ショートストーリィ(グラブダブドリブ)

グラブダブドリブ・司「雪の朝」

 ←「We are joker」18  →新選組異聞「梅が香」
フォレストシンガーズショートストーリィ7つ、というのがあります。
フォレストシンガーズストーリィ1-第一話「はじまり」

私にとっては同じくらいに愛着のあるグラブダブドリブも、6つのショートストーリィにしました。

第一話・司「雪の朝」
第二話・ジェイミー「プルシアンブルー」
第三話・ドルフ「少年」
第四話・ボビー「Coin toss」
第五話・悠介「個人教授」
第六話・真柴豪(グラブダブドリブのプロデューサーです) 「りばいばる」

できましたら、第一話から続けてお読みいただけると幸いです。



グラブダブドリブショートストーリィ・司

「雪の朝」


 魂胆はわかっていたが、母にこう言われたら拒否はできなかった。
「旅館の予約ができたのよ。二部屋取れたの。あんたたちが子どものころだって、家族旅行なんてほとんどしてないよね。司が独立してからは、四人で食事をすることすらなくなったじゃないの。このまんまでは母さん、三人の息子が顔をそろえている姿を一生、見られないかもしれないわ。三人がそろうのは私の危篤の枕元だったりして? そのときにはもう、私は意識朦朧かもしれないね」
「……わかったよ、行くよ。秀と要は母さんが説得しろよ」
 沢崎司、秀、要、ツカサ・スグル・カナメの三兄弟の長男、沢崎司が俺だ。
 父は刑事、母は主婦という家庭に生まれ、男は強くあるべき、の父の主義に基づいて育てられた三兄弟は、腕力は強い。大人になってもやんちゃで粗暴傾向もある。
 そんな息子たちを見て、父は草葉の陰で笑っているのだろうか。弟たちは父が殉職したときの誓いを貫いて警察官になったのだから満足しているだろうが、長男の俺についてはどうなんだろ。俺の息子がロッカーだと? この軟弱者がーっ!! だろうか。
 もはや父の意見は聞けないので知らないが、弟たちはそう思っている。俺たちの兄貴がロッカー? 許せない、勘当だ!!
 てめえは俺たちの兄貴ではない、兄とは呼んでやらない、てめえ、司でたくさんだ、と言われ、ああ、上等じゃねえか、と切り返して、俺は弟たちとは兄弟の縁を切った。秀は刑事、要は警官となった現在では、弟たちは仲良くているようだ。
 弟たちと俺は縁を切っても、母とは縁切りはしていない。母は頑固者の次男と三男には呆れているようだが、往生際は悪くて、時々画策する。今回の家族旅行も、母の画策のひとつだった。
「俺たち、一緒の日に休みが取れたよ。寒いときで悪いけど、旅行しようよ」
 秀がそう言ってきたのだそうで、母は、そんなら旅行スケジュールは私にまかせてよ、と応えた。俺の仕事のスケジュールを調べ、それに合わせて旅行プランを立てたのであるらしい。
「司も一緒?」
「えええ?」
 いい顔をしないのは当然の弟たちをどう言いくるめたか、ともあれ、沢崎一家の家族旅行が実現してしまったのだった。


