グラブダブドリブ

リレー小説番外編3(続・呪われた夜)

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あかねくらぶリレー番外編3 

「続・呪われた夜」



 幻想的な紫の花が全体に咲くシャツを着て、ボトムは純白の革パンツ。ベーシストの司と背中を合わせてギターを弾く悠介の背で、鳶いろの長い長い髪が乱れて踊っている。
 スポットライトが悠介を照らし出す。うっすらと微笑んだ横顔は妖しくなまめかしくあでやかで、一種冷酷なまでに美しく整っていた。
「綺麗……」
 花穂の近くにいた見知らぬ少女が、熱に浮かされたような溜め息を吐き出した。
「身体中変になりそう。こう……ほら、おなかの奥のほうでなにかがうずき出すの。我慢してるうちに爆発してしまいそう。失神しちゃうかもしれない。どうしよう」
「悠介ってほんと……綺麗よねえ。あれって本物の男? 女でもなければ男にも見えない。駄目駄目、あたしも気が遠くなっていきそうだよお……」
 ふたりの少女は抱き合ってしまい、悠介、素敵、悠介、綺麗、と繰り返し呟いている。
 熱狂的ファンと呼んでいいのだろう。ルックスにだけ惹かれているのか、悠介のギター、グラブダブドリブが創り出す音楽のファンでもあるのか。いずれにせよ、ファンとはありがたいものであって、花穂は彼女たちに嫉妬するつもりはない。
 むしろ妬けるのはギターのほうにだった。あんなにも情熱的に抱かれて、悠介の腕の中で自由自在に歌うギターに、花穂はしばしば狂おしい感情を抱いてしまう。
 花穂がシャワーを浴びている間、悠介は彼女を待ちながらベッドでギターをつま弾いている。悠介のシャツを素肌にまとい、バスルームから出てきた花穂は、トランクス一枚で煙草をくわえ、ギターを抱いている悠介を見てムッとするのだった。
 強烈な感情はギターに対するものだった。悠介の部屋には何本ものギターが並んでいて、そのすべてに悠介は並々ならぬ愛情をそそいでいるのである。どちらかといえば人間嫌いのほうに属するように見える悠介が、この世でもっとも愛するものはギターにまちがいない。
「そんなの抱いてないで私を抱いてよ」
 背中に抱きついてギターをひったくろうとしてみるのだが、悠介の腕はほっそり見えて力が強い。花穂が腕力でかなうはずがないのだった。
「なによなによ、ギター気ちがい」
「放送禁止用語だぞ、それは」
「いいじゃないのよ、放送なんかしないんだから」
 前に回ってギターを取り上げようとする。悠介は笑って、わざとみたいに手を離してくれないのだ。
「ギターなんか嫌いよ」
「俺のメシの種だぜ」
「私とふたりきりのときまでギターはやめて」
 悔しいのでギターを蹴飛ばしたら、悠介がえらく怖い顔をした。悠介が絶世の美青年だとの意見は衆目の一致するところなのだが、そのくせ……とただし書きがつくのも、親しい人間たちの間では有名だった。
 女みたいな面してるくせに、あいつが人を睨むと迫力がありすぎる。ちょっと怒ったふりしてるだけでもおっかない。まして本気で怒ったりしたら、気の弱い人間は泣きたくなるんじゃねえか。
 大男ぞろいのグラブダブドリブの面々が口々に言う通り、やや淡い茶色の瞳には強すぎる光があって、その光が強まると花穂は一歩引きたくなってしまう。決して気が弱いとはいえない女のはずなのに、悠介の怖い顔は実に恐ろしいのだった。
「ギターにまで妬くんじゃねえよ。このやきもち妬きが」
 常に言葉遣いのよくない悠介の口調に乱暴な響きが増し、花穂は首をすくめた。
「力まかせに蹴飛ばしたりしたらこわれるだろ。バカ」
 悠介はギターを遠ざけてしまい、花穂を抱き寄せた。
「おまえは時々どうしようもなくバカになる。いっぺん……」
「いっぺん、なによ?」
「こうしてやろうか」
 ふふっと笑った悠介の手が上がり、花穂は目を閉じて悲鳴を上げた。
「いやよっ! いやだったらっ!」
 もがいて逃れようとしてみても、抱きすくめられていては動けない。かぶりを振り続けているうちに、ベッドに押し倒されて衣服に手がかかる。
「まったくおまえはバカだぜ。ギターがこわれたわけでもあるまいし、殴るはずねえだろ」
「脅かすんだもの……」
 息が荒くなり、涙までこぼれかけていた。
「この手はこうやっておまえを裸にするために、上に上げただけさ」
「ギターをこわしたりしたら叩く?」
「やきもち妬いてわざとぶっこわしたらか? さあねえ。そうなってから考えるよ」
「そんなのやあよ」
「いやだったら、ギターをこわそうなんて考えるな。弁償させるぞ。高いんだからな」
「そういう俗っぽいこと言うの、あなたには似合わない」
「いちいちなにが似合うの似合わねえのなんて、俺は考えて行動しちゃいねえよ、バーカ」
「バカバカばっかり言わないで」
「バカだろうが、おまえは」
「あなたのほうがバカよ。ギターバカ」
 いつしかベッドでのむつごとに変わってしまい、勃発しかけた喧嘩がうやむやになってしまうのは毎度のことだった。
 今時の男たちの中にも、女に暴力をふるって憂さ晴らしをする男がいると聞く。会社では上役にいびられ、若い女の子に軽視され、腕力だけは劣る妻や恋人を手荒に蹂躙し、男らしく強くなった錯覚に陥る愚かな男もいるのだそうだ。
 だが、そんな異常者以外の男たちはたいてい、恋人には優しい。女の言いなりになって楽しんでいるのか、うんざりもしているのかどうかは知らないが、彼女の意に沿うように励む男のほうが大多数だろう。
 グラブダブドリブでは、ヴォーカルのジェイミーに妻と娘がいる。あとの四人は独身だが、ベースの司には小樽に恋人がいる。キーボードのボビーはなぜか完璧な独り者であり、ドラムのドルフはゲイだとも言われている。が、ドルフには花穂には不思議な関係に思える親密な女友達がいる。
 ジェイミーは妻には優しくかしずいているように見える。事実、ジェイミーは文句なしに優しい旦那さまだと、彼の妻の藍は太鼓判を押している。
 短気で喧嘩っ早い司も、恋人の野枝にはどこか遠慮がちにさえ見えるふるまいをする。
 グラブダブドリブの共通の友人であり、プロデューサー兼ソングライターの真柴豪にも妻がいて、豪も妻の聡美には限りなく優しい。聡美もそれは認めている。
 ドルフとチカの場合は異質だが、グラブダブドリブのメンバーやその友人たちを見ていると、女に暴力をふるう男なんて、いったいどこの世界の奴なんだろうと、花穂は首をかしげてしまうのだった。
 だが、悠介だけはどうもちがう。甘い言葉をくれるわけでもない。優しく穏やかとは死んでも言えない。口は悪いし態度も荒っぽいし、ふたこと目にはバカ、が出る。
