ショートストーリィ(しりとり小説)

28「朱にまじわれば」

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しりとり小説28

「朱にまじわれば」

 暇だったからインターネットで遊んでいて見つけたのが、フォレストシンガーズのファンサイトだった。
「そんなグループ、いたっけな。えーと……」
 サイトにはメンバーの詳細プロフィールがアップされていた。

本橋真次郎(もとはししんじろう)
リーダー、バリトン、179センチ、三十五歳、東京都出身、既婚、妻、美江子

乾隆也(いぬいたかや)
サブリーダー、テナー、177センチ、三十五歳、石川県出身、未婚、恋人アリ?

本庄繁之(ほんじょうしげゆき)
バス、171センチ、三十四歳、三重県出身、既婚、妻、恭子、長男、広大、次男、壮介

三沢幸生(みさわゆきお)
テナー、163センチ、三十三歳、神奈川県出身、未婚、恋人はいないらしいけどほんと?

木村章(きむらあきら)
テナー、161センチ、三十三歳、北海道出身、未婚、彼女募集中だって。

「ファンのみんなだったら知ってるように、フォレストシンガーズは○○大学男子合唱部出身の五人グループだよ。

本橋さんと乾さんが三年生のときに、シゲさんは二年生、幸生くんと章くんが入学してきて、章くんは一年で中退しちゃったんだよね。

フォレストシンガーズのはじまりには、ヒデさんがいた。ヒデさんが脱退して章くんが加わったの。ヒデさんは今では神戸の電気屋さんで、HIDEブログってブログをやってるんだよ。このブログ、フォレストシンガーズネタがいっぱいでムッチャ面白いお。」

などなど。

 サイトの主はフォレストシンガーズの熱心なファンらしく、彼らについての熱っぽい記述であふれていた。暇だったから流し読みをして、そうだよな、ちらっと見たことはあるけど、おっさんだったよな、などと思っていた茂幸がひっかかったのは、「本庄繁之」の名前だった。

 そういう名前のグループの存在は知っている程度なのだから、個人名までは当然、茂幸は知らなかった。しげゆき、僕の名前と同じじゃん。僕もシゲって呼ばれたりもするんだよね。珍しい名前ではないものの、俄然、親しみが湧いた。

「オフ会、やるお。
 来る某月某日、喫茶カトレアにて。
 みんなどんどん来てね。
 初参加者も大歓迎だお」

 なんだってネット用語では「やるよ」が「やるお」になるんだろ。独特の用語には慣れていないのでむずがゆく感じながらも、茂幸は喫茶カトレアの地図をプリントアウトした。

 当日、カトレアの店内に足を踏み入れた茂幸は、ここに来たことを一瞬で後悔した。喫茶店の一画を占拠して大きな声で喋ったり笑ったりしている女性ばかりのグループが、乾さんは、だとか章くんは、だとか言っているから、まちがいないだろう。

 初参加の茂幸はもちろん、オフ会のメンバーは誰ひとりとして知らない。主催者に連絡を取ったわけでもないので、むこうも茂幸を知らない。知らんぷりしよう。僕はこのおばさんたちとは無関係だ。

 そう決意はしたものの、せっかく来たのだから話は聞いていきたい。茂幸はおばさんグループが占領しているテーブルの近くの席にすわり、カフェオレをオーダーした。

 おばさんだと思うのは茂幸が中学生だからであって、二十代くらいの女性もまじっている。しかし、茂幸から見れば猛々しさを感じるほどの化粧と服装のおばおば軍団だ。身をすくめつつも耳だけは彼女たちの会話に集中していた。

「私は本橋さんがタイプだな」
「彼、なんだか荒々しくて怖そうじゃない? 私はあんなにたくましい身体つきよりも、ほっそりしたひとがいいな」
「乾さん?」
「章くんのほうが好きぃ」

「私は親しみやすそうなひとが好きだから、三沢さんがいいわ」
「あらぁ、男は本橋さんみたいなのがいいのよ。あのたくましい腕に……きゃっ」
「やーねっ、赤くなっちゃって」

 赤面するのはこっちのほうだ。ファンサイトのオフ会とは、おばさんたちがこんな会話をするものなのか。入り込んでいかなくてよかった、他人の顔をしていてよかったと、茂幸は心底、自分の行動に安堵していた。

 おばおば軍団は、茂幸がカフェオレを飲み終えて席を立つまでの間、本橋さんが素敵、私は乾さんのあの声に……私は章くんと……私は幸生くんとだったら不倫したいわ、といった話題ばかりを展開していて、茂幸は気づいた。

 僕と同音のシゲユキさんがいいと言ったおばさんは、ひとりもいなかった。どうしてだ? たまたまか? シゲユキってもてない名前なのか? おばさんになんかもてなくてもいいけど、若い女の子にももてなかったりしたらいやだな。

 シゲユキという名前には祟りでもふりかかっているのだろうか。そう思いながら家に帰り、またしてもパソコンを開く。どうしても例のファンサイトに引き寄せられて、それからも余暇時間にはサイトにアクセスしていた。

 どんどんどんどんフォレストシンガーズに興味が増していく。彼らのアルバムをレンタルしてコピーすることに小遣いを費やす。フォレストシンガーズはデビューしてから十一周年、売れはじめたのは最近になってからだそうだが、アルバムだってDVDだってたくさん発売している。

 DVDはレンタルできないから、お年玉をもらったら買おう。フォレストシンガーズの芝居ってのも見てみたい。

 サイトのおかげで知識も増える。フォレストシンガーズのファンサイトを他にも見つけたのでアクセスして、茂幸はいっぱしのフォレストシンガーズ通になってしまっていた。

 そうなるとオフ会にももう一度行きたくなる。この前のところは猛女おばおば軍団が怖かったので、もうちょっと穏健なところはないかと探していたら、若いフォレストシンガーズファンの会というものを発見した。

