ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

フォレストシンガーズ「現在・Bridge Over Troubled Water」

 ←みずき霧笛「誘惑」 →小説316(ベストパートナー)
imageshasi.jpg

フォレストシンガーズ

フォレストシンガーズ五人分、過去・現在・未来のショートストーリィです。
ふたつめは、現在。幸生と章が三十歳、シゲが三十一歳、真次郎と隆也は三十二歳のある日の感慨です。敢えてぼかした表現にしてある部分もあります。



「現在・Bridge Over Troubled Water」

1・幸生

 二十二歳の年にコンテストで認められてデビューして、二十三歳は不遇な一年。
 二十四歳の年もまるっきり売れないまま、試行錯誤しながら歌っていた。

 二十五歳のあるとき、ラジオの早朝番組出演の仕事が入ってきた。
 リーダーの本橋さんと乾さん、章と俺、シゲさんとテニス選手の川上恭子さんがペアになって、一週間に三回、「FSの朝までミュージック」がオンエアされる。

 あの番組が俺たちの境遇をほんのちょっぴりアップさせてくれて、フォレストシンガーズの名前を知るひとが増えたのだ。

 二十六歳の年にはシゲさんが結婚した。
 二十七歳の年には、俺ははじめての単独仕事を経験する。大好きなシンガーのトリビュートアルバムに、黒人ソウルシンガーとのデュエットで参加させてもらった。

 大学の先輩のおかげでさせてもらった仕事で、一生、親友でいられると信じている年上の女性との出会いを果たした。
 女のひとは大好きで、ナンパは生き甲斐のひとつで、女性とお喋りしたりお茶を飲んだり、それからそれからもっと……むふっ、なんてことはさらに好きな俺が、色っぽい関係にはならなくていいと思えるひと。

 恋にはならない女友達、それがたいそう心地よい仲、そんなひと、春日弥生さん。

 二十八歳の年には、本橋さんと乾さんが三十路に到達した。フォレストシンガーズも単独ライヴができるようになってきていて、次第にオーディエンスが増えてきている。時にはライヴホールのチケットがソールドアウトするようにもなった。

 二十九歳の年には、フォレストシンガーズ初の全国ライヴツアー。嬉しすぎて初演の大阪に向かう新幹線の中で、ガキみたいにはしゃいでいた俺を思い出す。
 あのとき、新大阪駅でみんなで撮った写真が残っている。章とシゲさんは眠そうな顔をしているけれど、明日からのライヴツアーに向けて瞳がきらめいているよ。

 そして、俺は三十歳になった。

 何度も恋だってした。仕事でもプライベートでも順風満帆だった時期は少ない。これからはきっといっそう……。

「When you're weary feelin' small,
 When tears are in your eyes
 I'll dry them all
 I'm on your side
 Oh when times get rough
 And friends just can't be found
 Like a Bridge
 Over Troubled Water
 I will lay me down,
 Like a Bridge
 Over Troubled Water
 I will lay me down」

 いつまでたっても苦手な英語で歌う。俺がこれから渡っていく橋の道連れは、大好きな先輩たちと、子守りの必要な手のかかる章。え? 俺も?

「手のかかる、子守りの必要な幸生も章もついてこい」
「ユキ、章、おいで」
「早く来ないと置いてくぞーっ」

 これからもずっと、俺は章と手をつないで……げ、キモチワルっ!! ではあるが、一応は手をつないで、先輩たちの三つの大きな背中についていくのみだ。


2・繁之

 永遠に泥沼の中でもがき続けていないといけないのだろうか、そんなふうに暗くなっていたころもある。

 まるっきり売れなくて、無料イベントで歌わせてもらったり、共演者に見下げられたり、イベントの主催者に軽視されたり、そんなのばっかりだった二十代のころに較べれば、今は天国だと俺は思うのだが。

「ここまで来られたら満足だ? そんな小さいことを言っててどうする。俺たちはスーパースターになるんだよ」
 本橋さんは拳を固め、乾さんは微笑んで問い返す。
「世界中のホールで歌えるほどに?」

「それより前に、日本の大きなライヴハウスをすべて、ソールドアウトさせることですよね」
 章が言い、幸生も言った。
「俺は日本全土でライヴをして、俺たちの足跡を刻みたいな」

 シゲ、シゲさん、と八つの目に睨まれた。

「はい、俺も現状に満足はしません。もっともっと大きくなれるように、さらにさらに高く昇れるように努力します」

 なんて、言えるようになっただけでも俺は満足だ。
 ここまで来られただけでも、俺は嬉しいよ。そして、と心でそっと呟く。

 こうなれたのはきみのおかげでもあるんだよ。きみと知り合ってからというものの、フォレストシンガーズは上向いてきた。俺の妻はきっと、幸運の女神さまなんだ。


3・隆也

 立ち止まるのも振り返るのも早すぎる。わかってはいるけれど、最年少の幸生と章も三十歳になったとなると、ふと越し方を振り向きたくなるものなのだ。

 歌い続けて生きていけたら、それ以外にほしいものなどないと、フォレストシンガーズを結成する前には思っていた。

 けれど、現実問題としては生きていくためには糧が必要だ。そのためには金がいる。歌で稼ぐためにはプロにならなければならない。夢だけで終わったのでは、なんのためのヴォーカルグループだ。

