさんがこんな時間に外をひとりでうろうろと……」
「だって、いつの間にかいたんだもの」

「俺もいつの間にか、こんなところにいたんだけど……ま、いいか。そうか。そういうことなのかもしれないな」
「そういうことって?」
「いいさ。ああ、ここは……そっか。そうなんだ」
「だから、そっか、そうなんだって……なに……が……」

 言葉までが自分の自由にならなくなっていき、美津子は彼の独言を聞いていた。
「最期の地……最後にあんたと会ったのかな。俺にはさっぱりわからんけど、そういうことにしておこう。美津子、早く帰れ。いい子を産んでくれよ」

 目覚めた美津子の記憶には、あんたの腹には赤子がいると言った、男の言葉がとりわけ強く強く残っていた。

「それでね、その日、産婦人科に行ったの。妊娠三ヶ月だったわ」
「その赤ん坊が俺だよな」
「そうよ」

 中学校に入学したばかりの俊英に、とっておきの話しをしてあげる、と母が言い出したのだ。
 とっておきの話ってこれかよ、たかが夢じゃないか、と俊英はうんざりしながらも聞いていた。

「夢なのはまちがいないの。あんたは五月に生まれて、妊娠三ヶ月ってことは、その日は冬だったんだものね。私がなにを着てたのかは覚えてもいないけど、彼は和服の着流しだった。寒くもなさそうだったしね」
「軍服じゃなかったのか」

「あら、トシ、鋭いね。私の言いたいことがわかったの?」
「なんとなくはね。俺の誕生日は五月十一日だし」

「そうよ。あの夢は彼が私に告げにきた真実。俺が生まれ変わるんだから、その子をいい子に産んで大切に育ててくれって言いにきたのよ」
「歳三の子ってわけじゃなくて?」
「そんなはずないでしょ」

 そんなはずがないのならば、たかが夢を得々として語るのも、あんた、頭がおかしいんじゃないの? とも言える。だが、楽しい気分になったので、俊英は言った。

「矛盾してるのも夢だからですませられて、便利だね。それで母さんは、トシって呼びたくて俺に俊英って名前をつけたと」

 小学生のときに、自分の名前の由来を親に尋ねてくるように、との宿題があった。
「ああ、トシって呼びたかったからよ」
 母はこともなげに答え、なんだよ、それだけかよ、とがっくりしたのを覚えている。母の中ではそのような深いのかもしれない意味があったのか。

「そうなのよ。俊英は歳三の生まれ変わりなの」
「うん、面白いね」
 
 白けた顔で応じたものの、それからの俊英は土方歳三に尽きせぬ興味を抱くようになった。
 高校生のころから函館の素人劇団で役者修行をするようになり、子どものころから習っていた剣道にも熱が入っていき、東京の大学に進学した。

 東京の大学生になってからは、目標ができた。
 ちょくちょく小さな仕事が入るようになり、役者の卵といってもいい段階までは来ているのだから、卒業するまでには本格的にドラマに出たい。映画にも出たい。舞台でもいい。

 いずれは時代劇の主役を張りたい。その主役はむろん、土方歳三だ。母がほとんど本気で信じている俊英の前世、土方歳三を演じて、歳三が乗り移ったようだ、古今最高の土方役者だ、といわせてみせる。演劇界を瞠目させ、母を涙ぐませてみせる。

「トシさん、CMに出るんですって?」
 行きつけの酒場で安いウィスキーを飲んでいると、となりの席に剣道部の後輩がすわった。
「ああ、決まったよ」

「おめでとうございます、でいいんですよね」
「まあ、めでたいかな。おごってやるからおまえも飲め」
「じゃ、同じものを」

 目標を実現させる第一歩にはなるはずだ。歳さん、見ててくれよ。すっかり母の影響を受けてしまったのは諦めて苦笑していると、はたと気がついた。今さらながらではあるが、奴は幕末の男なのだと気づいたのだった。

「うーん、しかし、役者のようないい男って言われていたにしても、役者なんてのは男の仕事じゃねえだろ、って怒られそうでもあるな」
「誰にですか?」
「いいんだよ、こっちの話だ」

 もしもそうだとしても、俺にはこれが天職だ。あんたに怒られるいわれはない、と俊英はひとりで力んでみせた。

つづく


 今回の主人公は、私がけっこう前から書いているキャラのひとり、俳優の藤波俊英です。
 「茜いろの森」の別小説、新選組異聞や、グラブダブドリブの司の先輩としてや、フォレストシンガーズストーリィのほうや、ちらちらと顔は出しています。
 次回の主人公はこの、トシの剣道部の後輩。沢崎司ではありません。





 
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~ Comment ~

NoTitle

出だし、土方歳三に関するエッセーかと思いました。
と思ったら、なんと素敵なストーリー。

自分の生まれにそんなエピソードがあったのかと思うと、凄く親近感がわきますよね。

キャラさんについては、すいません、はじめまして、なんですけど、これで印象深くなりました。

えっと、本編に行かねば(^^;)

けいさんへ

一時期、時代小説というか、新選組小説を書いていたことがありまして、その名残なのです。
歴史上有名な人物というのは、どこまで説明すればいいのか悩みますよねぇ。

エッセイみたいでした?
おっしゃられてみれば、「ハコダテ幕末探訪記」みたいかもしれませんね。すみません。

このトシさんはけいさんが今までに読んで下さった分にはまだ出てきていないはずですが、そのうちフォレストシンガーズストーリィにも出てきます。

本編は長いですので、興味を持って下さったものでしたらなんでも、お気軽に読んでやって下さいませね。
ありがとうございました。
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