 かといって、恋人にえらそうにして鬱憤晴らしをしているわけではないのは、花穂にはよくわかっていた。日頃から傍若無人なロックンローラーだ。上役に頭を押さえられるような生活はしていない。悠介はグラブダブドリブの仲間たちの前でもえらそうにしているのである。
 しかし、彼は乱暴な言葉しか遣えない男ではない。イギリス貴族の邸宅に招かれた際などは、花穂があっけに取られるほどに優雅で礼儀正しかった。英語で話していたからだけではない。時と場合に応じては丁重にもふるまえるらしい。
 要するに悠介は変な奴なのだ。そして私はそんな変な奴が好きなのよね。好きで好きでたまらないの。
 グラブダブドリブのライヴを鑑賞しているというよりも、悠介にばかり見とれて、花穂は過去のさまざまな事件を思い出していた。悠介と知り合ってから約三年、花穂が日本にいたのは最初の一年だけだったのだが、一年の間にも幾多の事件があった。
 花穂がドイツに赴任してからも、悠介がやってきたり花穂が短期間帰国したりした。先日はグラブダブドリブのロンドンコンサートツアーに合わせて休暇を取り、久々で長く悠介といっしょにいられた。イギリスでもいろいろなことがあったのだ。
「ああ、もう、悠介……」
 高校生程度の年頃の花穂のかたわらの少女が、思い余ったかのように連れの少女の腕に倒れ込んだ。
「あたし、もう駄目」
「ちょっとお、しっかりしなよ。倒れないでよね。捨ててくよ」
「ああん、悠介え……」
 悠介は私のものよ、と言いたい衝動をかろうじてこらえ、花穂は再びステージに目をやった。
 黒いタンクトップに黒革のパンツ、エメラルドのスカーフ。肩までの髪を脱色してエメラルドのメッシュを入れたベーシスト、沢崎司。
 シャープで秀麗な顔立ちと、スリムな長身だけでもロックミュージシャンとしては決まっている。だけでも、などと言うと司は怒るだろう。花穂にはベースの実力はよくわからないが、司のミュージシャンとしての技能は、日本ロック界では群を抜いているのだそうだ。
 群を抜いているといえば、こちらは素人にでもよくわかる、天才ヴォーカリストのジェイミー・パーソン。黄金の髪、黄金の胸毛、黄金の歌声の「黄金のライオン」というのは、彼が自分で自分につけたキャッチフレーズである。
 白地にゴールドでロゴをプリントしたTシャツ、ゴールドのラメ入りの細身の革パンツ、黄金のたてがみみたいな長髪を振り乱したジェイミーは、まさしく雄々しい黄金のライオンだった。
 美貌までがきらきらしいジェイミーや、美貌と呼ぶのも陳腐に思えるほどの美青年、悠介、鋭角的な野性味をふりまく司と比較すれば、あとのふたりが若干地味なのはいなめない。
 ドラマーはドラムの前から動かないので、観客には全身が見えない。真っ赤に染めた短い髪、精悍で凛々しく男っぽい風貌のドルフ・バスターは、ジェイミーと張り合うほどにたくましい長身を持っている。ドラムテクニックもいかにもパワフルだ。
 赤茶の革のベストを素肌に着て、客席からはよく見えないけれど、ほとんど色のないストレートジーンズを穿いている。
 最後のひとりは、愛嬌のあるファニイフェイスで女の子たちにはなかなか人気のある、キーボードのボビー・オーツ。白人と黒人のハーフの彼は、黒く縮れた髪を長く伸ばしている。
 オレンジのシャツ、茶革のパンツ、今夜の彼らは装いのベースを革でまとめていた。
 もっとも背の低い悠介が一八三センチ、高いジェイミーが一八九センチ、司と悠介はスレンダーで、ジェイミーとドルフは筋肉質の体格をしている。中間あたりのボビーは陸上選手のように引き締まった身体をしていた。
 ドルフとボビーがアメリカ、ジェイミーはイギリス、悠介はフィリピンと日本のハーフで、司のみが純粋日本人。グラブダブドリブの日本人離れしたテクニックは、彼らの大半が日本人ではないせいだと囁かれるのが、司には癪の種であるらしい。
 で、私の悠介……花穂はまたしても悠介に見とれた。ライヴはフィナーレを迎えていて、観客たちの大歓声で音楽が聴き取りにくい。もうちょっと静かにしたらどうなのよ、花穂は顔をしかめた。あんたたちはグラブダブドリブを見にきたの、聴きにきたの? どっち?
 花穂がぶつぶつぼやいたところで、客たちに聞こえるはずもない。花穂が苛立っていると、ジェイミーが歌を中断して言った。
「俺は大声には自信があるつもりだけど、自分で自分の声が聞こえねえよ。ここはどこだ、動物園だったかな」
 途端に客席がしんとした。ジェイミーはにっこりして歌を再開する。花穂に目を止めた悠介がウインクした。かたわらの少女たちがその視線をたどって花穂にたどりつき、険悪な表情で睨みつけてきた。
 三十歳の悠介と同年である花穂は、ライヴハウスの若者たちの間ではやや浮いていた。なに、このオバン、このブス、なんでこんな女に悠介がウインクするの? こいつ、何者? 少女たちの目が露骨に語っていた。
「俺は見てくれだけの女には興味ないんだよ。美人なんてなんの値打ちもねえ。一皮剥けばみんなおんなじ髑髏じゃねえか」
 悠介はそう言った。
「綺麗なだけで中身は空っぽの女なんかまっぴらだよ。だからおまえに惚れたんだ」
「それは私が美人じゃないってことね」
 自覚はしているけれど、複雑な気分になったものだった。
「じゃあ、悠介も綺麗だと言われるのは嫌い?」
「こいつは俺の商売道具でもあるだろ。たとえばジェイミーの華麗な美貌が好きだからとか、司のおっかねえ顔が好きだとか、そういうことでファンになってくれる子もいるんだよ。できればちゃんと音を聴いてほしいもんだが、CDを買ってくれるファンに文句も言えねえだろ。しかし、綺麗綺麗と言われるのは嬉しくねえのも事実だな」
「そうなのか。それってやっぱり男だから? それとも、主義のせい?」
「顔で売ってる部分もあるのはたしかだから、男だからどうこうと言う気はねえよ」
 これでテクニックに難があったら、グラブダブドリブはなんと評されるのだろうか。難癖などつけられるはずもない技能の持ち主がそろっているだけに、ルックスだけのバンドという悪評は一切ないのだった。
「だったら、私のどこに惚れたの? たまにはちゃんと言いなさい」
「言ってなかったか? だからさ、おまえのそのくるくるよく動く表情とか、才気煥発の受け答えとか、じきに怒って口をとんがらかすところとか、趣味の一部が合って気が合って話が合って、ベッドでもぴったり合うところとか……いてて、こら、なんだよ」
「才気煥発? すぐバカって言うくせに」
「時々バカになるのもおまえの長所だよ」
「そんなのは長所じゃないわ。バカにしないで」
 拗ねてみたけれど、半分からかわれているようでも悠介の台詞は快かった。だが、悠介の恋人としては私は平凡すぎる、そんな気分は根強くある。
