ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

フォレストシンガーズ「もしもピアノが弾けたなら」

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フォレストシンガーズ

「もしもピアノが弾けたなら」


1

 将来のことをむずかしく考えたくない、学生時代を楽しくすごして、社会人になったら適当に。なるようになるさ。
 そう思っていた英彦の人生は、フォレストシンガーズで一変した。

 大学の合唱部の先輩たちに誘われて、仲間となった五人は「適当に」などと言っていられなくなって、無我夢中でプロになろうと走り続けた。

「ヒデ……できちゃったみたい」
 恋人の恵のひとことが、英彦の人生をまたもや激変させた。

 フォレストシンガーズ? そんなもの、あったっけ? 忘れたよ、俺には関係ないもんな。
 あいつら、プロにもなれてないんだろ? 俺はやめてよかったよ。歌は趣味でやっていればいい。人間は地道に生きるものだ。妻と子を抱えて働く俺こそが、まっとうな男なんだよ。歌手? そんな浮ついたことを言ってる男は駄目だね。

 忘れていないからこそ、心で彼らを嘲って、そのくせ……の日々もあった。
 
 夜中のテレビでフォレストシンガーズを見たとき、かつての仲間たちは輝いていた。英彦のポジションには学生時代の後輩がいて、英彦のかわりに喋って歌って笑っていた。

 あの瞬間に、英彦の心のなにかが決壊したのだろう。
 結果的には妻に離婚を切り出され、娘も捨てて旅に出た。放浪していた間もずっとずっと、フォレストシンガーズ? あんな奴ら、売れないまんまで消えていけばいいんだよ、と、だけど、有名になってほしいなぁ、あり得ないかな、の中間地点で揺らめいていた。

 あいつらは俺のことは忘れたかな? 
 忘れるのが当然だよな、でも……会いたいな。

 いつからかそう考えるようになって、けれど、実現はするはずがないと思い込んでいた。なのに会えた。本人たちではなく、本庄繁之の妻、恭子が話してくれた。

「シゲちゃんはいつも言ってましたよ。ヒデはどうしてるかな、新曲、聴いてくれたかな、ラジオは聴いてくれたかな、こっそりライヴに来てないかなって」

 涙があふれそうになって慌ててごまかしたあの日。それからだって時がすぎて、フォレストシンガーズはメジャーデビュー十周年を迎えた。

「ヒデくん、歌ってよ」
 リーダーの本橋真次郎のマンションで開かれた、内輪ばかりの十周年記念パーティ。マネージャーの美江子に言われ、英彦は立ち上がった。

「あれぇ? ヒデさん、歌うの?」
「おまえは俺が歌えって言っても、絶対にいやだって言うくせに」
「女性の頼みは聞くのが男だもんな」
「よっ、待ってました!!」

 かつての仲間たちが口々に冷やかす。
 この家のあるじが弾くので、部屋には小さめのピアノが置いてある。片手でぽつりぽつりと鍵盤を叩きながら、英彦は歌った。
 
「もしもピアノが弾けたなら
 思いのすべてを歌にして
 きみに伝えることだろう
 雨が降る日は雨のよに
 風吹く夜には風のように
 晴れた朝には晴れやかに

 だけど ぼくにはピアノがない
 きみに聴かせる腕もない
 心はいつでも半開き
 伝える言葉が残される
 ……残される」


2

「もしもピアノが弾けたなら
 小さな灯りを一つつけ
 きみに聴かせることだろう
 人を愛したよろこびや
 心が通わぬ悲しみや
 おさえきれない情熱や

 だけど ぼくにはピアノがない
 きみと夢みることもない
 心はいつでも空まわり
 聴かせる夢さえ遠ざかる
 ……遠ざかる」

 あの大学に入学して合唱部に入部して真次郎と隆也に出会い、三人で友達になって、それから長い道を歩いてきた。
 繁之も英彦も幸生も章も、美江子にとってはかけがえのない友人、仲間だった。

 その中で行方不明になっていた英彦が、みんなの気持ちにひっかかっていたのは知っている。美江子だっておりにふれては、ヒデくん、どうしてるかなと考えていた。

 どうして誰にも事前に相談もしないで、いきなり脱退だなんて言い出したの? 私がその場にいたらあんたにすがりついて、やめたら駄目っ!! って叫んで、振り払われたらひっぱたいてしまっていたかもしれないな。

