キャラクターしりとり小説

キャラしりとり3「バンドやろうぜ」

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キャラクターしりとり3

「バンドやろうぜ」


 スー、ローザ、マリ、アキラ、ミミ。五人でやっていたロックバンド「ジギー」を解散して、暇になってしまった。暇だから仕事にいこう。

「倉庫整理の仕事だったらあるよ」
 登録してある人材派遣会社に電話をすると、担当者がそう言った。

「田原さんは力もあるでしょ」
「力はあるけど、倉庫ってなんの?」
「楽器の会社」
「楽器? そんなら行く」

 下請けしてきた古い楽器を積んである倉庫で、整理をする仕事なのだそうだ。
 掘り出し物、ないかな。あったとしてもただではくれないだろうけど、憧れのレアものアンプだとかスピーカーだとかだったら見るだけでも嬉しい。修理したら使える逸品のギターがあったら、ぱくったりして。

 期待満々で出かけていった楽器会社の倉庫にあった楽器は、邦楽のものだった。
 太鼓や笛、あたしは名前も知らないお祭りで使うような日本の楽器。あたしには意味もなくて、ただ、楽器だというだけ。
 
 こんなのだったらつまらないけど、泥棒したくならなくていいかな。有名ギタリストモデルのギターがあったりしたら、ほしくなって値段交渉して、バイト料だけじゃ足りなくなりそうだし、こんな楽器でよかったね。

 自分に言い聞かせながら仕事をこなす。
 これってどこかの町の青年団が、祭礼のときに使っていた古い古い楽器を買い換えるために、まとめて下取りに出したのだそうだ。

 お祭りの楽器って、当たってたんだね。
 ちっちゃいころにはあたしも、町内のお祭りに行ったっけ。おじさんやお兄さんたちがお神輿をかつぎ、ご神体だかなんだかが乗った山車だかなんだかを子どもたちが引っ張る。あたしは山車に乗せてもらって、小さい笛を吹いていた。

「みぃちゃんは才能あるなぁ。大きくなったら音楽家になれそうだよ」
 町内の世話役のおじさんがお世辞を言ってくれて、あたしは気持ちよく笛を吹いて自分に酔っていた。だから母に言ったのだ。

「あたしは笛が上手だって言われたよ。笛を習いにいきたいな」
「うちにはそんなお金はないし、小学生になったらリコーダーとかを習うんだから、それでいいんじゃないの」

 小学生になったら事実、笛やハモニカやといった楽器を授業で使った。先生にも上手だと言われたし、学芸会の器楽演奏ではアコーディオンのソリストもやったのだから、あたしには楽器の才能はあったのだろう。

 中学生になって、近所のひとつ年下の男の子に誘われて、中学生ロックバンドに入った。田原倫子、こう書いて「みちこ」と読む名前がお堅いと思っていたので、あたしはバンドのみんなに言った。

「今まではみぃちゃんって呼ばれてたんだけど、もう子どもじゃないんだからもうすこし大人っぽいニックネームがいいな。「ミミ」っていいでしょ」
「ミミだったら似合ってるけど、ニックネームって自分でつけるもんか?」

 笑われもしたものの、みんなはあたしをミミと呼ぶようになった。

「ミミはギターだって下手じゃないけど、ヴォーカルに専念してほしいな。ミミは顔だって可愛いんだし、身体も大きいほうで迫力があるだろ。声も低めで力強くてロックヴォーカリストには適役だよ。ギターはやめてもいいんじゃないのか」

「ツィンギターのかたっぽをやらせてくれるって言うから、あたしはバンドに入ったんだよ」
「だけど、ギターとヴォーカルの両方は疲れるだろ」
「ミミは女の子なんだから、疲れてるとヴォーカルに影響が出るよ」

 悔しくて喧嘩をするようになって、バンドはやめた。
 その後もいろんなバンドに出たり入ったりして、そうしているうちに考えるようになった。

 あたしは美人だし、歌もギターもうまいから、男たちはもてはやしてくれる。その反面、女の子だからって軽視したり、特別扱いしようとしたり、えっちないたずらをしかけてきたりもする。
 男ってこりごりだよ。そうだ、女の子ばっかりでバンドやろう!!

 高校生になってはじめて、女子ばかりのバンドを組んだ。
 女ばかりというのもそれはそれで諍いが絶えなくて、あたしはこの年になるまでにいくつのバンドを遍歴しただろうか。まだ二十代半ばにもなってないのに、ジギーで十個めくらい?