 いつか夢を見た。ミッドナイトブルーのタキシードをびしっと着こなした悠介が、真紅の薔薇の大きな花束を抱えて立っている。悠介を遠巻きにした女たちが噂していた。
「恋人の登場をお待ちかねなのよ」
「悠介さんの恋人? どんな女性だろ」
「決まってるじゃないの。あれだけの美青年に寄り添って絵になる、絶世の美女よ」
「うらやましくて憎らしいけど、早くその女性を見てみたい」
 そこにあらわれた悠介の恋人、その女性を見て花穂までががっかりした。会社帰りの地味なスーツ姿の女は花穂にまぎれもなかったのだが、見物しているのも花穂だったのだ。
「冴えない女ね。あれが悠介さんの恋人?」
「嘘でしょ。私、信じない」
「似合わないにも程があるよね」
 眉をひそめる女たちの噂に花穂までが加わって、戸惑い気味のもうひとりの花穂を非難していた。悠介は女たちの会話などどこ吹く風と、花穂を抱きしめてキスした。
 目ざめた花穂はたいそう奇妙な気分になったものだ。かつては美人じゃないことにコンプレックスなんか持った覚えは一度もなかったのに、悠介の恋人になってからはたびたびそれを意識してしまう。
 けれども、悠介は私に夢の中でキスしてくれた。俺はそんなおまえが好きだよ、と囁いてくれた。それを見ていたのも私、キスを受け止めたのも私。こんな夢を見たと悠介に話したら、笑うかな、怒るかな。
 今でもわずかに胸の奥でざわめくものはあるけれど、悠介は私だけを愛してくれるのよ。私も悠介にぞっこんなんだもの。あなたたちに軽蔑のまなざしを向けられるいわれはないわ。花穂は少女たちの視線を黙殺した。
 ライヴが終わり、グラブダブドリブが引っ込んだ控え室に向かおうとしている花穂の背中にも、執拗に少女たちの視線が追いかけてきていたが、気にせずに足を進めた。
「よ、花穂、来てたのか」
 ロンドンで行動を共にし、親しさが増して花穂を呼び捨てにするようになったグラブダブドリブのメンバーが、花穂を歓迎してくれた。ジェイミーがオーバーなポーズで腕を広げる。
「再会の抱擁を……あらら、やっぱり」
「悠介が先に決まってるだろ。ボケナス」
「おまえはなにを期待してんだよ。バカタレ」
 ドルフとボビーに罵られて、ジェイミーは横を向いて口笛を吹いた。悠介に限らず、彼らの言葉の荒さには花穂はとうになじんでしまっている。
「悠介、ちょっとだけ久し振りね」
「そうだな」
「ねえ、キスしてくれないの?」
「公衆の面前でか。おまえら、ちょっとむこう向いてろよ」
「見てたっていいじゃない、キスぐらい」
 そうだそうだと言いかけたジェイミーの頭を、ドルフが脇にはさみ込んでうしろを向いた。ちょっとぐらい見せてくれよとふざけるボビーの脚を蹴飛ばして、司がボビーの身体ごとうしろ向きになった。
「例の仕事か」
 しばしの沈黙のあと、悠介が小声で尋ねた。
「そうよ。仕事の話しはあとでね。ライヴが終わるまで待ってるつもりだったから、まだ夕食も食べてないの。おなかすいちゃった。あなたたちもごはん食べにいくんでしょ? お邪魔じゃなかったらごいっしょさせていただいていいかしら」
「邪魔だからついてくんなと言ったらどうする?」
「怒る」
 もういいかいと振り向いたジェイミーが、呆れ声を出した。
「ジョークにしてもそんなこと言うか、ドイツからやってきた恋人に向かって、邪魔だからついてくんな?」
「と言ったらどうする? と訊いただけだよ」
「そういう言い方は普通はしねえんだよ。花穂、この無礼者を殴っていいぞ。俺が許す」
「あとでね」
「……なんか今夜の花穂、色っぽくねえ?」
 ボビーが言い、恋人と再会した女性に色気が漂うのは当然だと、ジェイミーがおごそかな口調で答えた。
「いいなあ。な、ドルフ?」
 ドルフはボビーの台詞に知らんぷりをした。
「おまえも他人をうらやましがってばかりいねえで、さっさといい女を見つけてこいっての。花穂ちゃん、なにが食いたい?」
 唯一、花穂を呼び捨てにしない司が尋ねた。
「やっぱり日本らしいものか。寿司とか天ぷらとかすき焼きとか」
「司の言うことはダセエんでやんの。そんなもんはドイツでだって食えるよな」
 ジェイミーが言い、ドルフも言った。
「焼き魚とかうどんとか、お好み焼きとかたこ焼きとか、庶民的なもののほうがいいんじゃねえの」
「ドイツ人ってのは豆と芋とソーセージばっかり食って、ビールばっかり飲んでんのか。よく飽きねえな」
 この台詞もジェイミーで、ボビーも言った。
「ローストビーフとフィッシュアンドチップスばかり食ってるイギリス人が、よく言うぜ」
「ハンバーガーとステーキとアイスクリームだけが食いものだと思ってる、アメリカ人に言われたくねえぞ」
 言い返したのもジェイミーで、司も応じた。
「ドーナツとコーヒーも食いものだよな」
 ロンドンでいっしょにすごした日はそう遠くもないのに、花穂にはなつかしく感じられる大騒ぎがはじまった。
「あいかわらずうるせえ奴らだぜ。こんな奴らはほっといて、花穂、メシ食いにいこう」
 苦笑した悠介が花穂の手を取った。
「俺も腹が減ったよ。今日は昼メシも食いっぱぐれたんだ」
「私にはちゃんと食べろって言うくせに、悠介は食生活がゆがんでるの? 駄目よ」
「メシ食う時間が惜しくてな」
「作曲でもしてたの? 新曲?」
「ああ。ギンギンのハードロックだ。近頃あまりヘヴィな曲は流行らないようだけど、造反してやろうと思ってさ」
「悠介の書くヘヴィメタ、大好きよ」
 いつの間にかふたりきりの世界に浸っていらっしゃる、ジェイミーの呟きが耳に入り、花穂は舌を出した。
「きみらは俺たちをほっといてメシを食いにいくつもりだったのか。なんと冷酷な……」
「おまえはなにかにつけて大袈裟なんだよ。ついてきたけりゃついてこい。で、花穂、なにを食うんだ?」
「そうねえ。チャイニーズがいいな。私のアパートの近くにはおいしい中華料理の店がないのよ。日本食も恋しくなることがあるけど、中華やカレーライスもよく食べたくなるの。明日のお昼はカレーにしようね。朝は私がお味噌汁作ってあげる。悠介、マンションにお味噌ある? お味噌汁の具にする材料は? お米は? 海苔は? 納豆は? それから……」
「あるある。おまえも喋り出すと止まらねえんだから、ちょっと黙れ。さっさと行こうぜ」
「あいかわらずえらそうにしてるんだから」
 とがらせた花穂の口を、悠介が長い指先でつついた。さきほどのキスとは微妙にちがう感覚に、花穂の背筋がびびんとしびれた。
「そんなふうにしちゃ駄目」
 感じちゃうじゃないの、背伸びして耳元で囁くと、悠介はははっと笑い、ボビーがまたまた、あーあ、いいなあ、と嘆息した。