 だから、私はその場にはいなくてよかったね。

 ヒデくんのかわりには章くんが入ってくれて、彼はヒデくんとは別の意味で扱いにくい男で、みんなが苦労していた。
 メジャーデビューはしてもフォレストシンガーズはまるで売れなくて、みんなして茨の道を歩いてきたんだよ。一時は私の口癖だった。

「私がついてるよ、しっかりしてよねっ!!」

 あのころの美江子の目標は、マネージャーとしてフォレストシンガーズを世界的大スターにすること。日本でさえも知名度ゼロに近かったのだから、美江子の夢は大言壮語ではあったのだが。

 そして十年、日本の大スターにもなっていないフォレストシンガーズではあるが、すこしは名前も売れた。ライヴチケットをソールドアウトにできるようにもなった。きみたちの努力が足りない!! と説教したがった事務所の社長も、認めてくれるようになった。

 徐々にそうなっていく中で一番の懸念だった小笠原英彦問題も、ようやく解決した。

 男だ女だばっかり言わないでよ、性差ではなく個人差のほうが大きいはずだよ、が持論だった美江子も、男五人とともに仕事をしてきていると、多少は男女差があるものだと実感するようになっている。あなたたちは男だからね、これでいいよね。

 湿っぽい言葉なんか言わなくていいの。
 この歌がヒデくんの気持ちを伝えてくれる。たった今のこの歌は仲間たちに対するラヴソング。ラヴは恋人同士にだけあるものではないのだから。

 若いころには明るく元気なハイトーンだった英彦の歌声は、すさんだ日々もあったのだと感じさせるハスキーヴォイスに変化して、それゆえに情感のこもり具合は昔以上になっている。なにやら茶々を入れていた仲間たちも、今は黙って英彦の歌と、拙いピアノに聴き惚れていた。


END

 


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~ Comment ~

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フォレストシンガーズの中で、ヒデだけは、ちょっとあまり好きになれなかったんですが、今回でもう、全て許してあげたくなりましたね(なぜ上から目線)
彼も彼なりにとても悩んでたんですね。
ただ自分勝手に飛び出したわけじゃなく。
きちんとした大人になろうとしただけで。
なにも、間違ってなかったですよね。ちょっとやめ方が不器用過ぎましたが^^。
自分が離れた後のメンバーの活躍を、
応援したい気持ち半分、消えて行ってほしいと思う気持ち半分。
それも、すごくわかるな~~。

年月が経って、みんなにこうやって迎えられて本当に良かった。
やはり、仲間なんですよね~~。
いいな。こんな仲間、ほしいです~。

limeさんへ

このキャラは嫌い、と思って下さるということは、深く読んでいただいてるってことだと解釈していいんですよね。
こんな奴はどうでもいい、そんなのいた? と言われるよりはずーっとずーっと嬉しいです。

そして、嫌いだったキャラを許してあげる、なんて言っていただけるとさらに嬉しいです。

ヒデはフォレストシンガーズストーリィの最初のころには遠くにいるので、脱退してからはあまり出てきませんものね。
その時期、彼はうじうじしていたのですよ。

浪花節ヒデですからねー。
書いてる人間が古いものですから、若い子も古いタイプになってしまって……まあ、こればっかりは仕方のないことで、見逃してやって下さいませ。

こんな仲間、ほしいと言ってくださるのも嬉しいです。
ありがとうございます。
私もほしいです。。。(^^

泣ける……(;_;)

英彦さんの名前、チラホラ見てたんですが抜けたとだけしか知らなくて……。お子さんが出来てたんですね。英彦さんの気持ちよく分かります(T_T)フォレストシンガーズが気になって戻りたいけど家族がいるし、嫉妬と羨望と心配となんかこうもやもやした感じですよね。離婚しちゃったのは残念ですが戻れて良かったです(^-^)
彼らの歌聞いてみたいですねー。あかねさんの頭のなかでは歌声や曲調は出来上がっているんでしょうか??どんな感じか気になります♪

たおるさんへ

いつもありがとうございます。
ヒデの絵、描けそうですか?
無理にとは申しませんが、描いていただけるととてもとても嬉しいです。もちろん他のキャラでも嬉しいですので、楽しみに待ってますね。

ヒデはぐじぐじタイプでして、読んで下さった方に嫌われたり、著者の私がうっとうしいと思って避けていたりもしたのですが、フォレストシンガーズのみんなと再会してからは明るくなりました。

私は音楽的才能はゼロで、ろくに歌も歌えませんので、フォレストシンガーズの歌の曲調というのは漠然と、ソウル系ラヴソングだとか、ダンスミュージックだとか、さよならの歌だとか……こんなふうかなぁ、と想像している程度です。

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