ショートストーリィ(しりとり小説)

27「救世主」

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しりとり小説27


「救世主」

 自業自得というのだろうから、しんどい人生だったのは致し方ない。だから、宗教にも救いを求めてみた。

 宗教は救いももたらせてくれたが、恐怖ももたらせた。さまざまな宗教の教えには、死後の世界や後世というものがあって、彼の生き様ではろくなことにならないだろうと思わせたからだ。

 地獄に行くのだろうか。あるいは、あの国に生まれ変わるとか? ゴキブリにでも生まれ変わるとか? ようやく現世の苦しみから解放されるという寸前、彼は考えていた。

 しかし、あの国に生まれ変わるのが現世での罪の償いだとしたら、あの国の人々は……すべてが前世で悪いことをしたのか? そりゃないだろ。そんな教義を示したあの宗教は嘘っぱちだといいな。そんなことはありませんように。あの国よりはゴキブリがいい。

 そんなふうに考えながら、彼は死んだ。

「え? ここは?」
「えーと、あなたは……」

 裁判か? 俺は裁かれるのかと彼は思う。あのときにもかけられた裁判と似たスタイルで、ただし、普通の人間だとは思えない風貌の人物、人物でもないような人型のなにかが、彼に言った。

「あなたは十代のころに、子どもを殺してしまった。過失ではあったが、そのことによって人生が狂わされたのですね」
「はい。僕は未成年だったのに酒に酔って、ビルの屋上から面白がっていろんなものを投げたのです。投げたもののひとつが下を歩いていた子どもの頭に当たり、その子は亡くなりました」
「運が悪かったですね」

 やけに人間的にそのものは言い、彼は応じた。

「運が悪かったなんて、亡くなった子どもさんに言うべきですね。僕は悪ふざけがすぎました。後悔しても反省しても仕切れない。過失というか事故というか、未成年の僕には罰は重くはなかったのですが、精神的には……」
「わかりました。では」

 身体から魂が抜け出していくのか。罹っていた病の症状が完全に消えてしまって、「彼」が浮遊していく。地獄に行くのではないのか? あるいは、「あの国」に生まれ変わっていくのか? それにしてはこの清々しい心持ちはなぜだろう。

「ゆっくり安らかに眠りなさい。あなたは最高の死後の世界に行くのですよ」
「天国ですか?」
「人間の考える天国以上に、安らかな世界です」
「……でも、なぜ? 僕は罪を犯したのに」

「知りたいですか?」
「僕が悔いて、反省しているから? 生きていた間に罪の償いはすんでいるという意味ですか」

 透明になっていく意識の中に、声が聞こえた。

「あなたが殺してしまった子どもがあのまま成長していたら、あの子は地球を滅ぼした。だからですよ。あなたはいいことをしたわけではないが、結果的には……」

 そういうことなのか。
 なんとなく釈然としない気持ちもすぐに消えていって、彼は昇天していった。

次は「しゅ」です。


「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
今回はまったく新しいキャラです。名前もない「彼」。たぶんここまでのストーリィとは趣がちがっているはずです。
主人公についてはまあいいのですが、この物語、不快に感じられる方もいらっしゃるかもしれません。
そんな方にはお詫び申し上げます。すみませんでした。



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