 テーブルに乗っていた便箋は真柴豪が普段使用しているものでも、妻の聡美が使っているものでもなかった。上質の白く薄い紙に、豪には読めない言葉でメッセージらしき文章が綴られている。
「聡美? 留守だな」
 マンションの部屋のどこにも人の気配はない。聡美がいないのはまちがいないようだった。便箋のメッセージは聡美からの伝言かとも思うのだが、いたずらっ気を起こして英語で書くのならまだしも、聡美が他の国の言葉で文章を綴れるとも思えない。
 ヨーロッパ語なのはたしかだろう。フランス語やドイツ語だとでもいうのなら、豪には読めないまでも、どこの国の言葉か見当ぐらいはつく。だが、いくら睨んでみても、何語なのかもわからないのではどうしようもなかった。
 やはり聡美のいたずらなのだろうか。それにしてはサインすらないようだ。豪は首をひねり、便箋をたたんでポケットに入れた。どうもいやな胸騒ぎがする。ヨーロッパ語にまちがいないのならば、ジェイミーになら解読できるのではないかと思った。
 学生時代にオペラをやっていたジェイミーは、母国語の英語と日常使っている日本語の他に、ドイツ語とイタリア語に堪能である。基本的にはアルファベットで綴られているこのメッセージは、ドイツ語でもイタリア語でもないような気がするが、とにかくジェイミーに見てもらおうと決心した。
 ジェイミーのうちに電話をしてみると、妻の藍が受話器のむこうで言った。
「ジェイミーは今、お風呂に入ってるんだけど……」
「リーヤを風呂に入れてるのか。ジェイミーの至福のひとときだな」
「そうなの。なにか急用?」
 藍がジェイミーと知り合ったのは、彼女がグラブダブドリブの女性コーラスに応募してきたからだった。オーディションの審査には豪も加わっていたから、そのころから藍とは親しくしている。
「急用ってわけではないんだけど、気になる文章があるんだ。何語なんだかも俺にはわからなくてね。ジェイミーにならわかるかもしれない。俺がそちらに行くころには、風呂もすんでるだろ。夜分悪いんだけどかまわないかな」
「もちろん、いらして下さい。お待ちしてます」
 他人を煩わせるほどのことでもないかとも思ったのだが、気になるものはどうしようもない。豪は車を出した。
 藍は娘のアイリーヤを寝かしつけているとかで、ジェイミーが豪を迎えてくれた。風呂上がりのジェイミーは派手な黄色のトランクス一枚で、首に大きなタオルをひっかけていた。
「あいかわらず暑苦しい胸毛だな」
「藍はいつも胸毛が素敵だと言うぜ。愛しげにこの毛を指にからませて……」
「わかったよ、もういい」
「おまえなんか胸毛ないから、ひがんでんだろ」
「なんだってそんなもんでひがむんだよ。胸毛なんかないほうがいいよ」
「日本女性はおおむね毛深い男を嫌う傾向にあるな。藍も最初は俺が毛深いのを怖がってたみたいだけど、今ではすっかり俺のすべてに恋してくれてるんだぜ」
「恋は盲目ってな」
「おまえが胸毛なんかないほうがいいと言うのは、女の子にもてなくなるからか? やっぱり今でもそっちはお盛んで?」
「バカ言うな。俺はもうもてたくなんかないよ。それよりジェイミー、見てほしいのはこれなんだ」
 豪がポケットから出した便箋を、ジェイミーはじっと見た。
「ラテン語じゃないのかな」
「ラテン語か……そいつは盲点だったな」
「今はラテン語なんて、特別な学術用語以外には使われてないだろ。俺にもなにが書いてあるのかはわからない」
「しかし、ラテン語ってのはイタリア語に近いんじゃなかったのか」
「近いと言えば近いけど……俺にも読めないよ。これは誰が書いたんだ?」
「聡美じゃないよな。聡美にラテン語が書けるはずがない」
「医者とか学者とか、そういう友達からの秘密のメッセージか? 昔の女からの手紙とか」
「そんなんじゃない。俺がうちに帰ったらテーブルの上にあったんだ。書けたのは聡美以外には……聡美の友達かな。聡美が誰かといっしょに外出した。その相手がラテン語を書ける人物だった。それなら有り得るだろうけど、俺には意味不明のメッセージを残していっても仕方ないじゃないか。ただのいたずらなんだろうか」
「さあねえ」
 ジェイミーがぐっと豪に顔を寄せてきて、にやにやと囁いた。
「豪、おまえ、なにか悪いことしたんじゃねえの? 聡美ちゃんが怒って家出するようなこと? おまえには過去が山ほどあるんだもんな。思い当たるふしも多々あるんだろ? あれかこれか、今も悩んでる。悪い奴だね、まったく」
「俺は結婚してからは清廉潔白だぞ」
「それは信じてやるとしても、結婚前の悪事の数々は消せねえ。だから言っただろ。ちゃらんぽらんな遊びはほどほどにしとけって」
「おまえに言われたくないぞ。おまえだって……」
 言いかけた豪の口が、ジェイミーのばかでかい手にがばっとふさがれた。藍が部屋に入ってきて、ふたりを見て驚きの表情を浮かべた。
「なにやってるの、ジェイミーったら」
「いやあ、別に……」
「この馬鹿野郎、窒息するかと思ったじゃないか」
 ようやく手が離れたので、豪はジェイミーを睨んだ。ジェイミーはすっとぼけて話題を変えた。
「聡美ちゃんが留守なんだったら、帰ってもつまんねえだろ。酒でも飲むか」
「聡美さんはお留守なの? リーヤはやっと寝たわ。豪さん、お出迎えもしなくて失礼しました」
「そんなことはいいんだよ。俺のほうこそ夜中に……」
 思いついて便箋を電灯に透かしてみた。そうして見ると余白の部分に文字がちいさく浮かび上がる。豪の脳天を衝撃が襲った。
「豪さん、どうかなさったの? 顔が急に青くなったみたい」
「どうしたんだよ、豪?」
「いや、帰るよ」
「なんだよ、なにかわかったのか」
「いい。帰る」
 いぶかしげにしている夫婦に別れの挨拶をして、豪は部屋を出て車に乗った。頭痛がしてきた。
 電灯に透かして浮かんだ文字は、豪にも解読できるものだった。電話番号とサイン、聡美の名ではなく、豪にとっては思い出すも忌まわしい男の名だ。斎城澄人。
「あの野郎……」
 毒づきながら違反すれすれの猛スピードで車を飛ばし、我が家にたどりついた豪は、澄人の名と共にあった番号に電話をした。出てきたのは呑気な男の声だった。
「斎城……てめえ」
「やあ、豪、ちょっとばかり久し振りだな。おまえは会うたびに態度や言葉遣いが粗暴に変化していってるようだが、それはつきあう相手が悪いせいじゃないのか。美貌だけはギリシアの美神にも劣らないほどながら、女性に向かって失礼きわまりない言動を取る中根悠介だとか」
「悠介は関係ないだろ。おまえがうちに入ってこのラテン語のメッセージを残していったのか」
 澄人ならばラテン語ぐらい書けても不思議はない。
