ショートストーリィ(しりとり小説)

25「つみびと」

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しりとり小説25

「つみびと」

 夫がいて、息子もふたりもいるのに、恋をしてしまったなんて、私はいけない女。山田一絵はほーっと甘い吐息をつく。

 美しすぎる彼がいけない。彼のあの若々しさ、あの可愛い笑顔、あの優しい声、あのすらりと伸びた四肢、そのすべてが一絵をいけない女にさせてしまう。彼のために貢ぎたくなってしまう。一絵にも収入はあるのだが、夫の稼ぎを彼のために使うという罪の意識が、一絵にはむしろ甘美なのだった。

「罪な男よね、あなたって。そんなあなたに恋をしている、私も罪な女なのよね」
 彼の写真に語りかけていると、長男の夏夢が学校から帰ってきた。

「ママ、今日はお仕事は?」
「今日はお休みなの。だけど、冬夢は保育園に行ってるよ。一緒にお迎えにいって、いつものカフェでパフェを食べようか。ママ、CDショップにも行きたいんだ」
「うん、パフェパフェ。わーい!!」

 長男のナツムと手をつないで次男のトウムを迎えに保育園に行き、三人でカフェに入る。
 次男は五歳の年齢のわりには渋い好みで、この店のカフェインレスコーヒーゼリーがお気に入りだ。子どもにカフェインはよくないのでコーヒーは飲ませたくないが、ここのだったらOKってわけで、子どもたちとはいつもここに来る。

「ナツムはなににするの?」
「ボクはストロベリーパフェ。ママは?」
「ママはりんごのムースにしよっと」

 息子たちとのお茶の時間も楽しくて、おいしいね、と言い合う。こうしているのは彼と向き合っているときとは別の幸せがあるなぁと一絵が感じていると、ナツムが言った。

「ママ、CDって相川カズヤの? 新曲が発売されるって言ってたよね」
「そうよ。ナツムも覚えてたんだ」
「ママは相川カズヤに会いたくないの?」
「別に……」

 こうして息子たちとお茶しているのは現実、写真やテレビを見たり、彼の歌を聴いたりして、私っていけない女、とうっとりするのは幻想なのだから、別に会いたいとは思わない。

 しかし、そのあたりを七歳児に説明するのは骨だ。ナツムにしてもトウムにしても、親の台詞に、なんでなんで? どうしてどうして? と質問したがる年頃なのだから、一絵としては曖昧に、別に、と言葉を濁していた。

「相川カズヤってアイドルでしょ。美江子おばちゃんは芸能界で仕事をしてるんだから、会えるんじゃないの? 会わせてもらったらいいのに」
「その手はあるんだけどね……」

 幻想の世界でこそ輝いているアイドルに会うと、夢が砕け散る気もする。夫の姉は音楽プロダクションに勤めていて、フォレストシンガーズというヴォーカルグループのマネージャーなのだから、芸能人に会うパイプだってあるはずなのだが。

 が、夢の国に現実を持ち込みたくないのだ。普通の三十代の女が美しすぎる若い男の前に、出ていきたくなどなかった。

「ナツムってませてるよね」
「ませてないよ。普通じゃん」

「学校の友達にも芸能人に会いたいって言う子がいるかもしれないけど、美江子おばちゃんには迷惑なんだから、安請け合いしたりしたらいけないよ」
「迷惑だから、ママもおばちゃんに頼まないの?」
「ま、そういうことだね」

 本音を言えばちらっと、ほんのちらっと、相川カズヤには会いたい。けれど、そんなことを義姉に頼むのは恥ずかしいし、なんといっても、幻想は幻想のままがいい。幻想の中の罪こそが、甘くかぐわしく美味なのよ、と一絵はこっそり呟いてみた。

次は「と」です。

「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
今回はフォレストシンガーズのマネージャー、山田美江子の弟の妻、一絵です。




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