ショートストーリィ

野良猫ストーリィ「三毛猫ばあちゃん」

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「穴ふたつ」「猫面疽」から続く第三編です。

「三毛猫ばあちゃん」


「猫に餌を与えないで下さい。周辺の住人が迷惑しています」
 公園にはそんな看板がかかっていた。

「やーね、あんなところに猫がいるよ」
「あそこに餌をやらないでって書いてあるのに、やる人がいるんだよね」
「ボランティアとかいって、猫に食べものをやったり、獣医に連れていったりする暇人もいるもんね」

「酔狂だよねぇ。あたしなんか子どもの世話で手一杯で、ボランティアなんて考えられもしないわ」
「人間相手のボランティアだったら立派だけど、猫なんてねぇ……」
「猫って黴菌も持ってるでしょ。子どもにはよくないよね」

 人間の女がふたり、砂場のそばにすわって会話をしている。砂場では人間の幼児たちが遊び、周囲にはベビーカーを押す人間の母親やら、走り回る人間の子どもたちがいて賑やかだった。

 子どもと主婦の姿がぐっと減る午後になると、キャットフードを手にした別の人間たちが公園にやってくる。どこかに隠れて昼寝をしていた猫たちも、ぞろぞろと湧いてきた。

「ばあちゃん、ごはんの時間だよ」
 声をかけてくれたのは、ミミだった。
「ああ、行くよ」

 一年ほど前になるのだろうか。
 夜にまぎれて人間に捨てられた半大人猫のミミと、生粋の野良であり、ミミとは年頃が近いであろうクロとの出会いを、タマは目撃した。

 遠い昔には人間と暮らしていたこともある。幼かった三毛猫にタマと名づけたのは、もの静かなおばあさんだった。

 数年はともに暮らしていたおばあさんが亡くなったとかで、タマを引き取る人間はいなかったから、野良になった。人間のおばあさんが問わず語りに話す言葉を覚え、知恵も知識も蓄えたタマは、野良になってからも賢く生きて、自分もおばあさんになった。

 タマという名前はあるが、若い猫仲間はばあちゃんと呼ぶ。野良猫は短命なもので、近所にはタマ以上の年齢の猫はいない。家猫にならいるのだが、彼女たちは外に出てこない。よって、ばあちゃん猫といえばタマしかいないので不自由もないのだった。

 クロとミミが人間に復讐したいなどと言っていたのを諌めて、ミミは自然に野良の仲間入りをした。
クロはもとから野良だったので、そこらへんをほっつき歩いたり、すこしばかり遠出もしたりして、オスらしく奔放に生きている。

「あ、あの女……」
 先に立って走っていくミミのあとをゆっくり追っていると、ミミが足を止めた。

「やっぱ覚えてるもんだよね。歩美だ」
「アユミ? あんたを捨てた女?」
「そう」
「男もいるね」

「あいつが猫が嫌いだからって、アユミはあたしを捨てたの。あれぇ、でも、あの男とはちがってる気もする。あの男はもっと痩せてて背が高かったよ」
「別の男なのかもしれないけど、なんだって同じだよ。アユミっておなかが大きいみたいね」
「そうなの?」

 昔々、タマは一度だけ仔を産んだ。昔ながらの猫好き人間は、猫は自由に外出して勝手に仔猫を産むものだと考えている。タマとともに暮らしたおばあちゃんも例に漏れずで、タマが産んだ仔猫たちは彼女の知り合いにもらわれていった。

 だが、気ままにさせていては仔が増えすぎるとでも思ったのか、一度の妊娠出産の後に、タマは仔の産めない身体にされた。それはそれで、負担が減って長生きできている要因になっているのだろうから、タマとしても人間を恨む気持ちはなかった。

「ミミは避妊手術ってしたんだったよね」
「いつもごはんをくれる人間につかまって、医者に連れていかれたから、されたよ」

 一時、ミミがいなくなっていて心配していたのは、そういうわけだった。公園に戻されて憮然としていたミミにタマは、妊娠出産は寿命を縮めるんだから、楽になっていいんだよ、と諭してやったものだった。