「泥棒じゃあるまいし、おまえが勝手にうちに入り込めるはずはない。まさか、以前に来たときに合鍵を作ったとかいうんじゃないだろうな。そういうことをしたんだったら警察に訴えるぞ」
「まさかでしょう、ミスタ・マシバ。ラテン語だとわかっただけでもたいしたもんだ。さすがは俺の豪だよ」
「うるさい。じゃあ、なにか……聡美がおまえをうちに入れたのか」
「その通り」
「聡美を連れて出たのか」
「そこにそう書いてあるだろ」
 ラテン語だとわかったのはジェイミーだとも、内容まではわからなかったとも言うのは悔しくて、豪は苛立って怒鳴った。
「聡美を誘拐したのかっ! てめえ、やるにことかいてなんてことを……それこそ本物の犯罪だぞっ!」
「わめくなよ。紳士だろ」
「誰が紳士だっ! 聡美はそこにいるのか」
「ぐっすりおやすみだよ」
 目の前が真っ暗になった。
「睡眠薬でも盛ったのか。睡眠薬だったらまだしも、他の妙なドラッグを使ったんじゃないだろうな。聡美に危害を加えたら、俺は地の果てまでもおまえを追っていって八つ裂きにしてやる」
「怖いねえ」
 全然怖そうにもない声音で言い、澄人はくすくす笑った。
「おまえがどこまでも俺を追ってくると言うのなら、聡美さんになにかしようかな」
「……おまえはなにを言ってもこたえない野郎だよ。よく知ってるんだった。聡美は無事なんだろうな? 変なことはしてないんだろうな」
「誓う。まだなにもしていないよ。まだ」
 まだ、に力を入れて言う澄人の、のんびりした声を聞いていると力が抜けていった。
「……そもそもなんだって、おまえが日本にいるんだ? そこは日本なのはまちがいないだろ。どこだ?」
「俺のうちだよ。おまえはなんて薄情なんだろうな。俺のうちも知らなければ、電話番号さえ知らなかったんだろ。探してごらん。おまえが来るまでは聡美さんにはなにもしない。ただし、来なかったらどうなるか保証はしないぜ」
「警察に通報するぞ」
「警察なんかに知らせたら、おまえの過去を聡美さんに暴露するが、それでもいいのか。自力で解決してみろよ。ここを知ってる男がおまえの身近にいるだろ。彼の協力を仰ぐことまでは止めない。彼に尋ねてみれば、俺がどうして日本にいるのかも知ってるはずだ。おまえのその様子では、彼はまだおまえに事情を話していないようだな」
「彼とは?」
「そのぐらい自分で考えなさい、豪くん」
「こらっ、待てっ!」
 電話は切れてしまい、豪は頭を抱えた。過去? ジェイミーにも意地悪く言われたが、過去の悪事というほどでもないにしろ、女性関係の過去なら数多くある。澄人が知っているのはどれとどれだ? 考えはじめると頭痛がいっそうひどくなる。
 自力で澄人の屋敷をつきとめ、乗り込んでいけば聡美は解放してくれるのだろう。これは澄人の悪戯だ。豪をからかうのを生きがいにしている傾向があるのはまちがいないが、澄人はそんなに悪辣な奴ではないはずだった。少なくとも聡美に危害を加えるような男ではない。
 いや、そうとも限らない気はする。だが、豪はそう信じようとつとめていた。澄人を信じるとして、彼が口にした『ここを知っている男』とは? すこし考えれば解明した。中根悠介である。
 澄人と実際に会っているのは、司と悠介だけだった。司はあれこれ気を回さないタイプだからともかく、悠介は澄人についていろいろと知っている。悠介は澄人の屋敷にも二度、一度は現実に、一度は悠介が夢だと思い込んでいるできごとの中で訪れているのだった。
 夢だと思い込んでいる……それも怪しいものだった。悠介はなにもかも感づいているにちがいない。なにもかもを知っているのなら、むしろ好都合だと考えよう。豪は決意した。聡美を救出するためならば、他の瑣末事などくそくらえだ。
 他の瑣末事、そんなふうには豪は思えないのだが、敢えてそう思うことにして、今度は悠介に電話をかけた。
「はい」
 出てきたのは女だった。
「ん? もしかしたら花穂さんか」
「花穂ですけど……どなたでしたっけ? ええと……」
 何度も会ったわけではないので、花穂には豪がわからないらしい。豪が即座にわかったのは、夜中に悠介の部屋の電話に出る女は、花穂以外にはいないからだった。
「真柴です」
「ああ、豪さん。お久し振り」
「帰国してたのか」
「そうなの。午後に空港について、グラブダブドリブのライヴを見て、みんなでごはんを食べてからここに来たのよ」
「ジェイミーはなにも言ってなかったけど」
 豪がそそくさと辞去してしまったので、ジェイミーに言う暇を与えなかったのだろう。
「誰?」
 悠介の声がして、受話器が彼の手に渡った。
「豪か。なんか用かよ」
「せっかくの彼女との逢瀬を邪魔して悪いんだけど、おまえの力を借りたいんだよ。聡美が誘拐された」
「んん?」
「誘拐した奴は斎城澄人だ。奴の屋敷に監禁……監禁かどうかは知らないけど、閉じ込められてる。俺は奴のうちを知らない。おまえは知ってるだろ」
「なんのために……と訊くまでもねえかねえ」
 やはり、悠介は事情を把握しているようである。暗澹きわまりない気分になったが、豪は自分の心を封じ込めるように言った。
「迎えにいくよ。花穂さんには悪いけど、頼む。おまえにしか頼めないんだ」
「わかった、待ってる」
 再び車を出した。悠介のマンションの前には、なにやら荷物を抱えた悠介と、黒いシャツとごついジーンズ、勇ましい格好をした花穂が並んで待っていた。
「私はついていっちゃ駄目? 悠介は留守番してろって言うんだけど、留守番なんてつまんない」
「危険はないと思うから、かまわないよ。時間が惜しい。乗ってくれ」
 やれやれという目で花穂を見た悠介と、嬉しそうな花穂が車に乗ってきて、花穂が悠介の荷物から包みを取り出した。
「私たちは晩ごはんは食べたけど、大変だったんだったら、豪さん、まだなんじゃないの? カスクートなんだけどいかが?」
「ああそういえば、俺はメシなんか忘れてたよ」
 新人歌手のレコーディングにつきあって、彼女のあまりの下手くそぶりに呆れ果て、出された弁当に手をつける意欲をなくしてしまったのである。うちに帰って夜食を食べようと決めていたのだが、そんなものは完全に失念していた。
「花穂さんがつくってくれたのか。気が利くんだな。ごちそうになるよ」
「コーヒーもあります。だけど、斎城さんって悪い奴だったのね。親友の奥さまを誘拐するだなんて」
「あんなのは親友じゃない……え? 花穂さんは斎城を知ってるのか」
「あの化け物を日本に呼んだ元凶はこいつだよ」
 悠介がポットのコーヒーをカップについだ。
「花穂、説明してやれ」
