連載小説1

「We are joker」19 

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「We are joker」

19

 おしゃれな大学生女子たちが群れている。十人ばかりの女子大生が華やかな空気をかもし出しているという設定の、そのひとりが真菜のポジションだった。

 すこし前だったら真菜は本物の現役の女子大生だったのだが、さぼってばかりでろくに大学には行っていなかった。受験勉強もしないで推薦で入学させてもらったのだし、入学してからも勉強はちっともしなかったし、モデルの仕事のほうが楽しいから、中退して後悔はしていない。

 それでも、こうして本物の大学のキャンパスに来ると、なつかしいような甘ずっぱい心持ちになる。特にこの大学は偏差値の高い秀才が集まるので、真菜としては複雑な気分になるのだった。

 ドラマか映画のロケでもあるかのように、撮影風景を見学しにきている大学生たちを見ていると、誇らしいような、あんたたちはお子ちゃまだよね、あたしは大人だもん、のような、学生は気楽でいいなぁ、のような気分になる。

 遠巻きにして眺めている野次馬たちの前で、真菜はモデル仲間たちとともに撮影に臨んでいた。と、気がついた。

「冬紀……あ、あの子……」
 同じような年頃の男女の学生、いささか年の行ったのは助手だの講師だのか。教授か職員でもあるらしき年配者もいる大勢の野次馬の中に、真菜はカップルを見つけた。

「そこの背の高い子、きみだよ」
 カメラスタッフが声をかけると、モデル仲間が言い返した。

「背はみんな高いよぉ」
「そうだったね。きみだよ、きみ」
「あたし?」
 十人もいると名前も覚えてもらっていないのか、スタッフは真菜のそばに寄ってきた。

「よそ見しないで」
「はぁい」

 よそ見をしてはいけないと言われても、意識はあのカップルに吸い寄せられる。まちがいなくすみれと冬紀だ。

 「ジョーカー」が山根ももこというおばさん歌手のバックで演奏すると冬紀から聞き、聴きにこいと言われて行ってみたら、冬紀のもうひとりの「彼女」だと名乗る宇都宮すみれに会った。すみれとは多少は話をしたが、さほどにプライバシーを掘り下げたのではない。

 ふたりして冬紀の楽屋に押しかけ、冬紀の仲間の武井伸也が彼女たちを懐柔しようと躍起になっていたら、冬紀本人が顔を出した。

 あのときには真菜もすみれも怒り心頭だったので、冬紀を罵ってライヴハウスから飛び出していった。真菜としては、すみれちゃん、一緒に帰ろうか、ケータイナンバー教えてよ、と言いたかったのだが、すみれのほうが怒りが激しかったようで、言い出せる雰囲気ではなかった。
 ライヴハウスの前で別れて、すみれとはそれっきり。

 その後、冬紀はすみれとは別れたと言った。おまえのほうが好きだと言い、俺にはおまえだけだと誓ってくれた。なのだから、真菜は冬紀を許した。
 なのになのに、冬紀ったら、やっぱりすみれとつきあってるの?
 仕事中ではなかったらあのカップルに詰め寄って、冬紀を張り倒してやりたい。すみれはこの大学の学生で、キャンパスでデートしているのか。そうするとすみれは頭がいいのだろう。冬紀はちょっとバカな真菜が可愛いと言うくせに、頭のいい女の子も好きなのか。まったく節操のない奴だ。

 いや、待てよ、と真菜は、自分に都合のいい理屈を組み立てる。
 一時的にはたしかに冬紀はすみれとつきあっていた。すみれは真菜と較べれば貧相なお粗末な女の子だが、頭がよくて顔もブスではない。

 そんな女に目がくらんで気の迷いが生じ、冬紀はすみれとほんの一時期つきあっていた。冬紀は仕事熱心だからまともな仕事をするとなると嬉しくて、そんなつきあいの女でもライヴハウスに呼んだ。そこで本命彼女の真菜と鉢合わせしたのだ。

 その理屈はどこかで破綻しているが、真菜は気づかない。
 そうしてばれてしまったものだから、冬紀は慌ててすみれとは別れて、俺には真菜だけだと誓った。けれど、冬紀にも仕事があってこの大学に来て、この大学の学生であるすみれとばったり会ったのだ。そうすれば、モトカノというか、友達としてのすみれと立ち話くらいはするだろう。

「モデルさんたちが撮影してるんだよ」
「みんな、綺麗だねぇ」
「すみれちゃん、ちょっと見物していこうよ」
「うん、素敵。あたしもあんなにおしゃれな美人になりたいな」
「すみれちゃんには無理そうだけどさ」
「かもね」

 そんな会話をしているのだと、それだけのことなのだと、真菜は思い込もうとしていた。
 むこうはおそらく、モデルたちの中に真菜がいるとは気づいていない。似たタイプの細くて背の高い女の子が十人もいるのだから、注意深く見ないと気づかないだろう。距離もあるのだから、気づかれなくてよかった、のか。

 気づかせてやりたいのか、この件について冬紀を難詰したらどうなるのか。
 あたしは冬紀と別れたくないよ。あたしは冬紀が好きなんだから、あたしを怒らせるなよ、そう思いつつ仕事をこなし、意識だけではなく目もやってみたときには、冬紀とすみれの姿は消えていた。


つづく

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~ Comment ~

うわっ

こんばんは!
ネット
環境が不便で夜になかなか訪問できず申し訳ありません。

今日はここまで読ませていただきました。
にしても・・・冬紀くんのキャラは面白いですね。

この先何が起きるのか楽しみにしてます^^;

美月さんへ

わーい、ここまで読んで下さったのですね。
ありがとうございます。

美月さんのおかげさまもありまして、ジョーカー第二部も完結させました。すこしずつアップしていきますので、引き続きご愛顧のほど、よろしくお願いします。

冬紀はねぇ……女性には嫌われそうなキャラかもしれませんが、顔がいいから許してもらえたりして?
美月さんはフィクションだったら、不道徳なのもある程度は許容して下さいますよね。いえ、もちろん、冬紀の馬鹿っ!! って怒ってやって下さるのも大歓迎ですよ。言ってやって下さいね(^^

NoTitle

おはようございます!
もちろん、もちろん^^ 不道徳であろうが・・・なんでオッケーですよ。
だって小説ですもんね。
昨夜もネットが切れる直前に急いでコメントしたので、なんか雑ですみませんでした。
ジョーカー第部完結とのこと、楽しみに読ませていただきますね♪

美月さんへ

昔、友人にいたのですよ。
彼女は本を読むと眠くなるけれど、自分の子どもを本好きにしたいというひとで。
その彼女にミステリを勧めると、絶対に犯人がつかまらないといやだと言うのですね。私はストーリィによっては、犯人の応援をしたくなるんですけどね。

そのような経験からしても、正義の味方みたいな読書の仕方をするひともいらっしゃるようで、不道徳なのを嫌うひともいるかなぁと。

美月さんは「小説だから」と言って下さるので、安心して不道徳なのを書けます、なんちゃって(^^
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