 身長は三人ともにほぼ同じ。体格は秀や要のほうがごつい。俺は弟たちに言わせれば、ひょろひょろロッカーだ。
 実際には俺だって弟たちと同じく、ガキのころから剣道をやってきていて、有段者である。今でも素振りや稽古はしているのだし、ベーシストって職業は肉体労働でもあるのだから、ひょろひょろしているつもりはない。
 すこし雪のある温泉場には、秀が借りてきた弟たちに似たごついレンタカーでやってきた。運転していたのは秀、助手席には要がすわり、バックシートに母と俺がすわり、ほとんど母だけが喋っているうちに車が旅館に到着した。
「秀と要が隣の部屋を使いなさい。司は母さんとね」
「そのほうがいいな。じゃあ、あとで」
 返事もせずに、秀と要は隣の部屋に入っていく。でかくてたくましい身体つきの男ふたりがぶすっとしていると、空気までが重たくなりそうだった。
「ここって温泉だろ。風呂、入る?」
「司と混浴?」
「……げ」
「げっとはなによ? 母さんだっていやですよぉだ」
「ここの風呂って混浴か? 若い女が入りにきたりするのかな」
「家族風呂っていうのがあるらしいわよ」
 あんな無愛想な奴らと、弟たちがぶすくれていればこっちもぶすっとしている奴と、こんなのばかりとでも息子たちとの旅行は楽しいのか、母はいささかはしゃいでいた。
「母さんはこれでも女だから遠慮するけど、三人で入ってくれば?」
「男三人なんだから、男湯に入るよ。あいつらも気が向いたら来るだろ」
「そうね。そしたら母さんは女湯に行くわ」
 連れ立って浴場に行き、母とは別々に温泉に浸かっていても、弟たちは入ってこない。若い者が旅行に来るような温泉場ではないようで、グラブダブドリブなんてものはみじんも知らない地元の老人と、釣りや食いものの話をして湯から上がった。
「司が戻ってきたみたいだぞ」
「ん、だったら俺たちも行くか」
 隣の部屋から秀と要の声が聞こえ、ふたりが出ていく。俺が戻ってきてから風呂に入るとは、陰険な奴らだ。
「俺だっておまえらと風呂になんか入りたくねぇよ。勝手にしろ」
 やがて母も部屋に入ってきて、弟たちも温泉から帰ってくると、お食事は? と仲居さんが訊きにくる。秀が答えた。
「母もこっちで食事しますよ。この部屋の分はひとり分だけ……」
「いいえっ。四人分、ここに用意して下さい」
 母が横から言い、仲居さんが下がっていくと、要が言った。
「ま、メシのときくらいはさ……」
「そうよ。旅行に来たときくらいは昔みたいにやりなさいよ」
「やれないな。要、おまえは甘いんだよ」
「司のために言ってんじゃねえよ。母さんのためだろ」
「母さんにたぶらかされると、司にも甘くなるんだろ」
 でかい奴らがもめはじめ、母は憤然として言った。
「これから食事なんだから、ごはんがまずくなるような喧嘩はしないでよ。今夜はお酒でも飲んで、つまらない昔の確執は一時的にでも忘れなさい」
「俺は忘れないよ」
 秀が言い、要も言った。
「俺たちは司とは兄弟じゃなくなったんだ。赤の他人になったんだよ」
「赤の他人だって、同じ食卓を囲んでお酒を飲んだりおいしいものを食べたりしていたら、和やかになるものでしょ」
「そんなふうにだったら、和やかにしてやるよ」
 要が言い、秀も不承不承のていでうなずく。ここまでは黙っていた俺も、うなずくしかなかった。


 和やかでもなかったが、喧嘩はせずに食事を終え、秀と要は隣室に引き上げる。俺は母と布団を並べて横たわった。
「司はたまには帰ってくるけど、うちでだったら同じ部屋では寝ないものね。こうして寝るのってはじめてじゃない?」
「母さんとふたりっきりで同じ部屋で寝るのは、はじめてかもしれないな」
「そうよねぇ……」
 父が殉職したのは、俺が中学生のころだ。長男の俺には一番、父の記憶が多い。
 長い休みなんて取れない刑事は、子どもたちが夏休みだといっても、旅行にも連れていってはくれなかった。それでも、父のたった一日の休みには虫捕りをしたり、プールに泳ぎにいったりはしたものだ。
 静かな冬の夜に、母と布団を並べていて思い出すのは、小学生の夏休み。
 小さい弟たちも小学生で、まだ可愛げもあった。たまにはひとりでのびのびしたいからと、母は留守番していて、父が息子たち三人を川に連れていってくれたのだ。
 河原で仁王立ちになっている父に、息子たちが次々に飛びかかる。父は笑い声とともに息子たちを投げ飛ばす。汗をかいたら川で泳いで、母が作ってくれた弁当を食べた。大きな握り飯と卵焼きやらフライドチキンやらを食べ終えて、父が草の上にごろんと横たわった姿が見える気がした。
「司は大きくなったらなんになるんだ?」
「まだわかんないけど、刑事もいいかな」
「刑事かぁ」
 きっとなれよ、と言ったのか、刑事なんてやめとけ、と言ったのか。あの会話は父と俺だけがかわしたものだ。
「兄ちゃん、父さん、寝ちまった?」
「昼寝して起きたら寝ぼけてるだろ?」
「寝ぼけてる父さんに三人がかりで飛びかかったら、倒せるかもしれないよ」
「おー、よし、やろう」
 三人して相談して実行したら、それでも倒せずに、息子たちが投げ飛ばされた。
 大きくて強い父は普段はとてもきびしかったけれど、俺たちにとっては誇れる父親だった。俺よりも幼かった弟たちにしてみれば、いっそうだったのかもしれない。
「母さん……寝たか?」
 夫を亡くしてこの腕で、三人の息子を育てた母。この母のためには弟たちと仲良くするべきなのだろうが、あいつらが頑なさを捨てないのだから、俺にはどうしようもないのだ。