「悠介があなたに話してなかった理由はそのせい? あのね、ドイツで最近力を入れてる赤ワインがあるのよ。そのCM制作の依頼がうちの支社に来てたの。斎城さんとロンドンで会って、なんてまあ、ヴァンパイアを演じたらぴったりの男性かと思った」
 豪にも話しが見えてきた。花穂は広告代理店の社員なのである。
「斎城さんに頼んだらOKしてくれたの。日本でCMを撮りたいと言われたのね。承諾してくれるんだったら日本でもロンドンでもボンでもどこでもいい。斎城さんのスケジュールに合わせて、私もこっちに来たのよ。ロンドンの『ツェペシュ』ってパブで悠介もいっしょに会ったときに、悠介ったらすごく変だった。それってこういうわけ? 斎城さんって結局どういう人なの? 頭が混乱してきそうよ」
「俺にはよくわかんねえよ」
「俺にもだ」
「豪さんまでそう言うの? ふううん」
 花穂は口をとがらせて考え込み、悠介は細かく指示してくれた。悠介は明確に斎城澄人の屋敷の場所を記憶しているようで、それだけは豪としても安堵したのだった。
「ツェペシュ……ヴァンパイア……たしかに斎城にはぴったりだよ」
「私、悪いことしちゃった?」
「いや、奴だって大人なんだから、帰ってきたくなったら勝手に来るさ。花穂さんの仕事熱心を責めるいわれなんかない。あいつにヴァンパイア役をやらせるなんて、まさしくぴったりすぎて涙が出るってもんだな」
 カスクートが喉に詰まる。コーヒーでパンとハムとチーズを流し込み、豪はポケットの便箋を取り出した。
「ラテン語だそうだよ。俺にはさっぱりだったから、ジェイミーのうちに行って見てもらった。ジェイミーにも読めなかったんだけどな。透かしが入ってるだろ。それだけは解読できたんで、斎城のクソバカ野郎のしわざだとわかったんだ」
「ラテン語ねえ……」
 花穂が懐中電灯を出し、便箋を光に透かしてうなずいた。
「おまえ、そんなもんまで入れたのか」
「女性は用意周到だね。俺は思いつきもしなかったよ。そのメッセージの内容は未解読なんだ。斎城の野郎に読めないと言うのも癪なんだよな。悠介か花穂さんか……無理か」
 まさかラテン語までは、と諦めつつ言ってみたのだが、意外にも悠介がぽつぽつと読んだ。
「……女はさらった……返してほしくば私の屋敷に……私の屋敷を知ってる男が……俺にわかる単語はすこしだけど、前後から判断したらそういう文面だな。聡美さんの名を書くと読めると思ったんだろ。女はさらった、だ。返してほしくば私の屋敷に来い。きみは私の屋敷を知らないだろうが、場所を知っている男がいるはずだ。そんなもんだと思うぜ」
「悠介って……ラテン語がわかるの?」
 ルームミラーで窺ってみると、花穂は尊敬のまなざしで悠介を見つめていた。
「たいしたもんだな。おまえの頭脳や知識には敬服するよ」
「ラテン語の学術書に興味深いものがあったんで、知り合いの学者にちょっと教えてもらったんだよ。ただの生かじりだ」
「悠介ってすごいんだ」
 花穂は悠介に寄り添って、すごいのねえと何度も感嘆している。豪はまたしてもむしゃくしゃしていた。俺にラテン語を読めるはずがない、メッセージを解読などできたはずがない。澄人はそれを重々承知していたのだ。さきほどの電話で澄人が話した内容は、すべてこの便箋に書いてあったのではないか。
 読めていたのなら、豪は叫んでいただろう。そんなことは便箋に書いてあっただろっ! と。澄人は受話器のむこうで冷笑していたにちがいない。どうにもこうにも腹立たしい男である。
「ラテン語なんて読めないほうが普通だよな」
 自分を慰めるために言った豪の台詞を、花穂は悠介への賞賛と受け取った様子だった。
「そうよねえ。私はラテン語なんかちんぷんかんぷんよ。ヨーロッパの人にもなかなか読めないはずだもの。それを読めるなんて悠介ってすっごく頭がいいの」
「頭の問題でもねえだろ」
「エスペラントも読めるんじゃない?」
「ちょっとかじってみたことはあるけど、忘れちまった」
「なのにドイツ語は駄目なのね」
「最近ジェイミーに教わってるんだよ。あいつ、俺になにか恨みがあるらしいぜ。もの覚えが悪いとか、発音がなってねえとかって、おっかねえ教師みたいだ。あいつは根本的にサディストなんだよ」
「藍さんには優しいのにね。女性への態度のほうは悠介も見習えば?」
 バックシートのふたりは呑気な会話をしているが、豪の暗澹とした気分は強まるばかりだった。




少女まんがや小説の登場人物になら、美貌の男は掃いて捨てるほどいる。が、現実世界には本当に綺麗な男など、滅多と存在するものではないのである。ロック界とは中性的な妖しさを売りものにしている男性ミュージシャンが活躍する世界ではあるが、そこにだって心底美しい男はちらほらとしかいない。
豪と知り合った副産物として、聡美はグラブダブドリブの面々とも親しくなった。グラブダブドリブだけは本物の美形集団だと感心していたのだが、最近またしてもものすごいほどの美貌の男を知ったのだった。それも豪と知り合って結婚したおかげというか、奇妙な縁としか言いようがなかった。
グラブダブドリブの中でも最高の美形だとその名も高い中根悠介、あるいは彼をさえ凌ぐほどの美貌の持ち主、斎城澄人、そして、彼だっていい男という点ではどっちにも負けてないよね、と聡美は思う夫の真柴豪、三人の美しい男に囲まれて、聡美はわけのわからない気分でいた。
豪はひたすらにけわしい表情をしている。澄人はすっとぼけて優雅に微笑んでいて、悠介は苦笑を押し殺しているように見える。悠介に同行してきた花穂は、おそらく聡美と同様の感想を抱いているにちがいない目で、三人の男を見比べている。
聡美と同様の感想とはすなわち、どうでもいいけどほんと、三人とも綺麗だわあ、である。
今夜は遅くなるかもしれないと言っていた豪の帰りを、聡美は待ちわびていた。玄関チャイムが鳴ったのはたしかに遅い時刻で、豪? でも、豪だったら自分で鍵を開けて入ってくるはずなのに……そう思いつつ、聡美は玄関に出た。
「豪なの? 鍵を忘れたの?」
「豪は留守なんですか」
たった一度ここに訪ねてきて会っただけだが、忘れられようはずもない男の美声だった。
「斎城さん?」
「ご記憶して下さっていたとは嬉しいですね。豪がいないのなら仕方ないな。残念だけど出直してきますよ。若い人妻がおひとりでいらっしゃるお宅に上がり込むわけにもいかない」
「かまいませんよ」
いたずらっ気の多い男だと知ってはいたが、聡美の認識の中での斎城澄人は、夫の親友だった。夫の留守にうちに入れてはよくない人種だとは思えない。
「帰国なさってたの? どうぞ。お茶でもいれますから」
「では、お言葉に甘えさせていただきますよ」
