ショートストーリィ(しりとり小説)

29「バッドエンド」

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しりとり小説29

「バッドエンド」

 なじみのロック雑誌から届いたアンケートは、年末恒例企画、「あなたが選ぶ本年度のベストアルバム」である。
 それはいいのだが、今年の差出人の名前を見て、徳間はぎょっとした。編集部・長崎有香とある。この長崎とはあの長崎か。当人だとしても別人だとしても、インパクトの強すぎる名前に心臓がどきどきしてきた。
 
 あれは徳間が大学に入学して間もない時期。ロック関係のサークルに入部したくて、徳間はロック同好会の部室を訪ねていった。

「徳間くんっていうの? 可愛いね。あたし、長崎。九州の長崎と同じ「長崎」だよ」
「よろしくお願いします、長崎先輩っ!!」
「そんなに堅くならないでいいからさ」

 三つ年上の四年生だという長崎は、徳間から見れば妖艶な美女だった。
「歓迎会しようよ。あたしが特別に、ふたりっきりでしてあげる」
「あ、ありがとうございますっ!!」

 純情だった徳間は疑いもせずに長崎についていき、居酒屋で彼女に酒や料理をおごってもらって感激していた。

「東京の食べものはあんまりおいしくないけど、ここはまあ、安いからね。じゃ、このへんで帰ろうか。徳間くん、送っていってよね」
「はい、もちろんです」

 女性を送っていくというのは、大人になったみたいでいい気分だな、徳間はそんなことなど考えながら、長崎を彼女のひとり暮らしのマンションまで送り届けた。

「入りなよ」
「いいんですか」
「いいからいいからさ。徳間くん、台所で水、汲んできて」
「はいっ」

 グラスに水を汲んで寝室へ持っていくと、長崎はベッドに横たわっていた。

「長崎先輩、お水……あ、あ……いえ、そんな……あの、そんな……僕は……そんな……やめて下さい。あ……ああ、ああっ……そんなっ!!」

 手をつかまれてベッドに引っ張りこまれ、あれよあれよという間に服を脱がされて襲われた。徳間のほうもしっかり反応してしまったのだから、一方的な行為ではなかったのかもしれないが。

 しかし、十八歳の純情少年としてはそうとしか思えない。あれは長崎にレイプされたのだ。プライドをいたく傷つけられたのもあって、他人には言わなかった。ロック同好会に入部するのもやめて、大学時代はどことなくおどおどとすごした気がする。

 長崎有香、とフルネームを知った彼女は、一年後には卒業していった。彼女のほうは一年生の美少年と遊んでやった気分だったのかもしれないが、徳間は彼女が卒業してからも悶々としていた。

 やがて徳間も大学を卒業し、レコード会社に就職して好きなロックの仕事ができるようになってからは、学生時代のように暗くはなくなった。元気よく仕事をしていた徳間の前に、が、またしても長崎が姿を見せたのだった。

「徳間くん、すっごく久し振り。ねぇ、みんなで飲みにいかない?」
「……みんなで、で、す、か」
「ふたりっきりでもいいわよん」

 あのころの長崎は、CDジャケットのデザインの仕事をしていると言っていたはずだ。断るつもりだったのに断れずにふたりで飲みに行き、仕事の話をして、あっちも久し振りだよね、と誘われて、いやですよ、やめましょうよ、と言いながらも引きずられ。

 なんだって僕はこんなに意志が弱いんだ。長崎さんは僕とあんなことをしてもあっけらかんと忘れて、思い出しもしないのだろうに、僕はその後はずいぶん長くこだわってしまう。僕は長崎さんが好き? そんな馬鹿な。

 どこかのポルノ小説にだったら、レイプされた男に恋をする女ってのが時々出てくる。逆もあり? 僕は長崎さんにレイプされて恋をした? そんな馬鹿な。

 二度目の触れ合いの後には、幾度かデートしてベッドにも入った。だが、いつの間にか長崎とは連絡が取れなくなり、徳間は失意の中でまたしても悶々としていたのだった。

 ようやく長崎を忘れかけていたのに、こうして三たびあらわれたのか。僕は一生、彼女に振り回される運命なのか。彼女は僕の仕事と関わりのある職種に転職して、僕を知っているからこんなメモを同封してきている。そうと気づいて、徳間は首うなだれた。

「なつかしいね、徳間くん。近いうちに飲みにいこ」

 そこには長崎のものであろう、ケータイナンバーが書き添えられている。
 きっと僕はここに電話してしまう。彼女と飲みにいって、もはやレイプではなく抱かれて、またもや彼女に恋してしまう。それこそが徳間にとっては悪しき結末……いや、結末というのならば、いっそプロポーズしてしまおうかとまで、徳間は半ば自棄で考えていた。

次は「ど」です。


「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
主人公の徳間くんは、フォレストシンガーズの出身大学の後輩。フォレストシンガーズとはなんの関わりもない同窓生です。
ロック同好会に入ろうとした章も同じような経験をして、ロック同好会には悪しき伝統があるんだっ!! と勝手に言ってましたが、本当にあるみたいですね。




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