 あらぁ、すごい雪!! 母の声で目が覚めた。
「んん? ほんとだ。相当積もってるな」
「このあたりって豪雪地帯でもないよね。こんなに積もって大丈夫?」
「帰るのは明日だから、雪かきだってするんだろうから大丈夫だろ」
 それよりも、俺はあと一泊二日、弟たちとともにいるのが気が重い。
「腹減ったな。風呂に入って朝飯だ」
「あら、あんなところに……」
 窓を開けていた母が、庭を指差した。
「秀と要……なにやってるんだろ」
「柔道かな?」
 警察官には武道は必須だから、剣道以外にも日常的に柔道をやっているはずだ。雪の積もった庭で弟たちは鍛錬しているらしい。
「あいつらは好きだね。放っておけばいいよ」
「司はやらないの?」
「俺は職業柄、ベースのチューニングとかだったらやるけどさ」
 冬であっても、弟たちのやることはいちいち暑苦しい。俺は鍛錬している姿などは人前にはさらしたくない。やはり警察官になんかならなくてよかった。
「秀、要、おはようーっ!!」
 年のわりには若々しい声を張り上げて、窓から母が叫ぶ。弟たちが母に向かって手を振った。
「そこにいる軟弱者は部屋でぬくぬくしてるのか」
「さすがにロッカーってのは軟弱だよな。雪に触れるとしもやけにでもなるんじゃないのか」
「凍傷になるのかもな」
「それにしたって、格好いいのが売りのはずのロッカーが……」
「よれよれの寝巻きに不精ひげって、ファンが逃げるぜ」
「彼女がいるんだとしたら引かれるだろうな」
 ふたりしてがははっと笑い、秀が続けた。
「格好以外にはなんにもないロッカーが、あの姿じゃおしまいだな」
「食っちゃ寝してたら腹が出てくるぞ、司」
 挑発されていると見た。俺は寝巻きを脱ぎ捨て、手早く身支度をして窓から飛び出した。
「司、ちょっと……」
「風呂に入る前の一運動だよ」
 ガキのころにはふざけていたはずが本気になった兄弟喧嘩は、俺がロックに傾倒していくにつれて、最初から本気の取っ組み合いや殴り合いになっていた。母だって見慣れていたはずが、最近はやっていないので心配になったのか。不安そうな顔をしている母に笑いかけると、肩に大きな雪玉が当たった。
「……雪合戦だったらいいけどね」
「いて。石をくるんだだろ。おまえら、卑怯だぞっ!!」
 弟たちが走り寄ってくる。手に手に持っているのは石を芯にした雪玉か。飛んでくる雪玉から身をかわそうとしたら、バランスを崩してころんだ。なにかの拍子に弟たちもころんで、俺の上に折り重なってきやがった。
「うげっ!! 重いんだよっ!! 要、秀っ!! どけよっ!!」
 怒鳴った俺の声に驚きでもしたか、樹の枝にいた大きな鳥が飛び立つ。樹もずいぶんと大きくて、鳥が飛び立つと揺れる。羽ばたきと同時に樹の枝に積もっていた大量の雪が、俺たち三人の上にどさーっと落ちてきた。
「うわーっ!!」
「冷たいっ!!」
「冷たいっていうよりも痛いだろっ!! 雪も重いっ!!」
「兄ちゃんっ、なんとかしろよっ」
 要が叫び、秀も叫んだ。
「兄貴っ、なんとかしてくれよっ!!」
 ばさばさと落ちてきて、全身に雪が降り積もってくる。そんな中、俺は妙に冷静に秀の声を聞いていた。
 兄貴といえば要にはふたりいるが、秀にはひとりしかいない。すなわち俺だ、司兄貴だ。秀が俺を兄貴と呼んだのは何年ぶりだろう。パニックになって無意識で叫んだのだろうが、いい気分だ。雪に埋もれているくせに、なんだか気持ちがよくなってきて、俺は大きな声で笑っていた。


END

 


スポンサーサイト


  • 【「We are joker」18 】へ
  • 【新選組異聞「梅が香」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

拍手ありがとうございます

拍手を押して下さった方は、読んでいただけたのだと単純に考えております。

ありがとうございまーす。
今後ともごひいきのほど、よろしくお願いします。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【「We are joker」18 】へ
  • 【新選組異聞「梅が香」】へ