会うのは二度目の澄人の微笑を見て、聡美は改めて感動していた。まったくほんとになんて綺麗なんだろ。このひとの恋人ってどんな女性かなあ。そんじょそこらの美女では役者不足もいいところではないだろうか。
悠介の恋人を紹介してくれると豪が言ったときにも、聡美は絶世の美女を想像していた。花穂と実際に出会ってみて、あら、そう……ふうん、だったのだが、絶世の美女とは言いがたい花穂は、案外悠介としっくり似合っていた。
そうしたら、斎城さんにも似合う女性がいるはずよね。好奇心に勝てなくなり、紅茶を入れるのも忘れて聡美は質問した。
「恋人、いらっしゃるんでしょ」
「いますよ。私の恋人は音楽です」
他の男の口から出たのならば、吹き出してしまうところだったのだが、澄人には似つかわしい台詞に思えた。
「人間の恋人はいらっしゃらないの?」
「想う人には想われぬ。世の常なんでしょうかね」
「斎城さんに片想いをさせる女性がいるの? わあ……なんだか……」
「なんだか、なんですか? お茶なんかどうでもいいですよ。豪が留守では退屈でしょう。我が家へ遊びにいらっしゃいませんか」
「斎城さんのお宅へ?」
さすがに戸惑ったのだが、澄人は真摯なまなざしになって言った。
「豪にも一度うちへ遊びにきてもらいたいんですが、頑固者でしてね、おまえのうちになど行きたくないと言って来てくれない。聡美さんが先にいらしてくれたら、いくら豪でも迎えにくるのをいやがりはしないでしょう。迷ってらっしゃる? 私があなたに妙な真似をする恐れがあるかもしれないと? 心外ですね。私はそんな不埒な男に見えますか」
「そんなことは思ってませんよ」
澄人の声には催眠術めいた成分が含まれているように思える。聡美は承諾した。
「豪にはメッセージを残していきましょう」
澄人がペンを走らせる便箋を覗いてみたら、なにを書いているのかまったく読めなかった。
「ラテン語ですよ。豪になら読めるでしょう」
「豪はラテン語なんかできませんよ」
「気にすることはない。参りましょう、マダム」
そういえば、このひと、以前あらわれたときには私を口説こうとしたんだっけ、それに思い当たったのは、斎城の車に乗ってしまったあとだった。
だけど、あれはちょっと度のすぎたジョークにすぎなかったんだし、なんといっても斎城さんは豪の親友なんだもの。変なことをするはずがないよね。豪は斎城さんを親友なんかじゃないとかたくなに言い張るけど、親友じゃないの、そうでしょ、豪?
車の中ではいささか堅くなっていた聡美だったが、屋敷を見た途端に戸惑いは霧散してしまった。一歩中に入ると驚嘆に支配されてしまって、斎城澄人自身よりも屋敷の素晴らしさに魅了されてしまったのだ。
豪が独身時代から暮らしていたふたりの現在の住まいは、ペントハウスといってさしつかえない豪奢なマンションである。だが、澄人の屋敷はペントハウスがみすぼらしく思えるほどの豪邸だった。
「古くて使い勝手はよくないんですがね」
「明治時代からの洋館?」
「私の曾祖父の父が建てたものです。当時としてはハイカラな屋敷だったんでしょうけど、今は過去の遺物のようなものですよ。ごゆっくり寛いで下さい」
「お屋敷の中を見せていただいてもかまいません?」
「どうぞ」
あまりに広い屋敷に迷子になりそうになって、聡美は疲れてしまった。このおうちだったら、屋敷内遭難なんてこともありそう……くたくたになってようやく玄関を発見したとき、荒々しいノックの音が聞こえてきた。
「斎城、開けろっ! さっさと開けないと蹴破るぞっ!」
豪? なにを怒ってるの? 聡美は立ちすくんだ。
「こんな頑丈なドア、ふたりがかりでだってこわせやしねえよ。落ち着け」
なだめている声は悠介で、続いて女の声もした。
「ここがねえ……すごいのね。斎城さんってどういう人?」
記憶を探って思い出した。二度ばかりしか会ったことはないが、この声は悠介の恋人の花穂だ。
「斎城、とっとと開けろっ!」
怒気をはらんだ豪の声が聞こえ、ドアを蹴飛ばしているらしき音も聞こえてきた。いつの間にか聡美の背後にあらわれた澄人が、くすっと笑って言った。
「あなたのハズバンドは近頃粗暴になってませんか」
「そんなこともないんですけど……」
「昔はもっと落ち着いた冷静な男でしたけどね」
「いつもはそうですよ」
「ふむ」
ドアを開けた澄人を認めた瞬間、豪は彼に殴りかかろうとしたらしい。が、聡美に目をやってぽかんとした。
「おまえ……眠らされてたんじゃないのか」
「眠ってなんかいないよ。豪、なにをそんなに怒ってるの?」
「……おまえがそうやってのんびりしてるのを見たら、気が抜けちまったよ。斎城、てめえ、誘拐したのなんだのと言ったのは、ことを大袈裟にしようとしてだったんだな? まったくこの人騒がせ男が……」
「中根くんと花穂さんもいっしょか。ご苦労さま。とにかくコーヒーでもいれよう。入って下さい」
息を荒くした豪、悠介の腕につかまって怖々あたりを見回している花穂もうちに入ってきて、ソファにすわって一息入れると、斎城が言い出した。
「花穂さん、ものは相談なんですがね」
「はい?」
「私はヴァンパイアを演じるんでしょう。吸血鬼の餌食になる美女には適任の女性がいないということだったが、彼女はいかがでしょうね」
「聡美さん?」
へっ!? 聡美はまぬけな声を出した。なんのことやらさっぱりわからない。
「いいかもしれない」
おいおいこらこらと悠介は呟いているが、聡美をしばし凝視していた花穂がおもむろにうなずいた。
「聡美さんだったら美人だし、吸血鬼に襲われるような弱々しいタイプじゃないけど、そこはメイクでどうにでもなるよね」
「花穂……おいおい」
「花穂さん、頼むから……」
悠介と豪が焦っているのにはかまわず、花穂は聡美の手を握り締めた。
「ドイツの女優さんには大柄なひとが多くて、それこそ吸血鬼に血を吸われる美女ってタイプのひとは見当たらないのよ。日本の女優さんに依頼する時間はないの。だけど、やっぱり美女がいたほうがはまるじゃない? 聡美さん、お願いできません?」
「あのねえ……私にはなんのことだかちっとも……」
「CMなのよ。ドイツの赤ワインのコマーシャルを撮るの。斎城さんはうるわしきヴァンパイア。お似合いでしょ」
「まさしくお似合いね」
「そのヴァンパイア直々のお願いなのよ。あなたに白羽の矢が立ったってわけ。やってみない、聡美さん?」
「私がCMに出るの? 吸血鬼に襲われる美女?」
頭がくらっとする展開だった。
「私は演技なんかできないけど」
「たいした演技は必要ないのよ。ヴァンパイアの腕の中でぐったりと目を閉じて、そうねえ……豪さんとのベッドでのひとときでも思い出してもらったらいいんじゃないかな」
「花穂、おいおい……こらこら」
悠介はおいおいこらこらとしか言わない。