 デビューしたい、売れたい、有名になりたい、車がほしい、広い部屋に住みたい、個人の専用スタジオがほしい。人間の欲望ってやつは際限もなく湧き起こるもので、それを一概には不純とは言えないだろう。

「ってね、乾くんはほんと、理屈っぽいよね。霞を食べて生きてる仙人じゃないんだから、そりゃあ欲望はあるの。あって当たり前。だからこそ人間は前進していけるんじゃないの? 有名になってお金を稼いで、かっこいい車に乗って素敵な彼女を持って……男だもん。そんな欲望は当たり前だよ」

 ようやく車を持てるようになったから、俺たちフォレストシンガーズの影の功労者、マネージャーの山田美江子をドライヴに誘った。

 彼女が行きたいと言った、本橋と俺が歌手になろうと誓い合った川のほとりに、車を停めて降りていく。ぱらついていた雨が上がり、ミエちゃんが空を指差した。

「虹っ!!」
「ああ、明日に架ける橋だね」
「気障……でも、ま、いいわ。歌って」

 彼女の肩は抱けないままに、俺は歌った。

「When you're down and out
 When you're on the street
 When evening falls so hard I will comfort you
 I'll take your part
 Oh when darkness comes」


4・真次郎

 三十をすぎると男は結婚したくなるものなのか。男は、女は、と言うと非難を浴びるのだから、「俺は」と言い換えるべきか。

 あいつの顔を見るたび、あいつのことを考えるたび、プロポーズしようと決意する。

 なのに俺は、どうしてだか言い出せなくて。あいつも俺を意味ありげに見ているようでありながら、すいっと目をそらす。

 本橋真次郎、おまえはそんなに決断力のない男だったのか?
 いや……そんなんじゃないさ、俺には決断力はあるはずだ。
 だったらどうして?
 結婚、だからだよ。

 自問自答の結論を出すためにはなにをすればいいのか。
 俺はフォレストシンガーズのリーダーだってのに、いくらかは売れてきたフォレストシンガーズについて考えるだけで手一杯なのに、わたくしごとってやつが俺の思考の邪魔をする。

 誰かなんとかしてくれよ、ではなくて、俺がなんとかしなくてはいけないのだった。
 

5・章


 まあね、そりゃあさ、みんないろいろあるよな。
 東京に憧れていた十代の少年が、三十になったんだもんな。俺の仲間たちは俺とおんなじ歳月を、似ているようで似ていないふうに歩いて三十路になった。

 売れないころの不満は俺がもっとも大きかったはずだから、みんなに迷惑もかけたよね。
 よくぞこんな木村章を、先輩たちは見捨てずにいてくれたもんだ。こっそり言おう、感謝してますよ。幸生、おまえにもな。

「Sail on silver girl,
 Sail on by.
 Your time has come to shine
 All your dreams are on their way
 See how they shine,
 Oh, if you need a friend
 I'm sailing right behind
 Like a Bridge
 Over Troubled Water
 I will ease your mind
 Like a Bridge
 Over Troubled Water
 I will ease your mind 」

 そんな歌、ロックじゃないじゃない、と怒る女と、あーあ、俺はこういう歌が似合うようになっちまったな、と苦笑したがる俺が心の中にいる。

 だけど、俺はフォレストシンガーズの木村章だ。
 これからもこんな歌を歌って生きていく。これからもこんな歌を歌って、明日へ続く橋をみんなして渡っていく。それはそれでいいもんだなって、このごろようやく心から思えるようになったよ。

つづく

 



スポンサーサイト



【みずき霧笛「誘惑」】へ  【小説316(ベストパートナー)】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

鍵コメSさんへ

コメントありがとうございます。
お名前の読み方の件、よくわかりました。
私の友人にはスタンダードなほうの漢字で同姓の人がいますし、私の旧姓もちょっと似ています。

悲しいことがあったとのこと。
それは本当に悲しいですね。
ブログをやめてしまった方でも、体調が悪いと言っておられた場合は気になります。
ネットだけのおつきあいでは、こっちはどうすることもできないし。

このストーリィは彼らが三十代になって、フォレストシンガーズがすこしずつ上向いてきて、明るくなってきた時期です。
私は売れないころの彼らも愛しいですし、有名じゃないほうが書きやすいのもあるのですが、やはり情が移ってまして、売れさせてやりたかったのですよね。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【みずき霧笛「誘惑」】へ
  • 【小説316(ベストパートナー)】へ