 二十歳のときに組んだジギーは、女が四人と男がひとりの変則ガールズバンド。ふにゃふにゃ男のアキラなんて奴がいたから、どうしてもうまく行かなくて、CD一枚出さないうちに解散してしまった。

 やっぱりバンドは女ばっかりがいいな。こりずにもう一回やろうかな。機械的に倉庫の整理をしながら考えて、うちに帰ってからロック雑誌に投稿する文章を書いた。

 「女の子バンドをやりましょう。私はギターです。女の子限定だよ。連絡ちょうだいね」
 そんなものは忘れたころに、電話がかかってきた。

「ミミさんの投稿が採用されまして、応募がありましたよ。連絡先は編集部になってましたので、こっちのほうに電話があったんです。女性ですが、電話、します?」
「ああ、あれ、載ったの?」
「知らなかったんですか」

 苦笑している編集部の女性から電話番号を聞いて、あたしのほうから彼女に電話をかけた。ナージャと名乗った彼女はヴォーカリストなのだそうで、待ち合わせの時間と場所を決めて電話を切った。

「はじめまして。ミミです」
「ご苦労さま、ナージャです」

 やや太った長身、真っ黒な長い髪をしている。クレオパトラでも意識しているのか、黒々したアイラインを引き、口紅も黒っぽかった。

「本名はいいけどね、で、ナージャさんもバンドやってたの?」
「やったことはないのよ」
「やったことないの?」

 二十代後半から三十代、まさか四十にはなっていないだろうが、あたしよりは年上に見える。この年でバンドもやったことがなくて、なのに今からやりたいと?

「ミミには自覚はないの?」
「自覚ってなんの?」
「私はあなたの書いた文章を読んでひらめいたのよ。だから来てあげたのに、あなたの記憶には残っていないのかしら」

「だから、なんのさ?」
 なんなんだ、この上から目線は。苛々してきた。

「ダフネを見たら思い出すかしら」
「ダフネって誰?」
「もうすぐここに来るから、待ってなさい」

 薄気味の悪い笑みを刻んで、ナージャが言う。あたしだってミミと名乗っているのだし、日本人にしか見えない彼女がナージャと名乗るのは勝手だ。ダフネってのは何人なのだろう、と思っていたら、間もなく男がやってきた。

「ミミ、彼を見てなにか思い出さない?」
「なんにも」

平凡な容貌をしたどこにでもいそうな男だ。どこかで会ったとしても一瞬で忘れそうだから、会ったことがあるのかどうかも覚えていなかった。

「ダフネはどう?」
「ナージャはどうなの?」

 静かにあたしに目礼したダフネとやらは、ナージャに問い返した。

「あなたのなにかに触れる、彼女は?」
「曖昧なのよね。ひとつの情景が浮かび上がってきそうなのに、つかまえ切れなくてもどかしいの。おまえに参考になる意見を聞きたかったんだけど、駄目かしら?」

 おまえって? ナージャとダフネはどんな仲なのだろうか。あたしは男を「おまえ」と呼んだことがあっただろうか? 喧嘩をしているときにだったらあった気もするが、冷静なときにはせいぜい「あんた」だ。アキラにだって「おまえ」とは言わなかった。

「あなたの奴隷だった女だろうか」
「そうかもしれない。ミミのほうが思い出してくれればいいんだけどね」
「……奴隷?」

 ふたりしてあたしをじーっと見つめる。切れそうになったのをこらえて言った。

「なんなんだよ、どういう意味だよ」
「下品な女ね」
「あなたが教育した奴隷だったら、生まれ変わったとしてもこうはならないよね」
「そうね、人違いだったんだわ」
「そのようです」

 意味不明な会話をしてから、ふたりは席を立った。
「ご苦労さまでした。ちがってたわ」
「では、我々はこれで……」
「なんなんだっ」

 なんなんだっ、としかあたしには言えない。ナージャはつんと鼻を上向け、ダフネは軽く頭を下げて、ふたりは行ってしまった。

「あいつら、なにしに来たんだろ。意味不明だな」
 ひとりごとを言ってあたしも立ち上がり、ナージャと待ち合わせた喫茶店から出ていった。
「……そういえば……」

 投稿したのも忘れていたのだから、雑誌は買わなかった。帰りに書店に寄ったら、雑誌が売れ残っていた。アマチュアロッカーたちがメンバー募集をしているコーナーがある。「女性ロッカー特集」のその中に見つけた。
 
「私の名前を見て、心に情景が浮かび上がった方、連絡を下さい。私はアトランティスのナージャ。私の崇拝者だった男、私の家来だった男、集え!!」

 なるほどね。
 するってーと、前世ではダフネはナージャの家来だったってわけか。納得。
 
 納得はしたけれど、ロック雑誌がこんな変な投稿を載せるなよ。おかげであたしがひっかかっちゃったじゃないか。今さらながら腹が立ってきた。下品な女って、男を「おまえ」と呼ぶあんたはどうなんだ、ナージャ?

 それは下品とは言わない? あんたの理屈だったらそうなのかもしれないな。
 今どき、あんな女がいるなんて……まあ、一緒にバンドをやる羽目にならなくてよかった。新しいバンドのメンバーは焦らず、じっくり探さなくては。

つづく

キャラクターしりとりNO.3の主人公はミミ。
NO.2のスーと同じく、フォレストシンガーズの木村章が昔メンバーだった「ジギー」のギタリストです。続くNO.4の主役はもちろん、この前世カップルのうちの片方です。







 
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