「血を吸われるってのは苦痛でもあるけど、快感でもあるらしいのよ。わかるでしょ、大人の女性にだったら理解できる感覚だと思うな。そういう表情をつくってもらえばいいの。聡美さんにだったらできるわよ」
「……そうかなあ」
「聡美、まさかその気になってるんじゃないだろうな」
豪が不安げに尋ねた。
「お願いだからそれだけはやめてくれ。花穂さんも花穂さんだよ。俺の意向も尋ねてくれずに、斎城と聡美と三人だけで話を進めないでほしい」
「どうして? 出演するのは聡美さんよ。聡美さんは独立した一個の人格でしょ。夫の豪さんの許しを得ないとなにもできないの? 豪さんってそういう暴君だったの? 見損なってたな」
「そういうわけじゃないが、花穂さんだって知ってるだろ。こいつは他人の妻を拉致していくような悪党なんだぞ」
豪に指を突きつけられても、澄人はしらっと笑っていた。
「拉致は大袈裟だったんでしょ。聡美さんはこのおうちで楽しくすごしてたんじゃないの」
「お屋敷の中を見せていただいてただけよ。広すぎて迷子になりかけたけど、珍しいアンティックもたくさんあって、とっても楽しかった」
「ほら、そうじゃない。斎城さんがそんな悪い人のわけないわよ。でしょ、悠介?」
「俺は知らねえよ」
そっぽを向いた悠介は、煙草に火をつけた。
「きみたちはいまだにそんな野蛮な嗜好を持ってるのか。嘆かわしいな。うちには灰皿なんてものはないぞ」
澄人がしかめっ面で言うと、豪も煙草を取り出し、コーヒーカップを示した。
「マイセンだかウエッジウッドだかなんだか知らないが、悠介、こいつは十分灰皿がわりになるぜ」
「そうしようか」
「やめろ」
澄人を無視して、豪と悠介は平然とコーヒーカップに灰を落としはじめた。
「野卑な男どもだ。こんなのはほっといて、仕事の話を続けましょう、レディ方。私はぜひこの腕の中に聡美さんを抱いてみたいな。いえ、もちろん演技でですよ。私だってCMなんてものに出演するのははじめてだ。親友の豪の親友である中根くんの恋人、その花穂さんのたっての頼みだからこそ引き受けたんです。素人同士ではどんな演技になるかもしれませんが、それもまた一興じゃないですか、聡美さん」
「そうよ、聡美さん、引き受けて。お願い!」
なにやら恩着せがましい澄人の台詞と、仕事熱心には定評のある花穂の懇願に、聡美の気持ちはゆらめいていた。
「美女の役なのよねえ……誘惑的とも言える」
「でしょ、でしょ? やってやって」
「あなたとならば、私はうまくやれそうな気がしますよ」
「聡美さん、うんって言ってよ」
「花穂、豪の気持ちも考えてやれよ」
言った悠介を、花穂がぎろっと見た。
「だったらあなたがやる?」
「俺がなにをやるんだよ」
「美女じゃなくて美青年でもいいのよ。ヴァンパイアに血を吸われる獲物の役」
「俺が……それだけは勘弁してくれ」
「そう言うと思ってたから提案しなかったのよ。いやなんだったら悠介は黙ってなさい」
「……豪、諦めろ」
「この野郎……裏切り者」
豪に睨まれて悠介は首をすくめ、吸い殻をコーヒーカップに放り込んだ。
「聡美さん、やってくれるよね」
「いっしょにやりましょう、聡美さん」
ふたりがかりで催眠術をかけられたかのように、聡美はうなずいた。豪が額を押さえてソファの背もたれに身体を投げ出し、悠介は天井を仰いだ。
「そうと決まったら祝いをしないといけませんね。はじめて豪が我が家を訪ねてくれた祝いも兼ねて、シャンパンでも開けましょうか。たしかモエ・エドシャンドンがあったと思うが……」
「この成金趣味」
立っていく澄人の背中に、豪が罵り言葉を浴びせた。
「成金なんて言わないんじゃない? 斎城さんは本物の上流階級の紳士じゃないの。ねええ、豪、それはそうとどうしてあんなに怒ってたの?」
「怒ってなんかいないよ。すぎたことはもうどうしようもない。おまえが無事でよかったとしか言えないな」
「聡美さんまでぐるだったってわけではないのよね」
「花穂さん、それ、どういう意味? ぐる? そういえば、斎城さんがラテン語のメッセージを残していったでしょ? 読めたの?」
「ああ、悠介が読んでくれた」
「奥方は我が家にお招きした。豪、おまえも奥方をお出迎えがてら、我が家に遊びにきてくれ、そんな内容だったんだよな」
悠介が言うと、豪は情けなさそうにうなずいた。
「誘拐とか拉致とかってなに?」
「豪の誤解だよ」
「そうなの? なんだかよくわからないけど……悠介さんってラテン語が読めるの?」
「ほんのすこし」
「ほんのすこしでもたいしたもんでしょ。悠介の脳みそは特別製なのよ」
嬉しそうに言う花穂の耳元で、聡美はこっそり尋ねてみた。
「あなたは前にも、悠介さんが世界で一番の美青年だって言ってたけど、斎城さんを見たら気持ちが変わったんじゃない? 悠介さんだって負けそうよ」
「タイプがちがうもの。斎城さんは白人のヴァンパイア系美形、悠介はアジアの美を結集したロック系美形。私にとっては悠介のほうが上なの」
「ジェイミーの言う通りだな。恋は盲目よね」
「聡美さんだってそう思ってるんじゃないの? 豪さんが一番だって」
「そうね。豪は理性と知性の薫る、それでいて男っぽい美形だもの。私の趣味からいったら一番よ」
「よかったね、お互い」
「そうね」
含み笑いをかわすふたりの女を、ふたりの男は溜め息つきつき見ていた。
「聡美……やるのか」
豪の声には、これ以上ないほどの悲哀がこめられているように思えた。
「豪はそんなにいやなの? 私はなんだかやってみたくなってきたんだけどな……花穂さんと斎城さんに乗せられちゃったのは事実だけど、楽しそうじゃない。駄目? 豪がどうしても駄目だと言うんだったら、そりゃ考え直すけど」
「豪さんって暴君じゃないはずよね」
花穂に横目で睨まれ、悠介には同情めいた笑みを向けられ、聡美のしおらしい台詞も加わって、豪は頭を抱えて言った。
「おまえがやりたいと言うんなら……俺は止めないよ。止めないけど……」
「往生際の悪い男だな」
シャンパンボトルを持ってやってきた澄人には冷笑を投げつけられて、豪は自棄っぱちみたいに言った。
「好きにしてくれ」
「好きにしようね、聡美さん」
聡美には戸惑いが残っていたのだが、花穂の満悦の表情につられて、ついにっこりしてしまった。
「では、乾杯」
澄人が五つのグラスにシャンパンを注ぐ。悠介と豪はいやそうだったが、そろってグラスを上げた。きらめいてはじける泡のむこうに見える三つの男の顔は、なにがどうあろうとも人類の至宝のごとくに美しかった。

END




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