「二十代以下限定、フォレストシンガーズファンのオフ会をやりませんか。
 男性も大歓迎ですよ」

 謳い文句も穏健ではあったが、それでも用心しいしい、いきなり名乗ったりはしないでおこうと決めて、茂幸はこちらの会が指定していた喫茶店に出かけていった。

「もしかして、オフ会に来たの?」
 喫茶店の入り口あたりできょろきょろしていると、二十歳くらいに見えるお兄さんに声をかけられた。ちがうとは言えなくなって、彼にくっつくようにして、参加者の集まっているテーブルについた。

 全部で六人のメンバーが自己紹介し、お兄さんは吉雄と名乗った。
 キミはどうしてフォレストシンガーズのファンになったの? などの質問が向けられ、茂幸は正直に答えた。
 
「茂幸くんは初参加だもんね。誰のファンなのか教えて」
 先日の会のメンバーと較べれば、たしかにこちらは若い。あとは女性ばっかりのメンバーは、おばさんではなくてお姉さんだ。そのうちのひとりのお姉さんが言い、他のみんなも聞きたがって、茂幸は言った。

「シゲさんのファンです」
「駄目だよ、シゲさんは俺のものだもんね」
 冗談でもなさそうな口調で言ったのは、吉雄さんだった。

「シゲさんは俺ひとりのものだ。茂幸くんにはあげないよ」
「あげないったって……」
「シゲさんって男のひとに人気があるんだよね」
 お姉さんのひとりが、おかしな笑みとともに言った。

「吉雄くんは……うん、シゲさんはそういう趣味の男のひとに人気、あるのかな」
「そういう趣味の男のひとって、筋肉質の力持ちタイプが好きだったりするんだよね」
「吉雄くんもその趣味なんだよね。だからシゲさんがいいんでしょ」

 そういう趣味って? お姉さんたちがなんの話をしているのか、茂幸にはわかりづらかった。

「茂幸くんもそうってことは……」
「中学生だからね、まだそこまでは……」
「あら、そんなのわかんないよ。茂幸くんって自覚はないの?」
「吉雄くんはあるんだよね」
 
 あるよ、と言いながら、吉雄さんが横目で茂幸を見やる。ええ? 自覚? って、趣味って……自覚って……もしかして?
 そんなもん、僕にはないよ。僕は同じ名前だからこそ、シゲさんに親しみを感じてるだけじゃないか。それと、シゲさんは女のひとには人気ないみたいだから、ファンとしては未踏の地みたいな? そういう意味でシゲさんに……。

 とは思っても上手に言い表せなくて、茂幸は口ごもっていた。しばらくじーっと茂幸を見ていた吉雄さんが、にっこりして言った。

「どこかのおばさんがやってるファンサイトを見て、フォレストシンガーズに興味を持ったんだろ。そうしているうちにどんどん熱心なファンに染まっていったんだよね。朱にまじわれば赤くなるっていうけど、俺にまで染まるなよ、茂幸くん。いや、冗談だけどさ」

 きゃっ、と小さく悲鳴を上げるお姉さんもいて、みんなしてくすくす笑う。
 おばさんたちの怖さとは種類のちがう怖さを感じて、茂幸は身をすくませているしかなかった。

次は「ば」です。


「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
今回は新キャラ、いたいけな中学生の茂幸くん。本庄繁之と同じ「シゲユキ」の名を持つ、ゆきずりの少年でした。








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~ Comment ~

こんばんは。

訪問ありがとうございました。
今夜は時間が無いので、応援だけで失礼します。
応援☆彡

雫さんへ

ようこそいらっしゃいませ。
こちらこそ、ありがとうございます。

また遊びにいらして下さいね。
私もお邪魔させていただきます。

NoTitle

中学生の茂幸くん。おばちゃん軍団や、怪しげな趣味のwファンに翻弄されてしまってますね。
でも、サイトを見ただけで惹かれてしまうあたり、名前以外にシゲになにか深い好感を感じてしまったのかも^^
許す!
シゲさんって、もう二人の子持ちなんですね。
あの強烈な5人の中では、ちょっと個性が薄いように見えたシゲさん、意外とモテモテなのですね。(妻子がいて、残念)
34歳かあ~。いいお年頃^^
私の「リク」の玉城のモデルになった役者さんも、もう38歳。
売れてない役者だと思っていたのに、この前「さんま御殿」に出ててびっくり。
「イケてないタレント」のなかに入ってた(がーん)
でも、マスクはとてつもなくモテ顔なのです。(性格が残念なだけで)
実は彼、愛称は「シゲ」^^
なんか、親近感わきます。

limeさんへ

いつも本当にありがとうございます。
コメントをいただけると、しりとり小説を書く励みになります。

この主人公の茂幸くんは男の子だから、こうして夢中になっていくのがリアリティないかな、とも思ったのですけど。
実は彼にもそのケ(なんのケ?)あったりして。

limeさんのおっしゃる役者さんって、有名な方ってことなんですか?
私がだいぶ前から注目していた、キャラメルボックス、上川隆也さんのいる劇団の細見大輔って役者さん。
別に知り合いでもないんですけど、知ったばかりのころはまったくの無名だったはず。

その彼がNHKの時代劇に出ていて、
おーっ、細見くんっ、だなんて、関係もないのに感激したのを思い出しました。

limeさんのお知り合いのシゲさん、私もぜひお会いしてみたいです。
ネットに画像なんかはアップされてますか?
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