「そうだったね。人間ってのはまったく勝手なもので、猫には仔を産ませないけど、人間は仔を産まないと少子高齢化になるとかって騒いでるんだよ」
「なに、それ?」
「知らないけど、ショウシコウレイって、人間たちがよく言ってるよ」
「ふーん」

 そんなことには関心なさげに、公園のあちこちに置かれたボウルのひとつに顔を突っ込んで、ミミが食事をはじめる。タマもミミと同じボウルに寄っていくと、ボランティアたちが言っていた。

「あの三毛さん、お年寄りだね」
「……そのようね。保護したほうがいいかしら」
「野良猫暮らしは過酷だけど、長くやってたら人間に飼われたくはないんじゃない?」

 そうさ、保護なんかしていらないよ、とタマは内心で言い返し、むこうのほうで人間の男女が別の会話をしているのにも聞き耳を立てた。

「アメショーがいる」
「アメショーって猫? ああ、あの白と黒の模様?」
「白っていうより銀でしょ。ちょっと汚れてるけど、あれ、ミミだよ」

「ミミ?」
「あたしがペットショップで買った猫。家出したの。どこかに行っちゃって、探しても探しても見つからないから諦めたんだ」

 嘘をついているところを見ると、ミミの言う通りで、アユミの連れの男はミミが捨てられた原因を作った奴とは別人だろう。ミミは聞こえてもいないそぶりで食事を続け、アユミは言った。

「野良猫にはアメショーなんて他にいるわけないんだから、ミミだよ。連れて帰ったらいけない?」
「アユミちゃんは妊娠してるんだから、猫なんかよくないだろ」
「そうかもしれないけど……」

「あっちはきみのことは忘れてるよ。こうして餌ももらって楽しそうなんだから、いいじゃないか。猫なんかよりもおなかの子どもが大切だよ」
「そう、かな。ミミ、あたしを忘れた?」

 飛びついていって、アユミ、会いたかった、あたしを連れて帰って、と甘えて鳴いてみるのもひとつの手だろう。タマはミミにはアドバイスはせず、観察していた。

「にゃおーん」
「ミミ……」

 ひと声鳴いて、ミミが走り去っていく。
 人間には意味がわからなかっただろうが、タマにはわかった。

「あたしを覚えててくれたの? うん、嬉しいよ」
 
 だけど、あたしは自由がいい。ごはんも食べられるし、クロっていう不良な彼氏もいるんだから、あんたの家になんか帰りたくないんだよ。ミミが言いたかったすべてが、タマには読み取れた。
 樹の上に駆け上って毛づくろいをしている、いささか汚れた銀と黒の縞の猫は、プライドに輝いているようで、ミミ、かっこいいよ、とタマはひとりごちた。

END


 
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~ Comment ~

NoTitle

猫って、たとえ捨てられて野良になっても、どこか凛々しくて、しゃんとしてる気がしますね。
捨て犬が、うるうるとさびしそうな眼をしているのとは対照的に。

身勝手で、でも中途半端な優しさを持っている、ご都合主義な人間。
その人間に、人生を左右され、ちょっかいかけられながら、それでも少しばかり人間のことが気になる猫たちのドラマですね。
良い悪いの答えがなくって、交差しながら、それぞれの世界を生きる様子が、おもしろいです。

limeさんへ

最近は野良犬って見なくなりましたよね。
犬は危険もあるから、捨てられたらすぐに処分されるんでしょうか。
昔、野良犬に追っかけられるという恐怖体験をしましたので、私は犬はなんとなーく怖いのですが。

でも、嫌いではありません。
犬と猫の両方と暮らすのが夢だとは、前にも書きましたっけ。

漫画家の大島弓子さんは、捨て猫を保護して病院に連れていき、避妊手術やワクチンも自腹でしてあげてるそうです。
猫好きの鑑だなぁ。
私にはとうていできないなぁ。

なんて思って、こんなのを書きました。
いつもありがとうございます。
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