ショートストーリィ(しりとり小説)

26「友達が変わるとき」

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しりとり小説26

「友達が変わるとき」

 
「私、都会の出身者でなきゃいやなんだ」
 教室で聞こえてきた女の子の声に、男の子の声が問い返していた。

「そういうあんたはどこの出身?」
「仙台」
「……宮城県か」
「仙台です。仙台は都会よ。高知県なんかよりもずーっと都会よ」
「そりゃそうだね」

 ちらりと見ると、背が高くて顔もまあまあ整った男の子が、しかめっ面をしていた。なおも耳を澄ませると、彼が彼女をデートに誘って断られたらしい。大学生ともなると教室でナンパするんだな、と笑いながらも、妙子は同じ高校から同じ大学の、同じ心理学部に進んだ鮎那に尋ねてみた。

「あの男の子、名前を知ってる?」
「あの子? 知らないな。まだ同じゼミの女の子も覚えてないよ。妙子、帰ろう」
「そうだね」

 鮎那のほうはむこうにいる男女の会話を意識もしていないようだったが、あのシーンは妙子の心に妙にくっきり焼きついた。
 それで興味を持つなんて、変な話ではあるのだが、興味を持ってしまったのだから仕方ない。数日後、妙子はデートに誘われていた女の子のほうに話しかけた。

「ちょっと聞こえてたんだけど、仙台出身なんだってね。私は中学生までは松島にいたの」
「ああ、松島。遠足で行ったよ」
 日本三景のひとつ、宮城県の松島の話で盛り上がり、初美という名の彼女とは友達になれた。

「初美ちゃんが仙台出身だって話を聞いたときには……」
「もしかして、あのとき? 小笠原英彦に……」
「ああ、彼、小笠原くんっていうんだね」

 初美とも友達にはなったのだが、彼女は彼を嫌っているのか、誘われたのがよほどいやだったのか、敬遠しているふうに見える。名前と高知県の出身と、ルックスだけを知った小笠原英彦には興味を持って、妙子は彼をそれとなく観察していた。

 英彦には友達が大勢いる。大学一年生の年齢のわりにはやんちゃ坊やじみた英彦の周囲には、似たタイプの男の子が集まる。私もあの男の子たちと友達になりたいな、と思っても、女の子にだったらともかく、妙子は男の子たちには近寄りがたかった。

「妙子、ここ、ここ、ここにおいでよ」
 梅雨が明けたある日、学食に行くと鮎那に呼ばれた。一緒にお昼、食べようよと言われて鮎那の隣の席にかけると、男の子のグループもやってきた。

「ここ、いい?」
「今日は混んでるからさ、僕らもご一緒していいでしょ?」
「鮎那ちゃん、なに食ってるの? うまそうやきに、俺もそれにしよっと」
「小笠原、それ以上まだ食うの?」
「うん、もっと買うてくるき、先に食べてて」

 鮎那と妙子がすわっていたテーブルに、六人の男の子が同席して賑やかになる。英彦は鮎那が食べていたホットサンドイッチを買ってきて、自分の昼食に加えてもりもり食べている。男子たちの旺盛な食欲を妙子は微笑ましく見ていた。

 彼らは鮎那の名前を知っている。妙子の名前までは知らなかったのかもしれないが、同じゼミということで親しみは持ってくれているらしく、妙子も話の輪に溶け込めた。
 デートに誘われるなどという事態にはならない。そこまではならないほうがいい。そんなふうに自然に男の子たちとも、小笠原英彦とも友達になれた。

「妙子ちゃん、一緒に帰ろうか」
 いつしか友達が増えていく。学生時代の友達は財産だと、高校の先生も言っていた。財産が増えてリッチになった気分でいたころ、学校の門のあたりで英彦が妙子のうしろから声をかけた。

「あ、うん、一緒に帰ろう」
「妙子ちゃんは宮城県の出身なんだってな」
「住んでたのは子どものころだよ。今は東京。うちの両親は遠くの大学になんか娘をやってはくれないだろうから、東京に引っ越してきててよかった」

「そうなんか。俺は妙子ちゃんがひとり暮らしのほうがよかったけどな」
「なんで?」
 ぽけっと尋ねると、英彦はいささか妙な笑みを浮かべた。

「親と暮らしてる女の子に、今夜は帰らなくていい? なんて言えないからだよ」
「……友達なのに?」
「いやいや、冗談だけどさ」

 冗談……そりゃあそうだろう。鮎那や初美のような可愛い子にだったら、男の子は本気でこんなことを言うのだろうけど、妙子のような地味な女の子には言わないはずだ。

「ごめん。怒った? 冗談やきに……怒るなよ、な?」
「うん、平気だから」

 今夜は帰らなくていい? と言われた瞬間に心臓がずきーんとしたのはなぜ? 怒ったのではないけれど、そのときの自分の感情がつかみ切れない。
 なのに英彦は、何度も言う。冗談だから、冗談やきに、ごめんな、と。何度も何度も冗談だと言われると気持ちがいっそうもやもやして、妙子は無口になってしまっていた。

「……ごめん。怒らせてしもうたちや。俺は用事を思い出したから、こっちから帰るよ。妙子ちゃんは気をつけて」
「うん。さよなら」

 おかしな冗談を口走って気まずくなったのか、英彦はそれからは積極的には妙子に声をかけてこなくなった。妙子も英彦のそばではどんな顔をしていればいいのかもわからなくて、関わらないようにしていた。

 二年生になるころには、初美や鮎那とは仲良くしていても、男の子たちとは疎遠になっていっていた。あのときの私の気持ちはなんだったんだろう、小笠原くんは友達のはずなのに、あんな冗談で怒ったの? 怒ったつもりはなくても、あの言葉でなにかが変わったのはまちがいない。

 なんだか寂しいような、平和になってよかったような気持ちでいたころ、母が持っている古いレコードを聴いた。「友達が変わるとき」というタイトルがひっかかったから。
 
「もう終わったの

 あの幼い日
 
 歌口ずさみはしゃいでいたころ

 もう僕たちはさよなら言おう
 
 きみはあの日のきみじゃないのさ」

 恋人同士の歌だろうか。彼女が友達のはずだった別の男に恋をした? 
 友達が変わるとき、というシチュエーションにもさまざまあって、妙子の心の中も、小笠原英彦のあのひとことで変化したのかもしれない。冗談を本気にしていたらどうなっていたのかとふと考えそうになって、妙子はぶるっと頭を振った。

次は「き」です。

「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
26の妙子は、もとフォレストシンガーズのメンバー、小笠原英彦の大学時代の同級生です。




 

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~ Comment ~

甘酸っぱ苦い

この、ゆらゆら~っとした、不安定な気持ちが、いいですね。
高校生ほど子供じゃないから、そういう意味深な冗談に目くじらをたてないけども、ストレートに笑って流せない純情がある。
大学生の恋は、とてもシビアで難しいですね。

小笠原君の高知弁が、かわゆい。
私でもきっと、気になってしまうなあ^^
方言って、ある意味チャームポイントですよね。
(大阪弁は、ちょっとマイナスかな^^;)

面映ゆい、懐かしい気持ちになれました。

limeさんへ

いつもありがとうございます。

大阪弁ネィティヴの私にとっては、大阪弁っていうのは日常過ぎて当たり前なんですけど、大阪弁をセクシーだと思うよその地方の方、時々いるらしいですよ。

私は関西弁に浸って育ってますので、近いところのある土佐弁よりは、関東言葉のほうをかっこよく感じてしまうのですけどね。

「甘酸っぱ苦い」っていいフレーズですねー。
「ヒデ、おまえもけっこうもててたんだな」って、シゲがひがんでいるのが聞こえてきそうです。
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